君が生きた世界を守ろう
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あの日からお兄さん、基赤井秀一並びにそのご家族との縁が出来てしまった
退行トリップをして、誰も私のことを知らないのだから此処に居ても意味が無いと衝動的に家を出たはいいけれど、一つ、可能性に気付いてしまったのだ
生活できる環境が整っていて
此処での私を取り巻く環境は、実は存在しているのでは無いか、と言う可能性に
あの後お兄さん、秀一さんのお母さんに迎えに来て貰い家に戻った
探し当てた携帯の連絡先を確認すると、前の世界で私の保護者として一応の面倒を見てくれていたその人の連絡先があって
あぁ、きっとこの世界に来るまでの私の経歴はそのまま適応されているのだろう、と言う事に気付いてしまったのだ
それならば、消える訳にはいかない
前の世界同様、生きていかなければならない
その事実に思い至ってしまったのだ
結果としてあの時秀一さんに見つかったのは良かったと言える
迎えに来たお母さんに、秀一さんと一緒に怒られる事になってしまったが
その結果、私の特殊な家庭環境を察したのか、何かと家にお呼ばれすることが増えて
何やら私も家族同然に扱われているような状況に至っている
私の3つ年上の秀一さん、私の1つ年下の秀吉くん、12歳年下の真澄ちゃん
まぁ、真澄ちゃんはまだお腹の中で生まれては居ないのだけれど
かといって、自ら赤井家のおうちにお邪魔するようなことは無い
学校帰りや偶然出会った時など、半強制的に連行される程度で
だって、あの赤井さんですもの
忘れて貰っては困るけれど、私には原作知識がある
正直、あまり関わり合いたくはない
面倒ごとには首を突っ込みたくない
この段階で、お父さんは亡くなっている
赤井さんがFBIに進むことは、決まった道だと言える
つまり原作通りの展開になることはほぼ決まった道だ
赤井さんと関係があると分かれば、きっと将来的にあの小さな探偵とも関わる可能性が増す
あの知りたがりな探偵のことだ、この人の過去を知る私を放っておく筈もない
知ると言っても大したこと知らないけれども
まぁ、この人が積極的に一般人を巻き込もうとすることは無いと思うけれどリスクは減らしておきたい
けど、私は多少なりとも原作を知っているのだ
と言うか、正直私の記憶力は異常である
一度聞いたもの、見たものは即座に覚えるし、並大抵のことでは忘れない
感情は乏しい人間であっても、これから死ぬと分かっている人と出会った場合、何の反応も示さないとは限らないのだ
変に疑われるような事はしたくない
どうしようもなく観察眼の鋭い人間達なのだ
私のどんな挙動が目に止まるか、なんて分かったものじゃない
とは思って居ても、わざわざ自分からこの関係を絶とうとは考えていない
第一、その方が面倒臭い
基本的には事勿れ主義なのだ、なるようにしかならない
とそこまで考えて、思考を放棄した
赤井秀一と知り合い、それなりに親しくなっていれば後のあのトリプルフェイス、降谷零の幼馴染みを救うことが恐らく出来る
要は掴んだシリンダーの手を緩まさなければいい
あの時聞こえてきた足音はその目の前のNOCと同じ機関に所属する者の足音だと
けれど、そんなこと言ったところでどうなる
私のこの言い分が信じられるとでも思うか?
変な人間と思われたのなら御の字、何を知っているんだと、と疑われるのが最悪
私はただの一般人Aで居たい
救える命がある
けれど、私の力だけでは不可能
協力要請なんて以ての外だ
ならばどうすればいい?
静観する他、手は無いだろう
元々感情の乏しい人間なんだ
まだ見ぬ人間の命を嘆くなんて、そんな芸当が私に出来るとお思いか
『ホントに行くんだね、留学』
知り合ってから約1年
私を我が子のように思ってか赤井家に招き入れてくれるメアリーさんのお陰でこの家は第二の我が家となりつつある
そんな家を我が物顔で敷居を括り、階段を登ると一応のノックだけをし扉を開く
片付いた、というには物の少ないその部屋の持ち主は足元のスーツケース片手にこちらへと視線を寄越した
「まぁな、向こうの方が自由だ」
『そうだね、兄さんには向いていると思うよ
本当にそれだけが目的ならね』
「…桜雪は時々、何でも知っているかのように話すな」
『何でも知ってるの、と言っても信じないでしょう?
それを裏付ける証拠もありもしないけれど』
アメリカの学校へ進学が決まった兄のようなこの人は、一応メアリーさんを言いくるめたようではあるがいずれバレることであろう
私は特殊な立場であるため本当の目的が違うと言うことは分かっている
けれど彼にその事を伝えるつもりはない
けれどこうやって時折仄めかすようなことを言っておくことで私が予言として告げるシナリオを信じてもらえるようになる、と思う
『兄さんは自殺を止めるのが得意なようだから、今後ともお願いしたいね』
「そんな特技披露したことは無いと思うがな」
『あれ、私が今生きてるのは兄さんに止められたからなのだけれど』
「…死ぬ気だったのか」
『死ねたら良いなー、とは思ってたよ』
「…俺より先に死ぬなよ」
『…なぁに、そんな危ないことするつもりなの?』
知ってはいるが敢えて知らない体で話を進める
そうだね、これから17年後に兄さんは一度死んで別の人になる
その時、私はどう振る舞えば良いのか、まだ答えは出せていない
『これから妹が産まれるっていうのに、薄情なお兄ちゃんだね』
「秀吉も、桜雪もいる」
『私に押しつけるの?』
「同性の方が何かと分かってやれるんじゃ無いか?」
『私に子供の面倒が見れるとでも?』
「思って居るよ、桜雪は何だかんだ見捨てられない人間だ」
ぽん、と頭に乗った手
ほんとうにこの人はよく人を見ている
1年にも満たない付き合い
父である務武さんが亡くなってイギリスから逃げるように日本へやって来たというのに
その死について調べるため、単身危険へと飛び込もうとしている
何だかんだ死線は切り抜けるけれど、危険であることは変わりないというのに
好奇心に殺される、と言う言葉が出来た理由がよく分かる
『そう言う兄さんもだよね』
「…フッ、そうかもしれないな」
まだ高校生になっても居ないと言うのに
イギリスに居た分言語にはそう大して困りはしないのだろうけど
メアリーさんだって本当は送り出したくないに決まってる
けれど、こうして意思を尊重してくれるのだから優しい人だと思う
『酷いお兄ちゃんだね、皆騙して行っちゃう』
「…正直に話したら許可はされないだろう
まだ子供の立場だ、どうすることも出来ない」
『子供の自覚があるなら守られてれば良いのに』
「俺がそんな大人しくしている人間だと思うか?」
『ううん、全く』
「だろう?」
フライトの時間がある、そんなに時間は残されて居ない
お腹が大きくなりつつあるメアリーさんが運転するわけにも行かず、もうすぐ呼びつけたタクシーが来るはずだ
今日は一応お見送りに私も行く予定
空港に着いてからはゆっくり話せないだろうと践んで赤井家にやって来たのだ
関わる覚悟は出来ていないけれど、でもこの人は関わる必要の無い私に関わってくれた人だから
少しでも確執が無くなるのなら
『ねぇ、自殺を止めるのが上手い兄さん』
「…そう何度も自殺する場面に立ち会いたくは無いんだが」
『本当に自殺を止めたいのなら、掴んだシリンダーは手放したら駄目だよ
どんなことがあっても、絶対に』
真っ直ぐと高い位置にある瞳を見つめる
元々細い、切れ長の綺麗な目が訝しげに歪む
こんな小娘の口からシリンダーなんて言葉が出てくるとは思わなかったことだろう
リボルバー式の拳銃なんて、見たことも無ければ触れたことも無い
無縁な存在なのだから
真意を窺うように真っ直ぐに貫かれる瞳
それに臆せずこちらも真っ向からその瞳を見つめ返す
「…何を見てきたんだ、桜雪は」
『未来かな』
「それは…、随分と物騒な未来を見てきたんだな」
『そうなの、いつだって誰かが危険な目に遭う未来しか見えないの、参っちゃうよね』
冗談めかして言えば、鋭かったその瞳が柔らかくなる
笑みとも言えない程のその柔らかな表情は、誰にでも向けられるモノで無いことを知っている
再び頭に乗った手が、二度ほど跳ねる
するり、と髪の間をすり抜けていった指が私の手を掴んで
「そろそろ降りよう、タクシーが来る頃だ」
『…そうだね』
片手にスーツケース、片手に私の手
手を繋がれなくたって歩けるし、言われたなら着いていくくらいはする
なのにこの人は時折こうやって、存在を確認するかのように私の手を握るのだ
『ねぇ、兄さん』
「どうした?」
『私を生かしたんだから、兄さんも生きなきゃいけないよ』
「…俺が死んだら桜雪も死ぬ、と聞こえなくも無いが?」
『そう言ってるんだよ、って言ったら?』
冗談とも本気とも取れないくらいの、軽い調子で告げた言葉
別に死んだら死んでやる、と本気で思っているわけでは無い
けれど、あの時消えるはずだった命を拾ったのはこの人だ
持ち主がいなくなれば、その所有物はどうなるのか
別にこの人の所有物になったつもりは無いけれど、一応の保険
私がこうやって少しずつ原作に関わってしまって未来が換わってしまったときの保険
本来死なない筈の人間が、死んでしまわないようにするための、何の拘束力もない保険のようなモノ
「そう言われてしまえば、死ぬわけにはいかないな」
少しだけ強く握り直された手
前を向いているためその顔は見えないが、何となく笑っているような気がして
いつもは握り返さないそんな手を、今だけは、と指を動かした
「あぁ、やっと降りてきた
タクシー来たわ、行きましょう」
「あぁ」
「寂しくなるなー」
『兄さん、連絡不精っぽいもんね』
「確かに」
ちょうど階段を下りたところで、玄関で靴を履いているメアリーさんと秀吉くんに会う
つい先程まで繋いでいた手を自然と解いて会話に参加する
この光景は、もう見れなくなるだろう
これから秀一さんはアメリカ人となり、秀吉くんは高校を卒業すると羽田家へと行く
メアリーさんとこれから産まれてくる真澄ちゃんは暫く居ると思うが原作が始まる3年前にはイギリスへと逃れる
この家にこの家族が全員揃うことになるのは恐らくきっと、原作が終わった後になることだろう
タクシーに揺られながらそんなことをぼんやりと考える
平和な時間なんて、この家族には殆ど訪れない
私がこの人達の従姉妹を救うことはない
そこまで深く関わる事はしない
この先関わることがあるとも思わない、4つも年が離れているのだし学校が一緒になるはずも無い
私は私の居る位置から手の届く範囲の人にしか手を伸ばさない
そこまで必死になれやしない
全てが終わるまで高みの見物をしていたかった、と言えば薄情なのは秀一さんで無く私の方だろう
どうか、少しでも穏やかな終わりが訪れますように
それだけは祈っておくことにしよう
「じゃあ、行ってくる」
ぼんやりしている内に着いた空港
大した感情が乗っていない無表情で、淡々と告げられる出発の言葉
次会うのはいつだろうか、7年後のさざなみだろうか
そこに、私は居るのだろうか
いってらっしゃい、と静かに告げる
そう言うと少しだけ柔らかく笑ってくれる秀一さんに手を振って
いってらっしゃい、気を付けて
これは多分、私にとっても第一歩になる日だと思うから
じゃあ、また会おうね
ただの通行人で良いのに
(あーぁ、関わっちゃった)
退行トリップをして、誰も私のことを知らないのだから此処に居ても意味が無いと衝動的に家を出たはいいけれど、一つ、可能性に気付いてしまったのだ
生活できる環境が整っていて
此処での私を取り巻く環境は、実は存在しているのでは無いか、と言う可能性に
あの後お兄さん、秀一さんのお母さんに迎えに来て貰い家に戻った
探し当てた携帯の連絡先を確認すると、前の世界で私の保護者として一応の面倒を見てくれていたその人の連絡先があって
あぁ、きっとこの世界に来るまでの私の経歴はそのまま適応されているのだろう、と言う事に気付いてしまったのだ
それならば、消える訳にはいかない
前の世界同様、生きていかなければならない
その事実に思い至ってしまったのだ
結果としてあの時秀一さんに見つかったのは良かったと言える
迎えに来たお母さんに、秀一さんと一緒に怒られる事になってしまったが
その結果、私の特殊な家庭環境を察したのか、何かと家にお呼ばれすることが増えて
何やら私も家族同然に扱われているような状況に至っている
私の3つ年上の秀一さん、私の1つ年下の秀吉くん、12歳年下の真澄ちゃん
まぁ、真澄ちゃんはまだお腹の中で生まれては居ないのだけれど
かといって、自ら赤井家のおうちにお邪魔するようなことは無い
学校帰りや偶然出会った時など、半強制的に連行される程度で
だって、あの赤井さんですもの
忘れて貰っては困るけれど、私には原作知識がある
正直、あまり関わり合いたくはない
面倒ごとには首を突っ込みたくない
この段階で、お父さんは亡くなっている
赤井さんがFBIに進むことは、決まった道だと言える
つまり原作通りの展開になることはほぼ決まった道だ
赤井さんと関係があると分かれば、きっと将来的にあの小さな探偵とも関わる可能性が増す
あの知りたがりな探偵のことだ、この人の過去を知る私を放っておく筈もない
知ると言っても大したこと知らないけれども
まぁ、この人が積極的に一般人を巻き込もうとすることは無いと思うけれどリスクは減らしておきたい
けど、私は多少なりとも原作を知っているのだ
と言うか、正直私の記憶力は異常である
一度聞いたもの、見たものは即座に覚えるし、並大抵のことでは忘れない
感情は乏しい人間であっても、これから死ぬと分かっている人と出会った場合、何の反応も示さないとは限らないのだ
変に疑われるような事はしたくない
どうしようもなく観察眼の鋭い人間達なのだ
私のどんな挙動が目に止まるか、なんて分かったものじゃない
とは思って居ても、わざわざ自分からこの関係を絶とうとは考えていない
第一、その方が面倒臭い
基本的には事勿れ主義なのだ、なるようにしかならない
とそこまで考えて、思考を放棄した
赤井秀一と知り合い、それなりに親しくなっていれば後のあのトリプルフェイス、降谷零の幼馴染みを救うことが恐らく出来る
要は掴んだシリンダーの手を緩まさなければいい
あの時聞こえてきた足音はその目の前のNOCと同じ機関に所属する者の足音だと
けれど、そんなこと言ったところでどうなる
私のこの言い分が信じられるとでも思うか?
変な人間と思われたのなら御の字、何を知っているんだと、と疑われるのが最悪
私はただの一般人Aで居たい
救える命がある
けれど、私の力だけでは不可能
協力要請なんて以ての外だ
ならばどうすればいい?
静観する他、手は無いだろう
元々感情の乏しい人間なんだ
まだ見ぬ人間の命を嘆くなんて、そんな芸当が私に出来るとお思いか
『ホントに行くんだね、留学』
知り合ってから約1年
私を我が子のように思ってか赤井家に招き入れてくれるメアリーさんのお陰でこの家は第二の我が家となりつつある
そんな家を我が物顔で敷居を括り、階段を登ると一応のノックだけをし扉を開く
片付いた、というには物の少ないその部屋の持ち主は足元のスーツケース片手にこちらへと視線を寄越した
「まぁな、向こうの方が自由だ」
『そうだね、兄さんには向いていると思うよ
本当にそれだけが目的ならね』
「…桜雪は時々、何でも知っているかのように話すな」
『何でも知ってるの、と言っても信じないでしょう?
それを裏付ける証拠もありもしないけれど』
アメリカの学校へ進学が決まった兄のようなこの人は、一応メアリーさんを言いくるめたようではあるがいずれバレることであろう
私は特殊な立場であるため本当の目的が違うと言うことは分かっている
けれど彼にその事を伝えるつもりはない
けれどこうやって時折仄めかすようなことを言っておくことで私が予言として告げるシナリオを信じてもらえるようになる、と思う
『兄さんは自殺を止めるのが得意なようだから、今後ともお願いしたいね』
「そんな特技披露したことは無いと思うがな」
『あれ、私が今生きてるのは兄さんに止められたからなのだけれど』
「…死ぬ気だったのか」
『死ねたら良いなー、とは思ってたよ』
「…俺より先に死ぬなよ」
『…なぁに、そんな危ないことするつもりなの?』
知ってはいるが敢えて知らない体で話を進める
そうだね、これから17年後に兄さんは一度死んで別の人になる
その時、私はどう振る舞えば良いのか、まだ答えは出せていない
『これから妹が産まれるっていうのに、薄情なお兄ちゃんだね』
「秀吉も、桜雪もいる」
『私に押しつけるの?』
「同性の方が何かと分かってやれるんじゃ無いか?」
『私に子供の面倒が見れるとでも?』
「思って居るよ、桜雪は何だかんだ見捨てられない人間だ」
ぽん、と頭に乗った手
ほんとうにこの人はよく人を見ている
1年にも満たない付き合い
父である務武さんが亡くなってイギリスから逃げるように日本へやって来たというのに
その死について調べるため、単身危険へと飛び込もうとしている
何だかんだ死線は切り抜けるけれど、危険であることは変わりないというのに
好奇心に殺される、と言う言葉が出来た理由がよく分かる
『そう言う兄さんもだよね』
「…フッ、そうかもしれないな」
まだ高校生になっても居ないと言うのに
イギリスに居た分言語にはそう大して困りはしないのだろうけど
メアリーさんだって本当は送り出したくないに決まってる
けれど、こうして意思を尊重してくれるのだから優しい人だと思う
『酷いお兄ちゃんだね、皆騙して行っちゃう』
「…正直に話したら許可はされないだろう
まだ子供の立場だ、どうすることも出来ない」
『子供の自覚があるなら守られてれば良いのに』
「俺がそんな大人しくしている人間だと思うか?」
『ううん、全く』
「だろう?」
フライトの時間がある、そんなに時間は残されて居ない
お腹が大きくなりつつあるメアリーさんが運転するわけにも行かず、もうすぐ呼びつけたタクシーが来るはずだ
今日は一応お見送りに私も行く予定
空港に着いてからはゆっくり話せないだろうと践んで赤井家にやって来たのだ
関わる覚悟は出来ていないけれど、でもこの人は関わる必要の無い私に関わってくれた人だから
少しでも確執が無くなるのなら
『ねぇ、自殺を止めるのが上手い兄さん』
「…そう何度も自殺する場面に立ち会いたくは無いんだが」
『本当に自殺を止めたいのなら、掴んだシリンダーは手放したら駄目だよ
どんなことがあっても、絶対に』
真っ直ぐと高い位置にある瞳を見つめる
元々細い、切れ長の綺麗な目が訝しげに歪む
こんな小娘の口からシリンダーなんて言葉が出てくるとは思わなかったことだろう
リボルバー式の拳銃なんて、見たことも無ければ触れたことも無い
無縁な存在なのだから
真意を窺うように真っ直ぐに貫かれる瞳
それに臆せずこちらも真っ向からその瞳を見つめ返す
「…何を見てきたんだ、桜雪は」
『未来かな』
「それは…、随分と物騒な未来を見てきたんだな」
『そうなの、いつだって誰かが危険な目に遭う未来しか見えないの、参っちゃうよね』
冗談めかして言えば、鋭かったその瞳が柔らかくなる
笑みとも言えない程のその柔らかな表情は、誰にでも向けられるモノで無いことを知っている
再び頭に乗った手が、二度ほど跳ねる
するり、と髪の間をすり抜けていった指が私の手を掴んで
「そろそろ降りよう、タクシーが来る頃だ」
『…そうだね』
片手にスーツケース、片手に私の手
手を繋がれなくたって歩けるし、言われたなら着いていくくらいはする
なのにこの人は時折こうやって、存在を確認するかのように私の手を握るのだ
『ねぇ、兄さん』
「どうした?」
『私を生かしたんだから、兄さんも生きなきゃいけないよ』
「…俺が死んだら桜雪も死ぬ、と聞こえなくも無いが?」
『そう言ってるんだよ、って言ったら?』
冗談とも本気とも取れないくらいの、軽い調子で告げた言葉
別に死んだら死んでやる、と本気で思っているわけでは無い
けれど、あの時消えるはずだった命を拾ったのはこの人だ
持ち主がいなくなれば、その所有物はどうなるのか
別にこの人の所有物になったつもりは無いけれど、一応の保険
私がこうやって少しずつ原作に関わってしまって未来が換わってしまったときの保険
本来死なない筈の人間が、死んでしまわないようにするための、何の拘束力もない保険のようなモノ
「そう言われてしまえば、死ぬわけにはいかないな」
少しだけ強く握り直された手
前を向いているためその顔は見えないが、何となく笑っているような気がして
いつもは握り返さないそんな手を、今だけは、と指を動かした
「あぁ、やっと降りてきた
タクシー来たわ、行きましょう」
「あぁ」
「寂しくなるなー」
『兄さん、連絡不精っぽいもんね』
「確かに」
ちょうど階段を下りたところで、玄関で靴を履いているメアリーさんと秀吉くんに会う
つい先程まで繋いでいた手を自然と解いて会話に参加する
この光景は、もう見れなくなるだろう
これから秀一さんはアメリカ人となり、秀吉くんは高校を卒業すると羽田家へと行く
メアリーさんとこれから産まれてくる真澄ちゃんは暫く居ると思うが原作が始まる3年前にはイギリスへと逃れる
この家にこの家族が全員揃うことになるのは恐らくきっと、原作が終わった後になることだろう
タクシーに揺られながらそんなことをぼんやりと考える
平和な時間なんて、この家族には殆ど訪れない
私がこの人達の従姉妹を救うことはない
そこまで深く関わる事はしない
この先関わることがあるとも思わない、4つも年が離れているのだし学校が一緒になるはずも無い
私は私の居る位置から手の届く範囲の人にしか手を伸ばさない
そこまで必死になれやしない
全てが終わるまで高みの見物をしていたかった、と言えば薄情なのは秀一さんで無く私の方だろう
どうか、少しでも穏やかな終わりが訪れますように
それだけは祈っておくことにしよう
「じゃあ、行ってくる」
ぼんやりしている内に着いた空港
大した感情が乗っていない無表情で、淡々と告げられる出発の言葉
次会うのはいつだろうか、7年後のさざなみだろうか
そこに、私は居るのだろうか
いってらっしゃい、と静かに告げる
そう言うと少しだけ柔らかく笑ってくれる秀一さんに手を振って
いってらっしゃい、気を付けて
これは多分、私にとっても第一歩になる日だと思うから
じゃあ、また会おうね
ただの通行人で良いのに
(あーぁ、関わっちゃった)