君とありふれた話をしよう
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「ねぇ、岸辺ちゃんはドライブとか好き?」
それは、もう何度目の邂逅かなんて数えることがなくなったそんな時の話題
車を運転するのが好きで、休みの日は1人で車を走らせることがあるのだと話していた流れだったと思う
車酔いするようなタイプではないが、自身で運転することはあまりない
けれど、誰かに連れられてちょっとした遠出をするのは嫌いじゃない
そう言った旨を伝えて、その時はそのまま旅行の話へと話が流れていったような気がする
何故今そんな回想話を持ち出したかというと、数週間ぶりに会う彼、萩原さんにドライブに誘われたからだ
「久々に車走らせたい気分になってさー
岸辺ちゃんも気分転換にどう?」
前回の飲みで、最近ずっと仕事が忙しい、と言う話をぽつりとしたばかりだった
そこから今回、こうして話を切り出されてしまえば、気を遣わせてしまったな、なんて思わざるを得なくて
でも、この人は絶対に俺が行きたいだけ、とか、1人だと寂しいから、とか、私のため、なんて事は言わない
本当に車を走らせたいだけなのかもしれないし、深読みしすぎなのかもしれない
けれど、多少なりとも私のため、と言う感情が含まれていると言う事は分かっている
それを私が気付いて居ると言う事もきっと分かっていて、それでも構わないと言うように、にこにこ、と笑いながら話題を持ちかける
だったら私は、その申し出を有り難く受け取るしかなくて
『どの辺まで行くんですか?』
「どうしよっかなー、目的地決めずに走るのって不安な人?」
『特に予定がないのであれば構わないと思う人です』
「じゃあ、ちょっと適当に走ろっか」
『楽しそうですね』
そうしてよく分からない流れのまま、ドライブの予定が決まってしまった
よく考えれば予定を合わせてわざわざ出掛ける、というのは飲み友達の域を超えてしまったのではないだろうか
だとしたらこの少し不思議な関係の名前は一体何と変わってしまうのだろうか
そんな小難しく考える必要なんてないよ、と脳内で萩原さんが笑う
うん、彼ならそう言いそう
そんなこと考えてしまって、自分でも笑ってしまう
きっと、飲み、と言う言葉が消えて友達というモノに移り変わっただけ
大人になってからの新たな関係の構築は、学生の頃ほど単純でなくて、いろいろ裏側を探ってしまう
別に嫌なことではないのだから、仲が深まった、それだけでいいはずなのに
少しむず痒くなってしまうのは何でなのだろうか
服装のことや、メイクのことや、髪型のこと
そんなことを考えてそわそわしてしまう自分がいるのが少しだけ居心地が悪くて
そんな自分を掻き消すように、布団を頭から被って眠りについた
*****
そうして流されるまま当日
晴天、と言っていいほどに天気はよく、強いて言えば少し風が強い程度
家まで迎えに来てくれると言う言葉に甘え、萩原さんの連絡を待つ
どこに行くか決まっていないドライブで
色々考えないことはないけれど、今まで彼と2人で会話に困った事はないのでまぁ、その辺りは目を瞑って
少しだけ緊張している自分に気付いて苦笑を零す
見ず知らずの他人ではない
しっかりとした立場も分かっている人
それでもどこか落ち着かないのは、自身が男性との関わりが少々希薄だったから
それだけに過ぎない
何て自分に言い聞かせるように頭の中で唱えて
震えた携帯の通知を確認して、家を出た
「おまたせ」
『お迎えありがとうございます』
「これくらいお安いご用だよ」
にこにこ、と相変わらずさわやかに笑って
態々降りてきて、助手席の扉を開けてエスコートされる
随分と様になるその仕草に少しだけ苦笑して乗り込む
丁寧に扉を閉めた彼は自身も車に乗り込んで、ゆっくりと発進させる
「折角いい天気だし、海辺の方走ってみようかと思うんだけど、どう?」
『いいと思います』
「じゃあ、その方針で」
そんな軽いノリで始まったドライブは、存外楽しい物で
話し上手な萩原さんは良いテンポで会話を繰り広げてくれるし、こちらに話を振って話題も広げてくれる
こちらも少々仕事の愚痴を溢せば、俺もさー、何て言ってこちらが気を遣わないで良いように自身の愚痴も溢してくる
信号で止まった拍子に、以前話した兄の結婚式の写真を見せたりして案外車内は盛り上がった
「岸辺ちゃんとお兄さん、あんまり似てないんだね」
『兄は性格も見た目も母似な物で、私は完全に父似です』
「なるほど、それでか」
『お酒が強いのは完全に母の血ではありますけどね』
「お母さんが一番強いの?」
『そうですね…、あの人が酔ってるとこ見たことありません』
「岸辺ちゃんもだよ?」
『私より飲んでます、日本酒とか、焼酎とか度数高いの割らずに飲みますからね』
「おぉう、それはなかなかの猛者…」
苦笑混じりに言う萩原さんには頷いておく
そうなの、あの人化物なんだよね
私はペース配分が上手いだけで、あの人よりは飲めないから
たまに家に帰って一緒に飲むけど、毎度感心する程
酒を浴びるとはこういうことか、なんて感心してしまう
『けど、ワインだけは飲めないんですよ、あの人』
「へぇ」
『面白いですよね、お酒って』
結局お酒の話になってしまっている私達は、ほんと飲んだくれなんだろう
今日は車だから飲む予定などないのだけれど
それから家族の話に移り変わっていく
萩原さんのお姉さんも同じ警察だというので、新鮮な気持ち
こちらの兄妹の話は何度かしたことがあるが、萩原さんから聞くことはあまりなかったから
「よーし、一旦休憩」
出発してどれくらいの時間が経ったのか、そんなことを忘れるくらい楽しい時間
海辺で停めた車から降りて思い切り伸びをすると、潮の香りが鼻を掠める
これが好きなんだよなぁ、何て思いながら堤防から見える海を覗き込む
『運転お疲れ様です』
「いや、好きでやってることだからこれくらいどうって事ないんだけどね」
そう言ってさわやかに笑うこの人は、本当に人たらしだと思う
そんな感想は飲み込んで、打ち寄せる波の音に耳を澄ませると、気持ちが落ち着いてくる
これだから海が好きなんだ
泳いだりするのはあんまりだけど
「この後どうする?お腹空いた?」
『お昼回ってますもんね、ちょっと空いてます』
「んじゃ、この辺の店調べるかー
岸辺ちゃん食べれないものとかある?」
『特に何も無いですね』
「オッケー」
こう言う事をさらりとやってしまうから、さゆからはプレイボーイ言われるんだろうな
こいこい、と手招きをされて近付いて一緒に携帯を覗き込む
見やすいように、と少し下げられた手に、身長差をより自覚して
『あ、ここ美味しそう』
「これ?」
『うん、萩原さん平気そう?』
「俺も何でも食べれるよん、んじゃここにしよっか」
ふと、見上げた時の顔の近さに、少しだけ息が詰まる
本当に綺麗な顔をした人だな、なんて頭の悪そうなことを考えて
当たり前の様に電話して予約してくれるその姿をぼんやりと眺めていた
「オッケーだって、行こっか」
『あ、はい』
ぱっ、とこちらをみた萩原さんがにこやかに話し掛ける
少しだけ動揺したこの気持ちを見抜かれないように、いつも通りを装って返事をする
先程と同じように助手席に乗り込むのだけれど、少しだけ落ち着かない気持ちになった事に気付かれてなければ良いのだけれど
*****
それから少し遅めの昼食を摂って、何とか平常心に戻った自身に安堵してドライブは続いた
途中気になる店があれば立ち寄ったりして穏やかな時間
話題も心配していたほど尽きることもなくて、楽しくて
日が暮れだした頃、漸く帰路について
安全運転、と言える安定した運転は少々眠気を誘う物ではあったけれど
「いやー、今日は付き合ってくれてありがとね」
『こちらこそ、楽しかったです』
「それはよかった」
ここまで遠出したのは久しぶりだった
最近は職場と家の行き来しかしていなかったので、気分転換になったことには違いない
自分は余り運転しないので分からないが、本当に疲れていないのか心配にはなったけど
『あ、そう言えばガソリン代幾らくらいです?』
「え、いーよいーよ、付き合ってもらったんだし」
『いや、なかなかの遠出でそれは…
私も働いてますし』
「んー、じゃあさ」
にんまり、悪戯っ子の様な笑みを浮かべた萩原さん
ちょうど信号で止まっているこのタイミングで、こちらを楽しそうに見遣って
「代わりと言っちゃ何だけど、今月俺誕生日なんだよね」
『え、そうなんですか?おめでとうございます』
「ありがとう
だからさ、予定さえなければ俺と会って祝ってくれない?」
そう言って車を走らせる
なんて事ない会話で、きっと何の意味もない提案
私が気にしないで良いように、優しいこの人は気を遣ってくれているだけ
一々言葉の裏側を探ってしまう自分が嫌になる
○日なんだけどー、なんて楽しそうに話を続ける萩原さんに、無意識で体が動く
スケジュールを開けば、運が良いのか悪いのかその日は休みで
何も気にする必要はない
こうして飲み以外で会うことを許容しているのだ、こう言った提案をされることも予期できていた物の筈で
ざわざわ、再び落ち着かなくなった心とは裏腹に、冷静な声色で言葉を交わす
とんとん拍子に決まっていく予定に、表現しがたい感情が胸を占めていく
そんな私の変化に気付かれていないことだけが唯一の救いだ
「じゃあ、目一杯オシャレしてきてね
おやすみ」
気付けば自宅前
車を降りる前に楽しそうに投げかけてくる萩原さんに、再び心がざわついて
きっと誰にでも言っていること
彼の性格から考えれば、深い意味は一切ない
誕生日を、それ程特別視しない人だって居るし、それは人の価値観で
私は別に特別ではない、とそんなことを言い聞かせては虚しさが満ちて
そんな自分が情けなくて、何でこんなにムキになって否定しているのだろう、と少しだけ腹が立つ
車を走らせて去って行く萩原さんを見送って、部屋へと足を運ぶ
自覚してしまいそうな感情は、少しだけ乱れた心のせいにして蓋をして
全てを飲み込み仕舞いたい
(気付いてしまうと、きっと苦しくなる物だから)
それは、もう何度目の邂逅かなんて数えることがなくなったそんな時の話題
車を運転するのが好きで、休みの日は1人で車を走らせることがあるのだと話していた流れだったと思う
車酔いするようなタイプではないが、自身で運転することはあまりない
けれど、誰かに連れられてちょっとした遠出をするのは嫌いじゃない
そう言った旨を伝えて、その時はそのまま旅行の話へと話が流れていったような気がする
何故今そんな回想話を持ち出したかというと、数週間ぶりに会う彼、萩原さんにドライブに誘われたからだ
「久々に車走らせたい気分になってさー
岸辺ちゃんも気分転換にどう?」
前回の飲みで、最近ずっと仕事が忙しい、と言う話をぽつりとしたばかりだった
そこから今回、こうして話を切り出されてしまえば、気を遣わせてしまったな、なんて思わざるを得なくて
でも、この人は絶対に俺が行きたいだけ、とか、1人だと寂しいから、とか、私のため、なんて事は言わない
本当に車を走らせたいだけなのかもしれないし、深読みしすぎなのかもしれない
けれど、多少なりとも私のため、と言う感情が含まれていると言う事は分かっている
それを私が気付いて居ると言う事もきっと分かっていて、それでも構わないと言うように、にこにこ、と笑いながら話題を持ちかける
だったら私は、その申し出を有り難く受け取るしかなくて
『どの辺まで行くんですか?』
「どうしよっかなー、目的地決めずに走るのって不安な人?」
『特に予定がないのであれば構わないと思う人です』
「じゃあ、ちょっと適当に走ろっか」
『楽しそうですね』
そうしてよく分からない流れのまま、ドライブの予定が決まってしまった
よく考えれば予定を合わせてわざわざ出掛ける、というのは飲み友達の域を超えてしまったのではないだろうか
だとしたらこの少し不思議な関係の名前は一体何と変わってしまうのだろうか
そんな小難しく考える必要なんてないよ、と脳内で萩原さんが笑う
うん、彼ならそう言いそう
そんなこと考えてしまって、自分でも笑ってしまう
きっと、飲み、と言う言葉が消えて友達というモノに移り変わっただけ
大人になってからの新たな関係の構築は、学生の頃ほど単純でなくて、いろいろ裏側を探ってしまう
別に嫌なことではないのだから、仲が深まった、それだけでいいはずなのに
少しむず痒くなってしまうのは何でなのだろうか
服装のことや、メイクのことや、髪型のこと
そんなことを考えてそわそわしてしまう自分がいるのが少しだけ居心地が悪くて
そんな自分を掻き消すように、布団を頭から被って眠りについた
*****
そうして流されるまま当日
晴天、と言っていいほどに天気はよく、強いて言えば少し風が強い程度
家まで迎えに来てくれると言う言葉に甘え、萩原さんの連絡を待つ
どこに行くか決まっていないドライブで
色々考えないことはないけれど、今まで彼と2人で会話に困った事はないのでまぁ、その辺りは目を瞑って
少しだけ緊張している自分に気付いて苦笑を零す
見ず知らずの他人ではない
しっかりとした立場も分かっている人
それでもどこか落ち着かないのは、自身が男性との関わりが少々希薄だったから
それだけに過ぎない
何て自分に言い聞かせるように頭の中で唱えて
震えた携帯の通知を確認して、家を出た
「おまたせ」
『お迎えありがとうございます』
「これくらいお安いご用だよ」
にこにこ、と相変わらずさわやかに笑って
態々降りてきて、助手席の扉を開けてエスコートされる
随分と様になるその仕草に少しだけ苦笑して乗り込む
丁寧に扉を閉めた彼は自身も車に乗り込んで、ゆっくりと発進させる
「折角いい天気だし、海辺の方走ってみようかと思うんだけど、どう?」
『いいと思います』
「じゃあ、その方針で」
そんな軽いノリで始まったドライブは、存外楽しい物で
話し上手な萩原さんは良いテンポで会話を繰り広げてくれるし、こちらに話を振って話題も広げてくれる
こちらも少々仕事の愚痴を溢せば、俺もさー、何て言ってこちらが気を遣わないで良いように自身の愚痴も溢してくる
信号で止まった拍子に、以前話した兄の結婚式の写真を見せたりして案外車内は盛り上がった
「岸辺ちゃんとお兄さん、あんまり似てないんだね」
『兄は性格も見た目も母似な物で、私は完全に父似です』
「なるほど、それでか」
『お酒が強いのは完全に母の血ではありますけどね』
「お母さんが一番強いの?」
『そうですね…、あの人が酔ってるとこ見たことありません』
「岸辺ちゃんもだよ?」
『私より飲んでます、日本酒とか、焼酎とか度数高いの割らずに飲みますからね』
「おぉう、それはなかなかの猛者…」
苦笑混じりに言う萩原さんには頷いておく
そうなの、あの人化物なんだよね
私はペース配分が上手いだけで、あの人よりは飲めないから
たまに家に帰って一緒に飲むけど、毎度感心する程
酒を浴びるとはこういうことか、なんて感心してしまう
『けど、ワインだけは飲めないんですよ、あの人』
「へぇ」
『面白いですよね、お酒って』
結局お酒の話になってしまっている私達は、ほんと飲んだくれなんだろう
今日は車だから飲む予定などないのだけれど
それから家族の話に移り変わっていく
萩原さんのお姉さんも同じ警察だというので、新鮮な気持ち
こちらの兄妹の話は何度かしたことがあるが、萩原さんから聞くことはあまりなかったから
「よーし、一旦休憩」
出発してどれくらいの時間が経ったのか、そんなことを忘れるくらい楽しい時間
海辺で停めた車から降りて思い切り伸びをすると、潮の香りが鼻を掠める
これが好きなんだよなぁ、何て思いながら堤防から見える海を覗き込む
『運転お疲れ様です』
「いや、好きでやってることだからこれくらいどうって事ないんだけどね」
そう言ってさわやかに笑うこの人は、本当に人たらしだと思う
そんな感想は飲み込んで、打ち寄せる波の音に耳を澄ませると、気持ちが落ち着いてくる
これだから海が好きなんだ
泳いだりするのはあんまりだけど
「この後どうする?お腹空いた?」
『お昼回ってますもんね、ちょっと空いてます』
「んじゃ、この辺の店調べるかー
岸辺ちゃん食べれないものとかある?」
『特に何も無いですね』
「オッケー」
こう言う事をさらりとやってしまうから、さゆからはプレイボーイ言われるんだろうな
こいこい、と手招きをされて近付いて一緒に携帯を覗き込む
見やすいように、と少し下げられた手に、身長差をより自覚して
『あ、ここ美味しそう』
「これ?」
『うん、萩原さん平気そう?』
「俺も何でも食べれるよん、んじゃここにしよっか」
ふと、見上げた時の顔の近さに、少しだけ息が詰まる
本当に綺麗な顔をした人だな、なんて頭の悪そうなことを考えて
当たり前の様に電話して予約してくれるその姿をぼんやりと眺めていた
「オッケーだって、行こっか」
『あ、はい』
ぱっ、とこちらをみた萩原さんがにこやかに話し掛ける
少しだけ動揺したこの気持ちを見抜かれないように、いつも通りを装って返事をする
先程と同じように助手席に乗り込むのだけれど、少しだけ落ち着かない気持ちになった事に気付かれてなければ良いのだけれど
*****
それから少し遅めの昼食を摂って、何とか平常心に戻った自身に安堵してドライブは続いた
途中気になる店があれば立ち寄ったりして穏やかな時間
話題も心配していたほど尽きることもなくて、楽しくて
日が暮れだした頃、漸く帰路について
安全運転、と言える安定した運転は少々眠気を誘う物ではあったけれど
「いやー、今日は付き合ってくれてありがとね」
『こちらこそ、楽しかったです』
「それはよかった」
ここまで遠出したのは久しぶりだった
最近は職場と家の行き来しかしていなかったので、気分転換になったことには違いない
自分は余り運転しないので分からないが、本当に疲れていないのか心配にはなったけど
『あ、そう言えばガソリン代幾らくらいです?』
「え、いーよいーよ、付き合ってもらったんだし」
『いや、なかなかの遠出でそれは…
私も働いてますし』
「んー、じゃあさ」
にんまり、悪戯っ子の様な笑みを浮かべた萩原さん
ちょうど信号で止まっているこのタイミングで、こちらを楽しそうに見遣って
「代わりと言っちゃ何だけど、今月俺誕生日なんだよね」
『え、そうなんですか?おめでとうございます』
「ありがとう
だからさ、予定さえなければ俺と会って祝ってくれない?」
そう言って車を走らせる
なんて事ない会話で、きっと何の意味もない提案
私が気にしないで良いように、優しいこの人は気を遣ってくれているだけ
一々言葉の裏側を探ってしまう自分が嫌になる
○日なんだけどー、なんて楽しそうに話を続ける萩原さんに、無意識で体が動く
スケジュールを開けば、運が良いのか悪いのかその日は休みで
何も気にする必要はない
こうして飲み以外で会うことを許容しているのだ、こう言った提案をされることも予期できていた物の筈で
ざわざわ、再び落ち着かなくなった心とは裏腹に、冷静な声色で言葉を交わす
とんとん拍子に決まっていく予定に、表現しがたい感情が胸を占めていく
そんな私の変化に気付かれていないことだけが唯一の救いだ
「じゃあ、目一杯オシャレしてきてね
おやすみ」
気付けば自宅前
車を降りる前に楽しそうに投げかけてくる萩原さんに、再び心がざわついて
きっと誰にでも言っていること
彼の性格から考えれば、深い意味は一切ない
誕生日を、それ程特別視しない人だって居るし、それは人の価値観で
私は別に特別ではない、とそんなことを言い聞かせては虚しさが満ちて
そんな自分が情けなくて、何でこんなにムキになって否定しているのだろう、と少しだけ腹が立つ
車を走らせて去って行く萩原さんを見送って、部屋へと足を運ぶ
自覚してしまいそうな感情は、少しだけ乱れた心のせいにして蓋をして
全てを飲み込み仕舞いたい
(気付いてしまうと、きっと苦しくなる物だから)
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