手を伸ばしかけて躊躇って
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side.琉梨
唯歌に誘われるがままにやって来た夏祭り
あれは、やっぱ気付いて居るみたいだなー、あの子ホント聡い
東京組のうちとわんこは、2人で電車に揺られ集合場所へと向かう
目立つコイツだけど、祭りみたいな場所では意外と周りへの興味は無いのか、バレることが少ない
まぁ、変装とも言えない変装はさせているのだけれど
でっかいわんこを人避けにして、人混みを歩いて行く
こう言う時は、コイツ使えるんだよなー
そのまま唯歌達と合流する
どうやら、うち等が最後だったらしい、申し訳ない
「琉梨ちゃんの浴衣、大人っぽいね!」
『ありがと、唯歌は可愛いね』
「えへへ、ありがとー」
「くっそ、お前等可愛いな!」
相変わらず、過剰反応する森山さんは今日もいつも通りスルーさせて貰う
相手にするだけ無駄なのだ
みんな集まったのを確認し、祭りへと繰り出す
いつもより唯歌のテンションが高く、それを見て小堀さんも穏やかな表情
意外と面倒見のいい森山さんは、1人で勝手にどこか行ってしまいそうな早川さんの相手をしていて
当たり前の様にユキは、うちの横に配置されているのだけれど、黙りを貫いている
あのー、付き合ってからの方が後退してません?大丈夫?
「ちょっと笠松先輩!なーに黙ってるんスか!」
「うっせ」
『ホントですよ、何をそんなに緊張してるんです?』
「…うっせ」
『これ図星ですよ、図星』
「ホントッスよねー
あ、琉梨っちあそこにクレープ屋あるッスよ」
『あー、久しぶりに食べようかなー』
「チョコバナナッスね!」
うちの意見を聞かず、勝手に走り出すわんこ
まぁ、その通りではあるのだが
呆れたように肩を竦める
他のメンバーにも声掛けたらいいのに
お互い、いつも通りを心掛けている
そんな気負いが、少し気まずい
唯歌はきっとそんな空気に気付いたんだろう
あー、うん
今度はうちが頑張る番かな
そんな決意を固め、今は夏祭りを楽しんだ
*****
『……』
「琉梨っち、顔」
『なんなの、この人混み』
「祭りから帰る人ッスかねー」
『そんなこと知ってるよ』
「八つ当たり止めて!?」
祭りも終わり、電車に乗り込んだはいいけれど、行きの電車よりも多い人にうちのテンションは下がりまくっている
まぁ、帰りってのは帰る人の時間が大体重なるから人は増えるものだけれど
ほんとイラつく、狭い
行きの電車同様、うちと他の乗客の間に入って壁になっているわんこ
いつも通りの会話の中に存在する、違和感はどうにも気持ち悪い
理由は分かっている
本人に告げてしまっていいものか悩んでいるけど、でもこれを解決する術はこれしか無いことも分かっている
バレないように小さく溜息
ホント、うちは悪い女だよなー
「琉梨っち、駅着いたッスよー?」
『あ、うん』
カラン
下駄の音を響かせてホームに降りる
うちが着いてきたことを確認したわんこは、当たり前の様に先導して進む
歩くのが遅いうちに合わせた歩調
中学の頃から馴染んだこの歩調が乱れることはない
『…ね、りょーた』
「…なんスか?」
『ちょっと、寄り道して帰ろうか』
「足、大丈夫ッスか?」
『平気だよ、いつもの公園行こ』
投げかけたうちの声に、何か感じることがあったのだろう
僅かに曇ったその顔を、見逃さなかった
わんこだって、唯歌の思惑には気付いているはずだ
だから、うちが今から何を言わんとしているのか、何となく予想している筈
でも、ごめん
ちょっと、その予想は裏切るかもしれない
カランコロン
公園に近付くに連れて言葉は減っていく
うちの下駄から響く音が、静寂を埋めていく
あぁ、何て切り出そうか
これから言うことは、酷いこと
まぁ、いつも言っているだろうと言われたら否定は出来ないのだけれど
今回は、ベクトルが違うというか
そうして辿り着いた公園
いつも通りブランコに腰掛けると、キィと小さく軋む
下駄をその辺に脱ぎ散らかし、思い切りブランコを漕いでみる
「あーぁ、折角の浴衣なのに」
『いーんだよ、どうせ帰って脱ぐだけ何だから』
「まぁ、そうなんスけど」
下駄を拾って端に寄せるわんこを見ながら言葉を探す
連れ出したはいいけれど、何から話せばいいか分からない
あの時わんこも、きっとこんな気持ちだったのだろう
漕ぐのを止めたブランコの揺れ幅が小さくなっていく
キィキィと軋む音だけが響いている
「琉梨っち」
『んー?』
「俺相手に言葉探すなんて、らしくないッスよ
いっつも容赦無いじゃないッスか」
『…わんこは随分とドM精神が身についたのね』
「何かその言われ方は嫌ッス!」
あーぁ、やだな
ホント、いい男だよね
だから言いにくいんだって、分かってるのかな
言葉に詰まっているからって、助け船出してくれなくてもいいのに
『りょーた』
「はい」
『今から、酷いこと言うね』
「宣言されると、怖いッスねー…」
苦笑するりょーたを見て、また言葉が詰まっていく
これは、うちの我儘だから
ホントはこんな風に振り回したり何て、してはいけないはずで
『…りょーた』
小さく深呼吸をして
真っ直ぐにりょーたを捉えて
はっきりとした声で、紡ぐ
『友達、止めよっか』
その言葉が音として響き、りょーたの耳に届く
その言葉を理解すると、元々大きな目を更に大きく見開いていく
ごめんね、多分これは予想していなかったでしょ
『友達って言ったのはうちの方なのに』
「…そ、ッスよ
いきなり何言うんスか、びっくりッス」
『うん、そうなんだけどね
りょーたがどんなに頑張って、うちを友達扱いしようたって
どんなに頑張ったって、どうやってもうちはりょーたに取っては“好きな子”何だよ』
完全に止まったブランコ
無音の公園
目の前には、目を逸らすりょーたが居て
つまりそれは、図星と言うことで
『…仕方ない事、だと思う
感情って、自分の意思でどうこう出来るものなんかじゃ無いと思うし
簡単に嫌いになったりしないし、簡単に恋慕が友愛に変わったりしない』
裸足で地面に降りたって、りょーたの目の前に立つ
依然として顔を逸らす彼の顔を、下からしっかりと見上げる
目は合わないけど、うちが逸らしてはいけない
『だからね、好きなままでいいよ』
りょーたの手を取って告げる
綺麗な金色が、再び見開かれる
ごめんね、りょーた
今うち、多分凄い酷いことを言ってるよね
『今までりょーたは、うちを好きな子として接してきた
いきなり、友達扱いなんて出来ないよ
だからさ、好きなままでいいよ
気持ちの整理が出来るまで、りょーたに別に好きな子が出来るまで
うちを好きなままでいいよ』
ごめん、ごめんね
凄い嫌な女だよね、うち
りょーたがどれだけうちを好きだったとしても、うちが君を好きになることは無い
それどころか、うちは他の誰かと好き合ってる
こんな残酷が他にあるだろうか
虫が良すぎる事は分かっている
これは、うちの我儘に過ぎない
気まずくなりたくなくて
ぎこちないままで居たくなくて
好きで、居て欲しくて
こんな事言うのは、ホントに我儘だ
分かっているけど、でも
りょーたを手放したくないのも本心なのだ
意味合いは違うけど、だけど、うちもりょーたが好きだから
『ごめんね』
気まずいなら、離れたらいい
関わらなければいい
他人になればいい
そんなの頭では分かっている
けど、どうしてもそれは選べなくて
「…琉梨っち」
『ん?』
「何で、謝るんスか」
『嫌な女でしょ?』
肩を竦めながらそう言えば、りょーたが首を振る
漸く合った目が、痛いくらい真っ直ぐで
「…確かに、俺は琉梨っちが好きッス
琉梨っちが言ったように、友達だなんて、やっぱり思えないッス」
『…うん』
「でもいいんスか、俺ずっと好きでいるかもしれないッスよ」
『…それが、辛くないなら』
「はは、琉梨っちらしいッスね
後は俺次第、俺の選択に任せるって奴ッスか?
その方が、楽ッスもんね」
『…そうだね、押しつけてることには変わりないよ』
投げかけられる言葉は、全て的を射てる
相手のことを思って居る様に見えて、これはただの責任転嫁なのだ
「って、琉梨っちは言って欲しいんスよね?
責められる方が、楽だから」
泣きそうな顔
それでも無理矢理作った笑顔は痛々しい
「でも、俺はそんなこと思わない
俺からしたら、優しさッス
俺の気持ちを無視しないでくれた
好きでいいって、言ってくれた
大きく膨れ上がった好きって気持ちを、捨てないでいいって言ってくれた」
『…そんな綺麗な気持ちじゃ無いよ』
「でも、俺は楽になった」
『けど』
「いいんスよ、琉梨っち
俺は、琉梨っちを好きでいたい」
言葉に詰まる
繋がった手が熱い
真っ直ぐな目から、逃げたい、逸らしたい
「琉梨っち
俺は琉梨っちが好きだから、今の幸せを邪魔するような事はしない
でも、ちょっとでも隙があれば奪っちゃうッスよ?」
『りょーた』
「何で泣きそうな顔するんスか」
だって、そんなのしんどいだけじゃないか
時間をただただ無駄にするだけの愚行とも思われる事で
報われることはない、虚しい
今までと違って、うちには相手が居て
でも、うちがこんな事を言うのは違う
言えるような立場なんかじゃ無い、傷つけるだけのうちに一体うちに何が言えるだろうか
「…ほんっと、琉梨っちは真っ直ぐッスねー
普通はフった相手のことこんな気にしないッスよ
大体、こんな風に向き合って話したりなんかしない
いつだって真っ直ぐに向き合ってくれる琉梨っちだから、俺は好きになったんスよ」
声が優しいのは、狡い
まなざしが優しいのは、狡い
それでいいのかと、納得してしまいそうになる
罪悪感を、忘れそうになる
「ねぇ、琉梨っち」
『…なに』
「俺、琉梨っちのこと好きで居てもいい?」
頬を撫でる手が優しいのは、狡い
伝わる温度が優しいのは、狡い
流されてしまう、頷いてしまう
りょーたに言わせちゃ、いけないんだ
うちが嫌な女にならなきゃ、釣り合いが取れないのに
なんで、そんなに優しくするの、嫌な女にさせてくれないの
うちが傷付かなきゃ、いけないのに
「ねぇ、琉梨っち」
『何で…』
「だって、好きだから
嫌な女になんか、させたくないでしょ?」
『…はは、りょーたのクセに生意気』
「酷いッスねー」
そうだよ、酷い奴なんだよ
でもそんなこと、知ってたでしょう?
こんな優しくない女なんか、さっさと見放してしまえば良かったのに
ホント、見る目無い、馬鹿なんだから
『…厄介な奴に好かれたもんだわ』
「なんスか、それー」
ホントにどうしようも無い奴
でも、自分で言ったんだ
好きになったものは、どうしようも無い
結局うち等は、お互いに碌でもない人間なんだ
泣かない、泣いてなんかやらない
泣く権利なんて、うちにはない
うちも抱えなくちゃいけないから、全部押しつけるわけにはいかないから
ごめんね、りょーた
結局はうちは、弱いみたいなんだ
受け取り不可の愛情
(それでも傍に居て欲しかった)
唯歌に誘われるがままにやって来た夏祭り
あれは、やっぱ気付いて居るみたいだなー、あの子ホント聡い
東京組のうちとわんこは、2人で電車に揺られ集合場所へと向かう
目立つコイツだけど、祭りみたいな場所では意外と周りへの興味は無いのか、バレることが少ない
まぁ、変装とも言えない変装はさせているのだけれど
でっかいわんこを人避けにして、人混みを歩いて行く
こう言う時は、コイツ使えるんだよなー
そのまま唯歌達と合流する
どうやら、うち等が最後だったらしい、申し訳ない
「琉梨ちゃんの浴衣、大人っぽいね!」
『ありがと、唯歌は可愛いね』
「えへへ、ありがとー」
「くっそ、お前等可愛いな!」
相変わらず、過剰反応する森山さんは今日もいつも通りスルーさせて貰う
相手にするだけ無駄なのだ
みんな集まったのを確認し、祭りへと繰り出す
いつもより唯歌のテンションが高く、それを見て小堀さんも穏やかな表情
意外と面倒見のいい森山さんは、1人で勝手にどこか行ってしまいそうな早川さんの相手をしていて
当たり前の様にユキは、うちの横に配置されているのだけれど、黙りを貫いている
あのー、付き合ってからの方が後退してません?大丈夫?
「ちょっと笠松先輩!なーに黙ってるんスか!」
「うっせ」
『ホントですよ、何をそんなに緊張してるんです?』
「…うっせ」
『これ図星ですよ、図星』
「ホントッスよねー
あ、琉梨っちあそこにクレープ屋あるッスよ」
『あー、久しぶりに食べようかなー』
「チョコバナナッスね!」
うちの意見を聞かず、勝手に走り出すわんこ
まぁ、その通りではあるのだが
呆れたように肩を竦める
他のメンバーにも声掛けたらいいのに
お互い、いつも通りを心掛けている
そんな気負いが、少し気まずい
唯歌はきっとそんな空気に気付いたんだろう
あー、うん
今度はうちが頑張る番かな
そんな決意を固め、今は夏祭りを楽しんだ
*****
『……』
「琉梨っち、顔」
『なんなの、この人混み』
「祭りから帰る人ッスかねー」
『そんなこと知ってるよ』
「八つ当たり止めて!?」
祭りも終わり、電車に乗り込んだはいいけれど、行きの電車よりも多い人にうちのテンションは下がりまくっている
まぁ、帰りってのは帰る人の時間が大体重なるから人は増えるものだけれど
ほんとイラつく、狭い
行きの電車同様、うちと他の乗客の間に入って壁になっているわんこ
いつも通りの会話の中に存在する、違和感はどうにも気持ち悪い
理由は分かっている
本人に告げてしまっていいものか悩んでいるけど、でもこれを解決する術はこれしか無いことも分かっている
バレないように小さく溜息
ホント、うちは悪い女だよなー
「琉梨っち、駅着いたッスよー?」
『あ、うん』
カラン
下駄の音を響かせてホームに降りる
うちが着いてきたことを確認したわんこは、当たり前の様に先導して進む
歩くのが遅いうちに合わせた歩調
中学の頃から馴染んだこの歩調が乱れることはない
『…ね、りょーた』
「…なんスか?」
『ちょっと、寄り道して帰ろうか』
「足、大丈夫ッスか?」
『平気だよ、いつもの公園行こ』
投げかけたうちの声に、何か感じることがあったのだろう
僅かに曇ったその顔を、見逃さなかった
わんこだって、唯歌の思惑には気付いているはずだ
だから、うちが今から何を言わんとしているのか、何となく予想している筈
でも、ごめん
ちょっと、その予想は裏切るかもしれない
カランコロン
公園に近付くに連れて言葉は減っていく
うちの下駄から響く音が、静寂を埋めていく
あぁ、何て切り出そうか
これから言うことは、酷いこと
まぁ、いつも言っているだろうと言われたら否定は出来ないのだけれど
今回は、ベクトルが違うというか
そうして辿り着いた公園
いつも通りブランコに腰掛けると、キィと小さく軋む
下駄をその辺に脱ぎ散らかし、思い切りブランコを漕いでみる
「あーぁ、折角の浴衣なのに」
『いーんだよ、どうせ帰って脱ぐだけ何だから』
「まぁ、そうなんスけど」
下駄を拾って端に寄せるわんこを見ながら言葉を探す
連れ出したはいいけれど、何から話せばいいか分からない
あの時わんこも、きっとこんな気持ちだったのだろう
漕ぐのを止めたブランコの揺れ幅が小さくなっていく
キィキィと軋む音だけが響いている
「琉梨っち」
『んー?』
「俺相手に言葉探すなんて、らしくないッスよ
いっつも容赦無いじゃないッスか」
『…わんこは随分とドM精神が身についたのね』
「何かその言われ方は嫌ッス!」
あーぁ、やだな
ホント、いい男だよね
だから言いにくいんだって、分かってるのかな
言葉に詰まっているからって、助け船出してくれなくてもいいのに
『りょーた』
「はい」
『今から、酷いこと言うね』
「宣言されると、怖いッスねー…」
苦笑するりょーたを見て、また言葉が詰まっていく
これは、うちの我儘だから
ホントはこんな風に振り回したり何て、してはいけないはずで
『…りょーた』
小さく深呼吸をして
真っ直ぐにりょーたを捉えて
はっきりとした声で、紡ぐ
『友達、止めよっか』
その言葉が音として響き、りょーたの耳に届く
その言葉を理解すると、元々大きな目を更に大きく見開いていく
ごめんね、多分これは予想していなかったでしょ
『友達って言ったのはうちの方なのに』
「…そ、ッスよ
いきなり何言うんスか、びっくりッス」
『うん、そうなんだけどね
りょーたがどんなに頑張って、うちを友達扱いしようたって
どんなに頑張ったって、どうやってもうちはりょーたに取っては“好きな子”何だよ』
完全に止まったブランコ
無音の公園
目の前には、目を逸らすりょーたが居て
つまりそれは、図星と言うことで
『…仕方ない事、だと思う
感情って、自分の意思でどうこう出来るものなんかじゃ無いと思うし
簡単に嫌いになったりしないし、簡単に恋慕が友愛に変わったりしない』
裸足で地面に降りたって、りょーたの目の前に立つ
依然として顔を逸らす彼の顔を、下からしっかりと見上げる
目は合わないけど、うちが逸らしてはいけない
『だからね、好きなままでいいよ』
りょーたの手を取って告げる
綺麗な金色が、再び見開かれる
ごめんね、りょーた
今うち、多分凄い酷いことを言ってるよね
『今までりょーたは、うちを好きな子として接してきた
いきなり、友達扱いなんて出来ないよ
だからさ、好きなままでいいよ
気持ちの整理が出来るまで、りょーたに別に好きな子が出来るまで
うちを好きなままでいいよ』
ごめん、ごめんね
凄い嫌な女だよね、うち
りょーたがどれだけうちを好きだったとしても、うちが君を好きになることは無い
それどころか、うちは他の誰かと好き合ってる
こんな残酷が他にあるだろうか
虫が良すぎる事は分かっている
これは、うちの我儘に過ぎない
気まずくなりたくなくて
ぎこちないままで居たくなくて
好きで、居て欲しくて
こんな事言うのは、ホントに我儘だ
分かっているけど、でも
りょーたを手放したくないのも本心なのだ
意味合いは違うけど、だけど、うちもりょーたが好きだから
『ごめんね』
気まずいなら、離れたらいい
関わらなければいい
他人になればいい
そんなの頭では分かっている
けど、どうしてもそれは選べなくて
「…琉梨っち」
『ん?』
「何で、謝るんスか」
『嫌な女でしょ?』
肩を竦めながらそう言えば、りょーたが首を振る
漸く合った目が、痛いくらい真っ直ぐで
「…確かに、俺は琉梨っちが好きッス
琉梨っちが言ったように、友達だなんて、やっぱり思えないッス」
『…うん』
「でもいいんスか、俺ずっと好きでいるかもしれないッスよ」
『…それが、辛くないなら』
「はは、琉梨っちらしいッスね
後は俺次第、俺の選択に任せるって奴ッスか?
その方が、楽ッスもんね」
『…そうだね、押しつけてることには変わりないよ』
投げかけられる言葉は、全て的を射てる
相手のことを思って居る様に見えて、これはただの責任転嫁なのだ
「って、琉梨っちは言って欲しいんスよね?
責められる方が、楽だから」
泣きそうな顔
それでも無理矢理作った笑顔は痛々しい
「でも、俺はそんなこと思わない
俺からしたら、優しさッス
俺の気持ちを無視しないでくれた
好きでいいって、言ってくれた
大きく膨れ上がった好きって気持ちを、捨てないでいいって言ってくれた」
『…そんな綺麗な気持ちじゃ無いよ』
「でも、俺は楽になった」
『けど』
「いいんスよ、琉梨っち
俺は、琉梨っちを好きでいたい」
言葉に詰まる
繋がった手が熱い
真っ直ぐな目から、逃げたい、逸らしたい
「琉梨っち
俺は琉梨っちが好きだから、今の幸せを邪魔するような事はしない
でも、ちょっとでも隙があれば奪っちゃうッスよ?」
『りょーた』
「何で泣きそうな顔するんスか」
だって、そんなのしんどいだけじゃないか
時間をただただ無駄にするだけの愚行とも思われる事で
報われることはない、虚しい
今までと違って、うちには相手が居て
でも、うちがこんな事を言うのは違う
言えるような立場なんかじゃ無い、傷つけるだけのうちに一体うちに何が言えるだろうか
「…ほんっと、琉梨っちは真っ直ぐッスねー
普通はフった相手のことこんな気にしないッスよ
大体、こんな風に向き合って話したりなんかしない
いつだって真っ直ぐに向き合ってくれる琉梨っちだから、俺は好きになったんスよ」
声が優しいのは、狡い
まなざしが優しいのは、狡い
それでいいのかと、納得してしまいそうになる
罪悪感を、忘れそうになる
「ねぇ、琉梨っち」
『…なに』
「俺、琉梨っちのこと好きで居てもいい?」
頬を撫でる手が優しいのは、狡い
伝わる温度が優しいのは、狡い
流されてしまう、頷いてしまう
りょーたに言わせちゃ、いけないんだ
うちが嫌な女にならなきゃ、釣り合いが取れないのに
なんで、そんなに優しくするの、嫌な女にさせてくれないの
うちが傷付かなきゃ、いけないのに
「ねぇ、琉梨っち」
『何で…』
「だって、好きだから
嫌な女になんか、させたくないでしょ?」
『…はは、りょーたのクセに生意気』
「酷いッスねー」
そうだよ、酷い奴なんだよ
でもそんなこと、知ってたでしょう?
こんな優しくない女なんか、さっさと見放してしまえば良かったのに
ホント、見る目無い、馬鹿なんだから
『…厄介な奴に好かれたもんだわ』
「なんスか、それー」
ホントにどうしようも無い奴
でも、自分で言ったんだ
好きになったものは、どうしようも無い
結局うち等は、お互いに碌でもない人間なんだ
泣かない、泣いてなんかやらない
泣く権利なんて、うちにはない
うちも抱えなくちゃいけないから、全部押しつけるわけにはいかないから
ごめんね、りょーた
結局はうちは、弱いみたいなんだ
受け取り不可の愛情
(それでも傍に居て欲しかった)