最高にくだらない物語
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
いつもと変わらない放課後
誰も居ない、今では授業や部活でも使われることのない、部室棟からも、本校舎からも離れた第3音楽室
旧校舎の最上階に位置するこの場所は人が来ないため静かで過ごしやすい
入学して校内探索の結果見付けたこの部屋は、私しか使用して居らず(立ち入り禁止であったが、普通に入れた)
中学時代の内申、学内テスト、全国模試の結果、普段の授業態度、後は個人的な家庭問題
そんな事を諸々知っている担任により、ここの鍵を個人使用出来るよう貰っている
授業中に出来た真新しい曲
音符が並ぶ楽譜をピアノの譜面台に置いて溜息
作曲を習った訳では無い
趣味と興味と暇潰しと、そんな本気で取り組んでる人達を馬鹿にするような気持ちで出来た曲たちは増えていく一方で
自嘲気味な笑みを浮かべて、なんの感慨も湧かないこの曲を奏でる
一応先に自慢ではないと述べておく
私は昔から、大体の事は本気にならずともそれなりにこなせる人間だった
本気になった事は、恐らく1度もない
勉強だって、授業を聞いていれば上の中くらいに位置するくらいは出来たし、家庭学習何かした時は上位争いに巻きこまれた
運動は、出来ない体になってしまった為大体いつも見学
料理も、掃除も、家の事をせざるを得ない状況だし
同年代の子達よりできる自信は正直ある
そんなこんなで芸術方面に手を出してみたわけだが、音楽は思ったより続いている
絵は興味が湧かなかったが、目も当てられない程下手という訳でも絵心も無い訳では無い
まぁ、あまり興味無いからその2つしか手を出さなかったのだが
この話をすると自慢だと必ず言われる
もう一度言うが、自慢ではなく事実である
とは言っても、自慢にしか聞こえないと言う気持ちが分からない訳では無い
私だってこの話を他人からされたら自慢だと思う
だから別に、理解されなくともいいのだ
身の上話はこの程度で十分だろう
そう、どうでもいいのだ、私の身の上話など
何もかも忘れたくて、考えたくなくて、静かに鍵盤に指を滑らした
*****
side.H
珍しく部活のない放課後
そのまま素直に家に帰ってもよかったが、不意に聞こえてきたピアノの音につられるように歩き出した
体育館に居るとたまに聴こえてくるこの音
音楽室は体育館と正反対の位置にあるため、普通なら聴こえてくる筈のない音
吹部の練習にしたって、ピアノは無理であろう
その為校内にピアノを弾ける場所が他にあるという事だけは何となく分かっていたが、それが何処かまでは知らず
気の向くまま音につられ歩いてみれば…
「旧校舎、か?」
歴史の長い学校には良くある旧校舎
老朽化が進んだとか、生徒数の減少だとかで使われなくなった校舎
へぇ、こんな場所があったとは
あまり知られていないこの場所なら、逃げ場所に最適かもしれない
そんな事を考えて、“立ち入り禁止”の札がかかった校舎に踏み込んだ
校舎内に入ればピアノの音は殊更大きく響く
どうやらこの校舎に古くなった音楽室がある様だ
毎回聴いたことのない曲を弾くその弾き手は、余程マイナー曲を知っているのか、或いは自作なのか
階段を登りきって、音が大きくなる
教室に近付いた頃、ふと音が止んだ
終わったのか、或いは…
『…誰か居るんですか』
疑問符のない問い
確信を持って投げ掛けられた言葉、声に、女である事を知る
チッ、めんどくせぇ
「すみません、ピアノの音につられてしまって…」
『…花宮くん?』
「はい
僕のことご存知だったんですね」
『有名ですから』
淡々と抑揚なく紡がれる言葉は、元々高いのだろう
耳障りなそれではなく、落ち着いた音で
驚きはしたが、あの媚びたりする声音で無いことを感じた
ふとこちらに向いて居た視線を外し、そっと窓の外を見る
開け放たれた窓から入ってくる風が髪を揺らしていた
『ピアノの音、届くんですね』
「体育館はここから近いからね」
『…あぁ、あそこの体育館はバスケ部が使ってるんですね』
「バスケ部である事も知ってるんですね」
『有名ですから』
感情が乗らない声
何の音もなく淡々と紡がれるその言葉、恐らく本当に俺に興味が無い
生活する上で当たり前の様に飛び込んでくる話題だから知っている、ただそれだけ
その事がありありと伝わってきて
『今日は休みなんですか?』
「そうだね、久し振りに」
外へ向けていた視線をまた鍵盤に落として音を奏でる
上履きの色から同学年である事を確認して、敬語をやめる
必要以上に関わらない
出て行けとも、無理に会話を続けようともしない
こういうタイプは、嫌いじゃねぇ
恐らくこの女は周りに大した興味が無い
ここに居るのが俺じゃなくても同じ様な態度を貫くだろう
「…ピアノ、上手いね」
『ありがとうございます』
「敬語じゃなくてもいいのに」
『じゃあ、お言葉に甘えて』
「同級生、だよね?クラスは?」
『特進、でも花宮くんとは違うクラスC組』
「それなら合同授業とかでも一緒にならないね」
『私は君程有名では無いから』
「君程、という事はそれなりに有名?」
『…色んな意味で』
その言葉と同時に曲が終わる
窓から吹き込む風が、楽譜を俺の足元まで飛ばす
乱れた髪を気にした様子もなく、飛ばされた楽譜を目で追う事もなく
窓を閉めて鍵盤の蓋をする
そのまま楽譜を拾うこともせず、鞄を持って立ち上がる
「帰るの?」
『…分からない、けど、今は1人になれる場所に行こうかなって』
「それなら僕が出ていくよ」
『誰かに見つかったらリセットだから』
そうして、俺を気に留めることもなく扉から姿を消す
…なんだ、あの女
ギャーギャー騒がねぇ分面倒くさくねぇが、扱いづらいタイプ
散らばった楽譜は手書きで、タイトルも作曲者もなく
「…面白ぇ」
知らない事を解明していく事は楽しみだ
学年とクラスさえ分かれば名前を割るのなんて時間もかからねぇ
*****
「んー、多分だけど瀬良ちゃんじゃね?瀬良碧羽」
「毎回2位の奴か」
「そーそー、花宮が居るせいで毎回1位になれない可哀想な子」
「花宮が他人に興味持つなんて珍しいな、しかも女子」
「うっせぇ
で、そいつは何で有名なんだ?」
「え、花宮知らねぇの?まぁ、瀬良ちゃんは騒がれるタイプじゃ無いからねん」
こういう事は原に聞くに限る、と部活の休憩中に話を振ってみればあっさりと求めていた解答が返ってくる
名前を聞くと、順位発表の際毎回次席にあった名前と一致して、あいつだったのか、と漸く顔と名前を把握した
「瀬良ちゃんはまずあの容姿で入学当初から注目の的だよん
あんだけ美人ならそりゃ有名にもなるってもんよ
自分から他人に関わりに行くタイプじゃなくて、1人で静かにしてるタイプだから、ミステリアスさも相俟って、って感じ?」
「あー、そういや居たな、そんな奴」
「女版花宮って言われてるらしいよーん」
「それはなんと言うか…、気の毒だな」
取り敢えずヤマは殴っておいた
そういや入学当初はそんな話題もあったな…
興味なかったから忘れていたが、あいつだったのか
「あ、後もひとつウワサになってる事と言えばさ、瀬良ちゃん家庭環境がかなーり複雑って話」
「…家庭環境?何でそんなもんが噂になったりするんだよ」
「さぁ?そこまでは俺も知らないけどさぁ
中学時代までの瀬良ちゃんの事誰も知らないって言うし何か訳ありっぽい事だけは確かみたいだよ」
訳あり、ねぇ
たかが高校生レベルの訳なんて大したもんじゃねぇだろ
ただ、それが周りに漏れてるってのが変な話だが
「てゆーか、ホント急にどーしたの?」
「別に
毎回俺に負けてる奴がどんな人間か少し気になっただけだ」
「また駒にでもする気ですかー?ヤダヤダ怖い」
ケラケラ、と楽しそうに笑う原を無視して練習を再開させる
名前さえ分かれば、後は何処からでも探れるからな
特別な何か、がある訳では無い
ただ、知らないままが気持ち悪いだけだ
優等生のフリした悪魔
(それでも構わないと思えたの)
誰も居ない、今では授業や部活でも使われることのない、部室棟からも、本校舎からも離れた第3音楽室
旧校舎の最上階に位置するこの場所は人が来ないため静かで過ごしやすい
入学して校内探索の結果見付けたこの部屋は、私しか使用して居らず(立ち入り禁止であったが、普通に入れた)
中学時代の内申、学内テスト、全国模試の結果、普段の授業態度、後は個人的な家庭問題
そんな事を諸々知っている担任により、ここの鍵を個人使用出来るよう貰っている
授業中に出来た真新しい曲
音符が並ぶ楽譜をピアノの譜面台に置いて溜息
作曲を習った訳では無い
趣味と興味と暇潰しと、そんな本気で取り組んでる人達を馬鹿にするような気持ちで出来た曲たちは増えていく一方で
自嘲気味な笑みを浮かべて、なんの感慨も湧かないこの曲を奏でる
一応先に自慢ではないと述べておく
私は昔から、大体の事は本気にならずともそれなりにこなせる人間だった
本気になった事は、恐らく1度もない
勉強だって、授業を聞いていれば上の中くらいに位置するくらいは出来たし、家庭学習何かした時は上位争いに巻きこまれた
運動は、出来ない体になってしまった為大体いつも見学
料理も、掃除も、家の事をせざるを得ない状況だし
同年代の子達よりできる自信は正直ある
そんなこんなで芸術方面に手を出してみたわけだが、音楽は思ったより続いている
絵は興味が湧かなかったが、目も当てられない程下手という訳でも絵心も無い訳では無い
まぁ、あまり興味無いからその2つしか手を出さなかったのだが
この話をすると自慢だと必ず言われる
もう一度言うが、自慢ではなく事実である
とは言っても、自慢にしか聞こえないと言う気持ちが分からない訳では無い
私だってこの話を他人からされたら自慢だと思う
だから別に、理解されなくともいいのだ
身の上話はこの程度で十分だろう
そう、どうでもいいのだ、私の身の上話など
何もかも忘れたくて、考えたくなくて、静かに鍵盤に指を滑らした
*****
side.H
珍しく部活のない放課後
そのまま素直に家に帰ってもよかったが、不意に聞こえてきたピアノの音につられるように歩き出した
体育館に居るとたまに聴こえてくるこの音
音楽室は体育館と正反対の位置にあるため、普通なら聴こえてくる筈のない音
吹部の練習にしたって、ピアノは無理であろう
その為校内にピアノを弾ける場所が他にあるという事だけは何となく分かっていたが、それが何処かまでは知らず
気の向くまま音につられ歩いてみれば…
「旧校舎、か?」
歴史の長い学校には良くある旧校舎
老朽化が進んだとか、生徒数の減少だとかで使われなくなった校舎
へぇ、こんな場所があったとは
あまり知られていないこの場所なら、逃げ場所に最適かもしれない
そんな事を考えて、“立ち入り禁止”の札がかかった校舎に踏み込んだ
校舎内に入ればピアノの音は殊更大きく響く
どうやらこの校舎に古くなった音楽室がある様だ
毎回聴いたことのない曲を弾くその弾き手は、余程マイナー曲を知っているのか、或いは自作なのか
階段を登りきって、音が大きくなる
教室に近付いた頃、ふと音が止んだ
終わったのか、或いは…
『…誰か居るんですか』
疑問符のない問い
確信を持って投げ掛けられた言葉、声に、女である事を知る
チッ、めんどくせぇ
「すみません、ピアノの音につられてしまって…」
『…花宮くん?』
「はい
僕のことご存知だったんですね」
『有名ですから』
淡々と抑揚なく紡がれる言葉は、元々高いのだろう
耳障りなそれではなく、落ち着いた音で
驚きはしたが、あの媚びたりする声音で無いことを感じた
ふとこちらに向いて居た視線を外し、そっと窓の外を見る
開け放たれた窓から入ってくる風が髪を揺らしていた
『ピアノの音、届くんですね』
「体育館はここから近いからね」
『…あぁ、あそこの体育館はバスケ部が使ってるんですね』
「バスケ部である事も知ってるんですね」
『有名ですから』
感情が乗らない声
何の音もなく淡々と紡がれるその言葉、恐らく本当に俺に興味が無い
生活する上で当たり前の様に飛び込んでくる話題だから知っている、ただそれだけ
その事がありありと伝わってきて
『今日は休みなんですか?』
「そうだね、久し振りに」
外へ向けていた視線をまた鍵盤に落として音を奏でる
上履きの色から同学年である事を確認して、敬語をやめる
必要以上に関わらない
出て行けとも、無理に会話を続けようともしない
こういうタイプは、嫌いじゃねぇ
恐らくこの女は周りに大した興味が無い
ここに居るのが俺じゃなくても同じ様な態度を貫くだろう
「…ピアノ、上手いね」
『ありがとうございます』
「敬語じゃなくてもいいのに」
『じゃあ、お言葉に甘えて』
「同級生、だよね?クラスは?」
『特進、でも花宮くんとは違うクラスC組』
「それなら合同授業とかでも一緒にならないね」
『私は君程有名では無いから』
「君程、という事はそれなりに有名?」
『…色んな意味で』
その言葉と同時に曲が終わる
窓から吹き込む風が、楽譜を俺の足元まで飛ばす
乱れた髪を気にした様子もなく、飛ばされた楽譜を目で追う事もなく
窓を閉めて鍵盤の蓋をする
そのまま楽譜を拾うこともせず、鞄を持って立ち上がる
「帰るの?」
『…分からない、けど、今は1人になれる場所に行こうかなって』
「それなら僕が出ていくよ」
『誰かに見つかったらリセットだから』
そうして、俺を気に留めることもなく扉から姿を消す
…なんだ、あの女
ギャーギャー騒がねぇ分面倒くさくねぇが、扱いづらいタイプ
散らばった楽譜は手書きで、タイトルも作曲者もなく
「…面白ぇ」
知らない事を解明していく事は楽しみだ
学年とクラスさえ分かれば名前を割るのなんて時間もかからねぇ
*****
「んー、多分だけど瀬良ちゃんじゃね?瀬良碧羽」
「毎回2位の奴か」
「そーそー、花宮が居るせいで毎回1位になれない可哀想な子」
「花宮が他人に興味持つなんて珍しいな、しかも女子」
「うっせぇ
で、そいつは何で有名なんだ?」
「え、花宮知らねぇの?まぁ、瀬良ちゃんは騒がれるタイプじゃ無いからねん」
こういう事は原に聞くに限る、と部活の休憩中に話を振ってみればあっさりと求めていた解答が返ってくる
名前を聞くと、順位発表の際毎回次席にあった名前と一致して、あいつだったのか、と漸く顔と名前を把握した
「瀬良ちゃんはまずあの容姿で入学当初から注目の的だよん
あんだけ美人ならそりゃ有名にもなるってもんよ
自分から他人に関わりに行くタイプじゃなくて、1人で静かにしてるタイプだから、ミステリアスさも相俟って、って感じ?」
「あー、そういや居たな、そんな奴」
「女版花宮って言われてるらしいよーん」
「それはなんと言うか…、気の毒だな」
取り敢えずヤマは殴っておいた
そういや入学当初はそんな話題もあったな…
興味なかったから忘れていたが、あいつだったのか
「あ、後もひとつウワサになってる事と言えばさ、瀬良ちゃん家庭環境がかなーり複雑って話」
「…家庭環境?何でそんなもんが噂になったりするんだよ」
「さぁ?そこまでは俺も知らないけどさぁ
中学時代までの瀬良ちゃんの事誰も知らないって言うし何か訳ありっぽい事だけは確かみたいだよ」
訳あり、ねぇ
たかが高校生レベルの訳なんて大したもんじゃねぇだろ
ただ、それが周りに漏れてるってのが変な話だが
「てゆーか、ホント急にどーしたの?」
「別に
毎回俺に負けてる奴がどんな人間か少し気になっただけだ」
「また駒にでもする気ですかー?ヤダヤダ怖い」
ケラケラ、と楽しそうに笑う原を無視して練習を再開させる
名前さえ分かれば、後は何処からでも探れるからな
特別な何か、がある訳では無い
ただ、知らないままが気持ち悪いだけだ
優等生のフリした悪魔
(それでも構わないと思えたの)