君が生きた世界を守ろう
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
予想通り当日に件の彼が私の目の前に現れることはなく
予定通り私は翌日に退院し、数日休んで迷惑掛けてしまった分を取り返すように仕事に追われる日々
爆弾魔は捕まえた、と言った報道がされているため上手いこと言ったのだろう
情報をリークした手前事情聴取を受けることはあったが、適当に話を捏ち上げておいた
この病院に勤めている人間として、少し怪しげな言動が目に入ったこと
態々自身が持っていた紙袋を長椅子の下に押し込んで立ち去ることが不自然だったこと
何も無かったらすぐに写真は消去するつもりであった事
そんなことをそれらしく述べていれば、案外すんなりと事情聴取は終わって
まぁ、松や萩が口添えしてくれていたのかもしれないけれど
そうして事件から数日後
私の仕事が休みの日をきちんと狙って、松から連絡が届く
どうやら向こうも一段落したようで
誘い文句も何も無い、端的に日時と迎えに行くと言う旨だけが記されたメールは本当に彼らしい
それに了承の意を伝える返信だけ返してしまえば、約束は取り付けられて
私があの告白を拒絶する旨の返事を返してしまえば、これで最後になるこのやり取りなのに、相変わらずいつも通り過ぎるこの男は勝ちを確信しているのか
ただ、いつも通りを装っているだけなのかはこの文面からは読み取ることは出来ないけれど
私も不思議と落ち着いてる所から、きっとこの男は私の返答など予想出来ていることだろう
私という人間をよく知る人物だ
この4年間職場の人間を除けば一番長く時を共にした人物でもある
何なら、4年間というタイムリミットを指定した時点で察していたことだろう
私ならその気が無ければあの瞬間に切って捨てていたと言うことを知っているから
無駄に足掻いてみたけれど、私もどこかでこの結末を予感していた
何も知らなかったあの頃にはもう戻れないと思い知ったあの時から
「…よぉ」
『お疲れ様、何か疲れた顔してるね?』
「お前はいつも通り涼しい顔してんな」
『まぁ、私はいつも通りだったからねぇ』
「…そうかよ」
いつも通りに迎えに着た松の車にいつものように乗り込む
今日で決着を付けるというのに、全くいつも通り過ぎて私も話を切り出すタイミングが分からない
いつものように松のチョイスでお店に向かう道すがらは、いつもより少しだけ口数が少なくて
でも、今ではないような気がして私も話題に出すことはせず流れる景色を目で追っていた
横から時折感じる視線には気付かないフリをして、音楽を流す、何てそんな気の利いたことをする筈もない車内はエンジン音のみで
下手すれば互いの息づかいすら聞こえてしまいそうな空間だけは、いつも通りではなかった
いつも通り、いつものように、そう言ってしまえるほど同じ時を過ごした
それが、私にとってどれだけ特別なことか、何てこの男はきっと知っている
『今日は随分大人しいね、松
そんなに疲れてる?』
「…お前、ほんと良い性格してるよな」
『そんなのよく知ってるでしょ』
挑発するように投げかけてみれば、少しだけ苛立ったような、呆れたような松の声で返されて思わず笑う
そんな女を捕まえて、好意を寄せたのはそっちのクセに、とは流石に口に出すことは出来なかったけれど
自然と町の方から遠ざかる道を選んで走る車には、少し前に気付いていた
どうやら、食事より先に返事を所望してるようだ、と察して大人しくしてたのだけれど何の反応もなかったため少し発破を掛けてみたのだけれど正解だった様で
車は停まる気配はない
このまま車内で話すべきなのか、なんて考えながら少しだけ、今日初めて私の方から視線を投げかけてみれば、ふとかち合って
いつか見たような少しだけ熱の籠もったその目を見て、気付かれないように息を呑む
すぐに正面を向いたためすぐに逸らされたその目の熱が少しだけ私に移って
多分、今返事を求められているんだろうと言うことは分かる
返事はちゃんと用意してきたし、覚悟は決めてきた
けれど、その言葉を私の口から出したことはなくて、いざとなると口が上手く動いてくれない
松に向けていた目を再び窓の外へと移して、そっと息を吐き出す
さぁ、どう切り出すものか
「…おい」
『んー?』
「変に気を遣ってんじゃねぇよ」
『えー…、4年も待たせたしそりゃ少しくらい気を遣うもんでしょ』
「待たせた自覚あんなら寧ろさっさと返事寄越せ」
『…それはそうだけど、随分横暴な物言いだなぁ』
まぁ、それが松の気遣いだと言うことは分かっているので、いつものような軽口で同じように返す
切り出し方に迷っている私のための優しさで
少しだけ肩の力が抜けて、重たかった口が軽くなる
幾ら返事の予想がついてるって言ったって、これだけ口籠もっていたら悪い方に想像してしまうのが人間というもので
『…正直、恋愛の好きと人としての好きと少しだけ区別はついてないところがあると思う』
「…おう」
『松が私以外の誰かと幸せになったとしても、おめでとう、ってちゃんと言えると思う』
「…言えるのかよ」
『言えるよ、私は君達に幸せになって欲しかったから、らしくない行動をしたんだから』
他人はどうでもいい
一人で生きていたって何の苦痛もないし、一人で生きていくつもりだった
幸せになることも、誰かに愛されることも、愛することもなく、ひっそりと生を終わらせたかった
それが今も出来るというのなら、きっとその道を選んだことだろう
愛を知らずに、誰も、何も壊すことなく代わり映えのない平穏を全うできるならそれが一番だと思っていたから
『でも、少しだけ欲が出てきちゃったみたい』
「…欲?」
『大切だと思う人が出来て、特別だと言える人が出来て、大切にされて、特別になって
知らなかった、知る必要の無かった愛というものを享受しても良いのかもって、幸せになることが出来るかもって
昔の私が馬鹿らしいと鼻で笑う様な、そんな望みが出来てしまった』
こっちの世界に来て、長い時間を掛けてゆっくり教えてくれた
私にだって幸せになる権利がある事
私のせいではないと言うこと
臆病にならなくていいと言うこと
愛されることを望んだって構わないと言うこと
愛したって、壊れたりしないと言うこと
『偶然その相手が松だっただけかもしれない
けど、松だったからそう思ったのかもしれない
それは、正直私もよく分かっていないの』
「…そうか」
『松から向けられる好意は、私には重くて、時々苦しくて、目を逸らして気付かないフリをしたくなるときもあった
でも、心のどこかでは求めていたもので、嬉しかったのもほんとう』
「…おう」
『そう思えたことが、嬉しかった』
避けてきた、拒んできた
関わらないように逃げて、触れないようにしてきたこと
いつだってそこには恐怖があって、見ないフリをし続けてきた
私にとって恋愛はそういう物だった
友達のまま居たかった、それもきっと本心でその気持ちだって私には新鮮なもので
『今はまだはっきりと松が好きだとは言えない
それが本当で、こんなことを言うのは狡いって思われるのかもしれないけど』
「…おう」
『…松のこと手放したくないと思う
傍に居たいと、思う』
松みたいにはっきりと好きだとは言えない
付き合って欲しいという感情も正直よく分かっていない
けれど、松の隣は心地よくて、一緒に居ると安心して落ち着くのは事実で
随分と曖昧で、不明瞭で、不誠実
けれど、誤魔化したり噓を吐いたりしていない、どれも本当のこと
面倒臭いことを言っている自覚はある
屁理屈を並べて、自分が傷付かない保険を掛けていると思われたって仕方ないと思う
「…上等」
『…え?』
「ひよっこのお前からそんだけの言葉引き出せただけで、俺の勝ちだろ」
『…勝負では無いと思うけど』
「うっせ、勝ちは勝ちだろ」
『…、松がそう思うならそれでいいけど』
「ならいーだろ
分からせてやるし、その内ちゃーんと言わせてやるよ
俺の事が好きだって」
そう言って不適に笑うその姿は良く見た松の顔
でもそこには、勝ち誇った様な物だけではなく安堵が少しだけ滲み出していて
随分と付き合わせてしまったな、と申し訳なく思う
それでもいいと言ったのは松で、あの時返事を受け取ってくれたらここまで振り回すことはなかったと言えばそうだけれど
きっと私もあの時、あの瞬間に縁が切れてしまうのは惜しく思ったのは事実で
「んじゃ、飯行くか」
『お腹減った?』
「さっきまでそれどころじゃなかったからな」
『松でも緊張することあるんだ』
「人間何で」
『そっか』
人から見たら、中途半端で、何と名前を付けて良いか分からないような関係だと思う
言わば延長戦の様なもので、結局これからも振り回すことには変わりない
それでもどこかすっきりしたような顔をして
「九条」
『ん?』
「もう手加減しないからな」
『…お手柔らかにお願いします』
「ヤだね」
そう言って楽しそうに笑う松に少しだけ恐怖を覚えながらも、本当に少しだけ楽しみだと思っている私が居ることも驚いて
この後本気になった松に丸め込まれて気が付いたら同棲が開始されることになるとは、この時の私は知る由もなかった
楽しい未来を約束するよ
(前を向いて、期待を抱いて、与えられた愛に飛び込んで)
予定通り私は翌日に退院し、数日休んで迷惑掛けてしまった分を取り返すように仕事に追われる日々
爆弾魔は捕まえた、と言った報道がされているため上手いこと言ったのだろう
情報をリークした手前事情聴取を受けることはあったが、適当に話を捏ち上げておいた
この病院に勤めている人間として、少し怪しげな言動が目に入ったこと
態々自身が持っていた紙袋を長椅子の下に押し込んで立ち去ることが不自然だったこと
何も無かったらすぐに写真は消去するつもりであった事
そんなことをそれらしく述べていれば、案外すんなりと事情聴取は終わって
まぁ、松や萩が口添えしてくれていたのかもしれないけれど
そうして事件から数日後
私の仕事が休みの日をきちんと狙って、松から連絡が届く
どうやら向こうも一段落したようで
誘い文句も何も無い、端的に日時と迎えに行くと言う旨だけが記されたメールは本当に彼らしい
それに了承の意を伝える返信だけ返してしまえば、約束は取り付けられて
私があの告白を拒絶する旨の返事を返してしまえば、これで最後になるこのやり取りなのに、相変わらずいつも通り過ぎるこの男は勝ちを確信しているのか
ただ、いつも通りを装っているだけなのかはこの文面からは読み取ることは出来ないけれど
私も不思議と落ち着いてる所から、きっとこの男は私の返答など予想出来ていることだろう
私という人間をよく知る人物だ
この4年間職場の人間を除けば一番長く時を共にした人物でもある
何なら、4年間というタイムリミットを指定した時点で察していたことだろう
私ならその気が無ければあの瞬間に切って捨てていたと言うことを知っているから
無駄に足掻いてみたけれど、私もどこかでこの結末を予感していた
何も知らなかったあの頃にはもう戻れないと思い知ったあの時から
「…よぉ」
『お疲れ様、何か疲れた顔してるね?』
「お前はいつも通り涼しい顔してんな」
『まぁ、私はいつも通りだったからねぇ』
「…そうかよ」
いつも通りに迎えに着た松の車にいつものように乗り込む
今日で決着を付けるというのに、全くいつも通り過ぎて私も話を切り出すタイミングが分からない
いつものように松のチョイスでお店に向かう道すがらは、いつもより少しだけ口数が少なくて
でも、今ではないような気がして私も話題に出すことはせず流れる景色を目で追っていた
横から時折感じる視線には気付かないフリをして、音楽を流す、何てそんな気の利いたことをする筈もない車内はエンジン音のみで
下手すれば互いの息づかいすら聞こえてしまいそうな空間だけは、いつも通りではなかった
いつも通り、いつものように、そう言ってしまえるほど同じ時を過ごした
それが、私にとってどれだけ特別なことか、何てこの男はきっと知っている
『今日は随分大人しいね、松
そんなに疲れてる?』
「…お前、ほんと良い性格してるよな」
『そんなのよく知ってるでしょ』
挑発するように投げかけてみれば、少しだけ苛立ったような、呆れたような松の声で返されて思わず笑う
そんな女を捕まえて、好意を寄せたのはそっちのクセに、とは流石に口に出すことは出来なかったけれど
自然と町の方から遠ざかる道を選んで走る車には、少し前に気付いていた
どうやら、食事より先に返事を所望してるようだ、と察して大人しくしてたのだけれど何の反応もなかったため少し発破を掛けてみたのだけれど正解だった様で
車は停まる気配はない
このまま車内で話すべきなのか、なんて考えながら少しだけ、今日初めて私の方から視線を投げかけてみれば、ふとかち合って
いつか見たような少しだけ熱の籠もったその目を見て、気付かれないように息を呑む
すぐに正面を向いたためすぐに逸らされたその目の熱が少しだけ私に移って
多分、今返事を求められているんだろうと言うことは分かる
返事はちゃんと用意してきたし、覚悟は決めてきた
けれど、その言葉を私の口から出したことはなくて、いざとなると口が上手く動いてくれない
松に向けていた目を再び窓の外へと移して、そっと息を吐き出す
さぁ、どう切り出すものか
「…おい」
『んー?』
「変に気を遣ってんじゃねぇよ」
『えー…、4年も待たせたしそりゃ少しくらい気を遣うもんでしょ』
「待たせた自覚あんなら寧ろさっさと返事寄越せ」
『…それはそうだけど、随分横暴な物言いだなぁ』
まぁ、それが松の気遣いだと言うことは分かっているので、いつものような軽口で同じように返す
切り出し方に迷っている私のための優しさで
少しだけ肩の力が抜けて、重たかった口が軽くなる
幾ら返事の予想がついてるって言ったって、これだけ口籠もっていたら悪い方に想像してしまうのが人間というもので
『…正直、恋愛の好きと人としての好きと少しだけ区別はついてないところがあると思う』
「…おう」
『松が私以外の誰かと幸せになったとしても、おめでとう、ってちゃんと言えると思う』
「…言えるのかよ」
『言えるよ、私は君達に幸せになって欲しかったから、らしくない行動をしたんだから』
他人はどうでもいい
一人で生きていたって何の苦痛もないし、一人で生きていくつもりだった
幸せになることも、誰かに愛されることも、愛することもなく、ひっそりと生を終わらせたかった
それが今も出来るというのなら、きっとその道を選んだことだろう
愛を知らずに、誰も、何も壊すことなく代わり映えのない平穏を全うできるならそれが一番だと思っていたから
『でも、少しだけ欲が出てきちゃったみたい』
「…欲?」
『大切だと思う人が出来て、特別だと言える人が出来て、大切にされて、特別になって
知らなかった、知る必要の無かった愛というものを享受しても良いのかもって、幸せになることが出来るかもって
昔の私が馬鹿らしいと鼻で笑う様な、そんな望みが出来てしまった』
こっちの世界に来て、長い時間を掛けてゆっくり教えてくれた
私にだって幸せになる権利がある事
私のせいではないと言うこと
臆病にならなくていいと言うこと
愛されることを望んだって構わないと言うこと
愛したって、壊れたりしないと言うこと
『偶然その相手が松だっただけかもしれない
けど、松だったからそう思ったのかもしれない
それは、正直私もよく分かっていないの』
「…そうか」
『松から向けられる好意は、私には重くて、時々苦しくて、目を逸らして気付かないフリをしたくなるときもあった
でも、心のどこかでは求めていたもので、嬉しかったのもほんとう』
「…おう」
『そう思えたことが、嬉しかった』
避けてきた、拒んできた
関わらないように逃げて、触れないようにしてきたこと
いつだってそこには恐怖があって、見ないフリをし続けてきた
私にとって恋愛はそういう物だった
友達のまま居たかった、それもきっと本心でその気持ちだって私には新鮮なもので
『今はまだはっきりと松が好きだとは言えない
それが本当で、こんなことを言うのは狡いって思われるのかもしれないけど』
「…おう」
『…松のこと手放したくないと思う
傍に居たいと、思う』
松みたいにはっきりと好きだとは言えない
付き合って欲しいという感情も正直よく分かっていない
けれど、松の隣は心地よくて、一緒に居ると安心して落ち着くのは事実で
随分と曖昧で、不明瞭で、不誠実
けれど、誤魔化したり噓を吐いたりしていない、どれも本当のこと
面倒臭いことを言っている自覚はある
屁理屈を並べて、自分が傷付かない保険を掛けていると思われたって仕方ないと思う
「…上等」
『…え?』
「ひよっこのお前からそんだけの言葉引き出せただけで、俺の勝ちだろ」
『…勝負では無いと思うけど』
「うっせ、勝ちは勝ちだろ」
『…、松がそう思うならそれでいいけど』
「ならいーだろ
分からせてやるし、その内ちゃーんと言わせてやるよ
俺の事が好きだって」
そう言って不適に笑うその姿は良く見た松の顔
でもそこには、勝ち誇った様な物だけではなく安堵が少しだけ滲み出していて
随分と付き合わせてしまったな、と申し訳なく思う
それでもいいと言ったのは松で、あの時返事を受け取ってくれたらここまで振り回すことはなかったと言えばそうだけれど
きっと私もあの時、あの瞬間に縁が切れてしまうのは惜しく思ったのは事実で
「んじゃ、飯行くか」
『お腹減った?』
「さっきまでそれどころじゃなかったからな」
『松でも緊張することあるんだ』
「人間何で」
『そっか』
人から見たら、中途半端で、何と名前を付けて良いか分からないような関係だと思う
言わば延長戦の様なもので、結局これからも振り回すことには変わりない
それでもどこかすっきりしたような顔をして
「九条」
『ん?』
「もう手加減しないからな」
『…お手柔らかにお願いします』
「ヤだね」
そう言って楽しそうに笑う松に少しだけ恐怖を覚えながらも、本当に少しだけ楽しみだと思っている私が居ることも驚いて
この後本気になった松に丸め込まれて気が付いたら同棲が開始されることになるとは、この時の私は知る由もなかった
楽しい未来を約束するよ
(前を向いて、期待を抱いて、与えられた愛に飛び込んで)