君が生きた世界を守ろう
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side.H
そうして翌日
何とか早いこと仕事を終わらせて九条ちゃんを迎えに行く
真っ直ぐな黒髪をハーフアップにし、昨日はしていなかったお化粧もして
ワインレッドのロングスカートに、クリーム色のニット
ブラウンベースのストールを緩く掛けて上品に佇む九条ちゃんに、一瞬目を奪われて
『お疲れ様』
「九条ちゃん、綺麗だね」
『ありがとう』
少し噛み合わない会話をしてしまったのは、ここだけの話にしておいて欲しい
そのまま九条ちゃんを連れて待ち合わせ場所に行けば、俺達が最後だったようでがたいのいいのが4人揃って待っていた
「お待たせー」
「おっせーぞ、萩
お前から誘っといて、一番最後かよ」
聞こえてきた文句は聞き流して
残り3人には悪いけど、ちょっとだけ待ってて欲しい
ニヤニヤしているだろう俺の顔を見て、訝しげに眉を寄せるじんぺーちゃん
実のところ九条ちゃんと再会した、と言う事は松田には言っていない
今日連れてくることだって、勿論
まーまー、と宥めていると、何かを察した九条ちゃんが俺の背中から出てくる
記憶力のいい九条ちゃんの事だ、聞き覚えのある声に反応したのだろう
そもそも、俺の友達、と言ったのだから松田が居ることは予想済みだったのかもしれないが
『相変わらず松は短気だねぇ、血管切れるよ?』
のんびり、と表現されるだろう口調で九条ちゃんが再会の挨拶もなしに話しかける
そういうとこあるよな、九条ちゃん
俺の影で完全に見えていなかったであろう松田は、一瞬誰だ、と言うような顔をした後すぐに思い至ったのか、目を大きく見開く
確かに今日の九条ちゃんは私服で、一瞬じゃ誰かは分からないがその造形は大きく変わっていない
「おま、九条!?」
『お久し振りー』
驚いて指さす松田なんて意にも介さず、ひらり、と手を上げる
わなわなしている松田を笑っていると、思っても居ないところから声が上がる
「九条、ってあの九条!?お前、生きてたのか!」
『うん、何かいろいろ誤解を招きそうな反応するのは止めて貰ってもいいかな、伊達くんよ』
「そーかそーか、いやぁよかった!美人になったなぁ、元々整ってたけどな」
『うん、会話して?』
九条ちゃんの肩を掴んで詰め寄ったのはまさかの伊達
九条ちゃんは背を仰け反らせながらも、特に驚いた様子も無く相手にしている
もしかして伊達とも知り合いだったのだろうか
「取り敢えず積もる話があるみたいだけど、中に入ろうか?」
状況は掴めていないだろうけど、どこか冷静な諸伏の言葉に漸く、俺達は店の中へと足を進めた
俺の隣に居る九条ちゃんは松田、伊達からの視線を一身に浴びながらも特に気にした様子も無く見慣れない2人を見上げていた
『萩、萩』
「ん?」
『ここの顔面偏差値恐ろしいね』
「ナルシストじゃ無かったでしょ?」
『ホントそれ』
俺等の中でもトップクラス、と言っても過言で無い降谷を見てもその程度の反応なのか
やっぱり九条ちゃんは九条ちゃんである
そうして案内された個室で、俺と松田の間に九条ちゃん、対面に残りの3人が腰掛けて、取り敢えず飲み物を、と注文をして
「おい、萩!ちゃんと説明しろ」
「どーどー、じんぺーちゃん落ち着いて」
「いやぁ、元気そうで何よりだよ、九条」
『うん、伊達は私の何なのかな?』
落ち着く間もなくじんぺーちゃんに噛みつかれた
それは予想通りだったけど、まさか俺等以外に面識のある人物がいるとは思わなかった
それに関しては俺も説明が欲しいところで
でもまぁ、一番説明を求めているのは全く関係の無い2人だろうけど
『取り敢えず松は落ち着いて、お店に入ったんだから声は抑えて
萩も主犯だからちゃんと面白がってないでちゃんと説明を
因みに伊達とは中学が一緒だったの』
どこまでも冷静な九条ちゃんの声に、松田も大人しくなる
正論に返す言葉が無くなるのは昔からだ
まぁ、説明を欲しているのだから大人しく話を聞いた方が得策だと分かっているからだろう
『先にお二人にご挨拶
九条桜雪です、伊達とは中学時代の同級生、松と萩とは高校時代の同級生でした
今は看護師してます』
それは知らない情報
確かに数年ぶりの連絡があれで、お互いの近況報告なんて物はしなかったのだから当たり前なのだけれど
九条ちゃんの自己紹介に二人も同じように名前と職業を返す
まぁ、俺の友人と紹介しているのだから警察と言うことはお察しだったと思うけれど
さて、事情の説明をするにしてもそれに関しては九条ちゃんの予言が関わってくる
それを伏せて話を進めるのは少々困難というもので
「九条ちゃん」
『お好きにどうぞ』
察しのいい九条ちゃんは名前を呼んだだけで何を言おうとしたのか分かったようで
小さく頷いて飲み物を口に運んだ
*****
萩の説明が終わり、事情を何も知らない2人は到底信じられない、と言う顔をしていた
まぁ、そうなるのも仕方ないというか、それが当たり前の反応なのでなんとも思わないけれど
運ばれてきた料理を何も言わず口に運んでいるけれど、2人からの視線は突き刺さっている
うん、分かるけど
「まぁ、信じる信じないは好きにすればいいけど、実際言われた通りの事が起きた、って言うことだけは信じてね」
肩を竦めながら言った萩の言葉に、戸惑ったような、納得してないような、そんな複雑な顔をした2人が頷く
まさか、あの時の手紙を持ってきてるなんて思わなかったけど
「手紙かー、俺の時もそうしてくれたらよかったのに」
『伊達の時は話すタイミングがあったから』
「理由が雑だなぁ、まぁ、あの時九条が言ったように彼女が出来たから忘れようも無いけどな」
『あ、そうなんだ、おめでとう』
あの金髪美女、ナタリーさんと無事に出会えたらしい
未来の改変、なんて事をしているからどこでズレてくるか分からない、と言う懸念材料はあったけど、今は特に大きなズレは生まれていないようだ
よかったよかった、なんてだし巻きを口に運べば、4人が凄い顔をして伊達を見遣る
あれ、もしかして彼女がいること言って無かったのかな、この人
まぁ成人してわざわざ彼女ができましたー、なんて宣言しないか、普通に
『伊達はもう暫く先の話だけど、また機会あったら紹介してね』
「おう、俺が無事生き延びたら命の恩人だって紹介するわ」
『よろしく』
なんてのんびり話していると耐えきれなくなった萩や松が問い詰め始める
その輪の中に降谷くんも混ざって、少々賑やかだ
未だに感じる視線に目線を合わせると、にこり、と穏やかに微笑まれた
ぺこり、と軽く会釈で返すと、ねぇ、と話しかけてくるので箸を止める
『何でしょう?』
「伊達が言ってた、生きてたか、って何?」
『あぁ、あれ昔からの流れだと思います
毎朝生存確認されていたので、学生時代』
「…ん?どういう事?」
『伊達曰く、私は誰かがちゃんと気に掛けてみてやらないと、さっさと退場しそうなんですって』
「退場って?」
『人生から』
「…詩人だね」
『伊達に言ってください』
肩を竦めてみせれば、未だに詰め寄られている伊達にチラリと視線をやって、信じられない、とでも言うかの様にまたこちらを見る
そんな目をされたって、言われたことは事実なのだから信じて貰わないとこちらも困ってしまうのだけど
「その特殊能力はいつからなの?」
『いつだったかな…
一番最初は中学に上がる前だったから11か12くらいだった気がするけど』
「これまでで予言した子ってどれくらい居るの?」
『4人』
「少ないね」
『私、こんなでも昔は一匹狼気質だったから仲がいい子って少なかったんだよね
あと、普通に生きてれば死にそうになる場面なんて出くわさないものだよ』
「確かにそうだね」
そう言って笑う彼、諸伏くんの質問の意図は汲み取れない
探るような、ただの好奇心のような、そんなニュアンスの問い掛け
まぁ、別に信じて貰わなくてもいいけど
この人に関しては秀一さんに託しているし
「じゃあ、俺のは見えない?」
『初対面の人は流石に』
「そっかー、残念」
『何で残念?』
「お巡りさんは危険だからね」
『…確かに』
実際死ぬ運命にある人だしね
お隣の金髪さんは何度も死にそうな場面あっても切り抜ける強運さんでもあるけど
『でも』
「ん?」
『私の知ってる人の未来に、出てきたことあるよ』
「…俺?」
『うん』
今度は分かりやすく、探るような目線になった諸伏くんに、目を逸らさずに見つめ返す
言うつもりはあんまり無かったけど、思ったより食いつくもんだからつい
なんて静かに見つめ合っていると
「つか、九条!お前あんな意味深な手紙寄越すだけ寄越して音信不通とかふざけんなよ」
『えー、連絡返さなかっただけじゃん』
「確信犯か」
『だって何度も同じ事聞くんだもん、面倒になって』
「九条ちゃんあの頃と連絡先変わってなかったよ」
「それはそれで不用心だぞ、九条」
「尚悪いだろ」
『えー…』
伊達を問い詰め終わったらしい松田に絡まれた
松は萩以上に何というか詳細な説明を求められたので面倒になったのだ
だってこんなの予言なんて物なんかじゃなくてただの記憶だもの
詳細に聞かれたらいつかボロが出そうだったから放置していたのだ、仕方ない
何て開き直っていれば、松田が怒りに震えていた
懐かしいな、この感じ
何て呑気なことを思っていたら萩も同じ事を思っていたのか楽しそうに声を出して笑っていた
なんてダラダラ話しているとそれなりにいい時間になる物で(そもそも集合が遅かった)
私は休みだけどお互い公務員、そんなに暇ではないもので
伊達となぜか降谷くんと諸伏くんとも連絡先を交換して
松田にはたまには連絡を寄越せと釘を刺されて、お開きとなった
車で来ていたらしい降谷くんと一緒に諸伏くんと伊達が乗り込んで
萩と松と共に駅へと向かう流れとなる
『あ、そうだ諸伏くん』
「ん?」
『階段から聞こえる足音は、君が絶大な信頼を寄せる味方のものだから早まらないでね』
車が走り出す直前に、それだけを投げかけて
驚いたように目を見開いた彼に手を振って背中を向ける
「例の奴?」
『私の知り合いの人の未来に出てきたんだよね、彼
世間って狭いねー』
そのまま駅へと足を進めると追いかけてきた萩がそう問う
松も横に並び、何も言わないけど視線だけ投げかけてくる
あの未来は本当は諸伏くんのもの
秀一さんは関わっただけで、あの人が危険な目に遭うのはもっと別の未来
けど、彼にはその説明をしていないのでこの矛盾には気付かないし気付けない
秀一さんは多少不可解なことがあってもそれは自分の手で暴くし、利用できる物なら利用する
記憶の中よりまだ幾分も幼い彼になら通用する手、だったと思う
はてさて、これでこの人達に関わる事は全て換える手筈は整ったわけだけども
「九条ちゃんって」
『うん?』
「身内には甘いタイプだったの?」
萩があまりにも不思議そうに聞く物だから少し笑ってしまう
言われてみればそうなのかもしれない
昔から、ここに来る前から親しいと呼べる間柄の人間なんて存在せず惰性で生きていた
それが現在はどうであろう、あの頃の自分では考えられないほどの交流がある
知らなかったけれど、萩の言葉を借りて身内、と認定した人物には甘いのかもしれない
と言うか、今までそんな人間が居なかったから距離感を測りかねている、とも言うけど
『自覚無かった』
「そうみたいだね」
『甘い?』
「大事にしてる」
『大事…』
なんだ、私感情が育たなかった何て言いながら実際には持ち合わせて居たみたいだ
まぁ、生きていれば、人と関われば、感情に触れるわけで
完全に無感情のまま居る方が難しいのかもしれない
「じゃあ、俺は反対路線だから松田、頼んだ」
「…は?」
「ちゃんと送り届けるんだぞー」
何て言葉通りに反対の側の改札へと向かっていく萩
ひらひら、と手を振るけど隣の松は突っ立っている
トレードマークのサングラスは夜と言うことでしていないけど、その顔は険しい
『別に送って貰わなくても帰れるよ?』
「…いや、いい」
『仕事は?』
「休み」
『あら、奇遇』
大きな溜息を吐いた松と共に改札をくくった
タイムパラドックスなんて気にしない
(そう言える人間だと、思っていたのだけど)
そうして翌日
何とか早いこと仕事を終わらせて九条ちゃんを迎えに行く
真っ直ぐな黒髪をハーフアップにし、昨日はしていなかったお化粧もして
ワインレッドのロングスカートに、クリーム色のニット
ブラウンベースのストールを緩く掛けて上品に佇む九条ちゃんに、一瞬目を奪われて
『お疲れ様』
「九条ちゃん、綺麗だね」
『ありがとう』
少し噛み合わない会話をしてしまったのは、ここだけの話にしておいて欲しい
そのまま九条ちゃんを連れて待ち合わせ場所に行けば、俺達が最後だったようでがたいのいいのが4人揃って待っていた
「お待たせー」
「おっせーぞ、萩
お前から誘っといて、一番最後かよ」
聞こえてきた文句は聞き流して
残り3人には悪いけど、ちょっとだけ待ってて欲しい
ニヤニヤしているだろう俺の顔を見て、訝しげに眉を寄せるじんぺーちゃん
実のところ九条ちゃんと再会した、と言う事は松田には言っていない
今日連れてくることだって、勿論
まーまー、と宥めていると、何かを察した九条ちゃんが俺の背中から出てくる
記憶力のいい九条ちゃんの事だ、聞き覚えのある声に反応したのだろう
そもそも、俺の友達、と言ったのだから松田が居ることは予想済みだったのかもしれないが
『相変わらず松は短気だねぇ、血管切れるよ?』
のんびり、と表現されるだろう口調で九条ちゃんが再会の挨拶もなしに話しかける
そういうとこあるよな、九条ちゃん
俺の影で完全に見えていなかったであろう松田は、一瞬誰だ、と言うような顔をした後すぐに思い至ったのか、目を大きく見開く
確かに今日の九条ちゃんは私服で、一瞬じゃ誰かは分からないがその造形は大きく変わっていない
「おま、九条!?」
『お久し振りー』
驚いて指さす松田なんて意にも介さず、ひらり、と手を上げる
わなわなしている松田を笑っていると、思っても居ないところから声が上がる
「九条、ってあの九条!?お前、生きてたのか!」
『うん、何かいろいろ誤解を招きそうな反応するのは止めて貰ってもいいかな、伊達くんよ』
「そーかそーか、いやぁよかった!美人になったなぁ、元々整ってたけどな」
『うん、会話して?』
九条ちゃんの肩を掴んで詰め寄ったのはまさかの伊達
九条ちゃんは背を仰け反らせながらも、特に驚いた様子も無く相手にしている
もしかして伊達とも知り合いだったのだろうか
「取り敢えず積もる話があるみたいだけど、中に入ろうか?」
状況は掴めていないだろうけど、どこか冷静な諸伏の言葉に漸く、俺達は店の中へと足を進めた
俺の隣に居る九条ちゃんは松田、伊達からの視線を一身に浴びながらも特に気にした様子も無く見慣れない2人を見上げていた
『萩、萩』
「ん?」
『ここの顔面偏差値恐ろしいね』
「ナルシストじゃ無かったでしょ?」
『ホントそれ』
俺等の中でもトップクラス、と言っても過言で無い降谷を見てもその程度の反応なのか
やっぱり九条ちゃんは九条ちゃんである
そうして案内された個室で、俺と松田の間に九条ちゃん、対面に残りの3人が腰掛けて、取り敢えず飲み物を、と注文をして
「おい、萩!ちゃんと説明しろ」
「どーどー、じんぺーちゃん落ち着いて」
「いやぁ、元気そうで何よりだよ、九条」
『うん、伊達は私の何なのかな?』
落ち着く間もなくじんぺーちゃんに噛みつかれた
それは予想通りだったけど、まさか俺等以外に面識のある人物がいるとは思わなかった
それに関しては俺も説明が欲しいところで
でもまぁ、一番説明を求めているのは全く関係の無い2人だろうけど
『取り敢えず松は落ち着いて、お店に入ったんだから声は抑えて
萩も主犯だからちゃんと面白がってないでちゃんと説明を
因みに伊達とは中学が一緒だったの』
どこまでも冷静な九条ちゃんの声に、松田も大人しくなる
正論に返す言葉が無くなるのは昔からだ
まぁ、説明を欲しているのだから大人しく話を聞いた方が得策だと分かっているからだろう
『先にお二人にご挨拶
九条桜雪です、伊達とは中学時代の同級生、松と萩とは高校時代の同級生でした
今は看護師してます』
それは知らない情報
確かに数年ぶりの連絡があれで、お互いの近況報告なんて物はしなかったのだから当たり前なのだけれど
九条ちゃんの自己紹介に二人も同じように名前と職業を返す
まぁ、俺の友人と紹介しているのだから警察と言うことはお察しだったと思うけれど
さて、事情の説明をするにしてもそれに関しては九条ちゃんの予言が関わってくる
それを伏せて話を進めるのは少々困難というもので
「九条ちゃん」
『お好きにどうぞ』
察しのいい九条ちゃんは名前を呼んだだけで何を言おうとしたのか分かったようで
小さく頷いて飲み物を口に運んだ
*****
萩の説明が終わり、事情を何も知らない2人は到底信じられない、と言う顔をしていた
まぁ、そうなるのも仕方ないというか、それが当たり前の反応なのでなんとも思わないけれど
運ばれてきた料理を何も言わず口に運んでいるけれど、2人からの視線は突き刺さっている
うん、分かるけど
「まぁ、信じる信じないは好きにすればいいけど、実際言われた通りの事が起きた、って言うことだけは信じてね」
肩を竦めながら言った萩の言葉に、戸惑ったような、納得してないような、そんな複雑な顔をした2人が頷く
まさか、あの時の手紙を持ってきてるなんて思わなかったけど
「手紙かー、俺の時もそうしてくれたらよかったのに」
『伊達の時は話すタイミングがあったから』
「理由が雑だなぁ、まぁ、あの時九条が言ったように彼女が出来たから忘れようも無いけどな」
『あ、そうなんだ、おめでとう』
あの金髪美女、ナタリーさんと無事に出会えたらしい
未来の改変、なんて事をしているからどこでズレてくるか分からない、と言う懸念材料はあったけど、今は特に大きなズレは生まれていないようだ
よかったよかった、なんてだし巻きを口に運べば、4人が凄い顔をして伊達を見遣る
あれ、もしかして彼女がいること言って無かったのかな、この人
まぁ成人してわざわざ彼女ができましたー、なんて宣言しないか、普通に
『伊達はもう暫く先の話だけど、また機会あったら紹介してね』
「おう、俺が無事生き延びたら命の恩人だって紹介するわ」
『よろしく』
なんてのんびり話していると耐えきれなくなった萩や松が問い詰め始める
その輪の中に降谷くんも混ざって、少々賑やかだ
未だに感じる視線に目線を合わせると、にこり、と穏やかに微笑まれた
ぺこり、と軽く会釈で返すと、ねぇ、と話しかけてくるので箸を止める
『何でしょう?』
「伊達が言ってた、生きてたか、って何?」
『あぁ、あれ昔からの流れだと思います
毎朝生存確認されていたので、学生時代』
「…ん?どういう事?」
『伊達曰く、私は誰かがちゃんと気に掛けてみてやらないと、さっさと退場しそうなんですって』
「退場って?」
『人生から』
「…詩人だね」
『伊達に言ってください』
肩を竦めてみせれば、未だに詰め寄られている伊達にチラリと視線をやって、信じられない、とでも言うかの様にまたこちらを見る
そんな目をされたって、言われたことは事実なのだから信じて貰わないとこちらも困ってしまうのだけど
「その特殊能力はいつからなの?」
『いつだったかな…
一番最初は中学に上がる前だったから11か12くらいだった気がするけど』
「これまでで予言した子ってどれくらい居るの?」
『4人』
「少ないね」
『私、こんなでも昔は一匹狼気質だったから仲がいい子って少なかったんだよね
あと、普通に生きてれば死にそうになる場面なんて出くわさないものだよ』
「確かにそうだね」
そう言って笑う彼、諸伏くんの質問の意図は汲み取れない
探るような、ただの好奇心のような、そんなニュアンスの問い掛け
まぁ、別に信じて貰わなくてもいいけど
この人に関しては秀一さんに託しているし
「じゃあ、俺のは見えない?」
『初対面の人は流石に』
「そっかー、残念」
『何で残念?』
「お巡りさんは危険だからね」
『…確かに』
実際死ぬ運命にある人だしね
お隣の金髪さんは何度も死にそうな場面あっても切り抜ける強運さんでもあるけど
『でも』
「ん?」
『私の知ってる人の未来に、出てきたことあるよ』
「…俺?」
『うん』
今度は分かりやすく、探るような目線になった諸伏くんに、目を逸らさずに見つめ返す
言うつもりはあんまり無かったけど、思ったより食いつくもんだからつい
なんて静かに見つめ合っていると
「つか、九条!お前あんな意味深な手紙寄越すだけ寄越して音信不通とかふざけんなよ」
『えー、連絡返さなかっただけじゃん』
「確信犯か」
『だって何度も同じ事聞くんだもん、面倒になって』
「九条ちゃんあの頃と連絡先変わってなかったよ」
「それはそれで不用心だぞ、九条」
「尚悪いだろ」
『えー…』
伊達を問い詰め終わったらしい松田に絡まれた
松は萩以上に何というか詳細な説明を求められたので面倒になったのだ
だってこんなの予言なんて物なんかじゃなくてただの記憶だもの
詳細に聞かれたらいつかボロが出そうだったから放置していたのだ、仕方ない
何て開き直っていれば、松田が怒りに震えていた
懐かしいな、この感じ
何て呑気なことを思っていたら萩も同じ事を思っていたのか楽しそうに声を出して笑っていた
なんてダラダラ話しているとそれなりにいい時間になる物で(そもそも集合が遅かった)
私は休みだけどお互い公務員、そんなに暇ではないもので
伊達となぜか降谷くんと諸伏くんとも連絡先を交換して
松田にはたまには連絡を寄越せと釘を刺されて、お開きとなった
車で来ていたらしい降谷くんと一緒に諸伏くんと伊達が乗り込んで
萩と松と共に駅へと向かう流れとなる
『あ、そうだ諸伏くん』
「ん?」
『階段から聞こえる足音は、君が絶大な信頼を寄せる味方のものだから早まらないでね』
車が走り出す直前に、それだけを投げかけて
驚いたように目を見開いた彼に手を振って背中を向ける
「例の奴?」
『私の知り合いの人の未来に出てきたんだよね、彼
世間って狭いねー』
そのまま駅へと足を進めると追いかけてきた萩がそう問う
松も横に並び、何も言わないけど視線だけ投げかけてくる
あの未来は本当は諸伏くんのもの
秀一さんは関わっただけで、あの人が危険な目に遭うのはもっと別の未来
けど、彼にはその説明をしていないのでこの矛盾には気付かないし気付けない
秀一さんは多少不可解なことがあってもそれは自分の手で暴くし、利用できる物なら利用する
記憶の中よりまだ幾分も幼い彼になら通用する手、だったと思う
はてさて、これでこの人達に関わる事は全て換える手筈は整ったわけだけども
「九条ちゃんって」
『うん?』
「身内には甘いタイプだったの?」
萩があまりにも不思議そうに聞く物だから少し笑ってしまう
言われてみればそうなのかもしれない
昔から、ここに来る前から親しいと呼べる間柄の人間なんて存在せず惰性で生きていた
それが現在はどうであろう、あの頃の自分では考えられないほどの交流がある
知らなかったけれど、萩の言葉を借りて身内、と認定した人物には甘いのかもしれない
と言うか、今までそんな人間が居なかったから距離感を測りかねている、とも言うけど
『自覚無かった』
「そうみたいだね」
『甘い?』
「大事にしてる」
『大事…』
なんだ、私感情が育たなかった何て言いながら実際には持ち合わせて居たみたいだ
まぁ、生きていれば、人と関われば、感情に触れるわけで
完全に無感情のまま居る方が難しいのかもしれない
「じゃあ、俺は反対路線だから松田、頼んだ」
「…は?」
「ちゃんと送り届けるんだぞー」
何て言葉通りに反対の側の改札へと向かっていく萩
ひらひら、と手を振るけど隣の松は突っ立っている
トレードマークのサングラスは夜と言うことでしていないけど、その顔は険しい
『別に送って貰わなくても帰れるよ?』
「…いや、いい」
『仕事は?』
「休み」
『あら、奇遇』
大きな溜息を吐いた松と共に改札をくくった
タイムパラドックスなんて気にしない
(そう言える人間だと、思っていたのだけど)