雲雀中編
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雲雀恭弥とは、私の幼なじみである。その事を知っている人物は意外と少ない。
何故なら仲良く遊んだのは小学生低学年までで、彼が強いものに惹かれるようになってからは、次第に接触が無くなっていった。
中学高校大学と私は進学したけれど、彼は高校を卒業した年に起業して世界を転々としているらしい。
らしいと言うのはそう誰かが話しているのを聞いたからだ。
中学の頃から並盛の頂点に立つ男と言われ恐れられていた彼は、今でも恐怖の対象でもあるが、整った顔立ちもしていたので、興味の対象でもあるらしい。
私から聞かなくても、ちょこちょこ話を聞くことがある。
彼は並盛に愛着を持ちつつ執着していたので、この地を離れる事は無いと思っていたけれど、予想は外れた様だ。
「ま、もう関係ないか」
ため息を吐き出して、私は空を見上げる。
顔も見かけることがなくなって早5年、彼は私の事をすっかり忘れてしまっているだろう。
興味がない事には目もくれない彼のことだから。
私にとっては初恋だった幼少期の数々の思い出は今では上手く思い出せないが、柔らかく笑った彼の顔はまだ思い出せる。
そして、今頃思い出してしまっているのは、その彼を並盛で見かけたと聞いたからだ。会社の同年代がそう話していた。
「すみませーん!道をお尋ねしたいのですが」
ぼんやりと歩いていたからか、目の前に人が立ちはだかってそう声をかけられた。
違和感ない日本語だったからてっきり日本人かと思って顔を向けると、そこにいたのは金髪碧眼で190センチぐらいの長身のすらりとした細身の外国人だった。
「え、私ですか?」
「そう!きみだよ!ちょっとこの辺細い道多くて迷ってたんだよね〜スマホは仲間に預けたままでさ!集合場所は覚えてるんだけど」
その後も陽気に自分の現状を話し続ける外国人に、目を白黒させる。こんなに流暢に喋れるのかと少し感心してしまう。
しかし、観光名称と言えるものもない並盛に外国人がいるのに少しだけ違和感を覚えた。
そんな私の不審そうな視線に気づいたのか彼は慌てたように言葉を繋ぐ。
「知り合いに会いに来たんだ!並盛良いとこだからさって」
「そうですか。どこに行きたいんですか?」
その必死さに少し笑いそうになりながらそう告げれば、彼はパッ!と顔を明るくする。
「えっとね!駅だよ、並盛駅!」
「駅ならこっちですよ。案内しましょうか?」
「ほんと!?頼もしいな!」
にこりと笑って見せた彼に私も軽く笑いかえす。
じゃあ、こっちですよ。と歩き始めたが、彼はまだいかに自分が仲間と逸れて困っていたかを話している。
その長話は結局駅前通りに着くまで続くことになったが、嬉しそうにお礼を言う彼に迷惑だと言えるはずもなく愛想笑いを貼り付けた。
「あそこに見える建物が駅ですよ、では私はこれで」
会釈をして踵を返そうとするが、いつの間にか手を掴まれていた。
え?と思って彼を見上げると先程までの陽気な外国人ではなく、表情がない。冷たい瞳で私を見下ろしていた。
ぞわりと得体の知れない何が背筋を通った。
「や、やめ、はな、離し」
恐怖で声が震えてうまく言葉が出てこない。
そんな私に気を良くしたのか、彼の唇が弧を描く。
「この女が?とてもそうだと思えないが」
何のことを言っているのかは分からないが、私に用事があるらしい。物騒な事になる予感しかしない。
どうして逃げようかと考えるも周りには誰もおらず叫んでも助けを呼べそうにもない。
「喋るなよ。喋ったらこの腕折るからな」
震える身体にに力を入れて抵抗らしい抵抗を試みるも、握られた手首が痛むだけだった。
どんな馬鹿力だと彼を睨むと、彼は興味がなさそうにしながらスマホを取り出して電話をかけ始めた。
「目標確保、駅前通りだ」
あれは全部演技だったのか!と騙されて悔しい思いも込み上げてきた。
恐怖からか悔しいからか分からないけど、じわりと視界がにじんでくる。
泣いても仕方ない事だと分かっていても、込み上げるものを止める事は出来なさそうだ。
彼、男が電話をしてから数分後には目の前に黒塗りの車が止まる。運転席から出てきた厳つい大柄の男は黒いスーツを着て、黒のサングラスを掛けていた。
やくざですと言わんばかりの風格と格好に思わず後ずさる。けれど、手を掴まれているのでたいした距離は取れなかった。
「これか?」
「資料によると間違いない」
「乗せろ」
「ああ」
腕を引っ張られ車の中に押し込まれそうになる。せめてもの抵抗をと思い足に力を入れて踏ん張る。
が、抵抗むなしく強い力で引っ張られて足は車の方へと向かっていく。
「何をしている!」
突然周囲に響いた怒号に驚いて、私と男たちは声が聞こえた方に目を向けた。
そこにいたのは黒のスーツを着た男だ。特に目を引くのが頭部から伸びたリーゼント。
険しい顔をして男たちを見ていたが、私と目が合うとこれでもかと目を見張った。
何だが見覚えがあるような?ないような?と私は首を傾げる。
しかし変なところに居合わせてしまった様だ。助けを求めたいが、リーゼントの彼が無事で済む確証もない。
どうしようと考えている内にも私は車へと押されるし、リーゼントの人は私たちの方へ走ってくる。
「奴の部下だ!急げ!」
サングラスをした男が声を上げる。急いで懐から取り出したものは拳銃だった。
銃口はリーゼントの人に向かっている。
「だめ!」
何も考えずに咄嗟に手を出していた。
しかし銃口の前に私の手が届くより前に、持っていた拳銃ごとサングラスの男が吹き飛んだ。
「は?」
人が吹き飛ぶ場面を初めて見た。驚きのあまり間抜けな顔をしている事だろう。
私の腕を掴んで離さない男は明らかに動揺している様子で、飛んで行った仲間を気にしつつも辺りを見回している。
今なら抜け出せるんじゃないかと思うも掴まれた腕はびくともしない。そう易々と逃してくれる訳もないらしい。
「いつまで並盛の秩序を乱すつもりだい?」
ふいに響いた声にその場にいた人たちの視線が集中した。
私も類に漏れず、新しく出てきた人物に顔を向ける。
こちらの男も黒のスーツを着ていたが、吊り目を細めてこちらを見ている。その整った顔立ちにはすごく見覚えがあった。
「あれって…」
「くそ!戻っていたのは本当だったか!雲雀恭弥!」
雲雀恭弥とはこの町では恐怖の対象である。そして、この男にもそうであるらしい。顔を青くして、後ずさりする。
私を盾にする様に後退する男に合わせる様に私も後ずさる。
もしかしなくても、私は人質なのだろう。が、人質を取ったからと言って秩序を豪語する彼に意味はあるのだろうか。
そう思いながら彼に視線を向けると、にやりと凶悪そうな笑みを浮かべていた。そして何のためらいもなくこちらへと走ってくる。手には彼の愛用のトンファーを持って…
「え、うそ、ま、待って!」
私諸共咬み殺されかねない!と声を上げるが何の意味もなさないらしい。
あっという間に距離を詰められ、恐怖で強く目を閉じた。ドスッと聞こえたらいけない音がした気がしたが、痛みは感じない。
代わりに拘束されていた腕は解放されて、地面に突っ伏す事になった。その時の勢いが良かったのか、私は数メートル転がった。
「いっ!」
何とか頭を守ったけれど、腕と足には擦りむいたのかひりひりとした痛みを感じる。
その痛みを何とか我慢して立ち上がると、そこには外国人二人がボコボコにされて転がっていた。意識を失っている様でぴくりとも動かないのが怖い。
死んではないよね?と思いつつも、その二人の前に立つ人物を思い出して顔が引きつった。
「あー、恭弥?」
「なに?」
恐る恐る声をかければ、自然と返事が返ってきた。その事にひとまず安心して、約5年ぶりに見る恭弥の姿に変わりがない事にも安堵する。
「これは一体なに?」
なぜ私が狙われたのかは分からないが、知っている事は教えてくれる義理はあるんじゃないかと視線を向けると、恭弥は何でもなさそうに言い放つ。
「ちょっとしたごたごただよ」
「ごたごたって…」
説明になってないじゃない。とは言えず、私はため息を吐き出した。
どうやら説明する気はないらしい。なら、これ以上聞くこともないだろう聞いたところで返事はないはずだ。
「私帰っていいのかな?」
危機が去って安心したから疲れが出てくる。傷も早く治療したいからそう言えば、恭弥は眉間にしわを寄せた。
「哲、事務に一人ねじ込んで」
私の問いを無視して、恭弥はリーゼントの男にそう告げた。哲と聞いて何となく思い出したが、草壁と言う副風紀委員長だった人かなと見当をつける。
「問題ありません。今日からで?」
「うん、よろしく。僕はひと通り見てくるよ」
じゃあね。と恭弥はあっさりと歩いて行く。何のことか分からないが、私はもう帰っていいのだろうということにして、痛む手足を動かして歩き始めた。
「待ってください!名字さん!手当てしますので、こちらへどうぞ」
「え?いや、これくらいの傷なら大丈夫ですので…草壁くん?かな?」
同い年だったよなと思ってそう言えば、草壁くんは少しだけ目元を緩めた。
「よく覚えておいでで…接点はこれと言って無かったはずでしたが」
「ついさっき思い出したよ?草壁くんもよく私の事覚えてたね?風紀委員会だからかな?」
そう言って笑うと、微かに笑った草壁くんにそっと手を取られる。
「とりあえず手当てをしましょう。こちらに来ていただけますか?」
「あ、はい」
二度も言われては断れない。大した怪我ではないんだけどなと思いながらも、好意を無駄にするのもなと思い草壁くんのしたい様にしてもらうことにした。
こんな擦り傷だらけで明日の仕事は行きづらいなと思いながら、私は草壁くんに付いて行ったのだった。
何故なら仲良く遊んだのは小学生低学年までで、彼が強いものに惹かれるようになってからは、次第に接触が無くなっていった。
中学高校大学と私は進学したけれど、彼は高校を卒業した年に起業して世界を転々としているらしい。
らしいと言うのはそう誰かが話しているのを聞いたからだ。
中学の頃から並盛の頂点に立つ男と言われ恐れられていた彼は、今でも恐怖の対象でもあるが、整った顔立ちもしていたので、興味の対象でもあるらしい。
私から聞かなくても、ちょこちょこ話を聞くことがある。
彼は並盛に愛着を持ちつつ執着していたので、この地を離れる事は無いと思っていたけれど、予想は外れた様だ。
「ま、もう関係ないか」
ため息を吐き出して、私は空を見上げる。
顔も見かけることがなくなって早5年、彼は私の事をすっかり忘れてしまっているだろう。
興味がない事には目もくれない彼のことだから。
私にとっては初恋だった幼少期の数々の思い出は今では上手く思い出せないが、柔らかく笑った彼の顔はまだ思い出せる。
そして、今頃思い出してしまっているのは、その彼を並盛で見かけたと聞いたからだ。会社の同年代がそう話していた。
「すみませーん!道をお尋ねしたいのですが」
ぼんやりと歩いていたからか、目の前に人が立ちはだかってそう声をかけられた。
違和感ない日本語だったからてっきり日本人かと思って顔を向けると、そこにいたのは金髪碧眼で190センチぐらいの長身のすらりとした細身の外国人だった。
「え、私ですか?」
「そう!きみだよ!ちょっとこの辺細い道多くて迷ってたんだよね〜スマホは仲間に預けたままでさ!集合場所は覚えてるんだけど」
その後も陽気に自分の現状を話し続ける外国人に、目を白黒させる。こんなに流暢に喋れるのかと少し感心してしまう。
しかし、観光名称と言えるものもない並盛に外国人がいるのに少しだけ違和感を覚えた。
そんな私の不審そうな視線に気づいたのか彼は慌てたように言葉を繋ぐ。
「知り合いに会いに来たんだ!並盛良いとこだからさって」
「そうですか。どこに行きたいんですか?」
その必死さに少し笑いそうになりながらそう告げれば、彼はパッ!と顔を明るくする。
「えっとね!駅だよ、並盛駅!」
「駅ならこっちですよ。案内しましょうか?」
「ほんと!?頼もしいな!」
にこりと笑って見せた彼に私も軽く笑いかえす。
じゃあ、こっちですよ。と歩き始めたが、彼はまだいかに自分が仲間と逸れて困っていたかを話している。
その長話は結局駅前通りに着くまで続くことになったが、嬉しそうにお礼を言う彼に迷惑だと言えるはずもなく愛想笑いを貼り付けた。
「あそこに見える建物が駅ですよ、では私はこれで」
会釈をして踵を返そうとするが、いつの間にか手を掴まれていた。
え?と思って彼を見上げると先程までの陽気な外国人ではなく、表情がない。冷たい瞳で私を見下ろしていた。
ぞわりと得体の知れない何が背筋を通った。
「や、やめ、はな、離し」
恐怖で声が震えてうまく言葉が出てこない。
そんな私に気を良くしたのか、彼の唇が弧を描く。
「この女が?とてもそうだと思えないが」
何のことを言っているのかは分からないが、私に用事があるらしい。物騒な事になる予感しかしない。
どうして逃げようかと考えるも周りには誰もおらず叫んでも助けを呼べそうにもない。
「喋るなよ。喋ったらこの腕折るからな」
震える身体にに力を入れて抵抗らしい抵抗を試みるも、握られた手首が痛むだけだった。
どんな馬鹿力だと彼を睨むと、彼は興味がなさそうにしながらスマホを取り出して電話をかけ始めた。
「目標確保、駅前通りだ」
あれは全部演技だったのか!と騙されて悔しい思いも込み上げてきた。
恐怖からか悔しいからか分からないけど、じわりと視界がにじんでくる。
泣いても仕方ない事だと分かっていても、込み上げるものを止める事は出来なさそうだ。
彼、男が電話をしてから数分後には目の前に黒塗りの車が止まる。運転席から出てきた厳つい大柄の男は黒いスーツを着て、黒のサングラスを掛けていた。
やくざですと言わんばかりの風格と格好に思わず後ずさる。けれど、手を掴まれているのでたいした距離は取れなかった。
「これか?」
「資料によると間違いない」
「乗せろ」
「ああ」
腕を引っ張られ車の中に押し込まれそうになる。せめてもの抵抗をと思い足に力を入れて踏ん張る。
が、抵抗むなしく強い力で引っ張られて足は車の方へと向かっていく。
「何をしている!」
突然周囲に響いた怒号に驚いて、私と男たちは声が聞こえた方に目を向けた。
そこにいたのは黒のスーツを着た男だ。特に目を引くのが頭部から伸びたリーゼント。
険しい顔をして男たちを見ていたが、私と目が合うとこれでもかと目を見張った。
何だが見覚えがあるような?ないような?と私は首を傾げる。
しかし変なところに居合わせてしまった様だ。助けを求めたいが、リーゼントの彼が無事で済む確証もない。
どうしようと考えている内にも私は車へと押されるし、リーゼントの人は私たちの方へ走ってくる。
「奴の部下だ!急げ!」
サングラスをした男が声を上げる。急いで懐から取り出したものは拳銃だった。
銃口はリーゼントの人に向かっている。
「だめ!」
何も考えずに咄嗟に手を出していた。
しかし銃口の前に私の手が届くより前に、持っていた拳銃ごとサングラスの男が吹き飛んだ。
「は?」
人が吹き飛ぶ場面を初めて見た。驚きのあまり間抜けな顔をしている事だろう。
私の腕を掴んで離さない男は明らかに動揺している様子で、飛んで行った仲間を気にしつつも辺りを見回している。
今なら抜け出せるんじゃないかと思うも掴まれた腕はびくともしない。そう易々と逃してくれる訳もないらしい。
「いつまで並盛の秩序を乱すつもりだい?」
ふいに響いた声にその場にいた人たちの視線が集中した。
私も類に漏れず、新しく出てきた人物に顔を向ける。
こちらの男も黒のスーツを着ていたが、吊り目を細めてこちらを見ている。その整った顔立ちにはすごく見覚えがあった。
「あれって…」
「くそ!戻っていたのは本当だったか!雲雀恭弥!」
雲雀恭弥とはこの町では恐怖の対象である。そして、この男にもそうであるらしい。顔を青くして、後ずさりする。
私を盾にする様に後退する男に合わせる様に私も後ずさる。
もしかしなくても、私は人質なのだろう。が、人質を取ったからと言って秩序を豪語する彼に意味はあるのだろうか。
そう思いながら彼に視線を向けると、にやりと凶悪そうな笑みを浮かべていた。そして何のためらいもなくこちらへと走ってくる。手には彼の愛用のトンファーを持って…
「え、うそ、ま、待って!」
私諸共咬み殺されかねない!と声を上げるが何の意味もなさないらしい。
あっという間に距離を詰められ、恐怖で強く目を閉じた。ドスッと聞こえたらいけない音がした気がしたが、痛みは感じない。
代わりに拘束されていた腕は解放されて、地面に突っ伏す事になった。その時の勢いが良かったのか、私は数メートル転がった。
「いっ!」
何とか頭を守ったけれど、腕と足には擦りむいたのかひりひりとした痛みを感じる。
その痛みを何とか我慢して立ち上がると、そこには外国人二人がボコボコにされて転がっていた。意識を失っている様でぴくりとも動かないのが怖い。
死んではないよね?と思いつつも、その二人の前に立つ人物を思い出して顔が引きつった。
「あー、恭弥?」
「なに?」
恐る恐る声をかければ、自然と返事が返ってきた。その事にひとまず安心して、約5年ぶりに見る恭弥の姿に変わりがない事にも安堵する。
「これは一体なに?」
なぜ私が狙われたのかは分からないが、知っている事は教えてくれる義理はあるんじゃないかと視線を向けると、恭弥は何でもなさそうに言い放つ。
「ちょっとしたごたごただよ」
「ごたごたって…」
説明になってないじゃない。とは言えず、私はため息を吐き出した。
どうやら説明する気はないらしい。なら、これ以上聞くこともないだろう聞いたところで返事はないはずだ。
「私帰っていいのかな?」
危機が去って安心したから疲れが出てくる。傷も早く治療したいからそう言えば、恭弥は眉間にしわを寄せた。
「哲、事務に一人ねじ込んで」
私の問いを無視して、恭弥はリーゼントの男にそう告げた。哲と聞いて何となく思い出したが、草壁と言う副風紀委員長だった人かなと見当をつける。
「問題ありません。今日からで?」
「うん、よろしく。僕はひと通り見てくるよ」
じゃあね。と恭弥はあっさりと歩いて行く。何のことか分からないが、私はもう帰っていいのだろうということにして、痛む手足を動かして歩き始めた。
「待ってください!名字さん!手当てしますので、こちらへどうぞ」
「え?いや、これくらいの傷なら大丈夫ですので…草壁くん?かな?」
同い年だったよなと思ってそう言えば、草壁くんは少しだけ目元を緩めた。
「よく覚えておいでで…接点はこれと言って無かったはずでしたが」
「ついさっき思い出したよ?草壁くんもよく私の事覚えてたね?風紀委員会だからかな?」
そう言って笑うと、微かに笑った草壁くんにそっと手を取られる。
「とりあえず手当てをしましょう。こちらに来ていただけますか?」
「あ、はい」
二度も言われては断れない。大した怪我ではないんだけどなと思いながらも、好意を無駄にするのもなと思い草壁くんのしたい様にしてもらうことにした。
こんな擦り傷だらけで明日の仕事は行きづらいなと思いながら、私は草壁くんに付いて行ったのだった。
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