最高にくだらない物語
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花宮くんに帰宅を宣言してから数日、夏期講習は目前に迫っていた
教材関連は持ち出していないので、夏期講習に真面目に参加するつもりなら一度家に戻る必要がある
参加しない、と言う手が無い訳でも無いが、問題を抱えている身で教師陣に目を付けられるようなことは出来れば避けたいのが本音でもある
覚悟を決める時間はあった
いつもでもこのぬるま湯の様な、居心地の良い空間に居座るわけにはいかないと頭ではちゃんと分かっていた
間違いを犯し続けていると言うことは、ちゃんと自覚していた
『花宮くん』
「あ?」
『明日、家帰るね』
「そうかよ」
『うん、ありがとう』
何時くらいにしよう
前鉢合わせた時は最悪だったしなぁ、日中は仕事に行ってると思ったのに
まぁ、そんな事言ったらいつ戻ったって結局変わらないか
ここにはもう帰ってこないのだから
*****
『…一緒に行ってくれるの?』
「走り込みのついでにな」
『そっか、ありがとう』
そうして翌日
家を出ようとしたら、言葉の通りランニングウェアに身を包んだ花宮くんが玄関に現れた
前回の惨状を知っているから、もしかしたら最悪が頭を過ぎったのかもしれない
案外優しいところがある
そんなことを口にすれば、物凄く嫌そうな顔をするだろうけど
時刻は22時を回った頃
帰宅を意識してから家の様子を窺うことが増え、ここ最近は家の電気がついていないことに気付いた
私が家を出て、家に寄りつかなくなったのかもしれない
日中に帰るより、不在が分かりやすい夜を選んだのはそれだけの理由
嫌な音を立てる心臓には気付かないフリをして、荷物を持っていない手を強く握りしめる
道中私の少し前を歩く花宮くんは、普段もっと早い足取りなのに距離が開くことはなくて
会話はない
それはいつもの事で、私達の中では当たり前の光景
夏の夜は蒸し暑くて、長袖を着ている私は少しだけ汗ばんでいる
暑さのせい、それだけだと言い聞かせて
家が見えてきて、やはり電気がついていないことに少しだけ安堵する
近付いてあの男の車が見えて、もしかしたら出張でも入ったからここ数日は不在が続いていたのだろうか、なんてそんなことを考える
居ないと思って以前居たこともあるので油断は出来ないが、少しだけ肩の力が抜けた気がした
ポケットから家の鍵を取り出す
酷く重く感じるようになってしまったのは一体いつからだろう
何も付いていないシンプルな鍵
握りしめて鍵穴に差し込んで回す
回した、のだ
けれどカチャリ、という開いた音がしない
回す向きを間違えた?そんなわけ無い、十数年この鍵を使ってきたのだ
ノブを引くと、静かに扉が開く
癖になってしまった音を立てないこの開け方、玄関に散らばっている靴は、なぜか3足で
「?おい」
『…花宮くん、携帯あるよね』
「は?」
『すっごく嫌な予感がするの、もう少しだけ付き合ってもらってもいい?』
「どういう…『中には入ってこないでね』」
言葉を被せて扉を閉める
随分と久しぶりに音を立てて閉まった扉にそのまま鍵を掛ける
鼻につく嫌な匂い
何かが腐った強い鼻につく匂い
靴は脱がずにゆっくりと進む
リビングに繋がる扉を開けると、匂いが強くなって思わず鼻を覆う
顔を顰めてゆっくりゆっくり近付く
暗い部屋、電気を付けるなんて思考はなかった
カーテンの隙間から差し込む月明かりで充分だった
重なる裸の2つの死体と、その少し横で倒れているスーツの死体
これだけで何が起こったのかすぐに分かってしまう
胃からこみ上がってきそうなものを何とか堪えて部屋から飛び出る
玄関まで駆け足に進んで鍵を開けると、すぐに開く扉
中に入ってくる前に扉の前に居たであろう人物を体で押し出して、予測していなかっただろう衝撃に倒れる体の上に同じように倒れ込む
「おい!」
『ごめん、もう少しだけ、もう少しだけだから…』
顔が上げられない
顔を見てしまったら、また甘えてしまいそうになるから
肩に触れる手のぬくもりと、覚えてしまった落ち着く香り
そんなものを感じながら
私がもっと早く諦めていたら
覚悟を決めれていたら
助けを求めていたら
この最悪だけは防げていたのかもしれない
「…お前だけは被害者だ」
賢いこの人は、きっとこの中で起きてしまった惨状について何か気付いているのだろう
余りにも現状が分かっているだろうその言葉
私が求めている、安心させるためだけに発せられた言葉
存外優しいこの人の私のためだけに発せられた言葉
きっと間違っていない
誰しもが同じ事を言うだろうということは私だって分かっている
けど、私は私だけはそう思えない
もしかしたらこんな未来が来るかもしれないと、頭のどこかでは分かっていたのに
ありもしない幻想に縋って、現実を諦めきれなかった私の弱さが招いた結果
警察に相談していれば、この人の元をもっと早く離れていたら
この人の犯罪が明るみに出ることには何も変わりない
その罪状は大きく変わってしまうけれど
家族として暮らしてみたかった
少しでも、この人達と温かい思い出が欲しかった
そんなこと幻想だと、有り得ないと分かっていながらどうしても欲してしまった
『…もう、大丈夫
花宮くんは予定通りランニング行って良いよ』
「…」
『こんな面倒な事、もう関わらなくていいよ』
顔を上げる
いつも通り顰め面の花宮くんがそこに居て、心配しているような様子なんてものは微塵も感じられない
ここから離れないのも、こんな所まで付き合ってくれているのも、全部この人の優しさだと言うことはもう十分なほどに知っている
助けを求めたら、駄目な人だった
今の私には毒の様に早く染み渡る、優しすぎる甘い蜜
『ありがとう、花宮くん』
もう誰にも気付かれないように、鉄壁の仮面を貼り付けないと
こんな風に誰かを巻き込まないで済むように、一人で生きていけるように
私の弱さが招いた結果
被害者に見せかけて加害者になってしまった私が背負うもの
奪われなくても済んだかもしれない命達
『ばいばい』
巻き込んでごめんね
もう、関わらないしきっと関われない
もう君の前に現れるつもりもないから、安心して
私には十分すぎるくらい優しい時間だった
友達とすら呼べないほどの希薄な関係だったのに見捨てないで居てくれた
それだけで、十分
扉を閉めて鍵を締める
さて、きちんと終わらせよう
戻ってくるつもりで花宮くんの家に何も置いてこなくて良かった
これで余計な迷惑掛けることもなく終われそう
前みたいに心を殺せば良い
楽しかった、心安らぐあの時間は一度忘れて、奥底に沈めて
警察に連絡して後は全部任せてしまおう
大人になりきれていない私は、結局まだ一人で生きていくことすらままならないのだから
久し振りに帰ってきた自分の部屋
もうここで過ごすことはないだろう
親戚と言える人とも面識ないし、どこかに身を預けられることになるだろう
もっと早くそうなるはずだった
そうなるべきだった
でも、そうしなかったから少しだけ優しい思い出が出来た
その分最悪な思い出も増えてしまったけれど
きっともうすぐ騒がしくなるこの家
夏の蒸し暑い静寂
目を閉じて心を落ち着かせ、シナリオを考える
真実とほんの少しの噓を混ぜたシナリオ
優しいあの人に迷惑を掛けることなく済むシナリオを
これから始まる新たな地獄は、今よりマシなものになるのだろうか
静かな住宅街に響いたサイレンが耳に届いて閉じていた目を開ける
再会がないことを願おう
弱い私になってしまうから、縋ってしまうから、甘えてしまうから
お遊びのような逃避行
それでも、わたしにとっては必要で幸せなものだった
『ばいばい』
もう一度口にする
名前を付けることも出来なかった感情を、殺すために
君がいたあの日のことは忘れない
(だけど貴方は早く忘れてしまってね)
教材関連は持ち出していないので、夏期講習に真面目に参加するつもりなら一度家に戻る必要がある
参加しない、と言う手が無い訳でも無いが、問題を抱えている身で教師陣に目を付けられるようなことは出来れば避けたいのが本音でもある
覚悟を決める時間はあった
いつもでもこのぬるま湯の様な、居心地の良い空間に居座るわけにはいかないと頭ではちゃんと分かっていた
間違いを犯し続けていると言うことは、ちゃんと自覚していた
『花宮くん』
「あ?」
『明日、家帰るね』
「そうかよ」
『うん、ありがとう』
何時くらいにしよう
前鉢合わせた時は最悪だったしなぁ、日中は仕事に行ってると思ったのに
まぁ、そんな事言ったらいつ戻ったって結局変わらないか
ここにはもう帰ってこないのだから
*****
『…一緒に行ってくれるの?』
「走り込みのついでにな」
『そっか、ありがとう』
そうして翌日
家を出ようとしたら、言葉の通りランニングウェアに身を包んだ花宮くんが玄関に現れた
前回の惨状を知っているから、もしかしたら最悪が頭を過ぎったのかもしれない
案外優しいところがある
そんなことを口にすれば、物凄く嫌そうな顔をするだろうけど
時刻は22時を回った頃
帰宅を意識してから家の様子を窺うことが増え、ここ最近は家の電気がついていないことに気付いた
私が家を出て、家に寄りつかなくなったのかもしれない
日中に帰るより、不在が分かりやすい夜を選んだのはそれだけの理由
嫌な音を立てる心臓には気付かないフリをして、荷物を持っていない手を強く握りしめる
道中私の少し前を歩く花宮くんは、普段もっと早い足取りなのに距離が開くことはなくて
会話はない
それはいつもの事で、私達の中では当たり前の光景
夏の夜は蒸し暑くて、長袖を着ている私は少しだけ汗ばんでいる
暑さのせい、それだけだと言い聞かせて
家が見えてきて、やはり電気がついていないことに少しだけ安堵する
近付いてあの男の車が見えて、もしかしたら出張でも入ったからここ数日は不在が続いていたのだろうか、なんてそんなことを考える
居ないと思って以前居たこともあるので油断は出来ないが、少しだけ肩の力が抜けた気がした
ポケットから家の鍵を取り出す
酷く重く感じるようになってしまったのは一体いつからだろう
何も付いていないシンプルな鍵
握りしめて鍵穴に差し込んで回す
回した、のだ
けれどカチャリ、という開いた音がしない
回す向きを間違えた?そんなわけ無い、十数年この鍵を使ってきたのだ
ノブを引くと、静かに扉が開く
癖になってしまった音を立てないこの開け方、玄関に散らばっている靴は、なぜか3足で
「?おい」
『…花宮くん、携帯あるよね』
「は?」
『すっごく嫌な予感がするの、もう少しだけ付き合ってもらってもいい?』
「どういう…『中には入ってこないでね』」
言葉を被せて扉を閉める
随分と久しぶりに音を立てて閉まった扉にそのまま鍵を掛ける
鼻につく嫌な匂い
何かが腐った強い鼻につく匂い
靴は脱がずにゆっくりと進む
リビングに繋がる扉を開けると、匂いが強くなって思わず鼻を覆う
顔を顰めてゆっくりゆっくり近付く
暗い部屋、電気を付けるなんて思考はなかった
カーテンの隙間から差し込む月明かりで充分だった
重なる裸の2つの死体と、その少し横で倒れているスーツの死体
これだけで何が起こったのかすぐに分かってしまう
胃からこみ上がってきそうなものを何とか堪えて部屋から飛び出る
玄関まで駆け足に進んで鍵を開けると、すぐに開く扉
中に入ってくる前に扉の前に居たであろう人物を体で押し出して、予測していなかっただろう衝撃に倒れる体の上に同じように倒れ込む
「おい!」
『ごめん、もう少しだけ、もう少しだけだから…』
顔が上げられない
顔を見てしまったら、また甘えてしまいそうになるから
肩に触れる手のぬくもりと、覚えてしまった落ち着く香り
そんなものを感じながら
私がもっと早く諦めていたら
覚悟を決めれていたら
助けを求めていたら
この最悪だけは防げていたのかもしれない
「…お前だけは被害者だ」
賢いこの人は、きっとこの中で起きてしまった惨状について何か気付いているのだろう
余りにも現状が分かっているだろうその言葉
私が求めている、安心させるためだけに発せられた言葉
存外優しいこの人の私のためだけに発せられた言葉
きっと間違っていない
誰しもが同じ事を言うだろうということは私だって分かっている
けど、私は私だけはそう思えない
もしかしたらこんな未来が来るかもしれないと、頭のどこかでは分かっていたのに
ありもしない幻想に縋って、現実を諦めきれなかった私の弱さが招いた結果
警察に相談していれば、この人の元をもっと早く離れていたら
この人の犯罪が明るみに出ることには何も変わりない
その罪状は大きく変わってしまうけれど
家族として暮らしてみたかった
少しでも、この人達と温かい思い出が欲しかった
そんなこと幻想だと、有り得ないと分かっていながらどうしても欲してしまった
『…もう、大丈夫
花宮くんは予定通りランニング行って良いよ』
「…」
『こんな面倒な事、もう関わらなくていいよ』
顔を上げる
いつも通り顰め面の花宮くんがそこに居て、心配しているような様子なんてものは微塵も感じられない
ここから離れないのも、こんな所まで付き合ってくれているのも、全部この人の優しさだと言うことはもう十分なほどに知っている
助けを求めたら、駄目な人だった
今の私には毒の様に早く染み渡る、優しすぎる甘い蜜
『ありがとう、花宮くん』
もう誰にも気付かれないように、鉄壁の仮面を貼り付けないと
こんな風に誰かを巻き込まないで済むように、一人で生きていけるように
私の弱さが招いた結果
被害者に見せかけて加害者になってしまった私が背負うもの
奪われなくても済んだかもしれない命達
『ばいばい』
巻き込んでごめんね
もう、関わらないしきっと関われない
もう君の前に現れるつもりもないから、安心して
私には十分すぎるくらい優しい時間だった
友達とすら呼べないほどの希薄な関係だったのに見捨てないで居てくれた
それだけで、十分
扉を閉めて鍵を締める
さて、きちんと終わらせよう
戻ってくるつもりで花宮くんの家に何も置いてこなくて良かった
これで余計な迷惑掛けることもなく終われそう
前みたいに心を殺せば良い
楽しかった、心安らぐあの時間は一度忘れて、奥底に沈めて
警察に連絡して後は全部任せてしまおう
大人になりきれていない私は、結局まだ一人で生きていくことすらままならないのだから
久し振りに帰ってきた自分の部屋
もうここで過ごすことはないだろう
親戚と言える人とも面識ないし、どこかに身を預けられることになるだろう
もっと早くそうなるはずだった
そうなるべきだった
でも、そうしなかったから少しだけ優しい思い出が出来た
その分最悪な思い出も増えてしまったけれど
きっともうすぐ騒がしくなるこの家
夏の蒸し暑い静寂
目を閉じて心を落ち着かせ、シナリオを考える
真実とほんの少しの噓を混ぜたシナリオ
優しいあの人に迷惑を掛けることなく済むシナリオを
これから始まる新たな地獄は、今よりマシなものになるのだろうか
静かな住宅街に響いたサイレンが耳に届いて閉じていた目を開ける
再会がないことを願おう
弱い私になってしまうから、縋ってしまうから、甘えてしまうから
お遊びのような逃避行
それでも、わたしにとっては必要で幸せなものだった
『ばいばい』
もう一度口にする
名前を付けることも出来なかった感情を、殺すために
君がいたあの日のことは忘れない
(だけど貴方は早く忘れてしまってね)
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