手を伸ばしかけて躊躇って
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side.M
やぁやぁ、お嬢様方!
やって来ましたよ、俺のターン!!
「いや、違うっしょ」
「敬語!」
「大体、今の流れで、どう考えたらそうなるんスか」
「正論を!言うな!」
「…自覚はあったんスね」
「黄瀬、お前な…!
お前はいいんだよ、お前は!
もう暫くしたら、お前のターンが回ってくるからな!
しかし!よく考えてみろ!!
俺のターンが回ってくる日があるだろうか、いや無い!!」
「えーと、そう言うの何て言うんでしたっけ」
「反語だよ」
「あぁ、それ」
「ははは、一気にギャグに走り出したなぁ」
「流石も(り)山先輩ッスね!」
「うるせいやい」
「さっきからチョイチョイメタい発言しまくってんスけど、大丈夫ッスか?」
「大丈夫なんじゃないかな?」
くっそ、嫌になるぜ全く
えーと、取り敢えず現状を説明しますと
どうやら笠松が琉梨ちゃんに対しての気持ちを、遂に自覚したようで
(今までとそんなに態度が変わってないが
笠松にそんな芸当が出来るとは…)
先日会った琉帆ちゃんから聞き出したところ、琉梨ちゃんも結構、笠松に惚れてる、っぽいらしい
という感じなのである
つまり、現在絶賛両片思い中って訳でして
「くっそ、リア充め」
「まぁ、まだ付き合って無いがな」
「けど!あれはどう考えても!両思い秒読みです!」
「まぁなぁ」
「も、森山先輩、落ち着いて…」
「俺も!彼女が欲しいです!」
全力でうなだれる俺を相手にしてくれるのは、唯歌ちゃんくらいなもので
他の奴等は白けた顔で見てくる、冷たい
「こうなりゃ!全力でお節介してやる!」
「なんだかんだ、笠松先輩の事好きッスねー、森山先輩」
「はっ、誰が男なんかを好きになるか!」
「いや、そっちじゃ無いッス」
「知ってるわ!」
「あー、今日の森山先輩絡みづらいッス…」
「やさぐれてんなー」
お前等は!なんだかんだモテるだろう!
……なんだか虚しくなってきたので、此処までにしておこう
自分で自分のライフポイント削ってしまった
「と言う訳で唯歌ちゃん」
「はい?」
「それとなく琉梨ちゃんから聞き出してもらえないかな
やっぱり女の子同士の方が話しやすいだろうし」
「…そうですね、頑張ってみます!」
…あぁ、女の子可愛い
「悪いが森山、ウチの唯歌はそう簡単にやらんぞ?」
「くっそ」
勝手に心読んでんじゃないぞ、小堀!
おい、黄瀬!そっと唯歌ちゃんを俺から離して行くんじゃ無い!
俺がヤバい奴みたいだろう!
俺、一応先輩だからな!
*****
side.Y
今日は登校日で午前授業であった
昼からいつも通り部活があるので、人が少なくなった教室で、琉梨ちゃんと2人お弁当を食べている
琉梨ちゃんの席の1個前の椅子を借りて、一つの机でご飯を食べる
目の前に座る琉梨ちゃんを眺める
ホントにゆっくりだなー
まぁ、早食いは良くないからそれはいいことだけど
あ、一口小さい
伏し目がちだと、睫毛がよく目立つなぁ
てか、色白すぎない?
髪を耳に掛ける仕草は、どこか色っぽい
『…なぁに、唯歌
そんなに見られたら、流石に食べにくいんだけど』
「え、あ、ごめん
琉梨ちゃん綺麗だから、見とれてた」
『なにそれ』
口元に手を添えて、くすくすと笑う
あぁ、それすらも魅力的に映る
うん、笠松先輩が惚れたのもよく分かる
『何か聞きたいことでもあるの?』
小首を傾げた拍子に、長い髪がサラサラ、と肩を滑る
あぁ、私も髪伸ばそうかな
『唯歌?』
「え、あ、その」
『うん』
「…琉梨ちゃんって、好きな人とか、いる?」
ぱちり、と細めの目を大きく瞬かせて
そして可笑しそうに、口元を綻ばせる
『なんだ、そんなこと
凄い真剣な顔するから、告白でもされるのかと思った』
「そんな事って…
琉梨ちゃんって恋バナ嫌いじゃ無いの?」
『あら、好きよ?
人の弱みを握れるもの』
なんて、いつもよりちょっと芝居がかった口調
頬杖をついた琉梨ちゃんが、楽しそうににんまりと笑う
『唯歌も好きな人が出来たら教えてね?』
「今の発言の後に言われると微妙だなー…
それに、今はいないの確定?」
『うちの情報網には掛かってないなー』
笑いながら言う琉梨ちゃんに肩を竦める
確かに今現在はいませんが
ほんと、琉梨ちゃんは敵に回したくないなー
『それで、好きな人だっけ?』
「あ、うん!」
『好きな人ねぇ…』
呟いて、視線を窓の外へ
今日は雲一つ無い、快晴である
あぁ、今日の部活も暑いだろうなぁ…
『正直言うとね、唯歌』
「うん」
『多分、好きなんだと思う』
「…うん」
誰を、なんて野暮なことは聞かない
きっと琉梨ちゃんは、森山先輩が奮闘しているのも何となく分かっているのだろう
今気になるのは、自分の気持ちなのに曖昧な言い方であると言うことだ
『うちってね、人より欲がないみたいなんだ』
「…うん」
『だから、分かんない
基本的白黒はっきり付けなきゃ気が済まないタイプだから
あの人は好き、あの人は嫌い、そこはしっかりしてる』
「…見てたら分かる、それは」
『だよねぇ
嫌いな人はうちの世界に存在しない
好きな人だけで、うちの世界を構成する
けど、友達の優劣を付けたことはあっても、異性の優劣を付けたことはない
好きだと思う異性は、たくさん居る
それこそりょーただって好きだよ
けどそれは、みんなが聞いてくる“好き”と違うことも分かってる
独占欲だとか、所有欲だとか、そう言ったものが極端に少ない
束縛は煩わしいと思うし、束縛したいとも思わない
ある特定の異性に、うちが使う“好き”以上の感情を抱いたことが無い』
「…なんか、琉梨ちゃんらしいねぇ
告白されてもさ、お試しで付き合うとか、何となくで付き合うとか、しないんだろうなぁ」
『まぁ、根が堅物だからね、うち』
そう言って窓に向けていた視線をこちらに戻す
真っ直ぐに私を捉える視線
『でもね、今回は
今まで使ってた“好き”とは少し違う
何が違うとかは、はっきり言葉に出来ないけど』
「けど?」
『隣に居たいって、思った』
琉梨ちゃんの独白は長かった
なんだか難しいことを言われた気もする
けど、最後の言葉だけはずっと耳に残った
何処までも純粋な、琉梨ちゃんの気持ち
周りの友達から聞く、ドロドロと醜い恋愛話とは違う
何処までも透明で、真っ直ぐで、純粋な気持ち
『何て、恋と呼ぶにはまだずっと、拙い感情だと思うけど』
「そんなこと無いよ」
『唯歌?』
「そんなこと、ないよ
琉梨ちゃんはちゃんと、恋してるよ」
『…ありがとう』
だってね、琉梨ちゃん
隣に居たいって言った、その時の笑顔って
今まで見たこと無いくらい綺麗な笑顔だったんだよ
「あ、でもさ」
『うん?』
「好きなのははっきりしたけど」
『うん』
「付き合いたいとかは思わないの?」
『うーん…』
隣に居たい
それは別に、彼女じゃ無くても出来ること
だって琉梨ちゃんは、“誰よりも”とは言わなかったから
そう考えると、私達がしようとしているのは、お節介どころか、迷惑だ
『…どうなんだろ』
「あれ?」
『隣に居たいし、居て欲しい
でも、ずっと一緒に居たいわけじゃない
うちってさなかなか面倒な性格だから
自分が望んだ時以外に、過剰な干渉は求めてないの
だから、森山さんみたいなタイプは論外
わんこだって、あれはホント犬だから』
「まぁ、確かに」
『バスケ部では笠松さんと小堀さんの二択』
「最初の頃、そんなこと言ってたね、確かに」
『小堀さんは大人だから、たぶんうちの言い分に付き合ってくれそう
笠松さんは、自分から相手にちょっかい掛けるタイプじゃ無いけど、大事なときは傍に居てくれるタイプ』
「あぁ、何か凄い琉梨ちゃんの好みを把握できた気がする、今」
『はは、メンドーでしょ
付き合う、付き合わないはあんまり考えてない
部活に打ち込んでる相手に、うちの存在が障害にでもなったらいやだ』
「逆に支えになるかもよ?」
『まぁ、その時は嬉しいけど…
でも、何てゆーか…、難しいなぁ』
そう呟いて思考を巡らす
多分、一番しっくりくる、適切な言葉を探しているのだろう
だから、私はじっと待つ
ちゃんと自分の気持ちを伝えようとしてくれている琉梨ちゃんがいるから
『……あぁ』
暫くして、琉梨ちゃんが手を打った
そして、にっこりと笑う
『向こうがうちを必要なんだって手を伸ばしてきてくれたら、うちはそれでいいんだと思う』
「…えーと、つまり?」
『つまり、彼女という肩書きが欲しいんじゃ無くてね
うちを必要としてくれてる人が欲しいんだよ』
「…なるほど」
琉梨ちゃんはかなり、人と違った恋愛観を持っているらしい
すっきりした表情の琉梨ちゃんを見て思う
素敵な恋愛をするのだろう
琉梨ちゃんはきっと
甘えることを、頼ることをしない琉梨ちゃんは
ギブアンドテイクの関係に、安心するんだと思う
与えられるだけじゃ、与えるだけじゃ
均衡が取れなくて、不安定で
そんな関係の内は、壁を作ってしまう
自分を必要としてくれたとき、漸く琉梨ちゃんは自分を出せる
与えたから、甘えても不安にならない
頼っても、不安にならない
何て面倒臭いことを考えているのだろうか
きっとみんなそう思う
私も、そこまで難しく考える必要は無いんじゃないかってちょっと思う
けどその関係が一番安心するのなら、そうするしか無いのだ
IH準々決勝の後、2人に何があったのかは分からない
でも確かに琉梨ちゃんは見つけたのだろう
自分が安心できる場所を
「琉梨ちゃんに愛される人は、きっと幸せだろうなぁ」
『え、何急に』
「何となく」
真っ直ぐに見つめてくれて、受け入れてくれる
支えてくれる、救ってくれる
そうやって真っ直ぐに愛してくれるから、何かしてあげたいと思う
安っぽい言葉だけど、こういうのを愛というのだと思う
でも、我慢ばかりさせずに、ちゃんと泣かせてあげたいと思わせる、不思議な人
『…ありがとう?』
「どう致しまして」
これからどう転ぶか分からないけど、でも
出来るなら琉梨ちゃんが幸せでありますように
*****
「で、どうだった?聞き出せた?」
「まぁ…」
琉梨ちゃんと別れやって来た体育館
その途端私を迎えたのは、ドアップの森山先輩(即兄さんに回収されていたけど)
「聞き出せたんスか!?
小堀さん、よっぽど琉梨っちに信頼されてるんスねー」
「そうかな?」
「そうッスよ!」
目の前でにこにこ笑う黄瀬君に、内心眉を顰める
本人から聞いた訳じゃ無い
けど、多分、彼は…
そんな思考を断ち切るように、再び森山先輩の声が響く
楽しそうな、少し高くなった声
「…脈あり、です」
色々言葉を探って、適切な言葉を使う
森山先輩が考えるような恋愛じゃ無いから、“両思いでした”、なんて簡単に口にできない
けど、内緒に何て出来ないだろうから、それらしい言葉で
「おぉ…、くっそ、遂にカップル成立か!」
悔しがる森山先輩に苦笑
そう上手くいくのかな…
あの調子だと、琉梨ちゃんからは告白なんてしない
笠松先輩は、ちゃんと気持ちを伝えることが出来るのだろうか
ううん、琉梨ちゃんが望む言葉を、紡ぐことが出来るのだろうか
こればっかりは、私達から言えることは何も無い
「兄さん、笠松先輩の方はどうだったの?」
「…聞くまでも無く、って感じだな」
「けど、おど(ろ)きました!
キャプテン、焦って無かったッス!」
「あぁ…
今までの笠松なら、この手の話が出た時点で動揺する筈なのに」
「あぁ、その話か、でしたもんね」
「あ、琉梨ちゃんとおんなじ」
「琉梨っちと?」
「何か私達がしようとしてること、何となく分かってるみたい」
「…怖いッスわー、琉梨っち」
ホントにね
何でもバレちゃって、もう
琉梨ちゃんの知らない事なんて無いんじゃないか、って思えるほどに
そう言うと、大袈裟だって笑うんだろうけど
「って事は…
笠松の気持ちも知ってんのか?」
「…そう、何じゃ無いですかね」
「…知っててくっつかんとは…!喧嘩売ってんのか!」
「まぁまぁ、個人の事情もあるだろ?」
私と琉梨ちゃんが話している間、男子組は笠松先輩に問いただしたらしい
あと、発破も掛けた筈
あれ、じゃあ、もう動き出してても可笑しくない…?
てゆーか、発破を掛けるタイミング遅かったんじゃ…
だって笠松先輩、自分の気持ちに気付いていたもの
琉梨ちゃんが虐められていた頃
あの頃から多分、惹かれていた、筈
それを自覚していたから、琉梨ちゃんを理解出来るように頑張っていたのだから
…もしかすると、もしかするのかもしれない
準々決勝の日から、日も空いた
笠松先輩の心の準備が出来ていても、もう可笑しくない時期で
じゃあ、私達完璧から回ってる?
いや、私としては、琉梨ちゃんの本心が聞けて良かったけど
チラリ、と黄瀬君を見上げる
みんなには分からないほど一瞬伏せた瞳
あぁ、強いね
大切な人の幸せを願えるのだから
*****
side.琉梨
『すみません、お待たせしました?』
「いや…」
現在地、屋上
唯歌と別れて、そのままの足でやって来た
うちを呼び出した人物と対面する
どことなく、硬い雰囲気
呼び出しをくらったのは、今日の授業終了後
届いたメッセージを読んで、笠松先輩も気付いていたらしい事を知る
しかしまぁ、タイミングがいいことで
『分かりやすい人達ですねぇ、まったく』
「…だな」
未だにうちに背を向けたまま
グラウンドを見下ろしているのか、首は下に傾いている
だからうちも何も言わずに、給水塔の壁にもたれ掛かる
うちもだけど、この人も無器用な人だから
「…茶月」
『はい』
暫く続いた無言の空間に、先輩の声が響く
風が強く吹く
はためく髪を押さえながら、その呼びかけに応える
「…お前のことだから、大体予想ついてると思う」
『随分買い被っていらっしゃいますね』
「茶化すな」
『はい』
肩を竦めて返事をする
ごめんなさい、先輩
うちもらしくなく、ちょっとばかし緊張しているんです
「俺は別に、自分の気持ちに気付かないほど鈍くねぇ」
『はい』
「でも、知らぬフリを貫いてきた」
『はい』
「…今はバスケが一番大事だ
その後には受験も控えている」
『受験生ですもんねぇ』
「俺はそんなに器用じゃねぇから、三つも一度に大事に出来ねぇ」
『存じてます』
「けど、三つ目が出来てしまった」
そう言って、くるり、と体を反転させる
距離は遠いし、俯いている
目の悪いうちには、よく顔は見えない
「俺に、こんな事言う資格はねぇと思うが」
『そんなの、誰が決めるんですか』
「…そうだな」
フッと、笑った気がした
少しでも肩の力が抜けたなら、それでいい
先輩までがちがちに緊張していたら、それがうちにも移ってしまう
「茶月」
『はい』
「…俺は、お前が好きだ」
一瞬、息の仕方を忘れた
言われる言葉は、分かっていた筈なのに
真っ直ぐにうちを貫く瞳に、呼吸を奪われた
そんな、錯覚
「…正直、恋人らしい事は出来ねぇと思う」
『そ、ですねぇ…、色んな意味で』
「うっせ
けど、一つだけ」
『何でしょう?』
「…隣りで、見ててくれ」
その言葉が耳に届く
頭が、その言葉の意味を理解した途端、頭が真っ白になった
でも、少しずつ咀嚼して、嚥下していく度に、自然と笑みが浮かんだ
もう、こちらなど見ていないその人に、隠すこと無く笑いかけて
その体に飛びついた
「!」
『ふふ、やっぱり先輩は先輩ですねぇ
流石です』
「意味分かんねぇよ」
『褒めてるんですよ?』
「話噛み合ってねぇんだよ」
『まぁまぁ、聞いてくださいよ』
抱きついたまま見上げる
赤くなった頬に、寄せられた眉
仮にも告白した相手に、そんな険しい顔しないでくださいよ
『うちも、傍に居たいです』
一定の距離を保つための壁を、ぶち壊した
小さくとも愛は愛
(きっと、これからどんどん大きくなるのでしょう、何てね)
やぁやぁ、お嬢様方!
やって来ましたよ、俺のターン!!
「いや、違うっしょ」
「敬語!」
「大体、今の流れで、どう考えたらそうなるんスか」
「正論を!言うな!」
「…自覚はあったんスね」
「黄瀬、お前な…!
お前はいいんだよ、お前は!
もう暫くしたら、お前のターンが回ってくるからな!
しかし!よく考えてみろ!!
俺のターンが回ってくる日があるだろうか、いや無い!!」
「えーと、そう言うの何て言うんでしたっけ」
「反語だよ」
「あぁ、それ」
「ははは、一気にギャグに走り出したなぁ」
「流石も(り)山先輩ッスね!」
「うるせいやい」
「さっきからチョイチョイメタい発言しまくってんスけど、大丈夫ッスか?」
「大丈夫なんじゃないかな?」
くっそ、嫌になるぜ全く
えーと、取り敢えず現状を説明しますと
どうやら笠松が琉梨ちゃんに対しての気持ちを、遂に自覚したようで
(今までとそんなに態度が変わってないが
笠松にそんな芸当が出来るとは…)
先日会った琉帆ちゃんから聞き出したところ、琉梨ちゃんも結構、笠松に惚れてる、っぽいらしい
という感じなのである
つまり、現在絶賛両片思い中って訳でして
「くっそ、リア充め」
「まぁ、まだ付き合って無いがな」
「けど!あれはどう考えても!両思い秒読みです!」
「まぁなぁ」
「も、森山先輩、落ち着いて…」
「俺も!彼女が欲しいです!」
全力でうなだれる俺を相手にしてくれるのは、唯歌ちゃんくらいなもので
他の奴等は白けた顔で見てくる、冷たい
「こうなりゃ!全力でお節介してやる!」
「なんだかんだ、笠松先輩の事好きッスねー、森山先輩」
「はっ、誰が男なんかを好きになるか!」
「いや、そっちじゃ無いッス」
「知ってるわ!」
「あー、今日の森山先輩絡みづらいッス…」
「やさぐれてんなー」
お前等は!なんだかんだモテるだろう!
……なんだか虚しくなってきたので、此処までにしておこう
自分で自分のライフポイント削ってしまった
「と言う訳で唯歌ちゃん」
「はい?」
「それとなく琉梨ちゃんから聞き出してもらえないかな
やっぱり女の子同士の方が話しやすいだろうし」
「…そうですね、頑張ってみます!」
…あぁ、女の子可愛い
「悪いが森山、ウチの唯歌はそう簡単にやらんぞ?」
「くっそ」
勝手に心読んでんじゃないぞ、小堀!
おい、黄瀬!そっと唯歌ちゃんを俺から離して行くんじゃ無い!
俺がヤバい奴みたいだろう!
俺、一応先輩だからな!
*****
side.Y
今日は登校日で午前授業であった
昼からいつも通り部活があるので、人が少なくなった教室で、琉梨ちゃんと2人お弁当を食べている
琉梨ちゃんの席の1個前の椅子を借りて、一つの机でご飯を食べる
目の前に座る琉梨ちゃんを眺める
ホントにゆっくりだなー
まぁ、早食いは良くないからそれはいいことだけど
あ、一口小さい
伏し目がちだと、睫毛がよく目立つなぁ
てか、色白すぎない?
髪を耳に掛ける仕草は、どこか色っぽい
『…なぁに、唯歌
そんなに見られたら、流石に食べにくいんだけど』
「え、あ、ごめん
琉梨ちゃん綺麗だから、見とれてた」
『なにそれ』
口元に手を添えて、くすくすと笑う
あぁ、それすらも魅力的に映る
うん、笠松先輩が惚れたのもよく分かる
『何か聞きたいことでもあるの?』
小首を傾げた拍子に、長い髪がサラサラ、と肩を滑る
あぁ、私も髪伸ばそうかな
『唯歌?』
「え、あ、その」
『うん』
「…琉梨ちゃんって、好きな人とか、いる?」
ぱちり、と細めの目を大きく瞬かせて
そして可笑しそうに、口元を綻ばせる
『なんだ、そんなこと
凄い真剣な顔するから、告白でもされるのかと思った』
「そんな事って…
琉梨ちゃんって恋バナ嫌いじゃ無いの?」
『あら、好きよ?
人の弱みを握れるもの』
なんて、いつもよりちょっと芝居がかった口調
頬杖をついた琉梨ちゃんが、楽しそうににんまりと笑う
『唯歌も好きな人が出来たら教えてね?』
「今の発言の後に言われると微妙だなー…
それに、今はいないの確定?」
『うちの情報網には掛かってないなー』
笑いながら言う琉梨ちゃんに肩を竦める
確かに今現在はいませんが
ほんと、琉梨ちゃんは敵に回したくないなー
『それで、好きな人だっけ?』
「あ、うん!」
『好きな人ねぇ…』
呟いて、視線を窓の外へ
今日は雲一つ無い、快晴である
あぁ、今日の部活も暑いだろうなぁ…
『正直言うとね、唯歌』
「うん」
『多分、好きなんだと思う』
「…うん」
誰を、なんて野暮なことは聞かない
きっと琉梨ちゃんは、森山先輩が奮闘しているのも何となく分かっているのだろう
今気になるのは、自分の気持ちなのに曖昧な言い方であると言うことだ
『うちってね、人より欲がないみたいなんだ』
「…うん」
『だから、分かんない
基本的白黒はっきり付けなきゃ気が済まないタイプだから
あの人は好き、あの人は嫌い、そこはしっかりしてる』
「…見てたら分かる、それは」
『だよねぇ
嫌いな人はうちの世界に存在しない
好きな人だけで、うちの世界を構成する
けど、友達の優劣を付けたことはあっても、異性の優劣を付けたことはない
好きだと思う異性は、たくさん居る
それこそりょーただって好きだよ
けどそれは、みんなが聞いてくる“好き”と違うことも分かってる
独占欲だとか、所有欲だとか、そう言ったものが極端に少ない
束縛は煩わしいと思うし、束縛したいとも思わない
ある特定の異性に、うちが使う“好き”以上の感情を抱いたことが無い』
「…なんか、琉梨ちゃんらしいねぇ
告白されてもさ、お試しで付き合うとか、何となくで付き合うとか、しないんだろうなぁ」
『まぁ、根が堅物だからね、うち』
そう言って窓に向けていた視線をこちらに戻す
真っ直ぐに私を捉える視線
『でもね、今回は
今まで使ってた“好き”とは少し違う
何が違うとかは、はっきり言葉に出来ないけど』
「けど?」
『隣に居たいって、思った』
琉梨ちゃんの独白は長かった
なんだか難しいことを言われた気もする
けど、最後の言葉だけはずっと耳に残った
何処までも純粋な、琉梨ちゃんの気持ち
周りの友達から聞く、ドロドロと醜い恋愛話とは違う
何処までも透明で、真っ直ぐで、純粋な気持ち
『何て、恋と呼ぶにはまだずっと、拙い感情だと思うけど』
「そんなこと無いよ」
『唯歌?』
「そんなこと、ないよ
琉梨ちゃんはちゃんと、恋してるよ」
『…ありがとう』
だってね、琉梨ちゃん
隣に居たいって言った、その時の笑顔って
今まで見たこと無いくらい綺麗な笑顔だったんだよ
「あ、でもさ」
『うん?』
「好きなのははっきりしたけど」
『うん』
「付き合いたいとかは思わないの?」
『うーん…』
隣に居たい
それは別に、彼女じゃ無くても出来ること
だって琉梨ちゃんは、“誰よりも”とは言わなかったから
そう考えると、私達がしようとしているのは、お節介どころか、迷惑だ
『…どうなんだろ』
「あれ?」
『隣に居たいし、居て欲しい
でも、ずっと一緒に居たいわけじゃない
うちってさなかなか面倒な性格だから
自分が望んだ時以外に、過剰な干渉は求めてないの
だから、森山さんみたいなタイプは論外
わんこだって、あれはホント犬だから』
「まぁ、確かに」
『バスケ部では笠松さんと小堀さんの二択』
「最初の頃、そんなこと言ってたね、確かに」
『小堀さんは大人だから、たぶんうちの言い分に付き合ってくれそう
笠松さんは、自分から相手にちょっかい掛けるタイプじゃ無いけど、大事なときは傍に居てくれるタイプ』
「あぁ、何か凄い琉梨ちゃんの好みを把握できた気がする、今」
『はは、メンドーでしょ
付き合う、付き合わないはあんまり考えてない
部活に打ち込んでる相手に、うちの存在が障害にでもなったらいやだ』
「逆に支えになるかもよ?」
『まぁ、その時は嬉しいけど…
でも、何てゆーか…、難しいなぁ』
そう呟いて思考を巡らす
多分、一番しっくりくる、適切な言葉を探しているのだろう
だから、私はじっと待つ
ちゃんと自分の気持ちを伝えようとしてくれている琉梨ちゃんがいるから
『……あぁ』
暫くして、琉梨ちゃんが手を打った
そして、にっこりと笑う
『向こうがうちを必要なんだって手を伸ばしてきてくれたら、うちはそれでいいんだと思う』
「…えーと、つまり?」
『つまり、彼女という肩書きが欲しいんじゃ無くてね
うちを必要としてくれてる人が欲しいんだよ』
「…なるほど」
琉梨ちゃんはかなり、人と違った恋愛観を持っているらしい
すっきりした表情の琉梨ちゃんを見て思う
素敵な恋愛をするのだろう
琉梨ちゃんはきっと
甘えることを、頼ることをしない琉梨ちゃんは
ギブアンドテイクの関係に、安心するんだと思う
与えられるだけじゃ、与えるだけじゃ
均衡が取れなくて、不安定で
そんな関係の内は、壁を作ってしまう
自分を必要としてくれたとき、漸く琉梨ちゃんは自分を出せる
与えたから、甘えても不安にならない
頼っても、不安にならない
何て面倒臭いことを考えているのだろうか
きっとみんなそう思う
私も、そこまで難しく考える必要は無いんじゃないかってちょっと思う
けどその関係が一番安心するのなら、そうするしか無いのだ
IH準々決勝の後、2人に何があったのかは分からない
でも確かに琉梨ちゃんは見つけたのだろう
自分が安心できる場所を
「琉梨ちゃんに愛される人は、きっと幸せだろうなぁ」
『え、何急に』
「何となく」
真っ直ぐに見つめてくれて、受け入れてくれる
支えてくれる、救ってくれる
そうやって真っ直ぐに愛してくれるから、何かしてあげたいと思う
安っぽい言葉だけど、こういうのを愛というのだと思う
でも、我慢ばかりさせずに、ちゃんと泣かせてあげたいと思わせる、不思議な人
『…ありがとう?』
「どう致しまして」
これからどう転ぶか分からないけど、でも
出来るなら琉梨ちゃんが幸せでありますように
*****
「で、どうだった?聞き出せた?」
「まぁ…」
琉梨ちゃんと別れやって来た体育館
その途端私を迎えたのは、ドアップの森山先輩(即兄さんに回収されていたけど)
「聞き出せたんスか!?
小堀さん、よっぽど琉梨っちに信頼されてるんスねー」
「そうかな?」
「そうッスよ!」
目の前でにこにこ笑う黄瀬君に、内心眉を顰める
本人から聞いた訳じゃ無い
けど、多分、彼は…
そんな思考を断ち切るように、再び森山先輩の声が響く
楽しそうな、少し高くなった声
「…脈あり、です」
色々言葉を探って、適切な言葉を使う
森山先輩が考えるような恋愛じゃ無いから、“両思いでした”、なんて簡単に口にできない
けど、内緒に何て出来ないだろうから、それらしい言葉で
「おぉ…、くっそ、遂にカップル成立か!」
悔しがる森山先輩に苦笑
そう上手くいくのかな…
あの調子だと、琉梨ちゃんからは告白なんてしない
笠松先輩は、ちゃんと気持ちを伝えることが出来るのだろうか
ううん、琉梨ちゃんが望む言葉を、紡ぐことが出来るのだろうか
こればっかりは、私達から言えることは何も無い
「兄さん、笠松先輩の方はどうだったの?」
「…聞くまでも無く、って感じだな」
「けど、おど(ろ)きました!
キャプテン、焦って無かったッス!」
「あぁ…
今までの笠松なら、この手の話が出た時点で動揺する筈なのに」
「あぁ、その話か、でしたもんね」
「あ、琉梨ちゃんとおんなじ」
「琉梨っちと?」
「何か私達がしようとしてること、何となく分かってるみたい」
「…怖いッスわー、琉梨っち」
ホントにね
何でもバレちゃって、もう
琉梨ちゃんの知らない事なんて無いんじゃないか、って思えるほどに
そう言うと、大袈裟だって笑うんだろうけど
「って事は…
笠松の気持ちも知ってんのか?」
「…そう、何じゃ無いですかね」
「…知っててくっつかんとは…!喧嘩売ってんのか!」
「まぁまぁ、個人の事情もあるだろ?」
私と琉梨ちゃんが話している間、男子組は笠松先輩に問いただしたらしい
あと、発破も掛けた筈
あれ、じゃあ、もう動き出してても可笑しくない…?
てゆーか、発破を掛けるタイミング遅かったんじゃ…
だって笠松先輩、自分の気持ちに気付いていたもの
琉梨ちゃんが虐められていた頃
あの頃から多分、惹かれていた、筈
それを自覚していたから、琉梨ちゃんを理解出来るように頑張っていたのだから
…もしかすると、もしかするのかもしれない
準々決勝の日から、日も空いた
笠松先輩の心の準備が出来ていても、もう可笑しくない時期で
じゃあ、私達完璧から回ってる?
いや、私としては、琉梨ちゃんの本心が聞けて良かったけど
チラリ、と黄瀬君を見上げる
みんなには分からないほど一瞬伏せた瞳
あぁ、強いね
大切な人の幸せを願えるのだから
*****
side.琉梨
『すみません、お待たせしました?』
「いや…」
現在地、屋上
唯歌と別れて、そのままの足でやって来た
うちを呼び出した人物と対面する
どことなく、硬い雰囲気
呼び出しをくらったのは、今日の授業終了後
届いたメッセージを読んで、笠松先輩も気付いていたらしい事を知る
しかしまぁ、タイミングがいいことで
『分かりやすい人達ですねぇ、まったく』
「…だな」
未だにうちに背を向けたまま
グラウンドを見下ろしているのか、首は下に傾いている
だからうちも何も言わずに、給水塔の壁にもたれ掛かる
うちもだけど、この人も無器用な人だから
「…茶月」
『はい』
暫く続いた無言の空間に、先輩の声が響く
風が強く吹く
はためく髪を押さえながら、その呼びかけに応える
「…お前のことだから、大体予想ついてると思う」
『随分買い被っていらっしゃいますね』
「茶化すな」
『はい』
肩を竦めて返事をする
ごめんなさい、先輩
うちもらしくなく、ちょっとばかし緊張しているんです
「俺は別に、自分の気持ちに気付かないほど鈍くねぇ」
『はい』
「でも、知らぬフリを貫いてきた」
『はい』
「…今はバスケが一番大事だ
その後には受験も控えている」
『受験生ですもんねぇ』
「俺はそんなに器用じゃねぇから、三つも一度に大事に出来ねぇ」
『存じてます』
「けど、三つ目が出来てしまった」
そう言って、くるり、と体を反転させる
距離は遠いし、俯いている
目の悪いうちには、よく顔は見えない
「俺に、こんな事言う資格はねぇと思うが」
『そんなの、誰が決めるんですか』
「…そうだな」
フッと、笑った気がした
少しでも肩の力が抜けたなら、それでいい
先輩までがちがちに緊張していたら、それがうちにも移ってしまう
「茶月」
『はい』
「…俺は、お前が好きだ」
一瞬、息の仕方を忘れた
言われる言葉は、分かっていた筈なのに
真っ直ぐにうちを貫く瞳に、呼吸を奪われた
そんな、錯覚
「…正直、恋人らしい事は出来ねぇと思う」
『そ、ですねぇ…、色んな意味で』
「うっせ
けど、一つだけ」
『何でしょう?』
「…隣りで、見ててくれ」
その言葉が耳に届く
頭が、その言葉の意味を理解した途端、頭が真っ白になった
でも、少しずつ咀嚼して、嚥下していく度に、自然と笑みが浮かんだ
もう、こちらなど見ていないその人に、隠すこと無く笑いかけて
その体に飛びついた
「!」
『ふふ、やっぱり先輩は先輩ですねぇ
流石です』
「意味分かんねぇよ」
『褒めてるんですよ?』
「話噛み合ってねぇんだよ」
『まぁまぁ、聞いてくださいよ』
抱きついたまま見上げる
赤くなった頬に、寄せられた眉
仮にも告白した相手に、そんな険しい顔しないでくださいよ
『うちも、傍に居たいです』
一定の距離を保つための壁を、ぶち壊した
小さくとも愛は愛
(きっと、これからどんどん大きくなるのでしょう、何てね)