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6.QUINCY ARCHER HATES YOU
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空座町で行われた『ぶら霊』の生放送の翌日、我が空座高校は、それはもう大層盛り上がっていた。
もはや学年関係なく、生放送のカメラに映った一護やルキア、そして橙亜の話題で持ちきりである。
特に橙亜は一護たちとは違い、警備員の妨害をくぐり抜けて大立ち回りをした。一見クールな優等生が、一見不良でヤンキーな一護よりも目立つ問題行為をやらかせば、校内の好奇な目が一斉に橙亜に向けられるのも道理ってわけだね。
「そりゃ~、中間テストでオール満点を獲得した学年一位の優等生美少女が、拳一発でガラス扉ブチ破ったらねぇ~」
「はぁ…………」
無表情のくせに疲れきったような息を吐いた橙亜は、自分の机に突っ伏する。つい先ほど、鍵根先生によるお説教から戻ってきたのだ。ちなみに今は休み時間だ。
オレと璃鎖は一護たちとは直接的には遭遇してないので呼び出されはしなかった。あの夜、璃鎖が飛び出していったときも、カメラは一護たちのほうに向いていたので実はギリギリ映っていなかったのである。代わりに橙亜はバッチリ映ったのでこの有り様だが。
「マジでいい画角だったよな~! 浦原さんに録画頼んでおいて正解だったぁ~」
こんなことなら、オレも何か目立つことをやっておけば面白かっただろうか。
あの生放送の映像って、確か尸魂界で見てる奴がいたよね? 「きさま! 見ているなッ!」みたいなのをやってもよか……いや、誰が見てたかまでは《覚えてねー》からそんなに面白味はないか。
「消してください……今すぐ僕ごと……」
「却下で~す。中学んときにいじめっ子野郎どもを半殺しにして回って、学校どころか町内中から引かれたのよりは全然マシだろ~」
「あれ
頭を抱えて唸り続ける橙亜を横目に、隣の璃鎖と顔を見合わせる。窓際の壁に寄りかかり、呆れた息を吐き出した。
「どう考えても、『先輩』は橙亜を守ってるんだと思うけどぉ~?」
「頼んでないですし、迷惑なんですけど……?」
「人助けって、往々にしてそういうもんじゃ~ん。自分がやってることと同じことを他人にやられて文句を言うなんて、唯和ちゃんに負けず劣らずワガママだなぁ~、橙亜はぁ~」
「そう言われると…………いや、そもそも勝手に他人の体に取り憑いている時点で存在が迷惑では?」
「大変っすね~、霊媒体質は~」
「唯和、すんごい棒読みだね」
「だってオレたちには関係ないからね~」
璃鎖の肩に腕を回し、もたれかかる。オレより一回り以上は小柄だというのに、璃鎖は全然よろめかない。すげー体幹してんね。
──いや待て、関係ないことはないのか。
璃鎖の頬をウリウリと揉み回しながら、ふと考える。オレたちに話しかけてきた斬魄刀も、考えようによっては「取り憑いている」と表現して差し支えないのでは?
今のところ、出所不明の斬魄刀が勝手に「あなた由来の力だ」と言っているだけである。他人の中にズカズカと入り込んでくるのはどうあれ悪霊だな。そう思うと、ほんの少しだけ不愉快な気持ちになってくるわね。
「いひゃいよ唯和」
「キュートアグレッショ~ン」
「うぅ…………ん?」
不意に璃鎖は教室の前方に視線をやった。その先をなんとなくたどり、「ははーん」とオレは一人で納得する。
「別に気にしなくていいぞ~。他人をジロジロ見るのが好きなだけのチキン野郎なんだから~」
「高校入った頃からずっとなんだよね。もしかして……友だちになりたいのかな!?」
「ニャッハッハ~! まっさかまさか。そのポジションは《将来的に》埋まってるよ~。オレたちで埋めたらかわいそうだぜ~」
「……何の話ですか?」
のっそりと橙亜が顔を上げた。この鈍感不感症野郎こと橙亜さんは、本当に全然まったく気づいていないらしい。
オレはわざとらしく溜め息をつき、ニヤリと笑って見下ろした。
「石田君、4月の頃からず~っとオレたちのことを不審な目で見てるんだよ~」
「………………えっ」
「マジで気づいてないじゃん、ウケる~。今だってオレらのこと睨んでるのに~」
顔の筋肉は微塵も動かさず、顔色だけが蒼白になっていく。橙亜はおそるおそる前方の石田君の席に目を向けるが、彼はこちらを見てはいなかった。
対象に気づかれてもガン見を続けるようなタイプではないだろう。死神代行をやっている一護に比べれば、別にオレたちへの興味はそこまでだろうしな。
「僕たち、最初から怪しまれていたということですか……?」
「一護たちより霊圧知覚に優れている石田君なら、さもありなんじゃな~い? むしろよく今までちょっかいかけてこなかったね! って感じだろ~」
まあ、オレに話しかけてきたことはあったけど。──そういやこの話、橙亜たちにはしてなかったな。斬魄刀のあれこれでそれどころじゃなかったし。不可抗力、不可抗力!
改めて、橙亜は顔を覆って俯いた。よほどショックだったらしい。
「いいじゃん別に~。一護に向けられるヘイトが分散されるほうが橙亜さん的には嬉しいんじゃな~い?」
「まあ……それは確かにそうかもしれませんが」
──否定しろよ、クソアマ。
おっと、うっかり。思わず舌打ちが出るところだった。淑女としてあるまじき言動ですわ。
橙亜が
「……それはそれとして。唯和、ちょっと相談があるんですけど……」
「ん~?」
再び上げられた橙亜の表情は、相変わらずの無表情だ。けれど、オレにはわかる。
もう八年ほどの付き合いだ。人生の半分も一緒にいれば、これが「ろくでもないバカなこと」を考え、覚悟を決めた表情だということは容易に理解できた。
「斬魄刀を、貸していただけませんか?」
ほら来た。意味わからん。オレだって、まだホイホイと自由に斬魄刀を取り出せるようになったわけじゃないんですけど。
とりあえず、オレは努めてかわいい笑顔を浮かべて答えた。
「なんで~?」
「石田さんが虚を滅却する前に、斬魄刀で虚を昇華したいんです。もうすでに怪しまれているというのなら、それくらいはやってもかまわないでしょう」
「できると思ってんの~?」
「虚を斬るだけならその斬魄刀の持ち主でなくとも可能なはずです。実際、他人から斬魄刀を譲り受けたり奪ったりして自分のものとする事例は《知って》いますし……」
「そういうことじゃなくてさぁ~」
ガッ、と。橙亜の首元のリボンとワイシャツを掴み上げた。喉が絞まったのか、橙亜はわずかに眉を動かす。
「なんでわざわざ、オレの
一応、休み時間の賑やかな教室の端っことはいえ、声の音量は抑えた。おかげで幾分か低い声が出たが、これはバカなことを言い出した橙亜が悪い。
──こうなることは、予見できた。
死神が斬魄刀で行う「昇華」は、魂を浄化するということ。虚を殺すのではなく、罪を洗い流して尸魂界に送ることだ。
一方、滅却師の「滅却」は、虚を殺すということである。「虚を攻撃する」のは同じでも、行き着く結果は正反対だ。
橙亜はこれを許容できない。最初に自分で宣言した通りだ。コイツは「誰も死なせたくない」のだ。斬魄刀で斬ることはどうにか許容できても、滅却については一考の余地すらない。
まあ、本音は斬魄刀で斬られることも止めたいのだろう。けれど、「罪を洗い流すこと」はもっとも重要で、だから虚たちが斬られる苦痛については目を瞑ったのだ。「罪を清算すること」は「命」よりも重いのだ、橙亜の中ではね。
オレとしては「じゃあ破面も虚と同列に扱えよ」と思うわけだが、もしそうなった場合、きっと橙亜は《自分の知る》破面たち全員を斬魄刀で一掃することになるだろう。だって、例外を作るのは不公平だ。同様に罪を洗い流してやるのが「正しい行い」だ。赦しは平等でなければね。
しかし、そうなっては《本来は死なない破面》までもを手にかける羽目になる(できるかは別だが)。それでは本末転倒だ。
たぶん、世界の均衡的にも霊力の高い破面が軒並みいなくなるのってなんかよくなさそうだしな。知らんけど。
さて、少し脱線したが、要は《これから先》、橙亜さんは「滅却師に虚を殺させたくない」とおっしゃっているのだ。
予見はできたけれど、さすがにバカだろ。無理だって。ほぼ一般人のオレたちにできるわけがない。ましてや橙亜はまだまともに自分の斬魄刀を
そんな状況で虚を
「救いようのないバカだね。優先順位がバグってる。そんなことをするくらいなら、石田君に直接『やめろ』って言うほうが手っ取り早くな~い?」
「それが可能だと、本当に思います?」
「……」
目を逸らさずに橙亜は言い放った。
その問いかけへの答えは「ノー」である。だって、彼は「滅却師の誇り」とやらを大事にしているから、
どいつもこいつもバカばっかりで、イヤになるね。
「だとしても、オレは貸してやらないよ~。当然だろ、オレの斬魄刀なんだから」
「では璃鎖に──」
「だいだい! 遠距離攻撃が得意なヤツ相手に、近づかなきゃ攻撃できない斬魄刀で何ができんの? 普通にリーチの差で大敗だろ。試す価値もねーな」
「では、黒崎さんが虚を倒しきるまでのあいだ、彼に矢を撃たせないように妨害して時間を稼ぐのはどうですか?」
「いいね~。その行動を周囲に向けてどう誤魔化すつもりなのか、詳しく聞きたいなぁ~?」
「滅却師のことを浦原さんに聞いたことにすれば、それほど不自然な行動でもないのでは?」
「じゃあその浦原さんへはなんて誤魔化すんだよ。あぁ?」
橙亜の服を掴む手にどんどん力がこもっていく。布越しに爪が手のひらに刺さっていた。
橙亜の頑固さは知っている。オレが脅す程度では引かないのも知っている。ならもう、いよいよ暴力で言うことを聞かすしかない。
そんな一触即発の空気の中、蚊帳の外にいたもう一人が、おもむろに口を挟んだ。
「……よくわかんないけど、遠くの敵に攻撃を当てればいいの?」
こてんと首を傾けた璃鎖に、橙亜と二人で顔を向ける。璃鎖は屈託のない顔で笑った。
「なら、たぶんできるよ! 『風狗』が!」
*
「──虚です。方角はあちら」
「おっけい!」
夕暮れの中、橙亜の指した方向に璃鎖が走り出す。
「吹き荒べ、風狗!!」
璃鎖の呼び声に応じるようにその手の中に刀が現れ、そして扇の形へと変化した。
開ききれば璃鎖の首から上がすっぽり隠せてしまえるくらいの扇を、璃鎖は足元に向かって一度だけ扇ぐ。それだけで、璃鎖は飛ぶように住宅街の屋根を上を軽やかに、風のように駆け抜けていった。
背の低い璃鎖でも、空の高さまで上がれば虚の姿は捉えられる。遠目に虚を捕捉した璃鎖は、虚に向けて鋭く扇を振り下ろした。
「風切り!!」
見えづらいが、空気の刃のようなものが遠くに消えていく。目の上に手を当てながら着弾地点を見ていた璃鎖は、しばらくするとオレたちのいる地面まで降りてきた。
「やったっぽい!」
「確かに、霊圧は消えていますね。お疲れ様でした」
「風狗もおつかれー」
璃鎖が軽く手を振ると、手の中から斬魄刀は消える。すっかり使いこなしてしまっている璃鎖の頭を、オレはぐりぐりと撫でてやった。
「今回も石田君より先に倒せたようで何よりで~す」
「虚が来ると身構えている僕たちのほうが、一瞬早く動けているということでしょうか」
「いや、璃鎖の機動力がよすぎるだけだって。斬魄刀のおかげで、ただでさえ高い身体能力がブーストされてんの~。普通に車と変わらん速度出てたよね~」
それでなくとも、虚退治の回数を重ねるごとに璃鎖の経験値も比例している。もはや一護と変わらないレベルにまで動けるようになっていた。生身の体でだぜ? フィジカル特化にしたってむちゃくちゃだよな。
──オレと橙亜の諍いを涼やかに止めてみせた璃鎖の進言により、オレたちは璃鎖中心の虚退治に挑戦していた。
結果から言えば、思ったよりも上手くできている。これは璃鎖の能力が高かったおかげだ。でなければ、こんな無茶な作戦は失敗に終わっていただろう。
作戦自体はシンプルだ。霊圧知覚能力が一番高い橙亜が虚の出現を察知したら、その方向に璃鎖が走る。虚が視認できる距離まで近づいたら、遠距離攻撃で虚を倒す。
これなら現場まで赴く一護たちと鉢合わせる可能性も低くなる。たとえ倒しきれずとも、一護たちが到着するまで石田君の妨害ができればそれでいい。あくまでもオレたちの目標は虚を倒すことじゃなく、石田君に虚を倒させないことだからね。
璃鎖は斬魄刀の能力で移動速度にブーストをかけられるようなので、こんな途方もない作戦でもどうにか上手くできている。というわけだ。
「『風を操る能力』ね~。扇持ちの風使いって《神楽》かよ~。もしかして構想元?」
「誰……?」
「刀と違い、直感的に扱えるのが璃鎖に合っていますよね」
「うん! 風使って空飛ぶの楽しいよ! 二人もやる?」
「『飛ぶ』っていうより『跳ぶ』じゃね~? アンタぐらいの脚力がないと同じ体験はできないと思うな~」
飛び回る璃鎖の姿はまさしく風の化身のようである。やっぱ、小柄だから風に乗りやすいのかな。本人に言ったらキレるだろうな~。
「しかし、こうもすんなり名前を教えてくれるなんて~、持ち主に似てチョロ~い斬魄刀だねぇ~」
「そうかな? けっこうグチグチ文句を言ってたような……」
「璃鎖、バカにされたら怒っていいんですよ」
「ん? でも、唯和ってそんなに間違ったこと言わないよね。ちょっと悪意はあるけど……」
「その悪意に怒れと言っているのですが……まあいいです」
気を取り直すように、橙亜は首を振った。
「では、片づいたところでテスト勉強に戻りますよ」
「えー……」
「テスト期間中なのだから当然でしょう」
スタスタと歩き出した橙亜の後ろを、璃鎖はトボトボとついていく。
期末テストはもう目の前だが、虚さんは現世の事情に関係なく現れるのだ。歩きながらの勉強にもそろそろ慣れ始めたところである。
オレたちには橙亜がいるからね、持ち前の記憶力でテスト範囲を暗唱してくれるのだ。まるで録音した授業を再生しているかのように正確に、確実に。まあこれ、書き問題には対応してないのだけが欠点なんだけどネ。
あとは、そうそう。夜中にも虚は現れているのだろうが、残念ながら夜は就寝中だ。当然だろう。
これは石田君も規則正しく眠っていると信じての行動だ。信頼ですよ、信頼。断じて虚なんぞのために睡眠時間を削るのがイヤなわけではない。睡眠不足になるのは死神代行の一護だけで十分だ。
そもそも、言い出しっぺの橙亜の寝起きが悪いからな。虚の出現を感知して即座に動くのは無理なのである。ざまぁ。
「あと何回こんなことを続けるんでしょうね~」
「確実に《わかっている》ところでは、テスト終わりと、その日の夜にもありますね」
「一護と石田君の虚狩り対決はどうすんの~?」
「可能な限りは璃鎖に頑張ってもらおうと思っていますが……」
「それはさすがに乱入したほうが早そうだけど~」
「でも、黒崎さんには璃鎖が始解しているところをあまり見られたくはないんですよね……」
「あ~、まだ『始解』とか知らないんだっけ。気遣うことが多くて大変っすね~」
オレたちが虚退治を始めてから、一護との距離も若干開いたような気がする。一護たちには内緒の虚退治なので、常に一緒に行動していると動きづらいわけだな。
それに、観音寺のテレビの一件以来、一護はルキアと橙亜に二股をかけているなんて噂話が出回っている。ちなみに噂を流したのはオレだ。
まあ、いつの間にかエスカレートしてヤッただのヤッてねーだのの噂も流れているが、それは水色の仕業である。本当だよ? だってオレ、流してるところを直に見てたもの。オレのせいじゃないね!
「…………」
「……唯和、なんか怒ってる?」
「ん?」
歩きながら、璃鎖がオレの顔を覗き込んできた。
その額に、オレはデコピンをくれてやる。
「痛い!」
「やだな~。ちゃんと楽しんでますとも~。璃鎖の活躍が見れて唯和ちゃん超楽し~い」
────…………イラつく。
なんでだろう。《ここ》での毎日は楽しい、間違いなく。そこにウソはない。
一護たちには内緒でこっそり虚退治だなんて、こんなに心が躍る展開はない。《主人公》サマたちの裏で暗躍できるなんて最っ高にワクワクする!
盤面が全て見えていなければできない、まるで悪役の気分だ。実際、石田君にとってオレたちがやっていることは敵対行為以外の何物でもない。
だがまあ、先にケンカを売ってきたのは向こうなので報復には申し分ないだろう。か弱い乙女をストーカーして脅迫するヤツのほうが悪いに決まっている。石田君のイラついてる顔、早く見たいなぁ~!
そういうわけなので、ただでさえ楽しかった毎日はここ最近、特に楽しいのである。楽しすぎて、面白い。あまりの面白さに涙が出そうだ。
仮に、もしも、万が一。面白くないことがあるとすれば、オレに、世界を思い通りにする力が足りないことだ。この世界に干渉する方法がないことだった。
──みんなみんな、オレの思い通りに動く人形になればいいのに。
奥歯が軋む音がした。
そうすれば、もっと面白く動かしてあげるのに。そうすれば、盤面をぐちゃぐちゃに引っかき回してやるのに。安全圏から見下ろして、嘲笑ってやれるのに。
全部。全部が人形なら、いいのだ。だって、替えが利くもの。壊れても新しいものを買えばいい。作ればいい。それならば遠慮なく遊び倒してやれるのに。
──「そこまでご友人が心配ですの?」
耳障りな声が鼓膜にこびりついている。違う。全然、違うのだ。
そんなことはない。そんなはずはない。そんなことは、あり得ない。
心配だなんて、まるでオレがビビっているみたいじゃないか。二人がいなくなることを、まるで恐れているみたいじゃないか。
恐れることなんて、もう何もない。大事なものなら、とっくの昔に全部なくなったのだから。
八年前の、あのときに。8歳のあのときに。あのクソ強盗野郎にパパとママを殺されたときに、全部なくしたのだ。
だから、彼ら以上に大事なものはない。オレは持ってない。もう、持たない。
──そうやって生きると、決めたんだろ。
まあ「かわいいもの」なら、その手前の手前くらいまでなら入れてやってもいいよ。だって、「かわいい」はたくさんあるものだもの。
なくなっても別のかわいいものに目を向ければいい。多少の序列はあれど、「かわいい」は等価値だ。代わりはいくらでもいる。
オレはかわいいものが好きなだけで、かわいいものが大事なわけじゃない。大事とは唯一無二だが、かわいいものは唯一ではない。かわいいものは人生を豊かにするけれど、かわいいもののために人生を懸けることなんてない。
それらはオレを飾りつけるものであって、オレが傅いてやるものではないのだ。
──だから、かわいいだけの橙亜たちがどうなろうが、オレが気にすることじゃない。
どうでもいい。どうでもいい。面白ければなんだって、全てどうでもいい。
なくなったって、平気だ。それすらも楽しんでみせるとも。盛大に笑ってやる。笑ってみせるさ。
バカみたいな願いを口にするヤツの末路は、滑稽でしかるべきなのだ。
そんなことを思いながら、オレは浦原商店への道を歩く。
橙亜のテスト範囲音読は、誠に残念ながら耳を素通りしていた。
