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4.BAD STANDARD
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「その荷物は奥にやっといてもらえます?」
「はーい」
「いやぁー、璃鎖サンがいると力仕事が捗るっスねぇー」
三つほど重ねたダンボールを軽々と抱える璃鎖を眺め、浦原さんは愉快そうに言った。璃鎖はパタパタと店内を走っていく。
本日はすでに店じまいをした浦原商店。商品の補充を手伝っていた僕は、同じように作業している唯和の様子をちらりと盗み見た。
「…………」
はた目にはいつもと変わらず、鼻歌交じりに商品を並べている。
先日は彼女の「地雷」とも言うべき事件に触れたのに、平気な笑顔を浮かべ続けていられるのはさすがというか、何というか。
──気にしていない、ってことはないだろうに。
唯和の両親は、幼少期に殺されている。
唯和の実家は地元でも有名なお金持ちの家で、強盗によって二人は無惨にも殺されたのだ。──唯和の目の前で。
唯和とシバタさんの境遇には間違いなく重なるところがあった。だから、できればあの虚と唯和を会わせないようにしようと思ったのだが……見事に失敗に終わったわけである。
僕に策略は向いていないことがありありと証明されてしまった。そもそも、唯和の行動をコントロールしようというのが無理筋である。わかりきっていたことだった。
まあでも、唯和は僕に心配されるのは好きではなさそうだし、これ以上触れないほうが彼女のためなのかもしれない。放っておけば一人で勝手に立ち直るだろう。
悶々とそんなことを考えていると、奥から璃鎖が戻ってきた。
「『ソーワルピン』って書いてあるやつの近くに置いてきたよ!」
「ソーワルピン……?」
「ぶはっ!」
璃鎖の言葉に浦原さんは疑問符を浮かべ、唯和は噴き出した。案外、調子が戻るのは早いかもしれない。
頭を痛めつつ、僕はフォローを入れた。
「おそらく、『粗悪品』のことではないでしょうか……」
「『そあくひん』って読むの? あれ」
「あぁ、そういえばまだ処分してなかったっスねぇ……というか、橙亜サンよくわかりましたね」
「えぇ、まあ……」
視線を逸らす。だって聞いたことある……というか、《これから》聞く読み間違いだし、とは言えない。
浦原さんは感心し、考え込む仕草を見せる。記憶の片隅にあった「粗悪品」を意図せず意識させてしまったようだ。これで「じゃあすぐに処分しましょう」、なんて言われてしまってはたまらない。
内心で焦っていると、笑いすぎてむせていた唯和が口を挟んだ。
「ゴミなんて溜まってから出せばいいんだよ~。こまめに出すなんてめんどくさ~い」
「……それもそうっスねぇ!」
ずぼら人間め。と言いたかったが、浦原さんが同調したために口に出すのはやめた。ひとまず、助かった。
作業を終えた浦原さんと璃鎖は、店の奥に戻っていく。僕も追いかけようとしたが、後ろに留まる唯和を振り返った。
「行かないんですか?」
「ちょこっと作戦会議~。どうせそろそろソーワルピン事件なんでしょ~?」
「まあ……たぶん、明日あたりだと思いますけど……」
誰かに聞かれても誤魔化せるようにぼかした表現をしているのだろうが、それにしたってその言葉選びはどうなのだ。
そんな気持ちで睨んでみるけれど、無表情のせいか唯和には利いていない。
「実践、参加する~? もしかしたら斬魄刀が出せるかもよ~?」
「確証もないのに戦闘中に割って入るのは、危険だと思いますよ」
溜め息をつく。前回、僕と唯和が斬魄刀を持っているらしいことが判明した。してしまった。
僕には記憶がないが、黒崎さんが嘘をつく理由もないので事実そうなのだろう。とても信じ難いことだが。
──本当に…………どうしよう。
頭を抱える。確かに他人を助けられるような力が欲しいと思ってはいた。だが、しかし、さすがに自分のあずかり知らぬところで斬魄刀が発生しているとは思わなかったよ。
いったいぜんたい、誰に仕組まれたのだろう。いくら考えても答えは出ない。仕方がないので、ひとまずはこの意味不明な現状を受け入れるしかない。
受け入れるとして、だ。そもそもの話、唯和はともかく、僕には斬魄刀を手にした自覚すらないのだぞ。唯和ですらちゃんとした出し方を把握していないのに、実践になど突っ込んでいけるものか。
「でもでも~、まだ虚を相手してる《今のうち》に出し入れくらいはスムーズにできるようになってたほうがいいんじゃな~い?」
「……仮に、そうだとして、
「ホンマや。追いつく頃には《話》終わっとるね、これね」
唯和も肩を竦めた。この様子では最初から本気で言っていたわけでもないのだろう。
以上、結論。今回の僕たちは見学に回る。前回もそんなことを言っていて結果駄目だったが、今回は物理的についていけないので問題ない。大人しく学校で待っていよう。
唯和は頭の後ろに両手を回し、大きな溜め息をついた。
「ったく……浦原さんが使い方を教えてくれれば早いのになぁ~?」
「それは……そうですね……」
何事も本職に聞くのが一番である。身近な該当者は浦原さんだ。ルキアさんは現在、力を失っていてそれどころではないので。
だからこそ、僕たちは斬魄刀の件について浦原さんに報告していた。すぐにしたとも。当然の流れだね。
なのだが、浦原さんは飄々と「それはすごいっスねぇ」と言って、それだけだった。他には何も言わずに日常の作業への戻っていった。
そんなバカな。一般人が斬魄刀を持っているわけがないことなど、あなたが一番わかっているだろうに。せめてもう少し驚いて見せてくれても罰は当たらないだろうに、そんなこともない。これでは「自分は真実を知っている」と自白しているようなものでは? 僕たちは一体どうすればいいの? おかげでずっと悩み続けているよ。
そんな現状から目を逸らしつつ、僕たちも自室へ戻る。その途中、璃鎖の声が奥から響いた。
「橙亜! 唯和! 夕飯できたって!」
「はぁ~い」
「今行きますよ」
頭を悩ませながらも、僕たちは夕食を頂くのでした。
*
さて、翌日。いつものように黒崎さんと登校した僕たちだったが、本日はルキアさんが不在であった。
何気なく浦原商店のほうへ意識を向ければ、なるほど彼女の霊圧はそちらにある。僕たちが浦原商店を出るのと入れ替わりにやってきたようだ。
やはり、改造魂魄事件が起こるのは今日らしい。当たってほしくはない予想だったが、昨日も話した通り、結局僕たちにできることはないのだ。気楽にいこう。
ルキアさんが登校してきたのは、いくつか授業が終わり、休み時間に入った頃だった。そして、息つく間もなく嵐のように黒崎さんを連れ去っていった。
内心で黒崎さんに応援を送っていれば、お昼休みの時間である。はしゃぐ井上さんを視界に収めつつ、僕はお弁当を机には出さずにそのまま座っていた。
すると、隣の席の璃鎖が不思議そうに覗き込んでくる。
「橙亜、食べないの?」
「えぇ、もう少ししてから食べます」
これから起こることを考えればお弁当をのんきに食べるなど不可能だろう。騒ぎが落ち着いてからゆっくり頂くことにする。
食べるのが早い璃鎖はすでに弁当の半分以上を腹の中に収めていた。しかし、不意に窓のほうへ顔を向ける。
同じように、井上さんも立ち上がって窓に近づいた。
「何か来るよ、橙亜」
「黒崎くんのにおいがした!」
璃鎖と井上さん、二人の言葉を受けた僕は、有沢さんと目が合った。お互い、野性的な友人を持つと苦労しますね。
とりあえず、僕は現実的な言葉を返した。
「璃鎖、ここは三階ですよ」
「そうよ! 第一、匂いがしたとしてもこんなトコから一護が入ってくるワケ…………」
などと言っていると、窓の「外」に人影が現れた。言わずもがな、ここまで飛び上がってきた義魂丸入りの黒崎さんである。
あり得ない光景に、有沢さんの口は大きく開いていた。璃鎖も目をかっ開いている。事態を認識した教室は、悲鳴を轟かせた。
クラス中の視線が黒崎さんに集まっている。その隙に、僕はそそくさと廊下側へ移動した。
黒崎さんは近くにいた井上さんの手の甲にキスをし、さらには止めに入った有沢さんも餌食になる。教室はもはや阿鼻叫喚だ。
廊下に出ると唯和もそこにいた。彼女は楽しそうに教室を眺めてほくそ笑んでいる。
「愉快だねぇ~。橙亜も巻き込まれてくればよかったのになぁ~」
「嫌ですよ……」
「いいじゃん、ほっぺにキスくら~い。挨拶の延長だぜ~?」
「では、そう言って有沢さんも説得してきては?」
教室の中では机が宙を舞っていた。怒りに燃える有沢さんが黒崎さんを仕留めるために教室中を荒らし回っている。
教室の惨状に対し、唯和は肩を竦めて舌を出した。あんな嵐の中に好き好んで飛び込める人間はなかなかいないだろう。
もしもいるとするならば。それはブルース・ウィリスか、あとは──。
「たつきちゃん、危ないよ」
「止めないで璃鎖! あたしはそいつを殺さなきゃならないの!」
──璃鎖くらいのものである。
璃鎖は二人のあいだに割って入り、投げられた机を弾いた。軽々と振るわれる腕によって机の軌道が逸れる。……肌が合金か何かでできているのか?
すると、黒崎さんの視線が璃鎖を捉えた。
「お、そちらもなかなかの特盛……」
黒崎さんが背後から璃鎖を包み込むように腕を回す。──確かに璃鎖は身長のわりには井上さんに負けず劣らずのサイズではあるが、あれは殴られて終わるのでは……。
憐れみの視線を向けていると、僕たちがいるのとは反対の、教室の前の扉が勢いよく開いた。
「そこまでだ!!」
凛とした声が響く。虚退治に出かけていたルキアさんが戻ってきたのだ。
ルキアさんを見た
「────は?」
「ぎゃはははは!!」
思わず低い声が出た僕の隣で、唯和は爆笑する。璃鎖も特に抵抗せず、されるがままに黒崎さんに抱えられていた。なんでさ。
義魂丸の黒崎さんが逃げた先、窓の向こうには本物の黒崎さんが飛び上がってきている。
逃げ道はないかと思われたが、義魂丸の彼は躊躇なく窓から飛び下りた。三階から軽々と着地し、減速せずに逃走する。
そんな彼を見て、窓に駆け寄ったルキアさんは驚いた顔で叫んだ。あれは義魂丸ではなく、改造魂魄だったのだと。
ルキアさんたちは改造魂魄を追うため、急いで教室を出て行った。
静まり返った教室で、僕は頭を抱える。
「どうしてこうなった……」
「驚いてついつい手近な璃鎖を掴んで逃げちゃったんだろうね~。人質にするにはたつきの次に避けたい人選だし~」
「のんきに推理している場合ですか!?」
唯和はいつものようにケラケラと笑っていた。もう少し心配をしてもいいと思うのだが?
近くにいたクラスメイトに早退する旨を伝え、荷物と唯和を引っ張って僕たちも教室を出る。
──教室での騒動を耐えれば済むと思っていたのに、まさか璃鎖が誘拐されるとは……。
怪我の心配はまったくしていないが、《知識》のない璃鎖が何かやらかしてしまうのではないかという恐怖心はおおいにある。
いまだ笑い続ける唯和の背中を叩いて、僕たちはルキアさんたちのあとを追いかけるのだった。
