君が生きた世界を守ろう
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side.M
高校に入学し知り合った九条桜雪という生徒は、どこまでも他人に無関心な人間だった
それはコイツに関わった人間にしか気付かれないような、どこまでも自然体な対応
コイツを象徴するかのような笑顔は、完璧に計算され尽くした貼り付けた笑顔で、鉄壁の鎧と言っても過言ではない
誰も踏み込ませない、寄せ付けない、確実に引かれた一線
それは3年続いたこの関係でも変わることは無く、明確な一線は消えないまま
「九条」
『どうしたの、松』
「帰んねぇのか」
『どうせ家に帰っても1人だし、急いで帰る必要は無いでしょう?』
「…は?1人って…」
『あれ、言ってなかったっけ?独り暮らしなんだよ』
「…高校で?地元ここじゃ無いとか」
『そんなこと無いよ、家族と折り合いが悪いだけ』
淡々となんて事無いとでも言うかの様に話す九条は本当に何も気にしていない
実際高校生での独り暮らしが周りにどう思われるか、なんて事くらいは分かっているだろうから今の今まで話さなかったのだろう、と言う事は理解出来る
けど、家族と折り合いが悪いという理由だけでこの年齢で独り暮らしをする、なんてこと…
『すっごい皺』
眉間を指差し、苦笑気味に笑う九条は自分を取り巻く環境が変わっていると言うことくらい理解している
それをなんとも思っていない、と言う事も手に取るように分かって
「何があったんだ」
『そこまでプライベートを松に話す必要がある?』
「ない、から話したくないというなら聞かない
けど、友人として俺は何があったか知りたい、と思う」
そう、自身の気持ちをはっきりと伝えると、九条は予想外、とでも言わんばかりに大きく瞬き、再び苦笑を零した
不自然なほど自然に俺から目を逸らすと、まるで困った、と言わんばかりに肩を竦める
『誰にも話したこと無かったんだけどなぁ』
それだけ小さく呟くと、九条は俺を一瞬見上げ、またすぐに目を逸らす
萩原が良く言う、あの真っ暗な瞳をして
そうして訥々と語られたのは、この小さな背中に背負うには重すぎる過去
全てを語った訳では無いのかもしれない
九条の中で、ここまでは話してもいいか、と思えた部分だけが語られた可能性だって十分にある
それでも、語られた過去は重く苦しいモノで
なのにコイツは、どこか他人事のように、自分は何も思って居ないとでもいうかのようで
あぁ、コイツはこうして育ったんだな
心を、感情を無意識に殺して、その環境に耐えてきたのだろう
その自覚はきっと無いのだろうけど、感情を知らなければ傷付くことも無いと言いたげだ
そう理解した途端に、コイツは守らなければいけない存在なんだ、と思った
実際気がかりな存在ではあった
あの日態々自分から声を掛けたのも、放って置くといつの間にか消えていそうな、そんなモノを感じたから
それが、どうにも恐ろしく感じたから
「…お前、よく生きてたな」
『生命力高いのかもね』
「死のうと思ったことは無いのか?」
『…ない、と言ったら噓なんだろうけど、死ぬことすら面倒だったかもしれない
死にたい理由も、生きていたい理由もどちらも無いから惰性で生きてるの』
コイツはもう、感覚が狂ってしまっている
明日死ぬ、と言われてもコイツはそうですか、と頷いて変わらぬ日常に戻るだろう
目に浮かぶ
「九条」
『ん?』
「死ぬなよ」
『死なないよ、苦しいのも痛いのも嫌だから』
「そう言う話じゃねぇ」
『えー?』
くすくす、と小さく笑う九条は自身の異常な思考も分かっていて普通に振る舞う
不自然なほど自然なコイツの普通は、こうして作り上げられたモノなのだと容易に想像が出来て
あぁ、コイツはこのまま放って置いてはいけないな、なんて漠然と思った、それがきっかけ
*****
そうして時は流れ私達ももう卒業である
警察学校へと進む2人と看護師の専門学校へ進む私
お互い高校生、携帯の連絡先は随分と前に交換したが、明日以降私から連絡することはもう無いだろう
そう、全寮制の警察学校へ進む2人と会うことはもう無い
だからだろう
伊達の時と同じように、予言と称してこれから先起こる未来について話そうと思ったのは
信じて貰わなくてもいい
けどこの3年間、私の中の大部分を占めるのは彼等であることには変わりなくて
一番最初に死んでしまう萩がここに居るのは、神様と言う奴の悪戯なのだろうか
死なないで欲しい、と思えるほどには濃い時間だったのは間違いなくて
そんなことを考えたはいいが話をするタイミングとやらを窺いすぎてもう卒業式になってしまった
伊達の時と言い言い逃げが好きだなぁ、私
なんて少し自分自身に苦笑して
まぁ、人気者な彼等は式典が終われば同級生だけで無く後輩からも取り囲まれ、部活仲間にも囲まれ、と話をする隙は無くて
分かっていたことだけど、流石すぎて笑えるんだけど
卒業アルバムは、式典が始まる前から盥回しにされていたため、式典が終わった今は大人しく鞄に収まっている
教室に戻ってくる生徒は殆どいないため、1人教室に戻って彼等の鞄からアルバムを拝借する
『書く隙間殆ど無いなぁ』
予想通りぎっしりなフリースペース
預言書、と称して手紙を書いておいて正解だった
形として残ってしまう分、伊達の時よりより強固な予言になってしまうかもしれない
沢山貰ったであろうラブレターに紛れて捨てられることが無い限り、多分手元に残る
彼等の性格からして、読まずに捨てる、と言う事はしないだろうから、彼等の目に触れること無くこの手紙が捨てられる事はないと、信じるしか無いけど
『ありがとう
前と合わせて考えても、一番楽しい時間だったと思うよ』
窓の外楽しそうに笑う彼等を見下ろす
僅かな隙間に書き込んだメッセージには気付くだろうか、別に気付かれなくたって構わないけれども
それにしても、松だけと言えど自身について話してしまったのは自分でも驚きだった
兄さん達にも話していないと言うのに
明らかに可笑しい環境で育ったのだと言うことは気付いて居るだろうけど
それだけ気を許していたのだろうか
彼等が悪い人じゃ無いと知っていたから、余計に
今日を迎えて、彼等とはまだ話していない
人気者は最後の最後まで人に囲まれるのだ
羨ましいとも、寂しいとも思わないけど一言くらい話せたらよかったのになぁ
何てらしくないことを考えた自分に少しだけ驚いて、苦笑
感情豊かな人が周りにいればそれに感化されるモノなのだろうか、なんて
『ばいばい』
再会を願ったりはしない
縁があればまた会うのだろうし、無ければこれまでの関係
『思っていたより楽しい3年間だったよ』
一瞬、松田と視線が合ったような気がしたけれど気付かない振りをして教室を後にする
今このまま下に降りれば松田に捕まるような気がするから屋上へと足を進める
これから数年は特に大きな事件は起こらない、筈
相変わらずこの米花町は犯罪が多いので、何かに巻き込まれたり、見掛けたりすることはあるのかもしれないけど
あぁ、さざ波があるのか、そう言えば
自分が家族団欒に呼ばれるかは分からないけど、メアリーさん達の様子を見る限り恐らく呼ばれるだろう
事件が起こることも、犯人も覚えているからボロが出ないようにしないと
騒がしい雑音を聞きながら目を閉じる
この3年間を振り返る、なんて事はしないけど
『帰ろうか』
じゃあね、青春
なんて、らしくないことを言ってみたりして
書き換えたって誰もわからない
(そこに生まれる矛盾は、私にしか分からないの)
高校に入学し知り合った九条桜雪という生徒は、どこまでも他人に無関心な人間だった
それはコイツに関わった人間にしか気付かれないような、どこまでも自然体な対応
コイツを象徴するかのような笑顔は、完璧に計算され尽くした貼り付けた笑顔で、鉄壁の鎧と言っても過言ではない
誰も踏み込ませない、寄せ付けない、確実に引かれた一線
それは3年続いたこの関係でも変わることは無く、明確な一線は消えないまま
「九条」
『どうしたの、松』
「帰んねぇのか」
『どうせ家に帰っても1人だし、急いで帰る必要は無いでしょう?』
「…は?1人って…」
『あれ、言ってなかったっけ?独り暮らしなんだよ』
「…高校で?地元ここじゃ無いとか」
『そんなこと無いよ、家族と折り合いが悪いだけ』
淡々となんて事無いとでも言うかの様に話す九条は本当に何も気にしていない
実際高校生での独り暮らしが周りにどう思われるか、なんて事くらいは分かっているだろうから今の今まで話さなかったのだろう、と言う事は理解出来る
けど、家族と折り合いが悪いという理由だけでこの年齢で独り暮らしをする、なんてこと…
『すっごい皺』
眉間を指差し、苦笑気味に笑う九条は自分を取り巻く環境が変わっていると言うことくらい理解している
それをなんとも思っていない、と言う事も手に取るように分かって
「何があったんだ」
『そこまでプライベートを松に話す必要がある?』
「ない、から話したくないというなら聞かない
けど、友人として俺は何があったか知りたい、と思う」
そう、自身の気持ちをはっきりと伝えると、九条は予想外、とでも言わんばかりに大きく瞬き、再び苦笑を零した
不自然なほど自然に俺から目を逸らすと、まるで困った、と言わんばかりに肩を竦める
『誰にも話したこと無かったんだけどなぁ』
それだけ小さく呟くと、九条は俺を一瞬見上げ、またすぐに目を逸らす
萩原が良く言う、あの真っ暗な瞳をして
そうして訥々と語られたのは、この小さな背中に背負うには重すぎる過去
全てを語った訳では無いのかもしれない
九条の中で、ここまでは話してもいいか、と思えた部分だけが語られた可能性だって十分にある
それでも、語られた過去は重く苦しいモノで
なのにコイツは、どこか他人事のように、自分は何も思って居ないとでもいうかのようで
あぁ、コイツはこうして育ったんだな
心を、感情を無意識に殺して、その環境に耐えてきたのだろう
その自覚はきっと無いのだろうけど、感情を知らなければ傷付くことも無いと言いたげだ
そう理解した途端に、コイツは守らなければいけない存在なんだ、と思った
実際気がかりな存在ではあった
あの日態々自分から声を掛けたのも、放って置くといつの間にか消えていそうな、そんなモノを感じたから
それが、どうにも恐ろしく感じたから
「…お前、よく生きてたな」
『生命力高いのかもね』
「死のうと思ったことは無いのか?」
『…ない、と言ったら噓なんだろうけど、死ぬことすら面倒だったかもしれない
死にたい理由も、生きていたい理由もどちらも無いから惰性で生きてるの』
コイツはもう、感覚が狂ってしまっている
明日死ぬ、と言われてもコイツはそうですか、と頷いて変わらぬ日常に戻るだろう
目に浮かぶ
「九条」
『ん?』
「死ぬなよ」
『死なないよ、苦しいのも痛いのも嫌だから』
「そう言う話じゃねぇ」
『えー?』
くすくす、と小さく笑う九条は自身の異常な思考も分かっていて普通に振る舞う
不自然なほど自然なコイツの普通は、こうして作り上げられたモノなのだと容易に想像が出来て
あぁ、コイツはこのまま放って置いてはいけないな、なんて漠然と思った、それがきっかけ
*****
そうして時は流れ私達ももう卒業である
警察学校へと進む2人と看護師の専門学校へ進む私
お互い高校生、携帯の連絡先は随分と前に交換したが、明日以降私から連絡することはもう無いだろう
そう、全寮制の警察学校へ進む2人と会うことはもう無い
だからだろう
伊達の時と同じように、予言と称してこれから先起こる未来について話そうと思ったのは
信じて貰わなくてもいい
けどこの3年間、私の中の大部分を占めるのは彼等であることには変わりなくて
一番最初に死んでしまう萩がここに居るのは、神様と言う奴の悪戯なのだろうか
死なないで欲しい、と思えるほどには濃い時間だったのは間違いなくて
そんなことを考えたはいいが話をするタイミングとやらを窺いすぎてもう卒業式になってしまった
伊達の時と言い言い逃げが好きだなぁ、私
なんて少し自分自身に苦笑して
まぁ、人気者な彼等は式典が終われば同級生だけで無く後輩からも取り囲まれ、部活仲間にも囲まれ、と話をする隙は無くて
分かっていたことだけど、流石すぎて笑えるんだけど
卒業アルバムは、式典が始まる前から盥回しにされていたため、式典が終わった今は大人しく鞄に収まっている
教室に戻ってくる生徒は殆どいないため、1人教室に戻って彼等の鞄からアルバムを拝借する
『書く隙間殆ど無いなぁ』
予想通りぎっしりなフリースペース
預言書、と称して手紙を書いておいて正解だった
形として残ってしまう分、伊達の時よりより強固な予言になってしまうかもしれない
沢山貰ったであろうラブレターに紛れて捨てられることが無い限り、多分手元に残る
彼等の性格からして、読まずに捨てる、と言う事はしないだろうから、彼等の目に触れること無くこの手紙が捨てられる事はないと、信じるしか無いけど
『ありがとう
前と合わせて考えても、一番楽しい時間だったと思うよ』
窓の外楽しそうに笑う彼等を見下ろす
僅かな隙間に書き込んだメッセージには気付くだろうか、別に気付かれなくたって構わないけれども
それにしても、松だけと言えど自身について話してしまったのは自分でも驚きだった
兄さん達にも話していないと言うのに
明らかに可笑しい環境で育ったのだと言うことは気付いて居るだろうけど
それだけ気を許していたのだろうか
彼等が悪い人じゃ無いと知っていたから、余計に
今日を迎えて、彼等とはまだ話していない
人気者は最後の最後まで人に囲まれるのだ
羨ましいとも、寂しいとも思わないけど一言くらい話せたらよかったのになぁ
何てらしくないことを考えた自分に少しだけ驚いて、苦笑
感情豊かな人が周りにいればそれに感化されるモノなのだろうか、なんて
『ばいばい』
再会を願ったりはしない
縁があればまた会うのだろうし、無ければこれまでの関係
『思っていたより楽しい3年間だったよ』
一瞬、松田と視線が合ったような気がしたけれど気付かない振りをして教室を後にする
今このまま下に降りれば松田に捕まるような気がするから屋上へと足を進める
これから数年は特に大きな事件は起こらない、筈
相変わらずこの米花町は犯罪が多いので、何かに巻き込まれたり、見掛けたりすることはあるのかもしれないけど
あぁ、さざ波があるのか、そう言えば
自分が家族団欒に呼ばれるかは分からないけど、メアリーさん達の様子を見る限り恐らく呼ばれるだろう
事件が起こることも、犯人も覚えているからボロが出ないようにしないと
騒がしい雑音を聞きながら目を閉じる
この3年間を振り返る、なんて事はしないけど
『帰ろうか』
じゃあね、青春
なんて、らしくないことを言ってみたりして
書き換えたって誰もわからない
(そこに生まれる矛盾は、私にしか分からないの)