君の生きる理由になりたい
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この一週間で3回、日勤、休日関係なく沖矢さんと出会した
哀ちゃんが言う胡散臭い笑みを浮かべ、偶然ですね、と宣うこの男だが、どうにも偶然だとは思えなくて
一度ある事は二度三度、と言う諺もあるけれどこの人に関しては訳あり、だと言う事は何となく察しているので余計に
そうして今日
滅多に出歩くわけでない私の行く手行く手に現れ、にこやかに偶然ですね、と挨拶をしてくるこの男にいい加減突っ込んでもいいもだろうか
『…何か話でもあるんです?』
「…どうしてそう思われたんです?」
『あー…、こう言う場で話してもいいことです?』
「…今日、お時間は?」
『休日ですので』
「では、少しドライブに付き合って頂いても?」
『拒否権は?』
「ありますけど、今後も暫く追いかけっこが続くかと」
『…付き合いましょう』
吐き出しそうになった溜息を押し留めてそう返答をすると、そうなることが分かっていたかのように笑みを深めた彼に、車へとエスコートされる
助手席を開けて、乗り込めば扉を閉められて
紳士的に見えるこの行動すら、逃がさないと言われているかのようでつい深読みしてしまう自分が嫌だ
最近どうも自分の周りできな臭い出来事が多すぎて、警戒心から疑り深くなってしまっている自覚はある
何度か自身も巻き込まれ、当事者になったこともある
だから余計
『車酔いしやすいので、窓少し開けても構いませんか?』
「それは気が遣えず失礼しました、どうぞ」
『どうも』
一応了承を貰ってから、窓を半分くらい開ける
顔に風を感じて、少しばかり開放感
彼の車に乗るのは2度目
以前と違い、二人きりという状況ではあるけれど
『それで?何か確認事項でもありました?』
「ホゥ…、コナン君が言うように察し能力が高いようですね」
『どういう話を聞いてるんですか…
別にそこまで高いとは思いませんけど』
「と言うと?」
『分かりやすくヒントをばらまいてるのはそっちでしょう?』
「…それをきちんと感じ取るのが、察し能力と言うものではありませんか?」
『…確かにそう言われてしまえばそうかもしれませんね』
不覚にも納得してしまった
確かに気付いて欲しいとヒントをばらまかれているのに、それに気付かない人間を察しが悪いと表現する
それを感じ取って受け取れる人間は察しが良いと表現されても何ら可笑しくない
そんな風に一人で納得していると、そんな私の様子が可笑しかったのか沖矢さんが喉を鳴らして笑う
そんな忍び笑いをするくらいなら、普通に笑ってほしいものであるけれど
『それで、本題を進めても良いですか?』
「確認事項、と言う奴ですか?」
『はい』
「あるにはある、と言うのが今できる返答ですかね」
『…コナンくんもですけど、何でこう私の周りははっきりとした返事をしない人ばかりなのでしょうか』
「それは僕も含まれてますか?」
『大いに』
少し嫌味っぽく返してみたけれど、気分を害した様子は無く笑みを深める
その様子が、あしらわれているようで少しだけムッとするけれど
顔には出さないように気を付けて、でも顔を見られたらバレてしまいそうで窓の外に視線を投げる
きっとこの人も、コナンくん、基新一と同じ“ナニカ”を追っている人
協力関係にあって、特別な事情があって工藤邸で身を寄せている人
胡散臭い、と言われるこの笑みは作り物なのだろうか
昔有希子さんに見せてもらった特殊メイクの雰囲気によく似ている
そんな小さな違和感があるその顔
それについて触れてもいいモノなのだろうか、きっと触れない方が良いのだろう
でも、気付いていると言うことは伝えるべきなのだろうか
私は偶然それに触れる機会があって、知っているから分かったけれど
普通の人はきっと気付きもしないモノだと言うことは分かる
それを、きっとこの人は探りに来ているような気もする
面倒臭いなぁ…
「白峰さん」
『はい』
「貴女は何か聞いていますか?」
『何かと言いますと?』
「何かは何かですよ」
『…言葉遊びは好きではないのですが』
「おや、そうは見えませんけどね」
態とらしいその態度に少々感情が高ぶるのを感じる
それは相手の思う壺だと思うので、小さく息を吐き出して鎮める
涼しげな顔をして、運転をしているから当たり前だけれどこちらなど見ること無く
けれど、目ではない色んなモノから情報を集めているんだろうなぁ
この人も、警察関係者かなぁ…
ほんと、最近きな臭いこと多すぎない?
昔からこの町は犯罪数多いような気はしていたけどさ
『…聞いてはいないですよ』
「含みのある言い方ですね」
『真似してみました』
「なるほど、確かにボウヤが天敵と言うだけはある」
『酷い言われようですね
話してくれないのはそっちのクセに』
話せないのなら最初から全部隠してくれたらいいのに
気付かれないように、触れられないように遠ざけてくれたらそれでいいのに
中途半端に隠しくれなくて、少し突けば勝手に揺れてその秘密の片鱗を見せてくる
もっと頑なに隠してくれたら、こっちだって気付いても触れないのに
『ほんとうに、自分勝手』
「怒ってますか?」
『怒ってないように見えますか?』
「野暮な質問でしたね」
そう言って肩を竦めて見せるけれど、悪びれた様子は無い
まぁ、怒りの根源にこの人はいないのだから仕方ないのかもしれないけど
こちらが“ナニカ”に気付いて居ると言うことにこの人はきっと気付いている
けれど、その“ナニカ”を詳しく知らないと言うことは多分分かって無くて探りを入れた、そんなところだろう
私は何も知らない
そこに深く踏み込んで行く勇気は無いから
境界線のギリギリ内側に立って、一歩でも後ずさりしたらその境界線から出てしまうような位置でいつも見てるだけ
いつだって当事者にならない
『それで?知りたい事については分かりましたか?』
「そうですね、ボウヤが言っていた通りの人…、より少しだけ賢い人だという事が分かりました」
『私はこれからもこの立ち位置から動く気はありません
貴方達が気にしている“ナニカ”についても知ろうともしないし、首を突っ込むつもりはないです
ただ、巻き込まないで
私の家族を、周りの人間を危険に巻き込まないで
それさえ守ってくれるなら、あの家で好きにしてもらってもいい、貴方の目的のために使ってくれてもいい
私から、大切を奪わないで』
私が望むのはいつだってそれだけ
これ以上私の掌から大切なものが零れ落ちていくのが耐えられないだけ
守る事は出来ない
私が出来るのは知らないフリだけ
それだけしか、大切を守る術がないのは知っているから
だから私は幾らでも、滑稽でも知らないフリを貫くの
「私を巻き込むな、とは言わないんですね」
『…巻き込んで欲しかったから』
「え?」
『私はずっと、巻き込んで欲しかったから』
あの事件の日からずっと、当事者になりたかった
たった一人取り残されることが怖くて、苦しくて、寂しくて
家族のように傍にいてくれたけれど、私の家族ではなかった
いつだって家族のようだっただけ
ずっと一緒の幼馴染みも、本当の意味でずっと一緒と言うわけではない
巻き込んでくれたら良かったのに
あの日、私もあの場所に居て巻き込まれてしまいたかった
ずっとずっと、胸の奥底で何かが引っ掛かったように気持ち悪い
だから当事者になれないのならせめて、これ以上大切を手放さないように生きた
事件に関わるのは止めてほしかったけど、停められるわけが無いと知っていたから傍に居た
万が一の時に、大切を守るために
『貴方のことに口出しはしないです
あの子の力を利用したっていい
けれど、ちゃんと無事に返してくれるならの話
絶対あの子は止めたって首を突っ込みに行く
ならせめて、大人としてあの子の無事を約束して』
「…それだけ大切にしているのに、止めないのですね」
『縛り付けて止めるのは簡単です
でも、それをしたくない』
私に残された、この世で唯一の居場所だから
家族というものを失って、私の帰る場所はもうあそこにしかない
嫌われたくない、たったそれだけの感情
『貴方も何らかの事情があるのは何となく察しています
身を隠さなくちゃいけないような、そんな危険に巻き込まれていると言う事も何となく察してます
そういったことに言及するのは今日限りにしますし、私から必要以上に関わる事はしません
それ以上何か求められますか?』
「…身を隠している、というのはどこから察しましたか」
『…噓でしょ?
あんなめちゃくちゃな理由で家に無理矢理住み着いておいて?
工藤夫妻を頭が可笑しい人に仕立て上げるつもりです?あんな理由で身元不明の人間に家を貸しませんよ
それ、有希子さんの特殊メイクですよね?それが借りたくて選んだんじゃないんですか?』
「…特殊メイクが分かるのか?」
『昔からよく見せてもらいましたし、高校生になった頃くらいから面白半分で教えてもらっていたので
昔から触れてきたものなので、少しくらいは分かります
これだけ眺める時間があったのなら尚更気付きますよ』
どこまで本気なのかは分からないけれど、声色が少しだけ変わった
と言うか、口調がそもそも変わった
隠すつもりはあまりなかったのかもしれない
寧ろ、そこを試されていたのかもしれない
何でこんなに回りくどいことが好きな人が多いのだろうか
物わかりは良い方だと自負している
危険だから関わるな、とはっきり拒絶されてしまえば私は大人しく身を引く
片鱗だけ見せつけて、好きなように利用して、遠ざけているようで結局しきれない
何て中途半端
だけどそれは、きっと私も同じ事
もっと強く言えばいい
関わらないで欲しい、危険に飛び込まないで欲しい、徹底的に隠して欲しい
ほんとうにそんなことをされたらきっと、傷付くくせに
『…隠してるなら、もっと徹底してください
隠す気が最初から無いのなら試すような真似はしないでください
虚しくなる』
つい洩れてしまった本音
この人もこの人なりに確認しなければならないことだったのは分かる
巻き込むかもしれない、巻き込んではいけないのかもしれない、守らないといけない人物なのかもしれない、何か知っているのかもしれない
そう言ったものを確認するのがこの人の仕事なのだろう
分かってる、そんなことは説明されなくたって分かっているけど
『いつだって中途半端に蚊帳の外なのは、もううんざり
聞き分けが良い子のフリも、楽じゃないのに』
いつだってそう
渦中に居るようでほんの少し外れた位置にいる
事情には詳しいのに、その場にはいつだって居ない
それは、誰も悪くない
私が中途半端に介入してるだけだと傍目には映っているかもしれない
遠ざけることは出来ないくせに、渦中に飛び込む勇気もない臆病者
こうやって子供じみた八つ当たりをしてしまっている自分が情けない
それでも、そろそろ誰かにぶちまけないと心を保てなくなっていたのも事実
『…、すみません』
昂ぶった感情を抑えつけるために、大きく静かに息を吐き出す
自分の思い通りに物事が進まなくて駄々をこねているだけだというのは自覚してる
ただ最近自身の周りが穏やかでない日々が続いていて平常心が保てなくなっているという言い訳だけはさせて欲しい
普段ならこの程度の感情はコントロール出来るのに
「やっと年相応らしいところが出たな」
『何かその声のトーンでその口調は違和感が凄いです』
「言うようになったな」
『もう情けないところを見せてしまったので取り繕っても意味ないかと思いまして』
「取り繕っていたのか」
『そりゃ多少は』
「まぁ確かに、かなり良い子ちゃんだったからな」
『嫌な言い方ですね』
自覚が無い訳では無い
年の割に考え方は随分上だろうし、過去に色々あったせいで我慢する癖は付いている
こうなりたくてなったわけではないのだから、少し黙ってて欲しいと思う子供心も存在している
『確認するべき事が終わったなら家に帰して頂きたいのですが』
「この変装は分かりやすいか?」
『…、急に声変えないでください、びっくりした』
「違和感があると言ったのはそちらの方だろう?」
『それはそうですけど…
有希子さんから教わっていなければ気付きもしませんよ
特殊メイクを知っているか否かは結構重要な視点、ってだけです
同業者には恐らく気付かれるかもしれませんね』
「同業者とは?」
『知りませんよ、その変装を教えた師が同じ人とかじゃないですか
どの程度いるかは知りもしませんけど』
「なるほど…、お嬢ちゃんが気付いたのもそれ故、ということか」
『…お嬢ちゃんという年ではないんで止めてほしいんですが』
「自分の感情をコントロール出来ない子供はお嬢ちゃんで十分だ」
『…、変な人』
大人っぽいね、子供らしくない、そう言った言葉ばかり掛けられていた私からしたら違和感でしかない
まぁ、確かにこの人には子供っぽい一面を見せてしまったことは事実ではあるのだけれど
「ボウヤもボウヤなりに守ろうとしていると言う事は分かってやれ」
『言われなくても』
「お嬢ちゃんのような存在がボウヤには必要だ、と言う事だけ伝えておこう」
『…?ありがとうございます』
「着いたぞ、今日は振り回して済まなかったな」
そう言われ窓の外を見れば自身が住むマンション
知らない間に帰路についていたらしい車は、危なげも無く私を家まで届けてくれていたらしい
『もう態とらしく現れるのは止めてくださいね』
「逆効果だと言うことは学習した」
『素直に話があると言われたら応じますので』
「次があればそうさせてもらおう」
『無いことを願いますけどね』
車から降りて走り去るテールランプを見送る
少しだけ引っ掛かった言葉があった気がしたのだけれど、テンポの良い会話に流されて
『まぁいいか』
時間としてはそう長くはなかったはず
けれど、あまりにも濃い時間を過ごしたような気がして疲れを感じている
疾うに見えなくなった赤い光
その方向をもう一度だけ一瞥してエントランスを括った
大事にしてね
(君も、貴方も、その周りの人も全部を)
哀ちゃんが言う胡散臭い笑みを浮かべ、偶然ですね、と宣うこの男だが、どうにも偶然だとは思えなくて
一度ある事は二度三度、と言う諺もあるけれどこの人に関しては訳あり、だと言う事は何となく察しているので余計に
そうして今日
滅多に出歩くわけでない私の行く手行く手に現れ、にこやかに偶然ですね、と挨拶をしてくるこの男にいい加減突っ込んでもいいもだろうか
『…何か話でもあるんです?』
「…どうしてそう思われたんです?」
『あー…、こう言う場で話してもいいことです?』
「…今日、お時間は?」
『休日ですので』
「では、少しドライブに付き合って頂いても?」
『拒否権は?』
「ありますけど、今後も暫く追いかけっこが続くかと」
『…付き合いましょう』
吐き出しそうになった溜息を押し留めてそう返答をすると、そうなることが分かっていたかのように笑みを深めた彼に、車へとエスコートされる
助手席を開けて、乗り込めば扉を閉められて
紳士的に見えるこの行動すら、逃がさないと言われているかのようでつい深読みしてしまう自分が嫌だ
最近どうも自分の周りできな臭い出来事が多すぎて、警戒心から疑り深くなってしまっている自覚はある
何度か自身も巻き込まれ、当事者になったこともある
だから余計
『車酔いしやすいので、窓少し開けても構いませんか?』
「それは気が遣えず失礼しました、どうぞ」
『どうも』
一応了承を貰ってから、窓を半分くらい開ける
顔に風を感じて、少しばかり開放感
彼の車に乗るのは2度目
以前と違い、二人きりという状況ではあるけれど
『それで?何か確認事項でもありました?』
「ホゥ…、コナン君が言うように察し能力が高いようですね」
『どういう話を聞いてるんですか…
別にそこまで高いとは思いませんけど』
「と言うと?」
『分かりやすくヒントをばらまいてるのはそっちでしょう?』
「…それをきちんと感じ取るのが、察し能力と言うものではありませんか?」
『…確かにそう言われてしまえばそうかもしれませんね』
不覚にも納得してしまった
確かに気付いて欲しいとヒントをばらまかれているのに、それに気付かない人間を察しが悪いと表現する
それを感じ取って受け取れる人間は察しが良いと表現されても何ら可笑しくない
そんな風に一人で納得していると、そんな私の様子が可笑しかったのか沖矢さんが喉を鳴らして笑う
そんな忍び笑いをするくらいなら、普通に笑ってほしいものであるけれど
『それで、本題を進めても良いですか?』
「確認事項、と言う奴ですか?」
『はい』
「あるにはある、と言うのが今できる返答ですかね」
『…コナンくんもですけど、何でこう私の周りははっきりとした返事をしない人ばかりなのでしょうか』
「それは僕も含まれてますか?」
『大いに』
少し嫌味っぽく返してみたけれど、気分を害した様子は無く笑みを深める
その様子が、あしらわれているようで少しだけムッとするけれど
顔には出さないように気を付けて、でも顔を見られたらバレてしまいそうで窓の外に視線を投げる
きっとこの人も、コナンくん、基新一と同じ“ナニカ”を追っている人
協力関係にあって、特別な事情があって工藤邸で身を寄せている人
胡散臭い、と言われるこの笑みは作り物なのだろうか
昔有希子さんに見せてもらった特殊メイクの雰囲気によく似ている
そんな小さな違和感があるその顔
それについて触れてもいいモノなのだろうか、きっと触れない方が良いのだろう
でも、気付いていると言うことは伝えるべきなのだろうか
私は偶然それに触れる機会があって、知っているから分かったけれど
普通の人はきっと気付きもしないモノだと言うことは分かる
それを、きっとこの人は探りに来ているような気もする
面倒臭いなぁ…
「白峰さん」
『はい』
「貴女は何か聞いていますか?」
『何かと言いますと?』
「何かは何かですよ」
『…言葉遊びは好きではないのですが』
「おや、そうは見えませんけどね」
態とらしいその態度に少々感情が高ぶるのを感じる
それは相手の思う壺だと思うので、小さく息を吐き出して鎮める
涼しげな顔をして、運転をしているから当たり前だけれどこちらなど見ること無く
けれど、目ではない色んなモノから情報を集めているんだろうなぁ
この人も、警察関係者かなぁ…
ほんと、最近きな臭いこと多すぎない?
昔からこの町は犯罪数多いような気はしていたけどさ
『…聞いてはいないですよ』
「含みのある言い方ですね」
『真似してみました』
「なるほど、確かにボウヤが天敵と言うだけはある」
『酷い言われようですね
話してくれないのはそっちのクセに』
話せないのなら最初から全部隠してくれたらいいのに
気付かれないように、触れられないように遠ざけてくれたらそれでいいのに
中途半端に隠しくれなくて、少し突けば勝手に揺れてその秘密の片鱗を見せてくる
もっと頑なに隠してくれたら、こっちだって気付いても触れないのに
『ほんとうに、自分勝手』
「怒ってますか?」
『怒ってないように見えますか?』
「野暮な質問でしたね」
そう言って肩を竦めて見せるけれど、悪びれた様子は無い
まぁ、怒りの根源にこの人はいないのだから仕方ないのかもしれないけど
こちらが“ナニカ”に気付いて居ると言うことにこの人はきっと気付いている
けれど、その“ナニカ”を詳しく知らないと言うことは多分分かって無くて探りを入れた、そんなところだろう
私は何も知らない
そこに深く踏み込んで行く勇気は無いから
境界線のギリギリ内側に立って、一歩でも後ずさりしたらその境界線から出てしまうような位置でいつも見てるだけ
いつだって当事者にならない
『それで?知りたい事については分かりましたか?』
「そうですね、ボウヤが言っていた通りの人…、より少しだけ賢い人だという事が分かりました」
『私はこれからもこの立ち位置から動く気はありません
貴方達が気にしている“ナニカ”についても知ろうともしないし、首を突っ込むつもりはないです
ただ、巻き込まないで
私の家族を、周りの人間を危険に巻き込まないで
それさえ守ってくれるなら、あの家で好きにしてもらってもいい、貴方の目的のために使ってくれてもいい
私から、大切を奪わないで』
私が望むのはいつだってそれだけ
これ以上私の掌から大切なものが零れ落ちていくのが耐えられないだけ
守る事は出来ない
私が出来るのは知らないフリだけ
それだけしか、大切を守る術がないのは知っているから
だから私は幾らでも、滑稽でも知らないフリを貫くの
「私を巻き込むな、とは言わないんですね」
『…巻き込んで欲しかったから』
「え?」
『私はずっと、巻き込んで欲しかったから』
あの事件の日からずっと、当事者になりたかった
たった一人取り残されることが怖くて、苦しくて、寂しくて
家族のように傍にいてくれたけれど、私の家族ではなかった
いつだって家族のようだっただけ
ずっと一緒の幼馴染みも、本当の意味でずっと一緒と言うわけではない
巻き込んでくれたら良かったのに
あの日、私もあの場所に居て巻き込まれてしまいたかった
ずっとずっと、胸の奥底で何かが引っ掛かったように気持ち悪い
だから当事者になれないのならせめて、これ以上大切を手放さないように生きた
事件に関わるのは止めてほしかったけど、停められるわけが無いと知っていたから傍に居た
万が一の時に、大切を守るために
『貴方のことに口出しはしないです
あの子の力を利用したっていい
けれど、ちゃんと無事に返してくれるならの話
絶対あの子は止めたって首を突っ込みに行く
ならせめて、大人としてあの子の無事を約束して』
「…それだけ大切にしているのに、止めないのですね」
『縛り付けて止めるのは簡単です
でも、それをしたくない』
私に残された、この世で唯一の居場所だから
家族というものを失って、私の帰る場所はもうあそこにしかない
嫌われたくない、たったそれだけの感情
『貴方も何らかの事情があるのは何となく察しています
身を隠さなくちゃいけないような、そんな危険に巻き込まれていると言う事も何となく察してます
そういったことに言及するのは今日限りにしますし、私から必要以上に関わる事はしません
それ以上何か求められますか?』
「…身を隠している、というのはどこから察しましたか」
『…噓でしょ?
あんなめちゃくちゃな理由で家に無理矢理住み着いておいて?
工藤夫妻を頭が可笑しい人に仕立て上げるつもりです?あんな理由で身元不明の人間に家を貸しませんよ
それ、有希子さんの特殊メイクですよね?それが借りたくて選んだんじゃないんですか?』
「…特殊メイクが分かるのか?」
『昔からよく見せてもらいましたし、高校生になった頃くらいから面白半分で教えてもらっていたので
昔から触れてきたものなので、少しくらいは分かります
これだけ眺める時間があったのなら尚更気付きますよ』
どこまで本気なのかは分からないけれど、声色が少しだけ変わった
と言うか、口調がそもそも変わった
隠すつもりはあまりなかったのかもしれない
寧ろ、そこを試されていたのかもしれない
何でこんなに回りくどいことが好きな人が多いのだろうか
物わかりは良い方だと自負している
危険だから関わるな、とはっきり拒絶されてしまえば私は大人しく身を引く
片鱗だけ見せつけて、好きなように利用して、遠ざけているようで結局しきれない
何て中途半端
だけどそれは、きっと私も同じ事
もっと強く言えばいい
関わらないで欲しい、危険に飛び込まないで欲しい、徹底的に隠して欲しい
ほんとうにそんなことをされたらきっと、傷付くくせに
『…隠してるなら、もっと徹底してください
隠す気が最初から無いのなら試すような真似はしないでください
虚しくなる』
つい洩れてしまった本音
この人もこの人なりに確認しなければならないことだったのは分かる
巻き込むかもしれない、巻き込んではいけないのかもしれない、守らないといけない人物なのかもしれない、何か知っているのかもしれない
そう言ったものを確認するのがこの人の仕事なのだろう
分かってる、そんなことは説明されなくたって分かっているけど
『いつだって中途半端に蚊帳の外なのは、もううんざり
聞き分けが良い子のフリも、楽じゃないのに』
いつだってそう
渦中に居るようでほんの少し外れた位置にいる
事情には詳しいのに、その場にはいつだって居ない
それは、誰も悪くない
私が中途半端に介入してるだけだと傍目には映っているかもしれない
遠ざけることは出来ないくせに、渦中に飛び込む勇気もない臆病者
こうやって子供じみた八つ当たりをしてしまっている自分が情けない
それでも、そろそろ誰かにぶちまけないと心を保てなくなっていたのも事実
『…、すみません』
昂ぶった感情を抑えつけるために、大きく静かに息を吐き出す
自分の思い通りに物事が進まなくて駄々をこねているだけだというのは自覚してる
ただ最近自身の周りが穏やかでない日々が続いていて平常心が保てなくなっているという言い訳だけはさせて欲しい
普段ならこの程度の感情はコントロール出来るのに
「やっと年相応らしいところが出たな」
『何かその声のトーンでその口調は違和感が凄いです』
「言うようになったな」
『もう情けないところを見せてしまったので取り繕っても意味ないかと思いまして』
「取り繕っていたのか」
『そりゃ多少は』
「まぁ確かに、かなり良い子ちゃんだったからな」
『嫌な言い方ですね』
自覚が無い訳では無い
年の割に考え方は随分上だろうし、過去に色々あったせいで我慢する癖は付いている
こうなりたくてなったわけではないのだから、少し黙ってて欲しいと思う子供心も存在している
『確認するべき事が終わったなら家に帰して頂きたいのですが』
「この変装は分かりやすいか?」
『…、急に声変えないでください、びっくりした』
「違和感があると言ったのはそちらの方だろう?」
『それはそうですけど…
有希子さんから教わっていなければ気付きもしませんよ
特殊メイクを知っているか否かは結構重要な視点、ってだけです
同業者には恐らく気付かれるかもしれませんね』
「同業者とは?」
『知りませんよ、その変装を教えた師が同じ人とかじゃないですか
どの程度いるかは知りもしませんけど』
「なるほど…、お嬢ちゃんが気付いたのもそれ故、ということか」
『…お嬢ちゃんという年ではないんで止めてほしいんですが』
「自分の感情をコントロール出来ない子供はお嬢ちゃんで十分だ」
『…、変な人』
大人っぽいね、子供らしくない、そう言った言葉ばかり掛けられていた私からしたら違和感でしかない
まぁ、確かにこの人には子供っぽい一面を見せてしまったことは事実ではあるのだけれど
「ボウヤもボウヤなりに守ろうとしていると言う事は分かってやれ」
『言われなくても』
「お嬢ちゃんのような存在がボウヤには必要だ、と言う事だけ伝えておこう」
『…?ありがとうございます』
「着いたぞ、今日は振り回して済まなかったな」
そう言われ窓の外を見れば自身が住むマンション
知らない間に帰路についていたらしい車は、危なげも無く私を家まで届けてくれていたらしい
『もう態とらしく現れるのは止めてくださいね』
「逆効果だと言うことは学習した」
『素直に話があると言われたら応じますので』
「次があればそうさせてもらおう」
『無いことを願いますけどね』
車から降りて走り去るテールランプを見送る
少しだけ引っ掛かった言葉があった気がしたのだけれど、テンポの良い会話に流されて
『まぁいいか』
時間としてはそう長くはなかったはず
けれど、あまりにも濃い時間を過ごしたような気がして疲れを感じている
疾うに見えなくなった赤い光
その方向をもう一度だけ一瞥してエントランスを括った
大事にしてね
(君も、貴方も、その周りの人も全部を)
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