手を伸ばしかけて躊躇って
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side.K
練習試合から数日
特に変わったことは無かった
少なからず、風当たりが強くなることは予想していたのに
ふと、琉梨っちの言葉が蘇る
これが、受け入れる準備は出来ていた、って事なのだろうか
キセキだから、とかそんな特別扱いはせずに
1人の新入部員として、ただの黄瀬涼太として
「ホント、適わないッスねー」
琉梨っちは、不思議な人だ
努力を、才能を見せびらかすことを嫌う
周りに見せた方が褒められるのに、認められるのに
それを、嫌っている
「なー、黄瀬―」
「茶月さんって彼氏居んの?」
「何かこないだも告白断ってたらしいぜ?」
「何スかー?琉梨っち狙いなんスか、みんな」
昼休み、教室
クラスメイト達と下らない会話
そんな時間は貴重で、嫌いじゃ無い
「そりゃ狙わない奴なんて居ないだろ」
「ばっか、お前なんか相手にされるかよ」
「正直高嶺の花感はあるよなー」
琉梨っちはモテる
そりゃもう、びっくりするくらい
特別目を引く容姿、と言う訳ではない
整った顔立ちはしていると思うッスけど、そう言った意味なら桃井っちの方が分かりやすい
成績優秀、運動もそつなくこなす
家事も完璧にこなしているし、人当たりもいい
しっかり者で聞き上手
なんだかんだいいながらも、最後は甘やかしてくれるお姉ちゃん気質
そんな琉梨っちがモテない筈が無い
「あー、彼女ほしい!」
「だよなー、やっぱ青春を彩るのは恋愛だよな」
「…お前等飢えてんなー」
恋バナとは、女の子のモノだけじゃない
男でも集まれば、あの子が可愛い、あの子は綺麗、などと盛り上がるモノだ
実際今だってそうだし
「てか、茶月さんってなんつーか…
エロいよな」
「ちょ、不純な妄想で琉梨っちを汚さないで欲しいッス!」
「けどよ、黄瀬
あの色気は高校生のもんじゃねぇぞ?」
思わず言葉に詰まった
まぁ、言ってる意味が分からないでもない
清純さの中に紛れた、妖艶さ
それを感じたことが無い訳じゃ、無い
露骨な露出とかそんな下品さはない
無いのだけど…
「茶月さん、なんで誰とも付き合わないのかねー」
「あー、確かに
あれだけモテれば、選り取り見取りだろ?」
「黄瀬、何か知ってる?」
「そーいや、中学時代も誰とも付き合って無かったッスねー
俺等の中の誰かとは噂になったことはあったッスけど、噂だし」
「純潔か!」
「もうお前は黙ってろ」
ケラケラ、と笑ってるクラスメイトを余所に首を傾げる
そういや、なんでだろ
中学の時からモテて、告白もされていたと言うのに
噂だって事実無根だし
琉梨っちってば、そりゃもう容赦なくばっさり切り捨てて否定するから…
ちょっと傷付くッスよ
まぁ、それは置いといて
琉梨っちからその手の話を聞いたこと無いことは事実
好きな人が居た、と言うのも聞かない
ましてや、彼氏など
もしかしたら、完璧に隠しきって付き合ってたこともあるかも知れないけど、琉梨っちならできる
恋バナ始まったら、サラッと輪から抜けるからタイプすら知らないんだよなー
…何か、ちょっと気になってきた
今度聞いてみよう、教えてくれるか分かんないけど
*****
何て考え出してから数日
…琉梨っち、全く隙がないッス
何なんスか、あの子
普段の学校生活じゃ友達に囲まれてるし(俺も女の子に囲まれてるし、この状態で話しかけたら高確率で機嫌が悪くなる)
部活の休憩中だって、顔出すことは滅多に無いし、来ても一瞬
部活の試合形式では体育館に居るけど、そんな時に話しかけたら殴られるだけじゃ済まない
あれー?俺今までどうやって話しかけてったっけ?
そんな空振りを繰り返してた俺にも漸くチャンスが来た
一日練習の今日
昼休憩という一番長い休憩時間
1人で休憩し、昼食を摂っている琉梨っちを発見した
ファイル片手に食事を摂っている琉梨っちに近付く
チラリ、と横目で俺を確認し、そのまま食事を再開した
いや、あの、スルーしないで欲しいッス
てか、そのファイル超気になるッス
琉梨っちが独自に纏めた個人データらしいっすけど、見れるのは主将・副主将のみ
「琉梨っち」
『五月蠅い』
「名前呼んだだけで!?」
辛辣!辛辣すぎるッス!
辛口なのはいつもの事ッスけど…
いや、いつも辛口なのもホントはちょっと遠慮したいッスけど
『で、何か用?
うちはアンタと違って暇じゃ無いんだよね、アンタと違って』
「何で2回言うんスか!」
『大事なことだから』
ファイルから目線は逸らさず言葉だけ投げかけられる
相手にされるだけマシッスけど…、虚しいッス、琉梨っち…
『下世話な話してたクラスメイトから彼氏の有無でも聞いてこいって言われた?それか好きなタイプ』
「聞いてたんスか?」
『そりゃ教室で話してたら聞こえるでしょ
聞かれたくないなら、本人居ない場所で話なさい』
「ごもっとも!」
『まぁ、あぁ言う話の時は弱み握れることあるからね
もっと話してくれていいよ』
「怖いッス!」
え、弱み握る為に聞き耳立ててるんスか?
まぁ、そのまま聞いてたら弱みに近付いたのかも知れないけど…
不、不用意な事話せないじゃないッスか…
『当たり?』
「半分は
俺も気になっちゃったッスんよねー
琉梨っちが彼氏を作らない理由」
『あぁ、個人的な好奇心ね』
それだけ言って、止めていた手を動かす
え、答えてはくれないんスか
そこまで聞いといて?まぁ、それでこそ琉梨っちって感じッスけど…
もうちょっとこっちにも興味示して欲しいッス…
「何で彼氏作んないんスかー?」
『それわんこに関係ある?』
「そう言われると…
ただの好奇心なのは認めるッスけど」
『でしょうね』
「冷たいッス、琉梨っち」
『アンタに優しくした記憶がないな、生憎と』
「酷っ!」
うーん…
やっぱはなしてくれないか
いつも恋バナ回避してるくらいッスからねー
…恋バナ、弱み握るチャンスだと思うんスけど?
『見てりゃ大体把握できるでしょ』
出来ないッスよ、普通は!
…てゆーか俺、声に出して…?
『出てるよ、思いっきり
五月蠅い、気が散る』
「じゃあ、いっそ俺とお話しましょう!」
『はぁ?』
「そんな全力で嫌そうな顔しなくても…」
琉梨っち、年々俺の扱い雑くなってないッスか…
いい加減俺も傷付くッスよ
『…はぁ、彼氏作らない理由だっけ?』
パタン、とファイルを閉じて漸く俺に視線が向く
溜息つきだったけど
でもなんだかんだ最後は付き合ってくれるんスよねー
琉梨っちだって、結構なツンデレだと思うッス
…睨まれた
「そうッス!
何で彼氏作んないんスか?」
『必要性を感じない、好きな人が居ない、下心満載の奴に付き合う時間が勿体ない
正直男は信用ならない生き物だと思っている』
「お、おぉう…」
必要性を感じないって琉梨っち…
それでも花の女子高生ッスか…
てか男の存在全否定してないッスか…?何されたんスか…
『…まぁ、一番は
本気で誰かを好きになったこと無いから、かな』
淡々と、冷え切った口調で告げられた今までの理由とは違う
ほんの少しだけ温度の乗った言葉
はっきり言い切る形を取っていた今までの理由とは違い、随分弱々しい主張
琉梨っちらしくない口調
「本気で好きになったことがない?」
『んー…、そうだね、何て言えばいいかなー』
食べ終わったらしい弁当を片付けながら、琉梨っちが呟く
本気で好きになるとは一体
『傍に居て欲しい、傍に居たい
支えたい、甘えたい、特別になりたい
そう感じたことが、今までに1回もないからかな
好きだって言う気持ちすら、よく分かってないのかも知れない
実のところ初恋すらまだの、恋愛初心者だからじゃないかな』
そう言った琉梨っちに呆然とするしかない
今の俺の顔は、大層間抜け面だろう
琉梨っちがそんなこというなんて珍しいというか、初めてな気がする
「あんなに恋愛相談に乗ってるのにッスか!?」
『共感できないから、客観的に捉えてるだけだよ』
「今まで恋バナ避けてたのは!?」
『居ないって言っても大体の人が信じないし
居ないなら居ないで、男紹介されるし
それがメンド―だったから』
再び口をあんぐりと開けてしまった
最後の理由はそれほど意外すぎて、言葉が出ない
まさか琉梨っちの口からあんな言葉が飛び出すなんて…!
『大概失礼な反応だよね、わんこ』
「うっ…!
けど、大体みんなこんな反応すると思うッスよ?」
『まぁ、琉帆も似たような反応だったしね』
「琉帆っちには話してるんスか?」
『下世話な話好きだからね』
「あぁ…」
思わず納得してしまった
確かに好きそうだ、琉帆っちは
「今まで、好きな人は?」
『居ないかなー
幼稚園とか、小学校の低学年では居たのかも知れないけど
恋と呼ぶには稚拙過ぎるもの』
そう言って小さく笑った
恋を知らない琉梨っち、本当に?
聡い琉梨っちが気付かない筈がないッスよ
鈍感なんて言葉、死ぬほど似合わないんスから
今琉梨っちの中で、特別になりつつある人、居るんスよね?
『あんまり人に言い触らすなよ、わんこ』
「そんなことしないッスよー」
『どーだか
まぁ、彼氏はいないって言っといてよ
好きな人も、まぁ居ないかなー』
「意味深な言い方ッスねー」
『お好きなように捉えて欲しいと言うことかな』
「気になる人は居るって事で理解していていいんスか?」
あぁ、聞いてしなった
いつも触れないようにしてきた話題
無意識に避けてきた話題
けど、本当はいつも気になっていた話
『んー…、秘密』
そう言って琉梨っちは笑った
それはどこか、申し訳なさそうな笑顔だったような気がする
あの聡い琉梨っちが、気付かない筈がない
見ていれば分かると言った琉梨っちが
「…じゃあ、好きな人が出来たら教えて欲しいッス」
俺の言葉に僅かに瞳を揺らす
珍しい、動揺した姿
そして、それを俺に悟らせてしまうと言うのも珍しくて
バレてるなら、仕方ない
隠せるはず無いと、知っていたし
隠すつもりも、無かったし
「協力するッスよ!」
『…ははっ、不安だわー』
「酷っ!」
困らせたいわけじゃ無い
だから俺は今日もまた、知らない振りをする
自分で転がしてしまった石
傷付く権利なんて、俺にはない
中途半端に雨模様
(もう少し、もう少しだけ、このままで)
練習試合から数日
特に変わったことは無かった
少なからず、風当たりが強くなることは予想していたのに
ふと、琉梨っちの言葉が蘇る
これが、受け入れる準備は出来ていた、って事なのだろうか
キセキだから、とかそんな特別扱いはせずに
1人の新入部員として、ただの黄瀬涼太として
「ホント、適わないッスねー」
琉梨っちは、不思議な人だ
努力を、才能を見せびらかすことを嫌う
周りに見せた方が褒められるのに、認められるのに
それを、嫌っている
「なー、黄瀬―」
「茶月さんって彼氏居んの?」
「何かこないだも告白断ってたらしいぜ?」
「何スかー?琉梨っち狙いなんスか、みんな」
昼休み、教室
クラスメイト達と下らない会話
そんな時間は貴重で、嫌いじゃ無い
「そりゃ狙わない奴なんて居ないだろ」
「ばっか、お前なんか相手にされるかよ」
「正直高嶺の花感はあるよなー」
琉梨っちはモテる
そりゃもう、びっくりするくらい
特別目を引く容姿、と言う訳ではない
整った顔立ちはしていると思うッスけど、そう言った意味なら桃井っちの方が分かりやすい
成績優秀、運動もそつなくこなす
家事も完璧にこなしているし、人当たりもいい
しっかり者で聞き上手
なんだかんだいいながらも、最後は甘やかしてくれるお姉ちゃん気質
そんな琉梨っちがモテない筈が無い
「あー、彼女ほしい!」
「だよなー、やっぱ青春を彩るのは恋愛だよな」
「…お前等飢えてんなー」
恋バナとは、女の子のモノだけじゃない
男でも集まれば、あの子が可愛い、あの子は綺麗、などと盛り上がるモノだ
実際今だってそうだし
「てか、茶月さんってなんつーか…
エロいよな」
「ちょ、不純な妄想で琉梨っちを汚さないで欲しいッス!」
「けどよ、黄瀬
あの色気は高校生のもんじゃねぇぞ?」
思わず言葉に詰まった
まぁ、言ってる意味が分からないでもない
清純さの中に紛れた、妖艶さ
それを感じたことが無い訳じゃ、無い
露骨な露出とかそんな下品さはない
無いのだけど…
「茶月さん、なんで誰とも付き合わないのかねー」
「あー、確かに
あれだけモテれば、選り取り見取りだろ?」
「黄瀬、何か知ってる?」
「そーいや、中学時代も誰とも付き合って無かったッスねー
俺等の中の誰かとは噂になったことはあったッスけど、噂だし」
「純潔か!」
「もうお前は黙ってろ」
ケラケラ、と笑ってるクラスメイトを余所に首を傾げる
そういや、なんでだろ
中学の時からモテて、告白もされていたと言うのに
噂だって事実無根だし
琉梨っちってば、そりゃもう容赦なくばっさり切り捨てて否定するから…
ちょっと傷付くッスよ
まぁ、それは置いといて
琉梨っちからその手の話を聞いたこと無いことは事実
好きな人が居た、と言うのも聞かない
ましてや、彼氏など
もしかしたら、完璧に隠しきって付き合ってたこともあるかも知れないけど、琉梨っちならできる
恋バナ始まったら、サラッと輪から抜けるからタイプすら知らないんだよなー
…何か、ちょっと気になってきた
今度聞いてみよう、教えてくれるか分かんないけど
*****
何て考え出してから数日
…琉梨っち、全く隙がないッス
何なんスか、あの子
普段の学校生活じゃ友達に囲まれてるし(俺も女の子に囲まれてるし、この状態で話しかけたら高確率で機嫌が悪くなる)
部活の休憩中だって、顔出すことは滅多に無いし、来ても一瞬
部活の試合形式では体育館に居るけど、そんな時に話しかけたら殴られるだけじゃ済まない
あれー?俺今までどうやって話しかけてったっけ?
そんな空振りを繰り返してた俺にも漸くチャンスが来た
一日練習の今日
昼休憩という一番長い休憩時間
1人で休憩し、昼食を摂っている琉梨っちを発見した
ファイル片手に食事を摂っている琉梨っちに近付く
チラリ、と横目で俺を確認し、そのまま食事を再開した
いや、あの、スルーしないで欲しいッス
てか、そのファイル超気になるッス
琉梨っちが独自に纏めた個人データらしいっすけど、見れるのは主将・副主将のみ
「琉梨っち」
『五月蠅い』
「名前呼んだだけで!?」
辛辣!辛辣すぎるッス!
辛口なのはいつもの事ッスけど…
いや、いつも辛口なのもホントはちょっと遠慮したいッスけど
『で、何か用?
うちはアンタと違って暇じゃ無いんだよね、アンタと違って』
「何で2回言うんスか!」
『大事なことだから』
ファイルから目線は逸らさず言葉だけ投げかけられる
相手にされるだけマシッスけど…、虚しいッス、琉梨っち…
『下世話な話してたクラスメイトから彼氏の有無でも聞いてこいって言われた?それか好きなタイプ』
「聞いてたんスか?」
『そりゃ教室で話してたら聞こえるでしょ
聞かれたくないなら、本人居ない場所で話なさい』
「ごもっとも!」
『まぁ、あぁ言う話の時は弱み握れることあるからね
もっと話してくれていいよ』
「怖いッス!」
え、弱み握る為に聞き耳立ててるんスか?
まぁ、そのまま聞いてたら弱みに近付いたのかも知れないけど…
不、不用意な事話せないじゃないッスか…
『当たり?』
「半分は
俺も気になっちゃったッスんよねー
琉梨っちが彼氏を作らない理由」
『あぁ、個人的な好奇心ね』
それだけ言って、止めていた手を動かす
え、答えてはくれないんスか
そこまで聞いといて?まぁ、それでこそ琉梨っちって感じッスけど…
もうちょっとこっちにも興味示して欲しいッス…
「何で彼氏作んないんスかー?」
『それわんこに関係ある?』
「そう言われると…
ただの好奇心なのは認めるッスけど」
『でしょうね』
「冷たいッス、琉梨っち」
『アンタに優しくした記憶がないな、生憎と』
「酷っ!」
うーん…
やっぱはなしてくれないか
いつも恋バナ回避してるくらいッスからねー
…恋バナ、弱み握るチャンスだと思うんスけど?
『見てりゃ大体把握できるでしょ』
出来ないッスよ、普通は!
…てゆーか俺、声に出して…?
『出てるよ、思いっきり
五月蠅い、気が散る』
「じゃあ、いっそ俺とお話しましょう!」
『はぁ?』
「そんな全力で嫌そうな顔しなくても…」
琉梨っち、年々俺の扱い雑くなってないッスか…
いい加減俺も傷付くッスよ
『…はぁ、彼氏作らない理由だっけ?』
パタン、とファイルを閉じて漸く俺に視線が向く
溜息つきだったけど
でもなんだかんだ最後は付き合ってくれるんスよねー
琉梨っちだって、結構なツンデレだと思うッス
…睨まれた
「そうッス!
何で彼氏作んないんスか?」
『必要性を感じない、好きな人が居ない、下心満載の奴に付き合う時間が勿体ない
正直男は信用ならない生き物だと思っている』
「お、おぉう…」
必要性を感じないって琉梨っち…
それでも花の女子高生ッスか…
てか男の存在全否定してないッスか…?何されたんスか…
『…まぁ、一番は
本気で誰かを好きになったこと無いから、かな』
淡々と、冷え切った口調で告げられた今までの理由とは違う
ほんの少しだけ温度の乗った言葉
はっきり言い切る形を取っていた今までの理由とは違い、随分弱々しい主張
琉梨っちらしくない口調
「本気で好きになったことがない?」
『んー…、そうだね、何て言えばいいかなー』
食べ終わったらしい弁当を片付けながら、琉梨っちが呟く
本気で好きになるとは一体
『傍に居て欲しい、傍に居たい
支えたい、甘えたい、特別になりたい
そう感じたことが、今までに1回もないからかな
好きだって言う気持ちすら、よく分かってないのかも知れない
実のところ初恋すらまだの、恋愛初心者だからじゃないかな』
そう言った琉梨っちに呆然とするしかない
今の俺の顔は、大層間抜け面だろう
琉梨っちがそんなこというなんて珍しいというか、初めてな気がする
「あんなに恋愛相談に乗ってるのにッスか!?」
『共感できないから、客観的に捉えてるだけだよ』
「今まで恋バナ避けてたのは!?」
『居ないって言っても大体の人が信じないし
居ないなら居ないで、男紹介されるし
それがメンド―だったから』
再び口をあんぐりと開けてしまった
最後の理由はそれほど意外すぎて、言葉が出ない
まさか琉梨っちの口からあんな言葉が飛び出すなんて…!
『大概失礼な反応だよね、わんこ』
「うっ…!
けど、大体みんなこんな反応すると思うッスよ?」
『まぁ、琉帆も似たような反応だったしね』
「琉帆っちには話してるんスか?」
『下世話な話好きだからね』
「あぁ…」
思わず納得してしまった
確かに好きそうだ、琉帆っちは
「今まで、好きな人は?」
『居ないかなー
幼稚園とか、小学校の低学年では居たのかも知れないけど
恋と呼ぶには稚拙過ぎるもの』
そう言って小さく笑った
恋を知らない琉梨っち、本当に?
聡い琉梨っちが気付かない筈がないッスよ
鈍感なんて言葉、死ぬほど似合わないんスから
今琉梨っちの中で、特別になりつつある人、居るんスよね?
『あんまり人に言い触らすなよ、わんこ』
「そんなことしないッスよー」
『どーだか
まぁ、彼氏はいないって言っといてよ
好きな人も、まぁ居ないかなー』
「意味深な言い方ッスねー」
『お好きなように捉えて欲しいと言うことかな』
「気になる人は居るって事で理解していていいんスか?」
あぁ、聞いてしなった
いつも触れないようにしてきた話題
無意識に避けてきた話題
けど、本当はいつも気になっていた話
『んー…、秘密』
そう言って琉梨っちは笑った
それはどこか、申し訳なさそうな笑顔だったような気がする
あの聡い琉梨っちが、気付かない筈がない
見ていれば分かると言った琉梨っちが
「…じゃあ、好きな人が出来たら教えて欲しいッス」
俺の言葉に僅かに瞳を揺らす
珍しい、動揺した姿
そして、それを俺に悟らせてしまうと言うのも珍しくて
バレてるなら、仕方ない
隠せるはず無いと、知っていたし
隠すつもりも、無かったし
「協力するッスよ!」
『…ははっ、不安だわー』
「酷っ!」
困らせたいわけじゃ無い
だから俺は今日もまた、知らない振りをする
自分で転がしてしまった石
傷付く権利なんて、俺にはない
中途半端に雨模様
(もう少し、もう少しだけ、このままで)