最高にくだらない物語
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side.H
体中至る所にあった傷の手当てを終え、疲れ果てたようにソファで眠りについた瀬良
足の裏に刺さったガラス片は一度洗った方がいいが、取り敢えず水につけ消毒もしたので一先ず様子を見る
家がどのくらい近いか、なんてのは知らねぇがよくこの怪我でここまで戻ってこれたな、とは思う程
大きな怪我ではないが、傷が無い場所を探す方が難しいくらいの満身創痍
傷は多いがどうやら本当に日常茶飯事の出来事で慣れているらしく、頭は冷静なようで
いつどうなってもいいように、と家出セット(と本人は言っていた)を持ち出しこの家に逃げ込んできたようだ
……らしくないことをしている自覚はあるも、全く知らない間柄ではない
人の不幸は蜜の味と、笑って眺められるほど根性が歪んでいる自覚だってある(治す気は更々無い)
コイツが俺の与り知らぬ所で勝手に野垂れ死にするのならば、それは自業自得だと笑ってやるが流石に見える範囲、手の届く場所で行われてしまえぼ無視出来る程人間腐ってない
もう充分腐ってる、と言う文句は聞かねぇ、知ってる
家庭の事情という奴は厄介だ
他人、しかも高校生なんて餓鬼は余所の家庭事情に首を突っ込めねぇ
しゃしゃり出る事は可能であろうが、相手にされない場合が多い
これだけ証拠が揃っていても、瀬良本人からの訴えが無けりゃ警察も動かない
「……めんどくせぇ」
俺が口出しすべき事案では無い
コイツがこのまま現状維持をするつもりならば、こっちが何を言おうが無駄だろう
らしくもなくグダグダ考えてしまった自身に舌打ちをし、手当に使った物を片付ける
そしてそのまま放ったらかしにしていた部活バックから洗濯物を引っ張り出し洗濯機に押し込む
コイツが居ようが居まいが、俺がすることは変わらない
避難場所として家を提供しているだけ、それ以上俺が何かをしてやる必要は無い
頼んでいた(とも言えないメモ書きではあるが)買い物はされていないが、急を要する物は殆どない
あり物で適当に晩飯の支度をしていれば、死んだようにソファで眠ってきた瀬良がもぞもぞと身動ぎをして緩慢な動作で起き上がってくる
数秒辺りを眺めてから現状を思い出したらしく、ゆっくりと首を動かして恐らく俺を探す
途中痛みに顔を顰めたが、慣れたように楽な姿勢を見つけ出し漸く口を開く
『……痛い…』
「だろうな」
至極当たり前なことを小さく呟いて、苦笑を浮かべる
その声は掠れていて、そういや随分長いこと水分を口にいてしない可能性が頭を過ぎる
「…瀬良」
『ん?』
「お前いつからあそこに居たんだ?」
『あそこって言うと玄関?』
質問に対して質問で返すな、と言いかけたが確かに言葉足らずであった事は自覚がある為頷く
きょろり、と恐らく時計を探して視線が彷徨い見つけたその場で動きが止まり、記憶を辿るように左上に向かう視線
数瞬の間があり再びこちらを向いた目
『正確な時間は分からないけど、軽く5、6時間…?』
なぜそんなことを聞くのだろう、そんな疑問の浮かんだ瞳に思わず溜息を吐く
脱水を起こしかけている自覚はどうやら無いらしい
コップ一杯にミネラルウォーターを注いで瀬良の前に置けば、あぁ、と納得したように1つ頷いてやはりゆっくりとした動作で口まで運ぶ
コップの中身を半分ほどまで減らしたあと、どうりで話しにくいと思った、なんて笑う瀬良
怪我してなければ殴るところだった
再びゆっくりと体内に水を送り込んで、漸く空になったそのコップに再び水を注いで目の前に置くと、返ってくるのは苦笑
ちびちびと中身を減らしていくのを横目で見て、晩飯作りを再開した
『花宮くん』
「あ?」
『トイレ』
端的に単語だけで述べられた要求
勝手に行け、とも思ったが、そう言えばコイツにまだ場所の案内はしていなかった事を思い出す
盛大に舌打ちをすれば、ごめんって、なんて軽い謝罪が返ってきて
火を止めて案内をするためキッチンから出たら、相変わらずゆっくりとした動作で立ち上がる
片足はガラス片でざっくりと切れているため、踵荷重で歩いてはいるようだが
「遅い」
『あちこち痛いんだもん、仕方ない』
などと笑いながら言うため、再び盛大に舌打ちをして抱え上げる
そのままトイレに突っ込んで扉を閉めると、どれだけ効率重視なの、と中から笑い声が届く
再び舌打ちをして、距離を取った位置で暫く待機していれば鍵が開く音がし、扉を開けて瀬良が顔を出す
『あれ、待っててくれたんだ?優しいね』
「…俵担ぎすんぞ」
『それは勘弁してほしい』
同様にして抱き上げれば、くすくす、と楽しそうに笑う
そして、笑わせないでお腹痛い、なんて責任転嫁してくる始末
落とすぞ、と脅しても、相変わらず楽しそうに笑うコイツは、変な奴と言われても文句は言えない
ソファーに下ろせば、そこが定位置とでも言うかの様にごそごそと動いて痛くない体勢を探す
『ねぇ、花宮くん』
「今度は何だ」
『…どうしたら良いと思う?』
「…警察にでも駆け込んでろ」
『…意地悪だなぁ』
飯を食いながらぽつり、と零されたその問いに最も簡単に解決する方法を述べたら、よく見る苦笑が返ってくる
誰がどう見てもそれが最善で、最短で、最良だ
それをすることは簡単だ、これだけ体に証拠が刻まれている
そんな状況は、これまでにも合ったわけで
『…巻き込んでごめんね』
「巻き込まれたつもりはねぇよ
ただ、避難場所を提供しただけだ」
『…そうだね、それでいいよ』
もう見慣れてしまったその苦笑は、いつ見たときよりも歪んで見えた
殆ど量が変わらない食事
箸を持つ手は、もう随分と前に止まっていた
「瀬良」
『ん?』
「もう逃げ出した後だ、覚悟決まるまでは逃げてて良いだろ」
『…そうだね、流石にもう疲れちゃったかもしれない』
「かも、じゃねぇだろ」
『…うん、ホントはずっと逃げたかったんだね、私』
遂に箸を置いたその細い指は、小さく震えて見えた
苦笑さえも消え失せたその表情は、無と言うにはそれでも様々な感情が見え隠れしていて
ずっとその瞳に見え隠れしていたその感情に任せるまま、初めてその瞳から感情が零れ落ちた
静かに、声も無く静かに、零れ落ちるそれを拭うことすらせずに
『ほんと…、どうしようかなぁ…』
今まで直隠しにし続けた、そして今回も本来なら隠し通すつもりでいた自身について
実際語られたわけでは無いが、この様子から見るに初めてここまで他者が介入したのであろう事は分かる
そうまでして隠しておきたかった現状
避難場所を見つけてしまったが故に緩んでしまった緊張の糸
「どうするも何も、解決するしかねぇだろ」
瀬良の顔も見ず、聞きようによっては突き放しているようにも捉えられるその言葉
けれどコイツは、察する能力だけは人並み外れて高い
俺の意図を正確に汲んだ上で、また困ったように笑った
『ごめんね、巻き込んで』
「だから巻き込まれたつもりはねぇって言ってんだろ」
『そうだね、そうだった』
ふ、と諦めたかのように笑って
初めて瀬良は、自ら手を伸ばした
助けて、何て言葉にも出さないで
恐る恐る、と言った表現では足りないほど、遠慮がちにゆっくりと伸ばされたその手に触れる
ふるり、と小さく震えたその手は力が入っているのか分からないほど弱々しい力で手を握り
また1つ、その瞳から感情を零した
弱虫な心が悲鳴を上げた日
(ほんとうは、限界なんて、とっくに)
体中至る所にあった傷の手当てを終え、疲れ果てたようにソファで眠りについた瀬良
足の裏に刺さったガラス片は一度洗った方がいいが、取り敢えず水につけ消毒もしたので一先ず様子を見る
家がどのくらい近いか、なんてのは知らねぇがよくこの怪我でここまで戻ってこれたな、とは思う程
大きな怪我ではないが、傷が無い場所を探す方が難しいくらいの満身創痍
傷は多いがどうやら本当に日常茶飯事の出来事で慣れているらしく、頭は冷静なようで
いつどうなってもいいように、と家出セット(と本人は言っていた)を持ち出しこの家に逃げ込んできたようだ
……らしくないことをしている自覚はあるも、全く知らない間柄ではない
人の不幸は蜜の味と、笑って眺められるほど根性が歪んでいる自覚だってある(治す気は更々無い)
コイツが俺の与り知らぬ所で勝手に野垂れ死にするのならば、それは自業自得だと笑ってやるが流石に見える範囲、手の届く場所で行われてしまえぼ無視出来る程人間腐ってない
もう充分腐ってる、と言う文句は聞かねぇ、知ってる
家庭の事情という奴は厄介だ
他人、しかも高校生なんて餓鬼は余所の家庭事情に首を突っ込めねぇ
しゃしゃり出る事は可能であろうが、相手にされない場合が多い
これだけ証拠が揃っていても、瀬良本人からの訴えが無けりゃ警察も動かない
「……めんどくせぇ」
俺が口出しすべき事案では無い
コイツがこのまま現状維持をするつもりならば、こっちが何を言おうが無駄だろう
らしくもなくグダグダ考えてしまった自身に舌打ちをし、手当に使った物を片付ける
そしてそのまま放ったらかしにしていた部活バックから洗濯物を引っ張り出し洗濯機に押し込む
コイツが居ようが居まいが、俺がすることは変わらない
避難場所として家を提供しているだけ、それ以上俺が何かをしてやる必要は無い
頼んでいた(とも言えないメモ書きではあるが)買い物はされていないが、急を要する物は殆どない
あり物で適当に晩飯の支度をしていれば、死んだようにソファで眠ってきた瀬良がもぞもぞと身動ぎをして緩慢な動作で起き上がってくる
数秒辺りを眺めてから現状を思い出したらしく、ゆっくりと首を動かして恐らく俺を探す
途中痛みに顔を顰めたが、慣れたように楽な姿勢を見つけ出し漸く口を開く
『……痛い…』
「だろうな」
至極当たり前なことを小さく呟いて、苦笑を浮かべる
その声は掠れていて、そういや随分長いこと水分を口にいてしない可能性が頭を過ぎる
「…瀬良」
『ん?』
「お前いつからあそこに居たんだ?」
『あそこって言うと玄関?』
質問に対して質問で返すな、と言いかけたが確かに言葉足らずであった事は自覚がある為頷く
きょろり、と恐らく時計を探して視線が彷徨い見つけたその場で動きが止まり、記憶を辿るように左上に向かう視線
数瞬の間があり再びこちらを向いた目
『正確な時間は分からないけど、軽く5、6時間…?』
なぜそんなことを聞くのだろう、そんな疑問の浮かんだ瞳に思わず溜息を吐く
脱水を起こしかけている自覚はどうやら無いらしい
コップ一杯にミネラルウォーターを注いで瀬良の前に置けば、あぁ、と納得したように1つ頷いてやはりゆっくりとした動作で口まで運ぶ
コップの中身を半分ほどまで減らしたあと、どうりで話しにくいと思った、なんて笑う瀬良
怪我してなければ殴るところだった
再びゆっくりと体内に水を送り込んで、漸く空になったそのコップに再び水を注いで目の前に置くと、返ってくるのは苦笑
ちびちびと中身を減らしていくのを横目で見て、晩飯作りを再開した
『花宮くん』
「あ?」
『トイレ』
端的に単語だけで述べられた要求
勝手に行け、とも思ったが、そう言えばコイツにまだ場所の案内はしていなかった事を思い出す
盛大に舌打ちをすれば、ごめんって、なんて軽い謝罪が返ってきて
火を止めて案内をするためキッチンから出たら、相変わらずゆっくりとした動作で立ち上がる
片足はガラス片でざっくりと切れているため、踵荷重で歩いてはいるようだが
「遅い」
『あちこち痛いんだもん、仕方ない』
などと笑いながら言うため、再び盛大に舌打ちをして抱え上げる
そのままトイレに突っ込んで扉を閉めると、どれだけ効率重視なの、と中から笑い声が届く
再び舌打ちをして、距離を取った位置で暫く待機していれば鍵が開く音がし、扉を開けて瀬良が顔を出す
『あれ、待っててくれたんだ?優しいね』
「…俵担ぎすんぞ」
『それは勘弁してほしい』
同様にして抱き上げれば、くすくす、と楽しそうに笑う
そして、笑わせないでお腹痛い、なんて責任転嫁してくる始末
落とすぞ、と脅しても、相変わらず楽しそうに笑うコイツは、変な奴と言われても文句は言えない
ソファーに下ろせば、そこが定位置とでも言うかの様にごそごそと動いて痛くない体勢を探す
『ねぇ、花宮くん』
「今度は何だ」
『…どうしたら良いと思う?』
「…警察にでも駆け込んでろ」
『…意地悪だなぁ』
飯を食いながらぽつり、と零されたその問いに最も簡単に解決する方法を述べたら、よく見る苦笑が返ってくる
誰がどう見てもそれが最善で、最短で、最良だ
それをすることは簡単だ、これだけ体に証拠が刻まれている
そんな状況は、これまでにも合ったわけで
『…巻き込んでごめんね』
「巻き込まれたつもりはねぇよ
ただ、避難場所を提供しただけだ」
『…そうだね、それでいいよ』
もう見慣れてしまったその苦笑は、いつ見たときよりも歪んで見えた
殆ど量が変わらない食事
箸を持つ手は、もう随分と前に止まっていた
「瀬良」
『ん?』
「もう逃げ出した後だ、覚悟決まるまでは逃げてて良いだろ」
『…そうだね、流石にもう疲れちゃったかもしれない』
「かも、じゃねぇだろ」
『…うん、ホントはずっと逃げたかったんだね、私』
遂に箸を置いたその細い指は、小さく震えて見えた
苦笑さえも消え失せたその表情は、無と言うにはそれでも様々な感情が見え隠れしていて
ずっとその瞳に見え隠れしていたその感情に任せるまま、初めてその瞳から感情が零れ落ちた
静かに、声も無く静かに、零れ落ちるそれを拭うことすらせずに
『ほんと…、どうしようかなぁ…』
今まで直隠しにし続けた、そして今回も本来なら隠し通すつもりでいた自身について
実際語られたわけでは無いが、この様子から見るに初めてここまで他者が介入したのであろう事は分かる
そうまでして隠しておきたかった現状
避難場所を見つけてしまったが故に緩んでしまった緊張の糸
「どうするも何も、解決するしかねぇだろ」
瀬良の顔も見ず、聞きようによっては突き放しているようにも捉えられるその言葉
けれどコイツは、察する能力だけは人並み外れて高い
俺の意図を正確に汲んだ上で、また困ったように笑った
『ごめんね、巻き込んで』
「だから巻き込まれたつもりはねぇって言ってんだろ」
『そうだね、そうだった』
ふ、と諦めたかのように笑って
初めて瀬良は、自ら手を伸ばした
助けて、何て言葉にも出さないで
恐る恐る、と言った表現では足りないほど、遠慮がちにゆっくりと伸ばされたその手に触れる
ふるり、と小さく震えたその手は力が入っているのか分からないほど弱々しい力で手を握り
また1つ、その瞳から感情を零した
弱虫な心が悲鳴を上げた日
(ほんとうは、限界なんて、とっくに)