君の生きる理由になりたい
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
前回の交換条件というか契約の後、私達の関係が著しく変化する、と言う事は無く
元々シフト制で不規則勤務な私と、探偵の傍らアルバイトもしている彼とそう予定も合うはずも無く
まぁ、私にしては珍しく割と頻繁に連絡は取り合うし(現状報告とも言う)、彼が勤務している時間帯にポアロに赴いたり、と一応何もしていないわけでは無い
だからこそ
「みお姉!今日こそは吐いて貰うわよ!」
園子に捕まるという面倒な事態に発展したというわけで
そりゃね、引きこもりの私が何の用事も無いのに態々ポアロにまで足を運ぶ筈なんてないよね
私に何か合った、と言う推理までは合ってるんだけど、その理由が見当違いなんだよなー、この子は
ポアロとは別の喫茶店のテーブル席
壁際に追いやられ、目の前には園子と蘭
私の横では、遠い目をしたコナンくんがオレンジジュースを飲んでいた
何で俺ここに居るんだろ、とでも思ってそうな顔である
目の前で詰め寄ってくる園子を軽くスルーし、紅茶を啜っていれば、園子にカップを取り上げられた
ホント、人様の人間関係に首を突っ込まないでほしい
『吐くって何を?』
「しらばっくれてんじゃ無いわよ!この間のパーティーの後から距離近いわよ」
『そう?馴れただけじゃ無い?』
「確かにみお姉は馴れた人間にはパーソナルスペース狭くなる人だけど!
こんなすぐに打ち解けるなんて今まで無かったじゃない」
『相性が良かったんだよ』
「自分の警戒心の強さ、舐めてんじゃ無いわよ」
『そんな誰彼構わず警戒なんてしてたらしんどいじゃ無い』
「どの口が!」
『この口が』
のらりくらり、と躱して園子から奪い返した紅茶を啜る
同時に頼んでいたレアチーズケーキも口に含み、広がる甘味に僅かに頬を緩ませる
ここのケーキ美味しい
もぐもぐ、と口を動かしていると、恨みがましげに正面から睨みつけてくる園子に苦笑
人様の恋愛事情など面白くも無いだろうに、女子高生とは面倒臭いものである
こくん、と小さく喉を動かし飲み込んでため息
何を勘違いしたのか、ぱっと表情を明るくさせた園子に更に深いため息を吐き出す
『園子』
「なになに!?」
『過干渉は鬱陶しい』
「これさえも過干渉!?みお姉秘密主義過ぎ!」
『人の人間関係に首突っ込まないで
付き合ってる人が居るなら居るって言うし、結婚するようなことになってもちゃんと報告する
無理矢理聞き出そうとされるのが一番嫌い』
すっぱり切って捨てるように言えば、うぐ、と言葉を詰まらす園子
長い付き合いな為、この程度で私がキレたとは思わないだろうが、機嫌を損ねかけている事は理解するだろう
隣に居る蘭もその事を察したのか、困り顔で園子を諫めに入る
また小さくため息を吐き出して、残りの一口のケーキを口に放り込む
そう言った話が好きなのは分かるし、聞くだけならいくらでもするから巻き込まないでほしい
『この前面倒臭いことになってるって話したでしょ』
「この前って、パーティーの前?」
「あ、あの合コンの事?」
きょとん、とした園子とは対照的に蘭は合点がいったらしく問うてくる
その質問に首肯で応えて、再び紅茶を一口
『あんまりにも同僚がしつこいもんで一応参加したらストーカー騒ぎになりかけてるから依頼しただけ
今は探偵とクライアントの関係だから』
これ言うと更に面倒なことになりそうだから黙っていたというのにこのミス好奇心は…
ため息を吐き出せば、目の前の2人は顔を見合わせて今度は心配そうな顔に作り替えた
以前も語った通り、ストーカー騒ぎが合ったのはこれが初めてでは無い
馴れるものでは無いが、あまり恐怖心は抱いていない
「大丈夫なの、それ…」
「職場は知られてるんだよね」
『相手の素性が知れてる分捜査もしやすいし、私も警戒しやすい
安室さんも動いてくれてるし、その内何とかなるでしょ』
この話はこれでおしまい、と暗に匂わせて言えば、目の前の2人は大人しくなる
横からは突き刺さるような視線があるが、その程度で物怖じする私でも無い
長い付き合い且つ身内だ、遠慮無くスルーさせて貰う
「もう、早く彼氏作って真っ向から守ってもらえる存在作りなさいよ!」
『一人で生きていける系女子なもんで
じゃあ、私はこれで』
伝票を持って立ち上がる
この後は安室さんと情報共有という名の近況報告だ
ストーカー男が漸く安室さんという存在に気付き、最近のメッセージは苛烈になってきているのだ
「ホゥ、漸くですか」
『はい、漸くです』
「プライベートを常に監視するほどの時間は割いていない
普通に社会人としての生活を送りながら、みおさんという彼女がいるという妄想に浸っている、と言うところでしょうか」
『いい迷惑です』
「全くです」
誰に話を聞かれるか分からないため、現在地は安室さんの車である
乗り物には弱いため、了承を貰って窓を開けている
なかなか決定打となる動きをしてくれないため、こちらも少々手を拱いているのだ
そういう所も面倒臭い
「それにしても、随分豊かな想像力の持ち主のようで」
『えぇ、本当に』
「もし本当の彼氏だとしても、こう言った形の残る物でのこの手の話題はマナー違反でしょうに」
『モテないでしょうねぇ』
「ご尤もで」
しても居ない情事の話をつらつらと
逞しすぎる想像力に、脱帽である
『そろそろ、本格的に、気持ち悪いです』
「貴女こそ漸くですか」
『飽きると思ったんですよねー』
再び増えた通知の数字にうんざりして画面のバックライトを落とす
ちょっと疲れたなー
シートに深く凭れてため息を吐く
ズルズルと続くこの状況は、少なくともストレスにはなっている
ただでさえストレスの多い仕事だというのに、これ以上負荷を増やさないで欲しいものである
『どうしましょうか、安室さん』
「そうですね、現状では…」
『どうにも難しいですよねー、分かってます』
「…自宅周囲では見かけたことは無いですか?」
『一応今のところは
まあ、肝の小さそうな男だから、何かしでかすことは無いと思いたいんですけどねー…』
そんな近況報告は終えて、その日はそのまま解散となる
何かと忙しい安室さんの携帯に着信が入り、呼び出しを喰らったと言う事もあって
そして今私は、呑気に構えていた事を後悔する羽目に陥っている
まさかあの会話がフラグになるなんて思わないじゃ無いか
「おかえり、美音
今日は忙しかったのかな?遅い帰宅だね」
『…なんで』
「なんで?おかしなことを言うんだね、美音
彼氏なんだから家に来たって不思議じゃ無いだろう?」
一体いつの間に家の場所を割り出したというのだろうか
あのしつこい同僚には子細は伏せて情報を渡さないように念を押した
あそこから洩れることは、恐らく無いと見ていいはず
自力で突き止めたのか…?
そこまでのことはやらないだろうと高を括っていたのが裏目に出たか
「それより美音、俺はね少し怒っているんだよ
俺というモノがありながら、堂々と浮気かい?」
日も暮れた時間
少々遅いが人通りが全くない道では無い
距離は詰められないように一定の距離だけは保ち、隙は見せないように警戒する
ジリジリと詰め寄ってくるのと同じだけ距離を取る
勿論後ろにも気を配って
「確かにお互い忙しくて時間は余り取れなかったけど、毎日連絡しただろう?
何に怒っているんだい?1つも連絡返してくれなかったね
あぁ、あの話をしたのが気に入らなかった?美音は照れ屋だものね
けれど俺の下で鳴く君があまりにも可愛くてね、つい我慢が出来なかったんだ、ごめんよ?」
ペラペラとよく動く口だ事
そんな嫌味も出てこないくらい気持ち悪い
一体どれだけ都合良く解釈すればそんな妄想に浸れるのだろうか
ホント質が悪い
「でもね、いくら寛容な俺であっても浮気は許せないよ
俺と会えなくて寂しかったと言うなら、今すぐ仕事を辞めて俺と暮らそう
大丈夫、君1人くらい養えるほどには稼いでいるから
だからさっさとあんな顔だけの男とは縁を切って?今なら許してあげる」
どうしよう、どう振る舞うのが正解なのだろうか
さっきから鳥肌が止まらない、それくらい嫌悪している
話を合わせるのは簡単だ
けれど男女の差はどうしても埋まらない
ある程度の護身術は心得ているけれど、立ち向かうより逃げることの方が賢い選択
一発入れる事は簡単だが、それで的確に鎮めることが出来なければ逆上を誘うだけ
それは愚策、とも言えること
あぁ、ホント気持ち悪い
どうしようか、思考が纏まらない
それがきっと隙になったのだろう
直ぐさま距離を詰めてきたソイツに利き手を取られ力尽くで人気の無い路地まで引き摺られるように連れて行かれる
あぁ、まずい展開になってしまった
「ねぇ、美音
さっきからその目はなんだい?気持ち悪いモノを見る、俺を拒否するようなその目は
いくら喧嘩中と言えど、彼氏にそんな目を向けるのは流石にマナー違反というモノじゃ無いかい?
ねぇ、美音」
伸びてきた手が頬に触れる
手首を掴む力が更に籠もり、逃げることは出来ない
頬に触れた手が首まで下がり、そうしてそのまま下に降りそうになったことを知覚して、本能的にその手を払いのけた
あぁ、やってしまったかもしれない
次の瞬間、頬に熱を感じる
殴られた、と気付いたのは口の中に鉄の味が広がったから
次いで痛みが襲い、そのまま塀に追いやられる
「ねぇ、美音
今のは一体どういう事かな?彼氏の手を払いのけるなんてそんなことしても良いと思って居るの?
どれだけ俺が美音を可愛がったか忘れたのかい?
あんなに甘えてもっと、もっととよがってきたのは美音の方だろう?」
『っ、いっ…!』
「美音、これがほんとうに最後だよ
今すぐ俺の目の前でアイツを振って、連絡先を消すんだ
そうして俺の元まで戻っておいで
今この場でもう浮気はしないと誓うのなら、痛いことはしない
美音が気持ちよくなることだけをしよう」
あぁ、ほんと、気持ち悪い
『っ、分かった、分かったから、手を離して
利き手取られたら、連絡出来ない』
「そう、美音はやっぱり良い子だね」
取られて居た右手が自由になる
爪を立てて居たのか、僅かに血が滲むそこにバレないように顔を歪めて鞄から携帯を取り出す
逃がさない、とでも言うかの様に正面から抱き締めてきたソイツに、咄嗟に身を引きそうになったが何とか耐える
髪を撫でたり、首筋に顔を埋めて舐めたり、甘噛みをしたり、と好き勝手するソイツに何度も逃げそうになりながらも肩越しにヘルプのメッセージを打ち込んでいく
手早く、簡潔に、必要な情報だけを送って、ブロック、そして連絡先の削除
トーク内容を見られるわけにはいかないので、先に消してしまう
好き勝手体を這う手が気持ち悪くて、すぐにでも離れて欲しくて声を掛ける
携帯を渡して、消えていることを確認させる
「美音、他にも男の名前があるようだけれど」
『仕事の関係者のもの
まさかそれまで消せというの?貴方の携帯には女性の連絡先は私以外に1つも無いと?』
「…あぁ、そうだね
確かにそれはフェアじゃ無い
美音をそこまで縛り付けたくはないんだ、ほんとうだよ」
再び伸びてきた手が本当に慈しむように、この場では気持ち悪いほど優しく触れてくる
あぁ、逃げ出したい
けれど、ここの情報を送ったのだ
なるべく時間を稼いでここに居た方が良いに決まっている
…いつ来るか分からないのに?
本当に耐えきれる?こんなにも逃げ出したいというのに
取り敢えず今は自分の元に戻ってきた、と言う事に浸っているようだけれど
この行為がエスカレートしないとも限らない
あぁ、ホント全く、どうしてくれようか
取り敢えず心を無にしようと瞳を閉じたとき
「みおさん…!」
聞こえた声は、最近では当たり前となりつつある、私に安心をもたらすモノだった
わがままな温度
(こんなもの、私は望んでなんか居ない)
元々シフト制で不規則勤務な私と、探偵の傍らアルバイトもしている彼とそう予定も合うはずも無く
まぁ、私にしては珍しく割と頻繁に連絡は取り合うし(現状報告とも言う)、彼が勤務している時間帯にポアロに赴いたり、と一応何もしていないわけでは無い
だからこそ
「みお姉!今日こそは吐いて貰うわよ!」
園子に捕まるという面倒な事態に発展したというわけで
そりゃね、引きこもりの私が何の用事も無いのに態々ポアロにまで足を運ぶ筈なんてないよね
私に何か合った、と言う推理までは合ってるんだけど、その理由が見当違いなんだよなー、この子は
ポアロとは別の喫茶店のテーブル席
壁際に追いやられ、目の前には園子と蘭
私の横では、遠い目をしたコナンくんがオレンジジュースを飲んでいた
何で俺ここに居るんだろ、とでも思ってそうな顔である
目の前で詰め寄ってくる園子を軽くスルーし、紅茶を啜っていれば、園子にカップを取り上げられた
ホント、人様の人間関係に首を突っ込まないでほしい
『吐くって何を?』
「しらばっくれてんじゃ無いわよ!この間のパーティーの後から距離近いわよ」
『そう?馴れただけじゃ無い?』
「確かにみお姉は馴れた人間にはパーソナルスペース狭くなる人だけど!
こんなすぐに打ち解けるなんて今まで無かったじゃない」
『相性が良かったんだよ』
「自分の警戒心の強さ、舐めてんじゃ無いわよ」
『そんな誰彼構わず警戒なんてしてたらしんどいじゃ無い』
「どの口が!」
『この口が』
のらりくらり、と躱して園子から奪い返した紅茶を啜る
同時に頼んでいたレアチーズケーキも口に含み、広がる甘味に僅かに頬を緩ませる
ここのケーキ美味しい
もぐもぐ、と口を動かしていると、恨みがましげに正面から睨みつけてくる園子に苦笑
人様の恋愛事情など面白くも無いだろうに、女子高生とは面倒臭いものである
こくん、と小さく喉を動かし飲み込んでため息
何を勘違いしたのか、ぱっと表情を明るくさせた園子に更に深いため息を吐き出す
『園子』
「なになに!?」
『過干渉は鬱陶しい』
「これさえも過干渉!?みお姉秘密主義過ぎ!」
『人の人間関係に首突っ込まないで
付き合ってる人が居るなら居るって言うし、結婚するようなことになってもちゃんと報告する
無理矢理聞き出そうとされるのが一番嫌い』
すっぱり切って捨てるように言えば、うぐ、と言葉を詰まらす園子
長い付き合いな為、この程度で私がキレたとは思わないだろうが、機嫌を損ねかけている事は理解するだろう
隣に居る蘭もその事を察したのか、困り顔で園子を諫めに入る
また小さくため息を吐き出して、残りの一口のケーキを口に放り込む
そう言った話が好きなのは分かるし、聞くだけならいくらでもするから巻き込まないでほしい
『この前面倒臭いことになってるって話したでしょ』
「この前って、パーティーの前?」
「あ、あの合コンの事?」
きょとん、とした園子とは対照的に蘭は合点がいったらしく問うてくる
その質問に首肯で応えて、再び紅茶を一口
『あんまりにも同僚がしつこいもんで一応参加したらストーカー騒ぎになりかけてるから依頼しただけ
今は探偵とクライアントの関係だから』
これ言うと更に面倒なことになりそうだから黙っていたというのにこのミス好奇心は…
ため息を吐き出せば、目の前の2人は顔を見合わせて今度は心配そうな顔に作り替えた
以前も語った通り、ストーカー騒ぎが合ったのはこれが初めてでは無い
馴れるものでは無いが、あまり恐怖心は抱いていない
「大丈夫なの、それ…」
「職場は知られてるんだよね」
『相手の素性が知れてる分捜査もしやすいし、私も警戒しやすい
安室さんも動いてくれてるし、その内何とかなるでしょ』
この話はこれでおしまい、と暗に匂わせて言えば、目の前の2人は大人しくなる
横からは突き刺さるような視線があるが、その程度で物怖じする私でも無い
長い付き合い且つ身内だ、遠慮無くスルーさせて貰う
「もう、早く彼氏作って真っ向から守ってもらえる存在作りなさいよ!」
『一人で生きていける系女子なもんで
じゃあ、私はこれで』
伝票を持って立ち上がる
この後は安室さんと情報共有という名の近況報告だ
ストーカー男が漸く安室さんという存在に気付き、最近のメッセージは苛烈になってきているのだ
「ホゥ、漸くですか」
『はい、漸くです』
「プライベートを常に監視するほどの時間は割いていない
普通に社会人としての生活を送りながら、みおさんという彼女がいるという妄想に浸っている、と言うところでしょうか」
『いい迷惑です』
「全くです」
誰に話を聞かれるか分からないため、現在地は安室さんの車である
乗り物には弱いため、了承を貰って窓を開けている
なかなか決定打となる動きをしてくれないため、こちらも少々手を拱いているのだ
そういう所も面倒臭い
「それにしても、随分豊かな想像力の持ち主のようで」
『えぇ、本当に』
「もし本当の彼氏だとしても、こう言った形の残る物でのこの手の話題はマナー違反でしょうに」
『モテないでしょうねぇ』
「ご尤もで」
しても居ない情事の話をつらつらと
逞しすぎる想像力に、脱帽である
『そろそろ、本格的に、気持ち悪いです』
「貴女こそ漸くですか」
『飽きると思ったんですよねー』
再び増えた通知の数字にうんざりして画面のバックライトを落とす
ちょっと疲れたなー
シートに深く凭れてため息を吐く
ズルズルと続くこの状況は、少なくともストレスにはなっている
ただでさえストレスの多い仕事だというのに、これ以上負荷を増やさないで欲しいものである
『どうしましょうか、安室さん』
「そうですね、現状では…」
『どうにも難しいですよねー、分かってます』
「…自宅周囲では見かけたことは無いですか?」
『一応今のところは
まあ、肝の小さそうな男だから、何かしでかすことは無いと思いたいんですけどねー…』
そんな近況報告は終えて、その日はそのまま解散となる
何かと忙しい安室さんの携帯に着信が入り、呼び出しを喰らったと言う事もあって
そして今私は、呑気に構えていた事を後悔する羽目に陥っている
まさかあの会話がフラグになるなんて思わないじゃ無いか
「おかえり、美音
今日は忙しかったのかな?遅い帰宅だね」
『…なんで』
「なんで?おかしなことを言うんだね、美音
彼氏なんだから家に来たって不思議じゃ無いだろう?」
一体いつの間に家の場所を割り出したというのだろうか
あのしつこい同僚には子細は伏せて情報を渡さないように念を押した
あそこから洩れることは、恐らく無いと見ていいはず
自力で突き止めたのか…?
そこまでのことはやらないだろうと高を括っていたのが裏目に出たか
「それより美音、俺はね少し怒っているんだよ
俺というモノがありながら、堂々と浮気かい?」
日も暮れた時間
少々遅いが人通りが全くない道では無い
距離は詰められないように一定の距離だけは保ち、隙は見せないように警戒する
ジリジリと詰め寄ってくるのと同じだけ距離を取る
勿論後ろにも気を配って
「確かにお互い忙しくて時間は余り取れなかったけど、毎日連絡しただろう?
何に怒っているんだい?1つも連絡返してくれなかったね
あぁ、あの話をしたのが気に入らなかった?美音は照れ屋だものね
けれど俺の下で鳴く君があまりにも可愛くてね、つい我慢が出来なかったんだ、ごめんよ?」
ペラペラとよく動く口だ事
そんな嫌味も出てこないくらい気持ち悪い
一体どれだけ都合良く解釈すればそんな妄想に浸れるのだろうか
ホント質が悪い
「でもね、いくら寛容な俺であっても浮気は許せないよ
俺と会えなくて寂しかったと言うなら、今すぐ仕事を辞めて俺と暮らそう
大丈夫、君1人くらい養えるほどには稼いでいるから
だからさっさとあんな顔だけの男とは縁を切って?今なら許してあげる」
どうしよう、どう振る舞うのが正解なのだろうか
さっきから鳥肌が止まらない、それくらい嫌悪している
話を合わせるのは簡単だ
けれど男女の差はどうしても埋まらない
ある程度の護身術は心得ているけれど、立ち向かうより逃げることの方が賢い選択
一発入れる事は簡単だが、それで的確に鎮めることが出来なければ逆上を誘うだけ
それは愚策、とも言えること
あぁ、ホント気持ち悪い
どうしようか、思考が纏まらない
それがきっと隙になったのだろう
直ぐさま距離を詰めてきたソイツに利き手を取られ力尽くで人気の無い路地まで引き摺られるように連れて行かれる
あぁ、まずい展開になってしまった
「ねぇ、美音
さっきからその目はなんだい?気持ち悪いモノを見る、俺を拒否するようなその目は
いくら喧嘩中と言えど、彼氏にそんな目を向けるのは流石にマナー違反というモノじゃ無いかい?
ねぇ、美音」
伸びてきた手が頬に触れる
手首を掴む力が更に籠もり、逃げることは出来ない
頬に触れた手が首まで下がり、そうしてそのまま下に降りそうになったことを知覚して、本能的にその手を払いのけた
あぁ、やってしまったかもしれない
次の瞬間、頬に熱を感じる
殴られた、と気付いたのは口の中に鉄の味が広がったから
次いで痛みが襲い、そのまま塀に追いやられる
「ねぇ、美音
今のは一体どういう事かな?彼氏の手を払いのけるなんてそんなことしても良いと思って居るの?
どれだけ俺が美音を可愛がったか忘れたのかい?
あんなに甘えてもっと、もっととよがってきたのは美音の方だろう?」
『っ、いっ…!』
「美音、これがほんとうに最後だよ
今すぐ俺の目の前でアイツを振って、連絡先を消すんだ
そうして俺の元まで戻っておいで
今この場でもう浮気はしないと誓うのなら、痛いことはしない
美音が気持ちよくなることだけをしよう」
あぁ、ほんと、気持ち悪い
『っ、分かった、分かったから、手を離して
利き手取られたら、連絡出来ない』
「そう、美音はやっぱり良い子だね」
取られて居た右手が自由になる
爪を立てて居たのか、僅かに血が滲むそこにバレないように顔を歪めて鞄から携帯を取り出す
逃がさない、とでも言うかの様に正面から抱き締めてきたソイツに、咄嗟に身を引きそうになったが何とか耐える
髪を撫でたり、首筋に顔を埋めて舐めたり、甘噛みをしたり、と好き勝手するソイツに何度も逃げそうになりながらも肩越しにヘルプのメッセージを打ち込んでいく
手早く、簡潔に、必要な情報だけを送って、ブロック、そして連絡先の削除
トーク内容を見られるわけにはいかないので、先に消してしまう
好き勝手体を這う手が気持ち悪くて、すぐにでも離れて欲しくて声を掛ける
携帯を渡して、消えていることを確認させる
「美音、他にも男の名前があるようだけれど」
『仕事の関係者のもの
まさかそれまで消せというの?貴方の携帯には女性の連絡先は私以外に1つも無いと?』
「…あぁ、そうだね
確かにそれはフェアじゃ無い
美音をそこまで縛り付けたくはないんだ、ほんとうだよ」
再び伸びてきた手が本当に慈しむように、この場では気持ち悪いほど優しく触れてくる
あぁ、逃げ出したい
けれど、ここの情報を送ったのだ
なるべく時間を稼いでここに居た方が良いに決まっている
…いつ来るか分からないのに?
本当に耐えきれる?こんなにも逃げ出したいというのに
取り敢えず今は自分の元に戻ってきた、と言う事に浸っているようだけれど
この行為がエスカレートしないとも限らない
あぁ、ホント全く、どうしてくれようか
取り敢えず心を無にしようと瞳を閉じたとき
「みおさん…!」
聞こえた声は、最近では当たり前となりつつある、私に安心をもたらすモノだった
わがままな温度
(こんなもの、私は望んでなんか居ない)