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【鉄道擬人化】青空がくれた希望

厚木さんがそう宥めると、不機嫌な様子で本線は口を尖らせる。彼はどうしてこう、完璧なようでどこか抜けているのだろう。それは40年一緒にいた僕にも、最初はもはや一心同体であった厚木さんにもわからないのである。まぁきっと、僕も二人から見れば謎の一つや二つもあるのだろう。僕は少しため息を吐いた。本線や厚木さんにとって、自分が謎の塊であることも知らず。
「そういえばお前ら東京行くんだろ??」
と、ふと厚木さんが言葉を漏らした。するといきなり機嫌を取り戻し、本線は少し照れながら言う。
「まぁな、まぁちょっとな!」
「ちょっと厚木さん…東京行くんだろって上京するみたいな言い方やめてくださいよ…ここ神奈川ですよ?横浜ですよ?僕たち”相模”鉄道ですよ…??」
「東京に行くんだから同じことじゃん、上京だろ。どうせお前ローカル線とか言われてるくせに」
「やめとけ厚木、あいつそれ気にしてんだから…」
本線のフォローに、僕は横に首を振った。それから笑う。
「何言ってるんですか、僕は相模鉄道の路線ですよ?いつまでだって進化し続けますから」
「うっ…さすが俺の支線…!!」
「そしたらいつか本線を超えてみせますからね」
「…う、う…それは…いいこと…だ…」
「今完全に『やめろ』って言おうとしてたろ本線」
「し、してない!!…別に…」
本線のその言葉の後、しばらくの沈黙が続いた。二俣川の駅のホームから綺麗な青空を見つめていた。三人揃って顔を上げていたので数秒後に何だか笑えてきて、顔を合わせて笑い合う。それから本線は言った。
「今までより思いっきり変わってやるからな、待ってろ世界」
延伸や沿線の活性化に精神を使いすぎて、自分でも気付かないうちに僕は疲れていたんだと実感した。気が付けば頭の中にはそんなことばかりで、最近よくぼーっとしてしまうのもそれが原因なのかもしれない。いや、確かにそれはいつだって頭の中になくちゃならないものなんだけど。でも久しぶりに心のどこかがスッキリして、また頑張ろうと思えるようになったのだ、この瞬間に。都心を目指し、延伸し、僕たちは進み続けるんだな
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