終わりさえあればそれでいい
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あの邂逅から一週間
屋上には3人、いや4人の女子生徒の姿
『…彼女を解放して、緋雨優姫
彼女はこの物語の登場人物に過ぎない、今この場所に関係など無いわ』
「はぁ?相変わらず意味分かんないことばっか言わないでくれる?」
『コレは私とこの子と貴女との物語でしょう?手を出す相手を間違っているわ』
大振りなカッターナイフを手にし、桃井へと突きつけているのは緋雨
怯えた様子の桃井と感情が高ぶっている様子の緋雨に対面しているのは、橙の少女と藍の少女
バタバタ、と慌ただしい足音と五月蠅いくらいの音を立てて屋上に姿を現したのは、カラフルな6人
見るからに脅されている、と分かるその状況
捕らえられた幼馴染みの姿を見た青峰は、今にも殴らん勢いで間を詰めようとするが、橙の少女に止められる
一応止まった青峰を確認すると、藍の少女と目配せをし、再び緋雨に向き直る
『貴女の魂胆は分かっているわ、これから何をしようとしているかも
無駄なことだから、早く彼女を解放しなさい』
「五月蠅いっ!」
『優姫』
静かな声音で、緋雨の名前を呼ぶ
大きくないその声に、大袈裟なくらい肩を震わせ橙の少女を睨みつける
そんな様子を目の当たりにしながらも、表情を崩すこと無く淡々と言葉を紡ぐ
『ねぇ、貴女が私に敵ったことなんてあったかしら?
私達がいたから、貴女は1人にならなかった
ねぇ、ホントに思い出したの?私達のこと、全て』
「五月蠅い、黙れ!!」
声を張り上げた緋雨は、桃井の拘束を解いて橙の少女へと距離を詰める
握りしめたカッターナイフを今度は橙の少女の首元へと突きつけ、息を荒くしながら睨みつける
その手は、可哀想になるほど震えていた
『何を勘違いしているの、優姫
どれだけ頑張ろうと、貴女は私達に勝てるはずが無い
また、同じ事を繰り返すの?そうやって逃げるの?』
「…また、また私の邪魔ばかり…!」
『邪魔?したことなど無いと言っているでしょう?
コレは正当な復讐よ、大切なこの子を傷つけられたことに対する、正当な復讐』
「…ほんと、相変わらずすぎてキモい」
『どうもありがとう』
「それでも、私はもう負けないの
コレはもう、私の物語、私が主人公だもの
珠那にも瑛良にも、負けない」
呼ばれた名前
それに対して橙の少女は、笑みを深めた
『…貴女はいつも自分のことばかり、だから貴女は私に勝てないのよ』
「黙れ!」
ナイフが僅かに皮膚に食い込み、赤い線を描く
それを見た藍の少女が、緋雨の後ろに回り込み首を締め上げる
けれど、ナイフから手を離すことはしない
『…瑛良』
名前を呼ばれ、藍の少女は手を緩める
それを確認し、橙の少女は緋雨から一歩離れ、そして綺麗に嗤う
『貴女の物語には、貴女とそれ以外しか存在しない
貴女にとってのモブは、必要の無いそこにあるだけの存在
貴女は考えない、そのモブにも、モブが主人公の物語が存在することに
だから貴女はこんなにも、愚かしい』
「だって、モブはモブでしょう!?私には関係ない、必要ない!
そんな存在だから名前も無いモブに成り下がるんでしょう!?」
『本当に何も変わらないのね、自分勝手なまま
だからいつも、貴女は1人だったというのに』
「お前に私の何が分かる!?」
『分からないし、分かりたくも無いわ
貴女に興味の一欠片もないし、昔から大っ嫌いだったのよ、私もこの子も』
綺麗な綺麗な笑みで告げるには、言葉に棘がありすぎる
言葉に色も無い、表情だけが不釣り合いで
『貴女は本当に、浅はかで、傲慢で、短慮で、愚かしい
貴女が主人公の物語だって確かに存在するけれど、この世界がいつ貴女のモノになったの?
貴女は、貴女だけはこの世界で唯一の異端者だというのに
異端者の末路って知っている?優姫
破滅しか、残されて居ないそうよ、可哀想に』
大きく振りかぶったナイフが、白い頬を掠める
僅かに舞う、橙の髪
咄嗟に足を引き避けたが、僅かに掠ったナイフの刃が、橙の少女頬を傷つけた
『珠那…、アンタ避けれたでしょ』
『大丈夫、心配しないで、これくらい痛くも痒くも無いわ
あの時に比べたらこの程度の疵、蚊に刺された様なモノだもの』
ナイフを持つ手が震えるそんな緋雨に対して優しく語りかけるように橙の少女は一歩歩み寄る
ビクリ、と肩を震わせ橙の少女から目を逸らす
『痛かったなぁ、優姫
楽に死なせてくれなかったものね、どれだけ恨まれていたのかしら
何回も何回も、なんだか楽しそうに刺して
私の返り血を浴びて、真っ赤な髪をして
あぁ、今みたいな
瑛良にもあんな殺し方をしたの?だとしたら余計許せないなぁ…、あぁでも、あんな殺し方じゃ瑛良には逃げられちゃうから、心臓を一突きってやつかしら』
「五月蠅い…」
『1人だった貴女に声を掛けて、輪の中に導いてあげたのは私達だったというのに
その恩をあんな仇で返すなんて、随分斬新な恩返しね?』
「…五月蠅い」
『私達の命を糧にして、貴女は望むモノを手に入れたようだけど、楽しかったかしら?
随分可愛らしくなったのね、優姫
それは誰の命を糧に手に入れたモノなのかしら?』
「五月蠅いっ!!
どうしてお前が、お前等が此処に居る!?邪魔だから殺したというのに!!
殺して殺して、何度もその体に包丁を突き刺したというのに!!
どうしてまた邪魔をするの!?」
『記憶を勝手に改竄しないで、私達の立ち位置に勝手に立った気にならないで』
「あぁもうホント五月蠅い!いつもそんな正論ばっかり並べ立てて!分かってるよそれくらい私だって!
だから憎くて大っ嫌いだったお前等を消して、私は私の望むモノを手に入れたというのに!
お前等の復讐って一体何がしたいわけ!?」
『私達の名前を、一生消えない呪いとしてあげようと思って
私達の名前が、お前を蝕み続ける呪いになるのよ』
静かな静かな冷め切った声
淡々と事実だけを告げるような響きを持つそれ
「馬鹿じゃ無いの、アンタ
私はもう此処は捨てたの、次の世界に行くの、今度こそアンタ等の居ない世界に
蝕まれるわけ無いじゃない」
『馬鹿なのはどっち?貴女は神を味方に付けた気でいるようだけど、その神すらもう、私達の手中にあると言うのに
あぁ、あれは神ですら無かったのだけれど』
「馬鹿なこと言わないで!大体アンタが何を知ってんのよ!」
『…じゃあ、死んでみたら?』
紡がれた声は、恐ろしいほど冷たく響いた
顔は変わらず笑みを浮かべ、穏やかに緋雨を正面から見つめている
釣り合いの取れないそれらは、見る者に恐怖しか与えない
『真実を知るにはそれが一番手っ取り早いでしょう?
幸い此処は屋上、都合の良いことに刃物もある
好きな方を選べばいいわ』
少々演技がかった口調で愉しそうに紡ぐ
けど言葉に、瞳に侮蔑の色が滲んでいて
ごくり、誰かがつばを飲み込む音が聞こえるほど張り詰めた緊迫
“…もういいのかい?”
不意に響いた声は、男とも女とも取れない、不思議な音色であった
何も無かったはずの空間がぐにゃり、と歪んだかと思えば、そこに現れたのは1人の青年
いや、性別の判断は不可能であった
そこに現れた人物は、男にも女にも見える顔立ち、体つきをしていたのだ
ぷかぷか、と当たり前の様に浮かんで橙の少女に近寄ると、掠めて短くなった髪に触れる
“…連れて行ってもいいの?”
『もう少し待ってもらえるかしら?すぐに終わるから』
コツ、ローファーの音を響かせ緋雨と向き直る
『優姫、どうやら神を味方に付けたのは貴女だけじゃ無かったようね
あぁ、貴女が味方に付けたのは神を名乗ることを許されなくなった
神の座を奪われた、元死神だったかしら』
「しに、がみ…」
『もしかして知らなかったの?それは随分滑稽ですね
あの死神はそうね、言うならば指名手配中の凶悪犯、と言ったところでしょうか
それも、懸賞金の掛けられた』
「噓、そんなの噓よ、有り得ない」
『何を根拠に噓だと判断しているのかしら?貴女の目の前にその死神は現れていないでしょう?それが証拠じゃ無いの
こんなに追い詰められていると言うのに、手を貸すこともしないなんて
わざわざ貴女に説明する気なんて、無いけれどその凶悪犯と手を結んだ貴女も同罪、裁きを受けなければいけない存在なのよ
だから私達の復讐の後に貴女を差し出すことを条件に契約を結び、追いかけて此処まで来たのよ
貴女は一度自分の手で命を終わらせ、正しい手順で生を受けていないから、これから先永遠の時を1人で生きなければならないのよ、可哀想に』
くすくす、と愉しそうに嗤いながら絶望した顔をする緋雨の目の前まで歩いて行く
その手からは力が抜け、抵抗する様子は窺えない
そんな様子を愉しそうに見遣って、頬に手を伸ばす
『愚かな子
あのまま私達と一緒にいれば、こんな目には遭わなかったのに
敗因は2つ
私を敵に回したことと、あの時2人ともを殺してしまったこと
例えば私だけを殺したのならば、私は私に未練が無いし、あの世界にも大した興味はない
天か地かは分からないけれど、あるべき場所に向かったでしょう
残された瑛良は怒り狂ったかもしれないけれど、けれどこの世界に逃げ込んでしまっている貴女に復讐なんか出来るはずも無い
その逆もまた然り
貴女は浅はかだった、短慮だった
私達の間にある歪んだ絆を、甘く見すぎていた
私は、私が殺されようが、気にしないし興味もないのよ、瑛良が無事ならそれでいい
でも瑛良は殺された、貴女の手によって
それ故の復讐よ、優姫
私の大切な者を傷つける奴はどんな人間だって、どんなモノだって許さない
いっそ死にたいと願うほどの地獄を』
『相手が悪かったね、優姫
あたし等相手じゃ勝てるはずも無かったのに、ホント馬鹿』
『…ばいばい、優姫』
そう言って微笑んだ
その笑みは酷く穏やかで、綺麗で、すっきりした、やり遂げたという喜色の滲んだ笑みで
“お疲れ様、珠那、瑛良
長い復讐だったね、これからはゆっくり自分らしく生きられるように
さようなら、神に愛されし子”
それだけ言うと現れたときと同様にぐにゃりと歪んだ空間へと消えていく
気が付けば、緋雨の姿は何処にも無かった
バッドエンドのサイレンが鳴る
(此処が幕切れ、さぁおやすみ愚かな子)
屋上には3人、いや4人の女子生徒の姿
『…彼女を解放して、緋雨優姫
彼女はこの物語の登場人物に過ぎない、今この場所に関係など無いわ』
「はぁ?相変わらず意味分かんないことばっか言わないでくれる?」
『コレは私とこの子と貴女との物語でしょう?手を出す相手を間違っているわ』
大振りなカッターナイフを手にし、桃井へと突きつけているのは緋雨
怯えた様子の桃井と感情が高ぶっている様子の緋雨に対面しているのは、橙の少女と藍の少女
バタバタ、と慌ただしい足音と五月蠅いくらいの音を立てて屋上に姿を現したのは、カラフルな6人
見るからに脅されている、と分かるその状況
捕らえられた幼馴染みの姿を見た青峰は、今にも殴らん勢いで間を詰めようとするが、橙の少女に止められる
一応止まった青峰を確認すると、藍の少女と目配せをし、再び緋雨に向き直る
『貴女の魂胆は分かっているわ、これから何をしようとしているかも
無駄なことだから、早く彼女を解放しなさい』
「五月蠅いっ!」
『優姫』
静かな声音で、緋雨の名前を呼ぶ
大きくないその声に、大袈裟なくらい肩を震わせ橙の少女を睨みつける
そんな様子を目の当たりにしながらも、表情を崩すこと無く淡々と言葉を紡ぐ
『ねぇ、貴女が私に敵ったことなんてあったかしら?
私達がいたから、貴女は1人にならなかった
ねぇ、ホントに思い出したの?私達のこと、全て』
「五月蠅い、黙れ!!」
声を張り上げた緋雨は、桃井の拘束を解いて橙の少女へと距離を詰める
握りしめたカッターナイフを今度は橙の少女の首元へと突きつけ、息を荒くしながら睨みつける
その手は、可哀想になるほど震えていた
『何を勘違いしているの、優姫
どれだけ頑張ろうと、貴女は私達に勝てるはずが無い
また、同じ事を繰り返すの?そうやって逃げるの?』
「…また、また私の邪魔ばかり…!」
『邪魔?したことなど無いと言っているでしょう?
コレは正当な復讐よ、大切なこの子を傷つけられたことに対する、正当な復讐』
「…ほんと、相変わらずすぎてキモい」
『どうもありがとう』
「それでも、私はもう負けないの
コレはもう、私の物語、私が主人公だもの
珠那にも瑛良にも、負けない」
呼ばれた名前
それに対して橙の少女は、笑みを深めた
『…貴女はいつも自分のことばかり、だから貴女は私に勝てないのよ』
「黙れ!」
ナイフが僅かに皮膚に食い込み、赤い線を描く
それを見た藍の少女が、緋雨の後ろに回り込み首を締め上げる
けれど、ナイフから手を離すことはしない
『…瑛良』
名前を呼ばれ、藍の少女は手を緩める
それを確認し、橙の少女は緋雨から一歩離れ、そして綺麗に嗤う
『貴女の物語には、貴女とそれ以外しか存在しない
貴女にとってのモブは、必要の無いそこにあるだけの存在
貴女は考えない、そのモブにも、モブが主人公の物語が存在することに
だから貴女はこんなにも、愚かしい』
「だって、モブはモブでしょう!?私には関係ない、必要ない!
そんな存在だから名前も無いモブに成り下がるんでしょう!?」
『本当に何も変わらないのね、自分勝手なまま
だからいつも、貴女は1人だったというのに』
「お前に私の何が分かる!?」
『分からないし、分かりたくも無いわ
貴女に興味の一欠片もないし、昔から大っ嫌いだったのよ、私もこの子も』
綺麗な綺麗な笑みで告げるには、言葉に棘がありすぎる
言葉に色も無い、表情だけが不釣り合いで
『貴女は本当に、浅はかで、傲慢で、短慮で、愚かしい
貴女が主人公の物語だって確かに存在するけれど、この世界がいつ貴女のモノになったの?
貴女は、貴女だけはこの世界で唯一の異端者だというのに
異端者の末路って知っている?優姫
破滅しか、残されて居ないそうよ、可哀想に』
大きく振りかぶったナイフが、白い頬を掠める
僅かに舞う、橙の髪
咄嗟に足を引き避けたが、僅かに掠ったナイフの刃が、橙の少女頬を傷つけた
『珠那…、アンタ避けれたでしょ』
『大丈夫、心配しないで、これくらい痛くも痒くも無いわ
あの時に比べたらこの程度の疵、蚊に刺された様なモノだもの』
ナイフを持つ手が震えるそんな緋雨に対して優しく語りかけるように橙の少女は一歩歩み寄る
ビクリ、と肩を震わせ橙の少女から目を逸らす
『痛かったなぁ、優姫
楽に死なせてくれなかったものね、どれだけ恨まれていたのかしら
何回も何回も、なんだか楽しそうに刺して
私の返り血を浴びて、真っ赤な髪をして
あぁ、今みたいな
瑛良にもあんな殺し方をしたの?だとしたら余計許せないなぁ…、あぁでも、あんな殺し方じゃ瑛良には逃げられちゃうから、心臓を一突きってやつかしら』
「五月蠅い…」
『1人だった貴女に声を掛けて、輪の中に導いてあげたのは私達だったというのに
その恩をあんな仇で返すなんて、随分斬新な恩返しね?』
「…五月蠅い」
『私達の命を糧にして、貴女は望むモノを手に入れたようだけど、楽しかったかしら?
随分可愛らしくなったのね、優姫
それは誰の命を糧に手に入れたモノなのかしら?』
「五月蠅いっ!!
どうしてお前が、お前等が此処に居る!?邪魔だから殺したというのに!!
殺して殺して、何度もその体に包丁を突き刺したというのに!!
どうしてまた邪魔をするの!?」
『記憶を勝手に改竄しないで、私達の立ち位置に勝手に立った気にならないで』
「あぁもうホント五月蠅い!いつもそんな正論ばっかり並べ立てて!分かってるよそれくらい私だって!
だから憎くて大っ嫌いだったお前等を消して、私は私の望むモノを手に入れたというのに!
お前等の復讐って一体何がしたいわけ!?」
『私達の名前を、一生消えない呪いとしてあげようと思って
私達の名前が、お前を蝕み続ける呪いになるのよ』
静かな静かな冷め切った声
淡々と事実だけを告げるような響きを持つそれ
「馬鹿じゃ無いの、アンタ
私はもう此処は捨てたの、次の世界に行くの、今度こそアンタ等の居ない世界に
蝕まれるわけ無いじゃない」
『馬鹿なのはどっち?貴女は神を味方に付けた気でいるようだけど、その神すらもう、私達の手中にあると言うのに
あぁ、あれは神ですら無かったのだけれど』
「馬鹿なこと言わないで!大体アンタが何を知ってんのよ!」
『…じゃあ、死んでみたら?』
紡がれた声は、恐ろしいほど冷たく響いた
顔は変わらず笑みを浮かべ、穏やかに緋雨を正面から見つめている
釣り合いの取れないそれらは、見る者に恐怖しか与えない
『真実を知るにはそれが一番手っ取り早いでしょう?
幸い此処は屋上、都合の良いことに刃物もある
好きな方を選べばいいわ』
少々演技がかった口調で愉しそうに紡ぐ
けど言葉に、瞳に侮蔑の色が滲んでいて
ごくり、誰かがつばを飲み込む音が聞こえるほど張り詰めた緊迫
“…もういいのかい?”
不意に響いた声は、男とも女とも取れない、不思議な音色であった
何も無かったはずの空間がぐにゃり、と歪んだかと思えば、そこに現れたのは1人の青年
いや、性別の判断は不可能であった
そこに現れた人物は、男にも女にも見える顔立ち、体つきをしていたのだ
ぷかぷか、と当たり前の様に浮かんで橙の少女に近寄ると、掠めて短くなった髪に触れる
“…連れて行ってもいいの?”
『もう少し待ってもらえるかしら?すぐに終わるから』
コツ、ローファーの音を響かせ緋雨と向き直る
『優姫、どうやら神を味方に付けたのは貴女だけじゃ無かったようね
あぁ、貴女が味方に付けたのは神を名乗ることを許されなくなった
神の座を奪われた、元死神だったかしら』
「しに、がみ…」
『もしかして知らなかったの?それは随分滑稽ですね
あの死神はそうね、言うならば指名手配中の凶悪犯、と言ったところでしょうか
それも、懸賞金の掛けられた』
「噓、そんなの噓よ、有り得ない」
『何を根拠に噓だと判断しているのかしら?貴女の目の前にその死神は現れていないでしょう?それが証拠じゃ無いの
こんなに追い詰められていると言うのに、手を貸すこともしないなんて
わざわざ貴女に説明する気なんて、無いけれどその凶悪犯と手を結んだ貴女も同罪、裁きを受けなければいけない存在なのよ
だから私達の復讐の後に貴女を差し出すことを条件に契約を結び、追いかけて此処まで来たのよ
貴女は一度自分の手で命を終わらせ、正しい手順で生を受けていないから、これから先永遠の時を1人で生きなければならないのよ、可哀想に』
くすくす、と愉しそうに嗤いながら絶望した顔をする緋雨の目の前まで歩いて行く
その手からは力が抜け、抵抗する様子は窺えない
そんな様子を愉しそうに見遣って、頬に手を伸ばす
『愚かな子
あのまま私達と一緒にいれば、こんな目には遭わなかったのに
敗因は2つ
私を敵に回したことと、あの時2人ともを殺してしまったこと
例えば私だけを殺したのならば、私は私に未練が無いし、あの世界にも大した興味はない
天か地かは分からないけれど、あるべき場所に向かったでしょう
残された瑛良は怒り狂ったかもしれないけれど、けれどこの世界に逃げ込んでしまっている貴女に復讐なんか出来るはずも無い
その逆もまた然り
貴女は浅はかだった、短慮だった
私達の間にある歪んだ絆を、甘く見すぎていた
私は、私が殺されようが、気にしないし興味もないのよ、瑛良が無事ならそれでいい
でも瑛良は殺された、貴女の手によって
それ故の復讐よ、優姫
私の大切な者を傷つける奴はどんな人間だって、どんなモノだって許さない
いっそ死にたいと願うほどの地獄を』
『相手が悪かったね、優姫
あたし等相手じゃ勝てるはずも無かったのに、ホント馬鹿』
『…ばいばい、優姫』
そう言って微笑んだ
その笑みは酷く穏やかで、綺麗で、すっきりした、やり遂げたという喜色の滲んだ笑みで
“お疲れ様、珠那、瑛良
長い復讐だったね、これからはゆっくり自分らしく生きられるように
さようなら、神に愛されし子”
それだけ言うと現れたときと同様にぐにゃりと歪んだ空間へと消えていく
気が付けば、緋雨の姿は何処にも無かった
バッドエンドのサイレンが鳴る
(此処が幕切れ、さぁおやすみ愚かな子)