最高にくだらない物語
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そうして始まった夏休み
正直結構キツい、いや毎年のことではあるのだけれど
昼間よりむしろ困るのは夜で
抜け出せるように部屋に靴を持ち込んでいるのはもうずっと前からの話
『…ホント飽きない人達だなぁ』
そして今日も携帯と財布だけを詰めた小さなポーチ片手に窓から家を抜け出した
夏とはいえこの時間はさすがにもう暗い
今日は何処に向かおうか、いつもの公園で時間でも潰してようかな…
夜中に抜け出すのももう慣れたこと
罪悪感なんてとっくの昔に忘れてしまった
いつも通りの公園でブランコに腰掛ける
…ほんと、何してんだろ、自分
「…瀬良?」
『?あれ、花宮くんだ、こんばんは』
「…チッ、こんな時間に何やってんだよ」
『家出?違うな、避難かな』
「は?取り敢えず家帰るぞ」
『んー、まだ早いかなぁ』
「何がだよ」
『大丈夫、そう長居はしないよ
時間見て帰るからありがとう、意外と優しいんだね?』
「ふざけんな」
『ごめんね、でも今戻るととばっちり食らうから勘弁して欲しいんだ
何となく察してるでしょ?』
「…なら着いてこい」
ぐい、と腕を引っ張られ立たされる
あまり力が入ってる様子はないのに流石は運動部の男の子
なんて場違いな感想
意外と優しい花宮くんは、こんな時間に女子を1人でこんな場所に取り残すことが出来ないようだ
いや、私だから、と少し自惚れてみる
『いつもの事だし、平気だよ』
「いつもすんなよ」
『それはあの人達に言ってくれたら嬉しいかな』
「誰だよ」
『あの人達だよ』
境界線を張ってる間は、多分踏み込んでこない
私が拒絶の色を示している間は、恐らく
ただ、私が弱音を漏らしたり、堪えきれなくなった時は多分、受け止めてくれるんじゃないか、なんて
またそんな自惚れを抱いてみる
掴まれた腕は痛くないけど離される様子もない
私の手首なんて余裕で一周してしまう大きな手、長い指
歩くスピードだってきっと、私に合わせてくれてる
『わぁ、家近かったんだねぇ
これでよく今までエンカウントしなかったこと』
「どんだけの頻度で外居たんだよ…」
『ほぼ毎日かなぁ』
「…なんでそう緩いんだよ」
『なんでだろ、大事にされた記憶がないからかなぁ』
連れてこられた場所は我が家から徒歩3分もかからない様な場所
こんな近所に住んでてホントよくエンカウントしなかったものだ
手を引かれるまま中へ
え、一応家族とか大丈夫なの?
「住んでるのは母親だけだが、滅多に家に帰って来ねぇよ」
『よく分かったね』
「顔に書いてある」
『分かりにくい方なんだけどなぁ』
君相手には上手く隠せなくなってきてるのかなぁ
もしくは、隠そうとしてないのかもしれない
手を引かれてやってきたのはシンプルな、落ち着いた部屋
恐らく彼の部屋、なのだろう
勉強机の上には課題らしきものが広がっている
「メシは」
『まだ』
「風呂は」
『まだかなぁ』
「この時間まで何やってたんだよ」
『逃走』
いつかの彼の言葉
避難、と言うよりはあの場所からの逃走
日が暮れるギリギリまで外に居て、家にいる時間なんてほんの僅か
何しにあの家に帰っているのか、私自身よく分からない
逃亡先の図書館で課題を進めるから、もう時期終わる
そうしたら何処へ行こう、どうやって時間を潰そう
それが、毎年の私の課題
『わっ…』
「取り敢えず風呂」
『君が先に入りなよ、ロードワーク後でしょ?』
「いいから行け」
『…場所知らないよ』
投げつけられたのは男物のスウェット
着替え、のつもりらしい
無言で部屋を出る彼に続くと、向かう場所はやはり浴室で
『…ありがとう』
お礼を言うが返事はなし
そのまま出ていく彼を見送って着替えを置く
ゆっくり浴槽に浸かって入浴するなんて、一体いつぶりだろう
鉢合わせないようにさっさと終わらせていた今まではなんだったというのか
吐き出した息とともに、何年かぶりに肩の力が抜けた気がした
『…何やってんだろ、私』
見ず知らず、という訳では無いけど、知り合って日の浅い男友達とも呼べないような間柄のクセに
イキナリ家に転がり込むとか、ホントバカ
冷静にならなくても明らかに可笑しい状況に嘲笑して、さっさと上がる
甘えてはいけない、頼ってはいけない
これは、私の問題だから
*****
なんて思いも虚しく、夕飯までご馳走になりました
準備されちゃ、食べない訳にもいかないでしょ、逆に申し訳ない
なんて言い訳
言外に告げられる“ここに居てもいい”に甘えているだけ
戻りたい、場所じゃ無いから
逃げ場があるなら逃げ込みたいだけ
後は無言
あの教室に居るかの様な沈黙
何も聞いてこない彼は一体何を思い何を考えているのか
多少は気にしてくれているのだろうか、心配してくれているのだろうか、気に掛けてくれているのだろうか、なんて
多分話せば聞いてくれる
いつものように相槌すらなく、聞いてるのか分からないような表情で
傍から見たら私の独白のような状況で
横目で時計を見遣る
日付が変わって既に2時間は経過している今の時間
よく考えなくてもここに居るのは可笑しくて、早く家に帰らないといけないのは重々承知している
そんな常識は分かっているのだ、私だって
「…おい」
『ん?』
「帰んねぇならさっさと寝ろ」
『いやそこは、さっさと帰れって言うべきとこじゃないの?』
「帰れねぇんだろ」
『…帰ることは出来るよ』
そう、家はあるのだから帰ることは出来る
その後の私の安否は定かでは無いけども
きっとそれを何となく察してるから泊まっていけと言ってくれているのだろう
何だかんだ彼は優しい
帰らなければならない
彼の優しさに甘えてはいけない
そんな事は頭では分かっているのに体が言うことを聞いてくれない
「おい」
『ん?って、ちょ、まっ…!わっ…!』
「いいから寝ろ、目の下真っ黒何だよ」
声を掛けられた瞬間抱き上げられベッドに放り投げられました
そのまま手で目隠しをされ、強制的に暗闇の中に放り出される
目の下真っ黒ってクマが出来てるって事かな
確かに、最近ちゃんと眠れてなかった気もする
そんな事を考えてると頭が体の疲れを知覚してしまう
あぁ、そうだね、疲れてるんだよね
自覚してしまうともうアウト、自然と瞼が降りてきて意識を手放した
*****
ふと意識が浮上する
ぼんやりする意識の中、じわじわと体が異変を察知する
いつもと違うシーツの感触
慣れない、けれど知らないわけではない香り
起き上がって見回した部屋に見覚えはない
いや、ないというのは間違いだ
しっかり覚醒した頭で、時計を探す
一体どのくらいの間眠っていたのだろうか
そして、この家の主はどこにいるのだろうか
『…4時』
2時間
普通の人からしたら少ないであろうこの睡眠時間は、私にとっては十分なもので
しかも、恐怖感に苛まれながら眠る、あの睡眠とは違うもので
要はとても質の良い睡眠だった
久しぶりに寝たことで疲れが取れた、そう感じることが出来た貴重な時間
それが人様の家で、なんて笑い話にもならないけど
まだ外は暗い
日が昇るまでにはもう少し時間がかかる
あの家も、多分もう無人
帰るべき、なのではあるのだけれど
『逃げる場所、変えなきゃなぁ…』
苦笑してベッドから抜け出る
服を回収して、帰る準備をしなければ
この居心地の良い逃げ場所に慣れてしまえば、他へ行くことが出来なくなる
「…起きたのか」
『おはよう、花宮くん』
「早すぎる、寝ろ」
『もう帰るよ、お邪魔しました』
脱衣所からの帰り道、リビングから出てきた花宮くんに捕まった
どうやらリビングのソファに追いやってしまっていたらしい
申し訳ないなぁ…
回収した服を腕に抱え(乾燥機付きだったのだ、羨ましい)、苦笑いを返すが腕を離される様子がない
そのまま腕を引かれ2階へと逆戻り
ベッドに転がされ、そのまま花宮くんもベッドに腰掛ける
『帰るよ』
「寝てろ」
『迷惑でしょ』
「もう掛けられた」
『積み重ねない内に帰るんだって』
「ここまで来れば同じだろ」
『そうかなぁ』
全くこっちを見ずに投げかけられる言葉
気を遣われているのだろうか
そんなタイプの人間には見えないんだけどなぁ…
むしろ邪魔だってさっさと追い出しそうなタイプのクセになぁ
「お前、自分の顔鏡で見たことあんのか」
『?そりゃあるよ』
「夏休み入ってから」
『?多少は見るけど…?』
「気付いてねぇのか」
『何に?』
「10日程度で窶れすぎなんだよ、顔青い」
『え、ホント?』
「んな噓言うかよ」
全く自覚ないことを言われて、思わず頬を撫でる
そんなことしても、顔色が分かるわけでは無いのだけれど
そう言われたら、最近まともに食事も摂ってなかったかも知れない
夏バテかなぁ、何て流していたけれど
睡眠だってきっと恐らく十分ではなかっただろう
『よく見てるねぇ』
「人間観察は基本だろ」
『そう言う人もいるね』
そっか、通りで知らない場所でもあっさり眠れたと思った
疲れてたんだなぁ私、自分が思っているよりずっと
『花宮くんは優しいねぇ』
「気色悪ぃ」
『褒めたのに』
なんて話してると、段々眠くなってくる
疲れを自覚した体は、より良い休養を求めている
それにはこの環境は整いすぎていた
重くなってくる瞼に逆らおうとするけれど、また手を翳されて
強制的に落とされた暗闇に、再び意識を手放してしまうのだった
心地よい悪夢
(長い長い悪夢の中の、僅かばかりの心地よさ)
正直結構キツい、いや毎年のことではあるのだけれど
昼間よりむしろ困るのは夜で
抜け出せるように部屋に靴を持ち込んでいるのはもうずっと前からの話
『…ホント飽きない人達だなぁ』
そして今日も携帯と財布だけを詰めた小さなポーチ片手に窓から家を抜け出した
夏とはいえこの時間はさすがにもう暗い
今日は何処に向かおうか、いつもの公園で時間でも潰してようかな…
夜中に抜け出すのももう慣れたこと
罪悪感なんてとっくの昔に忘れてしまった
いつも通りの公園でブランコに腰掛ける
…ほんと、何してんだろ、自分
「…瀬良?」
『?あれ、花宮くんだ、こんばんは』
「…チッ、こんな時間に何やってんだよ」
『家出?違うな、避難かな』
「は?取り敢えず家帰るぞ」
『んー、まだ早いかなぁ』
「何がだよ」
『大丈夫、そう長居はしないよ
時間見て帰るからありがとう、意外と優しいんだね?』
「ふざけんな」
『ごめんね、でも今戻るととばっちり食らうから勘弁して欲しいんだ
何となく察してるでしょ?』
「…なら着いてこい」
ぐい、と腕を引っ張られ立たされる
あまり力が入ってる様子はないのに流石は運動部の男の子
なんて場違いな感想
意外と優しい花宮くんは、こんな時間に女子を1人でこんな場所に取り残すことが出来ないようだ
いや、私だから、と少し自惚れてみる
『いつもの事だし、平気だよ』
「いつもすんなよ」
『それはあの人達に言ってくれたら嬉しいかな』
「誰だよ」
『あの人達だよ』
境界線を張ってる間は、多分踏み込んでこない
私が拒絶の色を示している間は、恐らく
ただ、私が弱音を漏らしたり、堪えきれなくなった時は多分、受け止めてくれるんじゃないか、なんて
またそんな自惚れを抱いてみる
掴まれた腕は痛くないけど離される様子もない
私の手首なんて余裕で一周してしまう大きな手、長い指
歩くスピードだってきっと、私に合わせてくれてる
『わぁ、家近かったんだねぇ
これでよく今までエンカウントしなかったこと』
「どんだけの頻度で外居たんだよ…」
『ほぼ毎日かなぁ』
「…なんでそう緩いんだよ」
『なんでだろ、大事にされた記憶がないからかなぁ』
連れてこられた場所は我が家から徒歩3分もかからない様な場所
こんな近所に住んでてホントよくエンカウントしなかったものだ
手を引かれるまま中へ
え、一応家族とか大丈夫なの?
「住んでるのは母親だけだが、滅多に家に帰って来ねぇよ」
『よく分かったね』
「顔に書いてある」
『分かりにくい方なんだけどなぁ』
君相手には上手く隠せなくなってきてるのかなぁ
もしくは、隠そうとしてないのかもしれない
手を引かれてやってきたのはシンプルな、落ち着いた部屋
恐らく彼の部屋、なのだろう
勉強机の上には課題らしきものが広がっている
「メシは」
『まだ』
「風呂は」
『まだかなぁ』
「この時間まで何やってたんだよ」
『逃走』
いつかの彼の言葉
避難、と言うよりはあの場所からの逃走
日が暮れるギリギリまで外に居て、家にいる時間なんてほんの僅か
何しにあの家に帰っているのか、私自身よく分からない
逃亡先の図書館で課題を進めるから、もう時期終わる
そうしたら何処へ行こう、どうやって時間を潰そう
それが、毎年の私の課題
『わっ…』
「取り敢えず風呂」
『君が先に入りなよ、ロードワーク後でしょ?』
「いいから行け」
『…場所知らないよ』
投げつけられたのは男物のスウェット
着替え、のつもりらしい
無言で部屋を出る彼に続くと、向かう場所はやはり浴室で
『…ありがとう』
お礼を言うが返事はなし
そのまま出ていく彼を見送って着替えを置く
ゆっくり浴槽に浸かって入浴するなんて、一体いつぶりだろう
鉢合わせないようにさっさと終わらせていた今まではなんだったというのか
吐き出した息とともに、何年かぶりに肩の力が抜けた気がした
『…何やってんだろ、私』
見ず知らず、という訳では無いけど、知り合って日の浅い男友達とも呼べないような間柄のクセに
イキナリ家に転がり込むとか、ホントバカ
冷静にならなくても明らかに可笑しい状況に嘲笑して、さっさと上がる
甘えてはいけない、頼ってはいけない
これは、私の問題だから
*****
なんて思いも虚しく、夕飯までご馳走になりました
準備されちゃ、食べない訳にもいかないでしょ、逆に申し訳ない
なんて言い訳
言外に告げられる“ここに居てもいい”に甘えているだけ
戻りたい、場所じゃ無いから
逃げ場があるなら逃げ込みたいだけ
後は無言
あの教室に居るかの様な沈黙
何も聞いてこない彼は一体何を思い何を考えているのか
多少は気にしてくれているのだろうか、心配してくれているのだろうか、気に掛けてくれているのだろうか、なんて
多分話せば聞いてくれる
いつものように相槌すらなく、聞いてるのか分からないような表情で
傍から見たら私の独白のような状況で
横目で時計を見遣る
日付が変わって既に2時間は経過している今の時間
よく考えなくてもここに居るのは可笑しくて、早く家に帰らないといけないのは重々承知している
そんな常識は分かっているのだ、私だって
「…おい」
『ん?』
「帰んねぇならさっさと寝ろ」
『いやそこは、さっさと帰れって言うべきとこじゃないの?』
「帰れねぇんだろ」
『…帰ることは出来るよ』
そう、家はあるのだから帰ることは出来る
その後の私の安否は定かでは無いけども
きっとそれを何となく察してるから泊まっていけと言ってくれているのだろう
何だかんだ彼は優しい
帰らなければならない
彼の優しさに甘えてはいけない
そんな事は頭では分かっているのに体が言うことを聞いてくれない
「おい」
『ん?って、ちょ、まっ…!わっ…!』
「いいから寝ろ、目の下真っ黒何だよ」
声を掛けられた瞬間抱き上げられベッドに放り投げられました
そのまま手で目隠しをされ、強制的に暗闇の中に放り出される
目の下真っ黒ってクマが出来てるって事かな
確かに、最近ちゃんと眠れてなかった気もする
そんな事を考えてると頭が体の疲れを知覚してしまう
あぁ、そうだね、疲れてるんだよね
自覚してしまうともうアウト、自然と瞼が降りてきて意識を手放した
*****
ふと意識が浮上する
ぼんやりする意識の中、じわじわと体が異変を察知する
いつもと違うシーツの感触
慣れない、けれど知らないわけではない香り
起き上がって見回した部屋に見覚えはない
いや、ないというのは間違いだ
しっかり覚醒した頭で、時計を探す
一体どのくらいの間眠っていたのだろうか
そして、この家の主はどこにいるのだろうか
『…4時』
2時間
普通の人からしたら少ないであろうこの睡眠時間は、私にとっては十分なもので
しかも、恐怖感に苛まれながら眠る、あの睡眠とは違うもので
要はとても質の良い睡眠だった
久しぶりに寝たことで疲れが取れた、そう感じることが出来た貴重な時間
それが人様の家で、なんて笑い話にもならないけど
まだ外は暗い
日が昇るまでにはもう少し時間がかかる
あの家も、多分もう無人
帰るべき、なのではあるのだけれど
『逃げる場所、変えなきゃなぁ…』
苦笑してベッドから抜け出る
服を回収して、帰る準備をしなければ
この居心地の良い逃げ場所に慣れてしまえば、他へ行くことが出来なくなる
「…起きたのか」
『おはよう、花宮くん』
「早すぎる、寝ろ」
『もう帰るよ、お邪魔しました』
脱衣所からの帰り道、リビングから出てきた花宮くんに捕まった
どうやらリビングのソファに追いやってしまっていたらしい
申し訳ないなぁ…
回収した服を腕に抱え(乾燥機付きだったのだ、羨ましい)、苦笑いを返すが腕を離される様子がない
そのまま腕を引かれ2階へと逆戻り
ベッドに転がされ、そのまま花宮くんもベッドに腰掛ける
『帰るよ』
「寝てろ」
『迷惑でしょ』
「もう掛けられた」
『積み重ねない内に帰るんだって』
「ここまで来れば同じだろ」
『そうかなぁ』
全くこっちを見ずに投げかけられる言葉
気を遣われているのだろうか
そんなタイプの人間には見えないんだけどなぁ…
むしろ邪魔だってさっさと追い出しそうなタイプのクセになぁ
「お前、自分の顔鏡で見たことあんのか」
『?そりゃあるよ』
「夏休み入ってから」
『?多少は見るけど…?』
「気付いてねぇのか」
『何に?』
「10日程度で窶れすぎなんだよ、顔青い」
『え、ホント?』
「んな噓言うかよ」
全く自覚ないことを言われて、思わず頬を撫でる
そんなことしても、顔色が分かるわけでは無いのだけれど
そう言われたら、最近まともに食事も摂ってなかったかも知れない
夏バテかなぁ、何て流していたけれど
睡眠だってきっと恐らく十分ではなかっただろう
『よく見てるねぇ』
「人間観察は基本だろ」
『そう言う人もいるね』
そっか、通りで知らない場所でもあっさり眠れたと思った
疲れてたんだなぁ私、自分が思っているよりずっと
『花宮くんは優しいねぇ』
「気色悪ぃ」
『褒めたのに』
なんて話してると、段々眠くなってくる
疲れを自覚した体は、より良い休養を求めている
それにはこの環境は整いすぎていた
重くなってくる瞼に逆らおうとするけれど、また手を翳されて
強制的に落とされた暗闇に、再び意識を手放してしまうのだった
心地よい悪夢
(長い長い悪夢の中の、僅かばかりの心地よさ)