欠けた月のように生きて
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ある意味事件と言ってもいいようなあの一件があってから数日
放課後、松川と共に唯依に呼び出された
本日は月曜日
つまり、バレー部は練習の無い唯一の日
「見守ろうとは思った、と言うことは最初に言っとく」
『はい』
「琴羽の事情も、ちょっと意味分からんこともあるけど、取り敢えずは納得してる」
『はい』
「それを踏まえて言わせてもらう
アンタ等は小学生か」
松川と2人並んで座り、目の前にはちょっと怒り気味の唯依
その彼氏である花巻はちょっと困ったように笑っていたが止めないあたり同意見と見ていいのだろう
まぁ、唯依や水希がたびたびなにか言いたげにこちらを見ていたのは知っていたので、よくここまで我慢してくれた、とむしろ褒めるべきなのだろう
隣に座っている松川も苦笑しているので、現状に困っていたのは松川も同じのようだ
「琴羽」
『はい』
「頑張らないといけないのはアンタなの、分かってる?」
『…分かってる、つもりなんだけどなぁ』
こちらも苦笑してそう答えれば、唯依も怒っていた勢いを鎮めて大きく溜息を吐いた
その肩を、花巻が労うように叩く
ちょっとだけ振り返った唯依がそれに答え、また私たちに向き直る
「アンタの事情が特殊なのは分かってるつもりだよ、こっちも」
『うん』
「だから最初は手探りになるのは仕方ない」
『うん』
「けど多分、このまま放って置いたらずっと平行線になる気がするのね?」
『薄々気付いてた』
「それが分かってるだけマシか…」
形式上松川とお付き合いするようになって数日
私たちの関係は、恐らく何も変わっていない
元々この年頃の男女にしては仲が良く、よく話していた
(後になって、これは松川が意図的に作り出していたのかも知れない、と言う事に気付いた)
メールでのやり取りは確かに増えたが、それが分かりやすく表に出てくることはなくて
一緒にお弁当を食べるようになったからと言って、2人の間に流れる空気が変わったと言う事もない
多分松川が遠慮しているから
私の1歩と、松川の1歩は全然歩幅が違う
松川はずっと私に合わせてくれているのが分かっていたので、申し訳なかった
そろそろ唯依達に相談しようと思っていた頃だったので、正直今回の招集は私としても有り難かった
「琴羽の場合は、明確な指標というか、ステップを作った方がいいのかも知れないね」
『ミッション?』
「そんな感じ
恋人が普通にすることに抵抗を感じるようじゃ、お付き合いなんて出来ないでしょ」
『違いない』
「特にアンタの場合、仲良くなった人限定でかなりパーソナルスペース狭くなるじゃん
まずはアンタの許容範囲を知りたい」
『許容範囲…』
「今あたしにハグされようがなんとも思わないでしょ?」
『余裕』
「それが異性の場合どこまでなら許せるか、ってのは分かんないもんじゃん」
『んー…』
そう言われて考える
いつメンのあの3人なら、0距離だって平気だ
ちゅーはさすがに勘弁だけど、しなきゃ死ぬと言われるのならば出来なくは無い、と思う
けどそこまで仲良くない人に出来るかと言われたら答えは否
あんまりくっつきたくない
つまり、そう言う事だろう
それを異性に置き換えて考える
バレー部のあの4人はこのメンバー関係でよく話す
それなりに仲いい部類に入ることは事実で
『及川は触れてこようとしたら逃げる』
「それは何か別の意味が含まれてそうだけど、あたしも」
一番にそう答えると、真顔の唯依が同意してきた
その横で花巻、私の隣で松川が噴き出していたが
『岩泉は…、触られるのは平気だと思うけど、向こうが照れそうだからやだ』
「それは自分もつられて照れそうだから?」
『うん』
「それ抜きなら?」
『難しいなぁ…』
だって岩泉はかなり硬派なイメージで、女慣れしてなさそう
困ってたらさらっと助けてくれるような男気はあるし、動けなくなったらあっさり抱きかかえるとかは出来るような男だけど
そんな状況じゃ無い岩泉は、多分割とヘタレだと思う
そんなことをかいつまんで言えば、やっぱり花巻と松川は笑っていた
及川のことは伝えてもいいけど、岩泉には言わないで欲しいと後で釘を刺しておこう
及川はどうでもいいけど、岩泉はいい奴だから
「じゃあ、手を握られるのは?」
『それは岩泉?』
「そう」
『なら平気』
「髪触られるの」
『平気』
「頭撫でられるのは」
『それも平気』
「…おまえ、結構キャパ広いな」
『そうなの?』
美容師が男でも気にならないもんじゃない?それと同じ原理なんだけど
それとはちょっと意味合いが違うだろ
そんなもん?
何て会話を唯依とする
岩泉とそんな状況になるのは想像出来ないけど
「じゃあ、そうだなー」
「顔触られるのは?」
『顔…』
言われて想像する
どんな状況だって言う突っ込みはこの場では野暮なのだろう
と言うか、してはいけない
『手が伸びてきたら、ちょっと身構えるかも』
「理由あれば平気?」
『何か付いてて取ってくれるって言う説明があれば』
「アンタ、他の奴なら逃げるんだよ?」
『分かってるよ』
唯依が真顔で心配してきたので、苦笑を返しておく
仲が良いなら平気だけど、それ以外の人は基本寄せ付けたくない人間だから、その辺の警戒心はあるよ、一応
何て言い訳してもきっとこの状況じゃ唯依は納得しないだろうから黙っておくけど
「じゃあ、一応その辺が境目なのかな」
『どうなんだろうね』
「流石にキスは嫌でしょ」
『人工呼吸だったなら不問にするけど』
「どんな状況よ、それ」
『それ、全部ブーメランだから』
「違いない」
今の仮定の話はあくまで仮定であって、実際に起こったことでは無い
どんな状況なんだ、と突っ込んでいいならまず松川と付き合うことになった、と言う現状から突っ込みたいのが本心だ
私は、自身のこの欠陥を人に話す気なんて無かったのだから
「うーん…
そもそもこんだけキャパ広いなら、試すだけ無駄になりそうだな…」
「そうね…
手を繋いでも、抱きしめられても、ときめかないようじゃ意味ないものね」
「やっぱり2人には2人のペースがあると思うけどな、俺」
「だって…、見ててもどかしいのよ…!」
「それな」
目の前で交わされるやり取りに苦笑
どうもご迷惑をお掛けしております
隣にいる松川を覗き見れば、同じように苦笑していた
松川には非がないのだし、そんな顔する必要も無いと思うのだけれど
全部私の気持ちの問題であって
でも、結局私もどうすればいいか分からないのだけれど
好き、嫌いという感情はある
けれど、その括りは大雑把で親愛と友愛しか今のところ無いのだ
恋愛は未知の領域すぎて、まだその形すら分からない
「まぁ、俺等は俺等らしくゆったりするからさ
見守っててくれると助かるんだけど」
ここに来て漸く口を開いた松川
その言葉は、どうにも私を擁護するために発せられた言葉のようで
つくづく申し訳ないと思う
きっと松川もこんな面倒なことになるとは思っていなかったはずなのに
「まぁ、それもそうね
人様の恋愛模様に口出ししてたら、馬に蹴られちゃうわ」
「違いない」
呆れながらもそれを受け入れて、助けようとしてくれる友人達がいる
それはきっと、恵まれているのだろう
「じゃあ、最後に一つだけアドバイス
アンタ等学校でしか会ってないんだから、休日予定が合うんなら遊びにでも行きなさい
知らないところが見えたりするもんよ」
去り際に一言、そんなアドバイスを落として立ち去る友人達
残された私達は顔を見合わせる
その発想が、私にはなかった
「そんな顔しないの」
『どんな顔?』
「桐谷は、今知らない感情、初めての出来事が立て続けに起きて順応できていないだけ
気にしないの」
ポン、と頭に置かれた掌
ゆっくり動くそのぬくもりは、入っていた力を溶かしていって
あぁ、そうか
私、戸惑ってたんだ
一番現状を把握し切れていなかったのは、私なのかもしれない
まだ事態を飲み込めていないのに、それに順応して動けるはずなど無かったのだ
「分かった?」
『…分かった』
言い聞かせるように、落ち着かせるように、柔らかな声音で話す目の前の人に頷いて返せば、満足げな笑み
本当に、この人はどこまでも優しい
苦笑を浮かべて返せば、頭を撫でられた
お見通しだと言われている気分だ
「でもまぁ、一理あるのかもしれないね」
『何が?』
「校外で会うの」
『…デートって奴ですか?』
「デートって奴です」
にんまり、と悪戯な笑みを浮かべたその人は
楽しそうに私の手を取ったのだ
恋愛小説のようにはいかない
(はじまりは随分とそれらしかったのにね)
放課後、松川と共に唯依に呼び出された
本日は月曜日
つまり、バレー部は練習の無い唯一の日
「見守ろうとは思った、と言うことは最初に言っとく」
『はい』
「琴羽の事情も、ちょっと意味分からんこともあるけど、取り敢えずは納得してる」
『はい』
「それを踏まえて言わせてもらう
アンタ等は小学生か」
松川と2人並んで座り、目の前にはちょっと怒り気味の唯依
その彼氏である花巻はちょっと困ったように笑っていたが止めないあたり同意見と見ていいのだろう
まぁ、唯依や水希がたびたびなにか言いたげにこちらを見ていたのは知っていたので、よくここまで我慢してくれた、とむしろ褒めるべきなのだろう
隣に座っている松川も苦笑しているので、現状に困っていたのは松川も同じのようだ
「琴羽」
『はい』
「頑張らないといけないのはアンタなの、分かってる?」
『…分かってる、つもりなんだけどなぁ』
こちらも苦笑してそう答えれば、唯依も怒っていた勢いを鎮めて大きく溜息を吐いた
その肩を、花巻が労うように叩く
ちょっとだけ振り返った唯依がそれに答え、また私たちに向き直る
「アンタの事情が特殊なのは分かってるつもりだよ、こっちも」
『うん』
「だから最初は手探りになるのは仕方ない」
『うん』
「けど多分、このまま放って置いたらずっと平行線になる気がするのね?」
『薄々気付いてた』
「それが分かってるだけマシか…」
形式上松川とお付き合いするようになって数日
私たちの関係は、恐らく何も変わっていない
元々この年頃の男女にしては仲が良く、よく話していた
(後になって、これは松川が意図的に作り出していたのかも知れない、と言う事に気付いた)
メールでのやり取りは確かに増えたが、それが分かりやすく表に出てくることはなくて
一緒にお弁当を食べるようになったからと言って、2人の間に流れる空気が変わったと言う事もない
多分松川が遠慮しているから
私の1歩と、松川の1歩は全然歩幅が違う
松川はずっと私に合わせてくれているのが分かっていたので、申し訳なかった
そろそろ唯依達に相談しようと思っていた頃だったので、正直今回の招集は私としても有り難かった
「琴羽の場合は、明確な指標というか、ステップを作った方がいいのかも知れないね」
『ミッション?』
「そんな感じ
恋人が普通にすることに抵抗を感じるようじゃ、お付き合いなんて出来ないでしょ」
『違いない』
「特にアンタの場合、仲良くなった人限定でかなりパーソナルスペース狭くなるじゃん
まずはアンタの許容範囲を知りたい」
『許容範囲…』
「今あたしにハグされようがなんとも思わないでしょ?」
『余裕』
「それが異性の場合どこまでなら許せるか、ってのは分かんないもんじゃん」
『んー…』
そう言われて考える
いつメンのあの3人なら、0距離だって平気だ
ちゅーはさすがに勘弁だけど、しなきゃ死ぬと言われるのならば出来なくは無い、と思う
けどそこまで仲良くない人に出来るかと言われたら答えは否
あんまりくっつきたくない
つまり、そう言う事だろう
それを異性に置き換えて考える
バレー部のあの4人はこのメンバー関係でよく話す
それなりに仲いい部類に入ることは事実で
『及川は触れてこようとしたら逃げる』
「それは何か別の意味が含まれてそうだけど、あたしも」
一番にそう答えると、真顔の唯依が同意してきた
その横で花巻、私の隣で松川が噴き出していたが
『岩泉は…、触られるのは平気だと思うけど、向こうが照れそうだからやだ』
「それは自分もつられて照れそうだから?」
『うん』
「それ抜きなら?」
『難しいなぁ…』
だって岩泉はかなり硬派なイメージで、女慣れしてなさそう
困ってたらさらっと助けてくれるような男気はあるし、動けなくなったらあっさり抱きかかえるとかは出来るような男だけど
そんな状況じゃ無い岩泉は、多分割とヘタレだと思う
そんなことをかいつまんで言えば、やっぱり花巻と松川は笑っていた
及川のことは伝えてもいいけど、岩泉には言わないで欲しいと後で釘を刺しておこう
及川はどうでもいいけど、岩泉はいい奴だから
「じゃあ、手を握られるのは?」
『それは岩泉?』
「そう」
『なら平気』
「髪触られるの」
『平気』
「頭撫でられるのは」
『それも平気』
「…おまえ、結構キャパ広いな」
『そうなの?』
美容師が男でも気にならないもんじゃない?それと同じ原理なんだけど
それとはちょっと意味合いが違うだろ
そんなもん?
何て会話を唯依とする
岩泉とそんな状況になるのは想像出来ないけど
「じゃあ、そうだなー」
「顔触られるのは?」
『顔…』
言われて想像する
どんな状況だって言う突っ込みはこの場では野暮なのだろう
と言うか、してはいけない
『手が伸びてきたら、ちょっと身構えるかも』
「理由あれば平気?」
『何か付いてて取ってくれるって言う説明があれば』
「アンタ、他の奴なら逃げるんだよ?」
『分かってるよ』
唯依が真顔で心配してきたので、苦笑を返しておく
仲が良いなら平気だけど、それ以外の人は基本寄せ付けたくない人間だから、その辺の警戒心はあるよ、一応
何て言い訳してもきっとこの状況じゃ唯依は納得しないだろうから黙っておくけど
「じゃあ、一応その辺が境目なのかな」
『どうなんだろうね』
「流石にキスは嫌でしょ」
『人工呼吸だったなら不問にするけど』
「どんな状況よ、それ」
『それ、全部ブーメランだから』
「違いない」
今の仮定の話はあくまで仮定であって、実際に起こったことでは無い
どんな状況なんだ、と突っ込んでいいならまず松川と付き合うことになった、と言う現状から突っ込みたいのが本心だ
私は、自身のこの欠陥を人に話す気なんて無かったのだから
「うーん…
そもそもこんだけキャパ広いなら、試すだけ無駄になりそうだな…」
「そうね…
手を繋いでも、抱きしめられても、ときめかないようじゃ意味ないものね」
「やっぱり2人には2人のペースがあると思うけどな、俺」
「だって…、見ててもどかしいのよ…!」
「それな」
目の前で交わされるやり取りに苦笑
どうもご迷惑をお掛けしております
隣にいる松川を覗き見れば、同じように苦笑していた
松川には非がないのだし、そんな顔する必要も無いと思うのだけれど
全部私の気持ちの問題であって
でも、結局私もどうすればいいか分からないのだけれど
好き、嫌いという感情はある
けれど、その括りは大雑把で親愛と友愛しか今のところ無いのだ
恋愛は未知の領域すぎて、まだその形すら分からない
「まぁ、俺等は俺等らしくゆったりするからさ
見守っててくれると助かるんだけど」
ここに来て漸く口を開いた松川
その言葉は、どうにも私を擁護するために発せられた言葉のようで
つくづく申し訳ないと思う
きっと松川もこんな面倒なことになるとは思っていなかったはずなのに
「まぁ、それもそうね
人様の恋愛模様に口出ししてたら、馬に蹴られちゃうわ」
「違いない」
呆れながらもそれを受け入れて、助けようとしてくれる友人達がいる
それはきっと、恵まれているのだろう
「じゃあ、最後に一つだけアドバイス
アンタ等学校でしか会ってないんだから、休日予定が合うんなら遊びにでも行きなさい
知らないところが見えたりするもんよ」
去り際に一言、そんなアドバイスを落として立ち去る友人達
残された私達は顔を見合わせる
その発想が、私にはなかった
「そんな顔しないの」
『どんな顔?』
「桐谷は、今知らない感情、初めての出来事が立て続けに起きて順応できていないだけ
気にしないの」
ポン、と頭に置かれた掌
ゆっくり動くそのぬくもりは、入っていた力を溶かしていって
あぁ、そうか
私、戸惑ってたんだ
一番現状を把握し切れていなかったのは、私なのかもしれない
まだ事態を飲み込めていないのに、それに順応して動けるはずなど無かったのだ
「分かった?」
『…分かった』
言い聞かせるように、落ち着かせるように、柔らかな声音で話す目の前の人に頷いて返せば、満足げな笑み
本当に、この人はどこまでも優しい
苦笑を浮かべて返せば、頭を撫でられた
お見通しだと言われている気分だ
「でもまぁ、一理あるのかもしれないね」
『何が?』
「校外で会うの」
『…デートって奴ですか?』
「デートって奴です」
にんまり、と悪戯な笑みを浮かべたその人は
楽しそうに私の手を取ったのだ
恋愛小説のようにはいかない
(はじまりは随分とそれらしかったのにね)