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【鉄道擬人化】今を走るひと

「何をしてる、京成」
JR成田空港駅、丁度成田エクスプレスがホームに滑り込んできたところだった。嫌なほどに聞き慣れたその声に、京成本線はくるりと声のした方を振り返る。
「なんだ国鉄、探したぞ」
「だから俺はもう国鉄じゃない、せめてJRと呼べ。それより振替輸送の礼はないのか?私鉄のくせに」
「うるさいな、今言いに来たんだ。だからお前を探していたのにいちいち面倒臭い奴だな」
「面倒臭いのはお前だ京成。毎度そうやって噛み付いてくるじゃないか」
総武本線と京成本線、顔を合わせれば数秒で何らかの争いに発展するふたり。すると京成本線は総武本線から視線を逸らし、少し大きな声で吐き捨てるように言った。
「ああもうわかったから。振替ありがとうな」
そう、京成本線はわざわざJRのホームまでこれを言いに来たのだ。総武本線は毎回「そっちから叫べばいいだろ」と言うが、京成本線にそんなことをする勇気はなかった。総武本線は小さくため息を吐くと、京成本線を軽く睨みつける。
「もう、次止まったら許さないからな」
「ああ、臨むところだ」
成田空港へのアクセス路線として競合するふたりなのだが、振替輸送の礼は言い合い、互いの路線の心配をし、礼儀だけは払いまくるのである。すると、総武本線がふと口を開く。
「…あれからもうすぐ十年か…」
「あれから…?」
首を傾げる京成本線に、総武本線は少し複雑そうに言った。
「…お前が…空港アクセス路線としてのトップの座を降りたとき」
「…成田スカイアクセス線開業か」
「なぁ京成、俺はお前が隣で死に物狂いで走ってくれたから闘志が湧いたんだぜ?お前は…空港アクセス路線としてどうなってしまうんだ?」
「…」
確かに、数年前までのふたりはもっと仲が悪かった。それは良い意味でも悪い意味でも、ふたりをここに連れて来たものだったのだ。京成本線は少し笑うと、俯き気味に口を開いた。
「俺は…俺は今まで仲間を振り切って独走して来た。本線って肩書きだって俺には割に合わなかったんだ。だから何も思わなくなった。どうなってしまったって俺はここで走り続けなきゃならない」
「…深く考えずに…お前は…そこにいればいいんじゃないか」
「…?」
「だから、お前はそのままでいいだろう?そこにいて走るだけでもお前は救われるだろ。だって…お前は大勢の人々に期待されて生まれて来たんだ」
「…それはお前も同じだろ、総武本線」
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