最高にくだらない物語
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『あ、また見つかっちゃった
今日は部活ある日と聞いていたんだけど』
「やっぱり逃げてたのか」
『…キャラ変わってますね、好青年のこの字もない』
「気付いてたんだろ」
『薄々は、違和感程度だったけど』
あの日のようにピアノの前に腰掛けるコイツは、窓から入ってくる風に髪を揺らしながらこちらを見る
あれから何度かここまで足を運んだが、出会うことは無く
けれど部活中にピアノの音が聞こえていた為、来ていることは分かっていた
『何か用事でも?』
「別に」
『君の事を言い触らしたりはしないよ、多分信じてくれないだろうし』
「だろうな」
『?だったらなぜ?』
「強いて言うなら探究心」
『知らないものがある事が気に食わない?』
「ふはっ、よく分かってんじゃねぇか」
『…君はそっちの方がやっぱり似合うね、イキイキしてる
まぁ、あっちもあっちで騙すことを楽しんでそうだったけど』
「よく見てんな」
『人とはあまり関わらない分、よく観察してる方だからかな』
相変わらず最初はこちらを見て、直ぐにピアノに向き直る
俺が居るとか居ないとか関係ないとでも言うかのようにただ、ピアノを奏でる
けれどその音に相変わらず色は無くて
「噂で聞くお前と今のお前も、だいぶタイプが違うようだが?」
『君程ではないよ、世渡りするには多少の猫被りも大切でしょ』
「利己的」
『ブーメランだよ、それより部活は?』
「生徒会で抜けるって言ってあるからな」
『堂々とサボれる訳だ
優等生のゆの字もないね、君』
「ふはっ、それでも優等生で通ってんだからおかしな話だよな?」
『まぁ、それは私もだけど』
ピタリ、と曲が止む
また前回のように意味のわからないことを言って退出でもする気なのだろうか
『何故ここへ来るの?』
「逃げられると捕まえたくなる質なもんでね」
『逆効果かぁ…
まぁ、別に君ならいいかな』
「は?」
『私極力人と関わりたくないから昼休みと放課後は大体ここに居るの
もしも君が暇だったり、めんどーなのから逃げたい時はここに来てもいいよ
ただし、バレたらそこで終了だけど』
「はっ、随分上から目線だな」
『ここは私のテリトリーだからね』
「上等」
『約束ね』
それだけ言うとまたピアノに向き直る
それを確認して、俺はこの教室を出た
*****
あの邂逅があってから、昼休みは週二回のペースで彼が旧校舎へ訪れるようになった
と言ってもこれといった会話は無く
喧騒から逃れるための避難場所の様な扱い、なんだと思う
まぁ、あれだけの猫被りは疲れそうだもんねぇ…
それを好き好んで自らやってんだから、この人はどっか人と違った感性を持ってんだと思う
ご飯を食べ終えたら私はピアノを弾くか五線譜に音符を並べるか
たまーにテスト前の見直しをしたり、課題を進めたり
彼も彼で静かに読書をして、時間が来れば立ち去る
一度も言葉が交わされずに終わることも多々あって
でも、そんな空間が妙に心地いいのは踏み込んでこないから、なのかもしれない
「…何してんだ」
『あら、今日は来る日だったっけ…?』
「逃走」
『お疲れ様』
部屋の隅っこ、壁に背を預けて膝を抱え込む私に、珍しく彼が話しかけてきた
まぁ、多分顔色は悪いだろうし夏も近づくこの季節にブランケット抱え込んでちゃ気にもなるか
私の傍に落ちてる薬の空を見て察したらしい彼はそれ以上何も言うことは無かったが
いつも通り昼食を摂る彼
時折視線を感じるから、やはり多少は気になってる様子
でもまぁ、こういう時ってメンズの出来ることほぼ無いからなぁ
「帰れば?」
『その元気がまだ無くてねぇ…』
「ふはっ、あっても帰んねぇだろーが」
『よくご存知で』
「…寝ろ」
『起こしてね』
短いやり取り
乱暴な言葉だけれど、気遣いのあるその会話に少しだけ頬が緩む
邂逅からそんな日は経っていない
会うのはいつもこの旧校舎の音楽室だけ
会話もない、彼がどんな人かもまだよく分かっていない
けれど、この関係が心地良い
彼の交友関係は広いだろうから、きっと色々聞いているだろう
もしかしたら教師陣でさえ何か口を滑らせている可能性もある
それなのに、彼は一向に踏み込んでは来ない
面倒臭いからか、興味が無いだけか
そんな事は分からないけど、ただこの空間は手放したくないな、なんて
薄れ行く意識の中、頭の片隅でそんな事を考えた
*****
side.H
瀬良碧羽
彼女について問うと大体一言目には“美人”、そして“頭がいい”
けれど最後には必ず“よく知らない”という言葉が続く
容姿端麗、頭脳明晰、品行方正、加えて佳人薄命
最後は恐らく一切の運動を禁じられていることに所以するのだろう
誰も詳しくは知らないが、あいつは入学してから一度も体育には参加しておらず、教師もレポートで目を瞑っているという
欠席はしないが体調不良でよく姿を消すらしく、それが拍車を掛けている、のだろう
全て人づてに聞いた話
あいつは大体1人でいて、人と関わることもない
特別仲のいい友人も居ないらしく、誰とでも話すがそれだけ
昼休み、放課後になれば直ぐに教室を出て、行方を晦ますらしい
かと言って何かしら問題行動を起こすわけでもなく大人しくしていることから、ミステリアスな美人、というポジションに落ち着いているという
『ふふ、そんな感じなんだ、私』
「聞いた話だとな」
『何か可笑しいね』
「自分のことだろ」
あの体調不良の日から、ポツポツと会話が増えた
かと言って共通の話題もなく盛り上がることはそうそうないが
『佳人薄命はウケるなぁ』
「ウケんなよ」
『佳人はともかく薄命は間違ってないよね、ボロボロだからさ、この体』
今日もまたピアノを奏でながらの会話
毎回毎回違う曲を奏でているコイツは、一体今までにどれほど曲を作ってきたのか
『けど、佳人薄命を除けば全部君にも当て嵌るよね
あ、男には眉目秀麗か
あと品行方正は表向きで』
「それ頭脳明晰しか残ってねぇじゃねぇか」
『ほら、でもそこは揺るぎないし』
最近、コイツは笑うことが増えた
初めは何の感情もないただの無表情だったクセに
『君が気になると言うのなら話すけど』
「そこまでの興味はねぇ」
『それでこそ花宮真だ』
他の奴等が知らなくて俺が知っていること
コイツは家に帰りたくなくて放課後完全下校までここに居座っていること
朝も開門とほぼ同時に登校してきてはここで過ごしていること
あとは、意外とよく笑う
旧校舎のクセに冷暖房完備
まぁ、古いため効きは良くないがないよりマシで
『あーぁ、もうすぐ夏休みかぁ』
「嫌そうだな」
『嫌だよ』
「普通喜ぶもんだろ」
『だって逃げられなくなっちゃうじゃん』
「………」
『なんてね』
あと、俺には隠そうとあまりしなくなったこと
『君は夏もバスケ三昧?』
「だろうな」
『青春だねぇ』
「んないいもんじゃねぇだろ」
『充分だよ』
「やってることは下衆だけどな?」
『それを止める権利は私には無いし、私は痛くも痒くも無いからねぇ』
「酷い女だな」
『名前も知らない他人の不幸なんて、画面越しの出来事と同じだよ』
コイツの言葉に、確かにな、と不覚にも納得してしまった
画面越しで流れるニュースにいちいち同情なんてしてられない
こいつの言うことはまさにそれで
「ふはっ、お前もなかなかに歪んでんな」
『君ほどじゃないと思いたいんだけどねぇ』
夏が始まる
こんな場所ならいなくなりたい
(こんな思いで生きていかなければいけないのなら、いっそ)
今日は部活ある日と聞いていたんだけど』
「やっぱり逃げてたのか」
『…キャラ変わってますね、好青年のこの字もない』
「気付いてたんだろ」
『薄々は、違和感程度だったけど』
あの日のようにピアノの前に腰掛けるコイツは、窓から入ってくる風に髪を揺らしながらこちらを見る
あれから何度かここまで足を運んだが、出会うことは無く
けれど部活中にピアノの音が聞こえていた為、来ていることは分かっていた
『何か用事でも?』
「別に」
『君の事を言い触らしたりはしないよ、多分信じてくれないだろうし』
「だろうな」
『?だったらなぜ?』
「強いて言うなら探究心」
『知らないものがある事が気に食わない?』
「ふはっ、よく分かってんじゃねぇか」
『…君はそっちの方がやっぱり似合うね、イキイキしてる
まぁ、あっちもあっちで騙すことを楽しんでそうだったけど』
「よく見てんな」
『人とはあまり関わらない分、よく観察してる方だからかな』
相変わらず最初はこちらを見て、直ぐにピアノに向き直る
俺が居るとか居ないとか関係ないとでも言うかのようにただ、ピアノを奏でる
けれどその音に相変わらず色は無くて
「噂で聞くお前と今のお前も、だいぶタイプが違うようだが?」
『君程ではないよ、世渡りするには多少の猫被りも大切でしょ』
「利己的」
『ブーメランだよ、それより部活は?』
「生徒会で抜けるって言ってあるからな」
『堂々とサボれる訳だ
優等生のゆの字もないね、君』
「ふはっ、それでも優等生で通ってんだからおかしな話だよな?」
『まぁ、それは私もだけど』
ピタリ、と曲が止む
また前回のように意味のわからないことを言って退出でもする気なのだろうか
『何故ここへ来るの?』
「逃げられると捕まえたくなる質なもんでね」
『逆効果かぁ…
まぁ、別に君ならいいかな』
「は?」
『私極力人と関わりたくないから昼休みと放課後は大体ここに居るの
もしも君が暇だったり、めんどーなのから逃げたい時はここに来てもいいよ
ただし、バレたらそこで終了だけど』
「はっ、随分上から目線だな」
『ここは私のテリトリーだからね』
「上等」
『約束ね』
それだけ言うとまたピアノに向き直る
それを確認して、俺はこの教室を出た
*****
あの邂逅があってから、昼休みは週二回のペースで彼が旧校舎へ訪れるようになった
と言ってもこれといった会話は無く
喧騒から逃れるための避難場所の様な扱い、なんだと思う
まぁ、あれだけの猫被りは疲れそうだもんねぇ…
それを好き好んで自らやってんだから、この人はどっか人と違った感性を持ってんだと思う
ご飯を食べ終えたら私はピアノを弾くか五線譜に音符を並べるか
たまーにテスト前の見直しをしたり、課題を進めたり
彼も彼で静かに読書をして、時間が来れば立ち去る
一度も言葉が交わされずに終わることも多々あって
でも、そんな空間が妙に心地いいのは踏み込んでこないから、なのかもしれない
「…何してんだ」
『あら、今日は来る日だったっけ…?』
「逃走」
『お疲れ様』
部屋の隅っこ、壁に背を預けて膝を抱え込む私に、珍しく彼が話しかけてきた
まぁ、多分顔色は悪いだろうし夏も近づくこの季節にブランケット抱え込んでちゃ気にもなるか
私の傍に落ちてる薬の空を見て察したらしい彼はそれ以上何も言うことは無かったが
いつも通り昼食を摂る彼
時折視線を感じるから、やはり多少は気になってる様子
でもまぁ、こういう時ってメンズの出来ることほぼ無いからなぁ
「帰れば?」
『その元気がまだ無くてねぇ…』
「ふはっ、あっても帰んねぇだろーが」
『よくご存知で』
「…寝ろ」
『起こしてね』
短いやり取り
乱暴な言葉だけれど、気遣いのあるその会話に少しだけ頬が緩む
邂逅からそんな日は経っていない
会うのはいつもこの旧校舎の音楽室だけ
会話もない、彼がどんな人かもまだよく分かっていない
けれど、この関係が心地良い
彼の交友関係は広いだろうから、きっと色々聞いているだろう
もしかしたら教師陣でさえ何か口を滑らせている可能性もある
それなのに、彼は一向に踏み込んでは来ない
面倒臭いからか、興味が無いだけか
そんな事は分からないけど、ただこの空間は手放したくないな、なんて
薄れ行く意識の中、頭の片隅でそんな事を考えた
*****
side.H
瀬良碧羽
彼女について問うと大体一言目には“美人”、そして“頭がいい”
けれど最後には必ず“よく知らない”という言葉が続く
容姿端麗、頭脳明晰、品行方正、加えて佳人薄命
最後は恐らく一切の運動を禁じられていることに所以するのだろう
誰も詳しくは知らないが、あいつは入学してから一度も体育には参加しておらず、教師もレポートで目を瞑っているという
欠席はしないが体調不良でよく姿を消すらしく、それが拍車を掛けている、のだろう
全て人づてに聞いた話
あいつは大体1人でいて、人と関わることもない
特別仲のいい友人も居ないらしく、誰とでも話すがそれだけ
昼休み、放課後になれば直ぐに教室を出て、行方を晦ますらしい
かと言って何かしら問題行動を起こすわけでもなく大人しくしていることから、ミステリアスな美人、というポジションに落ち着いているという
『ふふ、そんな感じなんだ、私』
「聞いた話だとな」
『何か可笑しいね』
「自分のことだろ」
あの体調不良の日から、ポツポツと会話が増えた
かと言って共通の話題もなく盛り上がることはそうそうないが
『佳人薄命はウケるなぁ』
「ウケんなよ」
『佳人はともかく薄命は間違ってないよね、ボロボロだからさ、この体』
今日もまたピアノを奏でながらの会話
毎回毎回違う曲を奏でているコイツは、一体今までにどれほど曲を作ってきたのか
『けど、佳人薄命を除けば全部君にも当て嵌るよね
あ、男には眉目秀麗か
あと品行方正は表向きで』
「それ頭脳明晰しか残ってねぇじゃねぇか」
『ほら、でもそこは揺るぎないし』
最近、コイツは笑うことが増えた
初めは何の感情もないただの無表情だったクセに
『君が気になると言うのなら話すけど』
「そこまでの興味はねぇ」
『それでこそ花宮真だ』
他の奴等が知らなくて俺が知っていること
コイツは家に帰りたくなくて放課後完全下校までここに居座っていること
朝も開門とほぼ同時に登校してきてはここで過ごしていること
あとは、意外とよく笑う
旧校舎のクセに冷暖房完備
まぁ、古いため効きは良くないがないよりマシで
『あーぁ、もうすぐ夏休みかぁ』
「嫌そうだな」
『嫌だよ』
「普通喜ぶもんだろ」
『だって逃げられなくなっちゃうじゃん』
「………」
『なんてね』
あと、俺には隠そうとあまりしなくなったこと
『君は夏もバスケ三昧?』
「だろうな」
『青春だねぇ』
「んないいもんじゃねぇだろ」
『充分だよ』
「やってることは下衆だけどな?」
『それを止める権利は私には無いし、私は痛くも痒くも無いからねぇ』
「酷い女だな」
『名前も知らない他人の不幸なんて、画面越しの出来事と同じだよ』
コイツの言葉に、確かにな、と不覚にも納得してしまった
画面越しで流れるニュースにいちいち同情なんてしてられない
こいつの言うことはまさにそれで
「ふはっ、お前もなかなかに歪んでんな」
『君ほどじゃないと思いたいんだけどねぇ』
夏が始まる
こんな場所ならいなくなりたい
(こんな思いで生きていかなければいけないのなら、いっそ)