最高にくだらない物語
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side.H
何か仕事をくれ、と請うてきた瀬良に気紛れに思いついた、最近後回しになっていた情報のまとめを任せてみた
そのついでに以前何となく試してみようかと考えていた、コイツの観察能力についての検証もしてみたが、結果はまぁ、上等
予想通り、コイツはなかなか使えそうな駒になる
今の俺を見たら、ヤマ辺りがまた、あくどい顔をしている、と引いた顔をしてくるだろうが、知ったもんか
拾ったのは俺だ
俺がそれをどう使おうが俺の勝手と言うモノで
それに、コイツは何となくであってもこちらの魂胆など理解している
それでも拒否をすること無く素直に受け入れると言うことは、許容している、と言う事に他ならない
だったら、これは合意である
強制でも、脅迫でも何でも無い、協力関係というモノだ
部活から帰ってきて、家事が終わっていないことは無い
綺麗に片付けられたリビングのテーブルで、真剣な瞳をしてノートに向き合う瀬良が居るだけ
こちらが帰ってきた事になど気付きもしない集中力に、なかなか使える拾いモノだ、などと考える
思っていたよりもペースは早いし、スポーツをかじっていない、付け焼き刃の知識だけでこれだけをまとめ上げる、と言うのならば合格点だろう
「おい」
『!わ、びっくりした…
帰ってきてたんだ、おかえり』
「あぁ」
『ご飯出来てるよ、食べる?温め直すから、先にシャワー浴びてくる?』
「…あぁ」
『いってらっしゃい』
机の上に広がっていたノート類を簡単に一纏めにすると、片足をかばったままキッチンへと消えていく
この奇妙な同居生活が始まって数週間
既にこの光景が当たり前になりつつあるのは、誰がどう見ても可笑しい
俺という人間を知っている者ならば余計、何を企んでいるんだ、などと吐かすことだろう
腹立たしいが、実際俺もその通りだと思うので反論の余地はない
それだというのに
らしくねぇ、そんなこと、俺が一番よく分かっている
そんなことを考えながらシャワーを終え、着替えを済ませてリビングに戻ると当たり前の様に夕飯が準備されている
相変わらずコイツは、半人前程度の量しか盛られていないプレートの前に大人しく座り、ルールブックに視線を落としていた
『あ、おかえりー』
今度はそこまで集中していなかったのか、すぐにこちらに気付いた瀬良の視線が向く
本を閉じて端に寄せると、俺が席に着くのを待たずに食事に口を付ける
別に揃って食事を済ますことは決まり事では無い
今回は偶然コイツが集中して食事のタイミングが重なっただけで、普段は大体バラバラで
『あ、そうだ
花宮くん、多分足の傷塞がったよー』
「そうか」
『うん、まだ引き攣るけど痛みはないし、触っても足を着いてももう血出ないし』
「そうか」
『うん、だからそろそろ家帰ろうかと思って
匿ってくれてありがとう』
こちらなど見ること無く、淡々と告げるコイツを、チラリ、とだけ見て食事を口に運ぶ
明確な期限などは決めていなかったけれど、傷さえ治ってしまえばコイツが此処に居る必要は無い
そんなこと考えるまでも無く当たり前のことで
『明日、アイツが出勤した時間帯にくらいに此処出るね
多分それまでにはこれ、出来上がると思うし』
「…もう終わるのか」
『まぁ、殆どすること無いしね
こればっかやってたらあっという間に1日終わるよ、いい暇つぶしをありがとう』
漸くこちらを見た瀬良と目が合う
感情は読み取れない、完全に心を閉ざした瞳
コイツは助けを求めない
そもそも俺は人助けするような人間でも無いし、相手を気遣う、なんて虫酸が走る
コイツの感情を探る必要なんて、そもそもなくて
『暇つぶしと、いい気分転換だったよ』
「…聞いてねぇよ」
『そうだね』
それ以上の会話は無く、お互い食事に戻る
大体いつもこんなもの、会話なんてある方が稀な事
あの旧校舎でも同じ空間にいても、お互いが口をきくことも無く好きなことをしている
コイツのピアノの音をBGMに俺が本を読む
それが当たり前になった俺達の関係に、名前すら付かないことだろう
そのまま食事を終え、お互いが眠りにつく
朝起きて、いつも通り支度を整え、コイツが作った食事を摂って
いつものように家に戻れば、気の抜ける俺を迎える声は聞こえて来ず、机の上に積み上げられたノートと、冷え切った食事だけが並んでいた
*****
「んで、また此処に居んのか」
『あれ、花宮くんだー、こんばんは』
それから数日、日課の走り込みをしに外へ出てみれば、あの公園に瀬良は居た
あの日と同じようにブランコに腰掛けて、軽く揺らしながら空を見上げる姿を見て、思わず足を向けた
夏だというのに肌を隠す様な長袖の上下
無意識か意図的か、俺だと分かった瞬間に袖を引っ張って捲れることが無いように引き延ばす
その動作が目に入って腕を取り袖を捲れば、手首に残る鬱血痕に新しく出来た痣
あちゃー、なんていいながら苦笑いしているコイツは、もう隠す気は無くなっているようだ
『運悪く鉢合わせちゃって』
その一言だけで状況は伝わる
溜息を吐き出せば、面目ない、などと吐かして笑う
『だって仕方ないじゃん、何の音もしなかったのに扉開いたら仁王像みたいに立ってたんだよ?避けられんて』
黙っている俺に気まずさを感じたのか、聞いてもいないのにその時の状況を詳しく話し始める
それは、確かにある意味執念染みたモノを感じざるを得ない
どう考えても状況は悪化している
この数週間家を抜け出したことがそんなにも気にくわないのか
或いは、自分を捨てた女に重なるのか
…どちらかと言えば後者だろうな
「…どうする」
『んー、今また逃げたら今度はもっと酷いことになるだろうから、もう暫くは大人しくしてるね』
「まぁ、それがいいだろうな」
『だよねー』
なんて事無い、そんな風に笑って
掴んでいた腕を離すと、再びその傷を隠す様に袖を引き延ばす
生ぬるい風が通っても、汗は引くことはないし気持ち悪いだけ
『そろそろ帰ろっかな
花宮くんも、ロードワークの邪魔してごめんね』
「別に」
『じゃあ、おやすみ』
ブランコから立ち上がった瀬良はさっさと背を向けて公園を出て行く
出て行った方角は俺の家とは真逆の方で、この公園を挟んだ位置くらいに立地している、ということが分かった
それからほぼ毎日のようにアイツはあの公園に居て、通り過ぎる俺に笑って手を振ってくる
去年もこの道を走っていたのに、アイツと会ったのはあの日が初めて
いや、俺が気にしていなかっただけで居たのかもしれないが、ここまで頻回に見掛けるようなら流石の俺も気付く
それなのにあの日まで気付くことが無かった
明らかにアイツが家を抜け出す頻度が上がっているということ
つまり、事態は悪化の一途を辿っているということ
「…お前、そろそろ腹くくれよ」
『…んー、そうなんだけどねぇ』
困ったように苦笑するコイツの返事は煮え切らない
何をそこまで躊躇する必要があるというのだろうか、誰がどう見てもコイツは被害者以外になり得ないのに
「…どうする?」
『えー、それを今聞いちゃうかぁ』
「限界だろ」
『一回逃げちゃうと限界って近くなるから参っちゃうよね』
そう言ってこちらを見上げたコイツは、考える気力も無くなっているのはよく分かった
追い詰められている、その表情は俺のよく知るモノで感情なんか探らずとも手に取るように分かった
一度楽なことを知ってしまうと、人間は元の生活に戻ることは出来ない
それを知っているからコイツは最初、俺の家に来ることを拒んでいた
『明日からお世話になろうかなぁ』
「そうなったらお前はバスケ部のマネージャー扱いになるけどな」
『はは、また暇つぶしを与えてくれるんだ?優しいね』
「気色悪い」
『何で褒めるとキレるの、変な人だなぁ』
くすくす、とこの場には不似合いな程朗らかな笑い声
とっくに感情なんてモノは壊れているのだろう
それでも、子供騙しのように笑えるのならば、まだマシ、と言えるのだろうか
明日以降、コイツを連れて部活に顔を出せばアイツ等が五月蠅くなることは目に見えているが
使える駒は使う、ただそれだけのこと
優しい悪魔が微笑むの
(悪魔の甘い囁き、何てモノは無かったけど)
何か仕事をくれ、と請うてきた瀬良に気紛れに思いついた、最近後回しになっていた情報のまとめを任せてみた
そのついでに以前何となく試してみようかと考えていた、コイツの観察能力についての検証もしてみたが、結果はまぁ、上等
予想通り、コイツはなかなか使えそうな駒になる
今の俺を見たら、ヤマ辺りがまた、あくどい顔をしている、と引いた顔をしてくるだろうが、知ったもんか
拾ったのは俺だ
俺がそれをどう使おうが俺の勝手と言うモノで
それに、コイツは何となくであってもこちらの魂胆など理解している
それでも拒否をすること無く素直に受け入れると言うことは、許容している、と言う事に他ならない
だったら、これは合意である
強制でも、脅迫でも何でも無い、協力関係というモノだ
部活から帰ってきて、家事が終わっていないことは無い
綺麗に片付けられたリビングのテーブルで、真剣な瞳をしてノートに向き合う瀬良が居るだけ
こちらが帰ってきた事になど気付きもしない集中力に、なかなか使える拾いモノだ、などと考える
思っていたよりもペースは早いし、スポーツをかじっていない、付け焼き刃の知識だけでこれだけをまとめ上げる、と言うのならば合格点だろう
「おい」
『!わ、びっくりした…
帰ってきてたんだ、おかえり』
「あぁ」
『ご飯出来てるよ、食べる?温め直すから、先にシャワー浴びてくる?』
「…あぁ」
『いってらっしゃい』
机の上に広がっていたノート類を簡単に一纏めにすると、片足をかばったままキッチンへと消えていく
この奇妙な同居生活が始まって数週間
既にこの光景が当たり前になりつつあるのは、誰がどう見ても可笑しい
俺という人間を知っている者ならば余計、何を企んでいるんだ、などと吐かすことだろう
腹立たしいが、実際俺もその通りだと思うので反論の余地はない
それだというのに
らしくねぇ、そんなこと、俺が一番よく分かっている
そんなことを考えながらシャワーを終え、着替えを済ませてリビングに戻ると当たり前の様に夕飯が準備されている
相変わらずコイツは、半人前程度の量しか盛られていないプレートの前に大人しく座り、ルールブックに視線を落としていた
『あ、おかえりー』
今度はそこまで集中していなかったのか、すぐにこちらに気付いた瀬良の視線が向く
本を閉じて端に寄せると、俺が席に着くのを待たずに食事に口を付ける
別に揃って食事を済ますことは決まり事では無い
今回は偶然コイツが集中して食事のタイミングが重なっただけで、普段は大体バラバラで
『あ、そうだ
花宮くん、多分足の傷塞がったよー』
「そうか」
『うん、まだ引き攣るけど痛みはないし、触っても足を着いてももう血出ないし』
「そうか」
『うん、だからそろそろ家帰ろうかと思って
匿ってくれてありがとう』
こちらなど見ること無く、淡々と告げるコイツを、チラリ、とだけ見て食事を口に運ぶ
明確な期限などは決めていなかったけれど、傷さえ治ってしまえばコイツが此処に居る必要は無い
そんなこと考えるまでも無く当たり前のことで
『明日、アイツが出勤した時間帯にくらいに此処出るね
多分それまでにはこれ、出来上がると思うし』
「…もう終わるのか」
『まぁ、殆どすること無いしね
こればっかやってたらあっという間に1日終わるよ、いい暇つぶしをありがとう』
漸くこちらを見た瀬良と目が合う
感情は読み取れない、完全に心を閉ざした瞳
コイツは助けを求めない
そもそも俺は人助けするような人間でも無いし、相手を気遣う、なんて虫酸が走る
コイツの感情を探る必要なんて、そもそもなくて
『暇つぶしと、いい気分転換だったよ』
「…聞いてねぇよ」
『そうだね』
それ以上の会話は無く、お互い食事に戻る
大体いつもこんなもの、会話なんてある方が稀な事
あの旧校舎でも同じ空間にいても、お互いが口をきくことも無く好きなことをしている
コイツのピアノの音をBGMに俺が本を読む
それが当たり前になった俺達の関係に、名前すら付かないことだろう
そのまま食事を終え、お互いが眠りにつく
朝起きて、いつも通り支度を整え、コイツが作った食事を摂って
いつものように家に戻れば、気の抜ける俺を迎える声は聞こえて来ず、机の上に積み上げられたノートと、冷え切った食事だけが並んでいた
*****
「んで、また此処に居んのか」
『あれ、花宮くんだー、こんばんは』
それから数日、日課の走り込みをしに外へ出てみれば、あの公園に瀬良は居た
あの日と同じようにブランコに腰掛けて、軽く揺らしながら空を見上げる姿を見て、思わず足を向けた
夏だというのに肌を隠す様な長袖の上下
無意識か意図的か、俺だと分かった瞬間に袖を引っ張って捲れることが無いように引き延ばす
その動作が目に入って腕を取り袖を捲れば、手首に残る鬱血痕に新しく出来た痣
あちゃー、なんていいながら苦笑いしているコイツは、もう隠す気は無くなっているようだ
『運悪く鉢合わせちゃって』
その一言だけで状況は伝わる
溜息を吐き出せば、面目ない、などと吐かして笑う
『だって仕方ないじゃん、何の音もしなかったのに扉開いたら仁王像みたいに立ってたんだよ?避けられんて』
黙っている俺に気まずさを感じたのか、聞いてもいないのにその時の状況を詳しく話し始める
それは、確かにある意味執念染みたモノを感じざるを得ない
どう考えても状況は悪化している
この数週間家を抜け出したことがそんなにも気にくわないのか
或いは、自分を捨てた女に重なるのか
…どちらかと言えば後者だろうな
「…どうする」
『んー、今また逃げたら今度はもっと酷いことになるだろうから、もう暫くは大人しくしてるね』
「まぁ、それがいいだろうな」
『だよねー』
なんて事無い、そんな風に笑って
掴んでいた腕を離すと、再びその傷を隠す様に袖を引き延ばす
生ぬるい風が通っても、汗は引くことはないし気持ち悪いだけ
『そろそろ帰ろっかな
花宮くんも、ロードワークの邪魔してごめんね』
「別に」
『じゃあ、おやすみ』
ブランコから立ち上がった瀬良はさっさと背を向けて公園を出て行く
出て行った方角は俺の家とは真逆の方で、この公園を挟んだ位置くらいに立地している、ということが分かった
それからほぼ毎日のようにアイツはあの公園に居て、通り過ぎる俺に笑って手を振ってくる
去年もこの道を走っていたのに、アイツと会ったのはあの日が初めて
いや、俺が気にしていなかっただけで居たのかもしれないが、ここまで頻回に見掛けるようなら流石の俺も気付く
それなのにあの日まで気付くことが無かった
明らかにアイツが家を抜け出す頻度が上がっているということ
つまり、事態は悪化の一途を辿っているということ
「…お前、そろそろ腹くくれよ」
『…んー、そうなんだけどねぇ』
困ったように苦笑するコイツの返事は煮え切らない
何をそこまで躊躇する必要があるというのだろうか、誰がどう見てもコイツは被害者以外になり得ないのに
「…どうする?」
『えー、それを今聞いちゃうかぁ』
「限界だろ」
『一回逃げちゃうと限界って近くなるから参っちゃうよね』
そう言ってこちらを見上げたコイツは、考える気力も無くなっているのはよく分かった
追い詰められている、その表情は俺のよく知るモノで感情なんか探らずとも手に取るように分かった
一度楽なことを知ってしまうと、人間は元の生活に戻ることは出来ない
それを知っているからコイツは最初、俺の家に来ることを拒んでいた
『明日からお世話になろうかなぁ』
「そうなったらお前はバスケ部のマネージャー扱いになるけどな」
『はは、また暇つぶしを与えてくれるんだ?優しいね』
「気色悪い」
『何で褒めるとキレるの、変な人だなぁ』
くすくす、とこの場には不似合いな程朗らかな笑い声
とっくに感情なんてモノは壊れているのだろう
それでも、子供騙しのように笑えるのならば、まだマシ、と言えるのだろうか
明日以降、コイツを連れて部活に顔を出せばアイツ等が五月蠅くなることは目に見えているが
使える駒は使う、ただそれだけのこと
優しい悪魔が微笑むの
(悪魔の甘い囁き、何てモノは無かったけど)