最高にくだらない物語
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意識が浮上する感覚なんてものも無く、急激に覚醒した頭
最初に目に飛び込んできた見慣れない天井に一瞬疑問を抱いたが、冷静なこの頭は、すぐに昨夜の失態を思い出す
遮光のカーテンのお陰で室内はまだ暗いが、薄らと差し込む日差し
十分に休息を得た後の体の軽さを知覚して、更に頭を抱える羽目になる
見上げた時計は、昼とまではいかずとも普段起きる時間と比較すればずっと遅く
そりゃよく寝たわな、と自身で自嘲するしかない
のそり、とベッドから這い出て家主を探す
恐らくこの時間ならば、部活に行っているとは思うが
乱れた髪は手ぐしで整えながら部屋を出てリビングに向かう
テーブルの上には“部活”と乱雑な、しかし整った文字があり、その横には箇条書きされた食材や生活必需品とお金
あと、合い鍵
『……宿借りたから、働けってことかな』
何だろう、この試されてる感じ
彼自身頭のいい人だから、簡潔に説明するなんて容易いことだろうに
この察しろ感半端ない置き手紙は、何らかの試験のようにさえ感じる
単純にそれくらいやれ、って事なのかもしれないけど
でも後でお金請求するんじゃなくて、置いていくのはちょっと不用心です
彼との付き合いは長いわけではない
知り合ったのは最近の出来事で、お互いよく知らない相手
でも、この仕打ちは彼らしいと思えるのは、あの人の人格を分かってきている証拠なのではないだろうか、なんて
1人でそんなことを思って、昨日乾燥機(むしろ今日)から回収した服にもそもそと着替える
流石に男物(しかもサイズ合ってない)スウェットで買い物には行けまい
この時間なら家に戻れるし、一旦着替えてから買い物に行こう
下着は替えたい
このおかしな環境に順応しつつある自分が可笑しくて笑える
と言うか笑うしかない
取り敢えず、用事だけ済まして彼が帰ってきたら流石に今日は帰ろう
放置するのも何かあったら嫌だし
気が重くなるのを自覚しながら身支度を調えて家を出る
幸いご近所なので、土地勘は問題ない
自宅へと足を向け進む
近付くにつれ足が重くなるが、ぐずぐずしてたってしょうが無い
今の時間なら大丈夫
そんな気持ちが、油断を招くことになるのだと知るのは、そう遅くない
*****
side.H
ロードワーク中に通るいつもの公園
そこにもう見慣れてしまった姿を見つけたのは、本当に偶然の出来事だった
夏休み前
普通の人間なら多少なりとも喜ぶそれを嫌そうにしていたその姿を見かけたのが最後で
この夏に、見るはずのなかったそいつと出会ったのは、偶然以外の何者でもなかった
逃走、アイツは確かにそう言った
以前俺が使った言葉を、言葉遊びの感覚で使ったのかもしれないが、恐らく本音で
家庭環境が複雑であるという噂が回るほどに、何か訳ありな家に住んでいると言う事前情報もあるから、ではあるけど
口振りから毎日のように家を抜け出してはあの公園に居たらしい
家(の場所は知らないが)もどうやら近所であるのに、よく出くわさなかったものだ
この夏休み前にはなかった隈
夜だと言うことを除いても青白い顔
夏だというのに着ているのは長袖で
掴んだ腕の細さに、一瞬驚いて手を離しそうになったのは恐らく気付かれては居ないと思う
これだけの情報が揃えば何となく分かってしまう事情に、有無を言わさず寝かし付けたのはほぼ無意識での行動だった
無理矢理作った暗闇であっさり寝てしまうほどには疲労が溜まっていたようだ
まぁ、それは見るからに明らかではあったが
「…チッ」
らしくない行動に舌打ちして、いつも通り部活に向かう
説明のない置き手紙だけ置いて
それから普段通り部活をこなして、いつもの時間に家に帰る
鍵を置いている訳だから、アイツも家にはいるだろう
「!」
鍵を開けて扉を開ける
そこには傷だらけで座り込む瀬良の姿があった
「おい!」
『…あ、花宮くん
おかえりなさい、ごめん買い物…』
「んなことは今はいい」
『………、ちょっと油断しちゃって』
へらり、と苦笑にもなりきっていない不格好な笑みを浮かべて明言は避ける
何となく予想出来てしまう事態に、正直少し焦りを覚える
赤く腫れた頬に、切れた唇
少しめくれた袖から覗く赤い痣に、腹を庇う仕草
どれくらいの時間ここに居たかは知らないが、取り敢えず動けそうにないコイツを抱き上げて家の中に入れる
大人しくされるがままの瀬良に舌打ちをした
『…ごめん』
「謝んな、ウゼぇ」
『…はは、花宮くんらしい』
ソファに座らせ、徐にシャツを捲り腹を見る
赤いどころか青紫の内出血斑が広範囲に広がっているのを見て思わず眉を顰める
その際目に入った新旧様々な傷跡は、取り敢えず今は言及しない
「流石にもう誤魔化しきかねぇぞ」
『だよねぇ…』
今度は分かりやすく苦笑した瀬良に再び舌打ち
服を元に戻して正面から視線を投げかけると、観念したように肩を竦めた
「父親か」
『うん』
「いつから」
『んー…、いつだったかなぁ…』
「母親は」
『あんなの親じゃないよ』
「出て行ったのか」
『そっちのがまだマシ』
淡々と返ってくる返答
いつから、と言う質問に対する答えは明確ではないが、恐らく真実なのだろう
それか明確な時期がないのかもしれない
『酷いもんだよ、あの女
まぁ、どっちもどっちなのかもしれないけど、根源はアイツ』
嘲るように、抑えられた憎しみの籠もった言葉
コイツがここまで分かりやすく感情を露わにしたのは初めてかもしれない
取り敢えず救急箱を取ってきて手当てを始める
相変わらずされるがままなコイツは、抵抗することを諦めているのか、動くこともままならないのか
無言の空間
いつも通りと言えばいつも通りだが、空気が重たいことは明らかだ
『…巻き込んだついでに、甘えてもいい?』
「あ?」
『今日も泊めて?』
ここで俺が面倒を見る義理はない
追い返す事だって出来る
けれど、戻ったらどうなってしまうのか
そんなことは分かりきっている
そこまで親しくない相手
コイツがどんな目に遭おうが、正直知ったことではない
けれど、首を突っ込んだのは俺の方からで
「…避難場所」
『…、あぁ、あの旧校舎の事?
これで貸し借りゼロって事でいいのかな』
「…チッ」
『都合が悪くなるとすぐ舌打ちするー』
「黙れ」
『はーい』
巫山戯たようなやり取り
実際巫山戯ている場合ではないのだろうけど
これだけの外傷を負っていて、警察に駆け込んでしまえば完全に親は犯罪者として警察の目に止まる
そうでなくこの家に逃げ込んできたと言う事は、そうしたくない理由があるからで
馬鹿みたいなお人好しだ
自分の親であろうが加害者であり、自身は被害者だ
親を売ったって、誰も文句は言わない
『ねぇ、花宮くん』
「…何だ」
『殺される前には、蹴りつけるから』
冗談に聞こえないそれは、実際に起こりうる未来で
それが分かっていても尚、未だ身動きが取れずにいる
*****
黙々と手当てをしている花宮くんに苦笑すら浮かべられない
巻き込んでしまってごめんね
こうなる前にさっさと諦めて、切り捨ててしまえば良かった
きっと世間はそんな私を薄情だなんて罵ったりしない
よく耐えたね、とひたすらに同情の目を向けてくることだろう
そんなことは分かっているのだ
分かっていても出来ない自分がいるのは何でだろう
まだ、家族というものに夢を見ているのだろうか
なんて馬鹿らしい望み
自分でも鼻で笑ってしまえる程に、現実は見えているのに
一度だけでもいいから抱きしめて貰いたかった
そんなこと、思っていたって仕方ない
もうゲームオーバーさ
(もしも、なんてありもしない幻想)
最初に目に飛び込んできた見慣れない天井に一瞬疑問を抱いたが、冷静なこの頭は、すぐに昨夜の失態を思い出す
遮光のカーテンのお陰で室内はまだ暗いが、薄らと差し込む日差し
十分に休息を得た後の体の軽さを知覚して、更に頭を抱える羽目になる
見上げた時計は、昼とまではいかずとも普段起きる時間と比較すればずっと遅く
そりゃよく寝たわな、と自身で自嘲するしかない
のそり、とベッドから這い出て家主を探す
恐らくこの時間ならば、部活に行っているとは思うが
乱れた髪は手ぐしで整えながら部屋を出てリビングに向かう
テーブルの上には“部活”と乱雑な、しかし整った文字があり、その横には箇条書きされた食材や生活必需品とお金
あと、合い鍵
『……宿借りたから、働けってことかな』
何だろう、この試されてる感じ
彼自身頭のいい人だから、簡潔に説明するなんて容易いことだろうに
この察しろ感半端ない置き手紙は、何らかの試験のようにさえ感じる
単純にそれくらいやれ、って事なのかもしれないけど
でも後でお金請求するんじゃなくて、置いていくのはちょっと不用心です
彼との付き合いは長いわけではない
知り合ったのは最近の出来事で、お互いよく知らない相手
でも、この仕打ちは彼らしいと思えるのは、あの人の人格を分かってきている証拠なのではないだろうか、なんて
1人でそんなことを思って、昨日乾燥機(むしろ今日)から回収した服にもそもそと着替える
流石に男物(しかもサイズ合ってない)スウェットで買い物には行けまい
この時間なら家に戻れるし、一旦着替えてから買い物に行こう
下着は替えたい
このおかしな環境に順応しつつある自分が可笑しくて笑える
と言うか笑うしかない
取り敢えず、用事だけ済まして彼が帰ってきたら流石に今日は帰ろう
放置するのも何かあったら嫌だし
気が重くなるのを自覚しながら身支度を調えて家を出る
幸いご近所なので、土地勘は問題ない
自宅へと足を向け進む
近付くにつれ足が重くなるが、ぐずぐずしてたってしょうが無い
今の時間なら大丈夫
そんな気持ちが、油断を招くことになるのだと知るのは、そう遅くない
*****
side.H
ロードワーク中に通るいつもの公園
そこにもう見慣れてしまった姿を見つけたのは、本当に偶然の出来事だった
夏休み前
普通の人間なら多少なりとも喜ぶそれを嫌そうにしていたその姿を見かけたのが最後で
この夏に、見るはずのなかったそいつと出会ったのは、偶然以外の何者でもなかった
逃走、アイツは確かにそう言った
以前俺が使った言葉を、言葉遊びの感覚で使ったのかもしれないが、恐らく本音で
家庭環境が複雑であるという噂が回るほどに、何か訳ありな家に住んでいると言う事前情報もあるから、ではあるけど
口振りから毎日のように家を抜け出してはあの公園に居たらしい
家(の場所は知らないが)もどうやら近所であるのに、よく出くわさなかったものだ
この夏休み前にはなかった隈
夜だと言うことを除いても青白い顔
夏だというのに着ているのは長袖で
掴んだ腕の細さに、一瞬驚いて手を離しそうになったのは恐らく気付かれては居ないと思う
これだけの情報が揃えば何となく分かってしまう事情に、有無を言わさず寝かし付けたのはほぼ無意識での行動だった
無理矢理作った暗闇であっさり寝てしまうほどには疲労が溜まっていたようだ
まぁ、それは見るからに明らかではあったが
「…チッ」
らしくない行動に舌打ちして、いつも通り部活に向かう
説明のない置き手紙だけ置いて
それから普段通り部活をこなして、いつもの時間に家に帰る
鍵を置いている訳だから、アイツも家にはいるだろう
「!」
鍵を開けて扉を開ける
そこには傷だらけで座り込む瀬良の姿があった
「おい!」
『…あ、花宮くん
おかえりなさい、ごめん買い物…』
「んなことは今はいい」
『………、ちょっと油断しちゃって』
へらり、と苦笑にもなりきっていない不格好な笑みを浮かべて明言は避ける
何となく予想出来てしまう事態に、正直少し焦りを覚える
赤く腫れた頬に、切れた唇
少しめくれた袖から覗く赤い痣に、腹を庇う仕草
どれくらいの時間ここに居たかは知らないが、取り敢えず動けそうにないコイツを抱き上げて家の中に入れる
大人しくされるがままの瀬良に舌打ちをした
『…ごめん』
「謝んな、ウゼぇ」
『…はは、花宮くんらしい』
ソファに座らせ、徐にシャツを捲り腹を見る
赤いどころか青紫の内出血斑が広範囲に広がっているのを見て思わず眉を顰める
その際目に入った新旧様々な傷跡は、取り敢えず今は言及しない
「流石にもう誤魔化しきかねぇぞ」
『だよねぇ…』
今度は分かりやすく苦笑した瀬良に再び舌打ち
服を元に戻して正面から視線を投げかけると、観念したように肩を竦めた
「父親か」
『うん』
「いつから」
『んー…、いつだったかなぁ…』
「母親は」
『あんなの親じゃないよ』
「出て行ったのか」
『そっちのがまだマシ』
淡々と返ってくる返答
いつから、と言う質問に対する答えは明確ではないが、恐らく真実なのだろう
それか明確な時期がないのかもしれない
『酷いもんだよ、あの女
まぁ、どっちもどっちなのかもしれないけど、根源はアイツ』
嘲るように、抑えられた憎しみの籠もった言葉
コイツがここまで分かりやすく感情を露わにしたのは初めてかもしれない
取り敢えず救急箱を取ってきて手当てを始める
相変わらずされるがままなコイツは、抵抗することを諦めているのか、動くこともままならないのか
無言の空間
いつも通りと言えばいつも通りだが、空気が重たいことは明らかだ
『…巻き込んだついでに、甘えてもいい?』
「あ?」
『今日も泊めて?』
ここで俺が面倒を見る義理はない
追い返す事だって出来る
けれど、戻ったらどうなってしまうのか
そんなことは分かりきっている
そこまで親しくない相手
コイツがどんな目に遭おうが、正直知ったことではない
けれど、首を突っ込んだのは俺の方からで
「…避難場所」
『…、あぁ、あの旧校舎の事?
これで貸し借りゼロって事でいいのかな』
「…チッ」
『都合が悪くなるとすぐ舌打ちするー』
「黙れ」
『はーい』
巫山戯たようなやり取り
実際巫山戯ている場合ではないのだろうけど
これだけの外傷を負っていて、警察に駆け込んでしまえば完全に親は犯罪者として警察の目に止まる
そうでなくこの家に逃げ込んできたと言う事は、そうしたくない理由があるからで
馬鹿みたいなお人好しだ
自分の親であろうが加害者であり、自身は被害者だ
親を売ったって、誰も文句は言わない
『ねぇ、花宮くん』
「…何だ」
『殺される前には、蹴りつけるから』
冗談に聞こえないそれは、実際に起こりうる未来で
それが分かっていても尚、未だ身動きが取れずにいる
*****
黙々と手当てをしている花宮くんに苦笑すら浮かべられない
巻き込んでしまってごめんね
こうなる前にさっさと諦めて、切り捨ててしまえば良かった
きっと世間はそんな私を薄情だなんて罵ったりしない
よく耐えたね、とひたすらに同情の目を向けてくることだろう
そんなことは分かっているのだ
分かっていても出来ない自分がいるのは何でだろう
まだ、家族というものに夢を見ているのだろうか
なんて馬鹿らしい望み
自分でも鼻で笑ってしまえる程に、現実は見えているのに
一度だけでもいいから抱きしめて貰いたかった
そんなこと、思っていたって仕方ない
もうゲームオーバーさ
(もしも、なんてありもしない幻想)