夢主の名字は固定です。
5.Hero is Always With Me?
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
季節は6月に入った。
改造魂魄事件におけるクラスメイトたちの記憶は浦原さんによって全て処理され、黒崎さんは無事、穏やかな日常を送れている。
コンさんはぬいぐるみの体を獲得し、のびのびとやっているようだ。この前は家出している姿を遠目に見かけたので、ぬいぐるみ生活を満喫しているようである。
僕たちの斬魄刀の件については、とりあえず、一旦保留にしていた。考えるのをやめたとも言う。
斬魄刀を持っているだけなら誰かに仕込まれたという話で終わらせてもいいのだが、始解できてしまったとなると風向きが変わってくる。
そもそもの大前提の話だ。僕たちは「死神ではない」のである。
黒崎さんにも協力してもらって霊絡で確認してみたが、やはり普通の人間だった。もう意味がわからない。助けてほしい。
あまりに恐ろしくて浦原さんにも聞けていなかった。まあ、どうせ聞いてもはぐらかされるのだろうが、それでも尋ねる勇気はまだ出ていなかった。出る日など来るのだろうか。あとはもう、未来の自分に任せるしかない。頑張れ、未来の僕。
学校生活では中間テストが終わり、校内の空気は解放感に満ちあふれていた。まあ、来月には期末テストが待ち構えているのでこのひとときだけなのだろうが。
授業内容も順当に難しくなってきており、璃鎖は苦労しているようだ。今回の中間テストも赤点ギリギリの点数だったので、期末テストの頃にはきっと泣きついてくるだろう。普段からコツコツと勉強しておけば楽になるのに、どうしてそんな簡単なことができないのだろうか。不思議である。
そういうわけなので、璃鎖は体を動かす授業のほうがのびのびとやれているようだ。僕たち三人が揃って取っている選択美術の課題も、さっさと終わらせてしまっている。
課題の内容は「未来のわたし」だ。将来の自分を想像して絵を描かねばならないわけだが、これがなかなか難しくて、僕は頭を悩ませていた。
──僕たちの未来って……何?
生まれた世界とは《別の世界》にやってきた僕たちには一体これから、どんな未来が待ち受けているのだろう。ただでさえ懸念要素が多い僕たちの中でも、一番の懸念がこれであった。
この先、どこかのタイミングで《帰る》ことになるのか、それともこの世界にずっと《いる》のか。そもそも《帰れる》のか、はたまた《いる》こと自体がよそ者の僕たちに許されるのか。それすらもわからない。
未来に不安があるのは大なり小なりみんな同じだろう。しかし、僕たちは状況が違う。違いすぎる。文字通り、《次元が違う》のだ。
浦原商店の自室で、僕は白紙の画用紙の前にひたすら溜め息をついていた。そんな僕を、唯和は肘をつきながら横目で笑い飛ばす。
「橙亜は考えすぎ~。大人になった姿を適当に描いておけばいいじゃ~ん。別に描いたものに絶対ならなきゃいけないってわけじゃないんだからさぁ~」
それはそうだ。そうでなければ井上さんの将来はロボである。
しかしながら、不確かな未来を楽観的に想像するのは苦手なのだ。楽しい想像をすればするほど、現実に裏切られたときにショックが大きくなるから。つまりは傷つかないための予防線である。
唯和はそんな僕を嘲笑うが、しかし、一拍置いてふと表情が消えた。
「──ねぇ、橙亜~。最近、髪切った?」
「いえ、こちらに来てからは特に………………あれ?」
ゆっくりと、血の気が引いていく。唯和が急に話題を変えるのはいつものことだが、それに驚いたわけではない。
記憶を遡った。こちらに来てからの記憶を三回、いや四回は思い返した。まるでビデオを早送りするように記憶を再生した。
しかし、何度思い返しても結論は変わらない。この二ヶ月半、僕の視界に映る前髪は「一ミリも」伸びてはいなかった。
「だよね~? 唯和ちゃん、一回も前髪とか切ってないのよ~、爪もそう。そんなことってある~?」
「そういえばそうだね! どういうこと?」
畳の上でゴロゴロと寝転がっていた璃鎖も起き上がる。そして自分の手をまじまじと見ていた。
よくある日常生活の光景が一転、不気味なものに早変わりした。いや、僕たちが日常だと思っていたものは、もしかすると最初から存在していなかったのかもしれない。
「あと、どうせオレたちしかいないから言うけど、オレこっちに来てから生理きてないんだわ~」
「あ、私もー」
「僕も……です」
てっきり環境が変わったストレスの影響かと思っていた事象がここまで三人一緒に綺麗に起きているとなると、明らかに奇妙だ。
「三人ともってことは、病気とかの線はなさそうね~」
「可能性としてはゼロではありませんけど……」
「他の異変とも照らし合わせれば、おのずと答えは見えるっしょ~?」
唯和は人差し指を立て、目を細めた。
「オレたち、肉体の時間が止まってるくさい」
心臓が音を立てた。つまり、この世界に来たときから「肉体が成長していない」ということになるのか? ──なぜ?
三人で頭を突き合わせた。《こちら》に来てからの状態変化をいくつか挙げていく。
「でも体力とかはついたんだよね~? 特に橙亜、陰でトレーニングしてるんでしょ~?」
「……あまり実感はありませんがね。怪我も普通に治りますし、ただ止まっているだけではなさそうですね」
「あっ、私の身長が伸びないのももしかして……!?」
「それは成長期が終わっただけでは? 体重は変動してますよね?」
「物食って出してんだからそりゃね~。体重が変わらないなら今からでもドカ食いするんですけど~」
「胃の容量は変わらないのですから、普通にお腹を壊しそうですね」
「うぅ……私の身長……」
「璃鎖は小さいほうがかわいいぞ! 元気出せ~!」
「うわーん! 唯和の意地悪!」
「さって、話が逸れたな~。成長はすれども老化はしないってことなのかにゃ~?」
「はぁ……成長も老化も同じ変化ですよ。それが止まっているなら爪や髪の件は納得できますが、体力や筋肉がついているのが謎です」
「ぐすっ……なんだっけ、あれ……斬魄刀のせいとか?」
「確かに死神は長生きですが……斬魄刀自体にこんな特殊な効果はないはずです。そういう能力なら別ですが、三人同じということはまずないので除外されるでしょうね」
もしも本当に肉体の時間が止まっているのだとしたら、生命活動も停止してしかるべきだ。しかし、そうなってはいない。僕の心臓は今も、間違いなく動き続けている。
最低限の生命活動は変わらず行われていると考えていいのだろうか。だからこそこの事態に気づくのに数ヶ月を要したわけであるし、おそらくはた目にも感知は難しいだろう。
「なんと言うか……中途半端、ですよね」
食べなければ腹は減る。起き続けていれば眠くなる。無理をすれば体調も悪くなる。なのに、髪や爪は伸びない。生理も来ない。
実に中途半端だ。いまいちルールがよくわからない。
これが《零時迷子》のような「毎日午前0時に肉体の状態がリセットされる」みたいな現象ならわかりやすいが、そうではないのだろう。一日や短期間で肉体の状態がリセットされているなら、そもそも今日までの記憶が連続していられるはずがないからだ。
「何らかの副作用、もしくは副次的な効果でこうなっているだけで、これ自体が狙った状態なのかもわかりませんが……」
「日常生活を送るだけなら問題がない。なら放っておいてもいいんじゃな~い? どうせ侑子さんか、浦原さんの仕業だろ~?」
唯和は綺麗な笑顔で言った。確かに現状、容疑者はその二人くらいだが、だとしても目的がよくわからない。
ただちに不都合があるわけではないから、しばらくこのままでも問題はない。では、いつまでこの状態は続くのか。──まさか一生、なんてことはあるまい?
「『未来のわたし』……ずっと高校生のままだったらどうしましょう……」
「肉体的には最盛期を維持できるってんなら便利なんじゃな~い? もしかしたら《サイヤ人》みたいに青年期が長いだけで年取ったら一気に老け込むかもだけど~」
「僕たちを戦闘民族仕様にしたところで、たかが知れてると思うんですけど……」
「
結局、これも斬魄刀の件と同じ。考えたところでわからないのだから、考えても仕方がないという結論に落ち着いてしまう。
どれもこれも、懸念要素ばかりが降り積もっていく。黒崎さんたちとの学校生活は賑やかで楽しいけれど、それ以外のあらゆることに不安がつきまとって、身動きもままならなくなりそうだ。
「未来が不確かなのは……怖いですね」
「にゃはっ! 青春か~?」
唯和は噴き出した。確かに、言葉にしてみればありきたりな、等身大な青春の悩みのようだ。きっと大人たちも「何を当たり前のことを」と笑い飛ばすのだろう。
そう思うと、理不尽な世界に多少の苛立ちは起きる。大人たちにとってはなんてことのない些細な出来事かもしれないけれど、子供にしてみれば世界を揺るがすような一大事なのだ。簡単に弄ばないでほしい。
そんな反抗心のようなものを込めて、後日、僕の美術の課題はどうにか完成した。
どんな絵を描いたかは……まあ、ご想像にお任せする。
