君が生きた世界を守ろう
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side.M
熱に浮かされて居る中、夢を見た
これを夢と言っていいのかは分からない、過去に実際にあった出来事であったから
随分と懐かしく感じる制服に身を包んだ俺と、九条の姿
九条がいるから高校か、いつ頃だろうか、何て考えて、置かれている現状に覚えがあった
あの日、九条から語られたコイツの過去を知ることが出来た日
俺が、九条の特別になりたいと思ったその日の出来事だと言うことはすぐに分かった
あの日をなぞるように会話が進む
もう何年も前のこと、鮮明には覚えていないけれど、確かにこんな会話をした気がする、何て他人事のように眺める
こうしてみると、今の九条に比べてこの頃の九条は作り物めいている
まるでお手本のような笑みが、気になって、目について、そんな笑い方をする理由が知りたくて近付いた
『誰にも話したこと無かったんだけどなぁ…』
その言葉を皮切りに話された九条の過去は、忘れること何て出来ていない
育児放棄をされていて、愛情など知ること無く育ったこと
両親と呼べるその存在の遺体の第一発見者になったこと
いろんな親戚の間を盥回しにあったこと
中学の頃に引き取ってくれた親戚とはそれなりに上手くやれていたが、元いた子供とある事件があって家に居られなくなったこと
高校に入学と同時に独り暮らしを始めたこと
なんて事無い、とでも言うかの様に話すその姿は、あまりにも異質で
誰にも話してこなかった、と言う事はこんなに重たい過去を1人でずっと背負ってきたと言う事で
壊れてしまった心を、九条は自覚して、ボロボロになった心をかき集めて形にして、なんて事無いという風に日常を生きる
中学の頃に知り合ったとある家族が、今は自分の子供のように扱ってくれていること
だから案外平気なんだ、なんて笑うその姿はあまりにも哀しくて
何を以て平気と言うのか
何と比べて平気と言うのか
全然平気なんかじゃ無い、そんな状況下でこんな風に穏やかに笑えている時点で平気なんかじゃ無い
九条はいつも笑っている
笑ってさえいれば、上手く生きられるとでも言うかの様に
笑顔は九条自身を守る鎧
見目が整っている分、その笑顔が添えられるだけで確かに世渡りは出来るのかもしれないけれど
もう諦めてしまって居るのだろうか
愛されることを、幸せになることを
それはあまりにも酷すぎる話ではないか、何で自ら幸せから逃げていくのか
そんなことを思ってしまった自分に気付き、ずっと九条が気になっていた理由が分かった
九条が幸せになればいい、出来ることならば俺自身の手で
この話はおしまい、だなんて笑う九条に俺は何て返したのか、それは覚えていない
けど珍しく九条の顔から笑みが消えて、少しだけ、誰も気付かないくらい少しだけ
泣きそうな顔をした気がしたのだ
九条はいつも受け身で、自分から何かをしようとすることは滅多に無い
だから卒業アルバムにそれが挟まっていたことに素直に驚いた記憶はある
あの日から特別何かをすることは出来なかった
感じる壁を破ることも、歩み寄ることも、踏み込むことも
そうやって尻込みしている間にあっという間に卒業の日はやって来て
クラスメイト、何て言う口実が無くなってしまえば九条との繋がりが無くなってしまうことは分かっていた
けれど、関係を変えることはまだガキだった俺には随分勇気の要ることで
学生生活最後の日、簡単に言えば卒業の日
九条と何とか話をしたかったのだが、話しかけることが出来ずに終わった
式典が終わり賑わうその場で囲われてしまって、すぐに九条を見失って
何とか出来ないか、と見上げた教室に九条の姿を見た気がして
何とか抜け出して教室に向かい九条の姿を探したけれど、そこは既にもぬけの殻で
溜息を吐き出し、自身の席に近付くと鞄に入れていたはずのアルバムが机の上に置かれていた
不思議に思って手に取る
誰かが適当に俺の机に置いたのか、何て思ってフリースペースのページを開くと、それは確かに自身の物で
そこに挟まれていた手紙を見て、これを仕込むために取り出したのか、なんて差出人を確認すると、見慣れてしまった整った文字
漢字の払いを内側にする癖のあるその文字に、すぐに差出人が誰であったのか分かって、すぐに封を切る
中に綴られた言葉達は、決して色気のある物では無かったけれど、誰がどんな目に遭っても顔色一つ変えないような九条が、俺の身を案じて残した手紙だと分かって
中身は随分と不穏なことばかり綴られていたし、後にそれは俺だけでは無かったことを知るのだけれど
どうやら俺は、何も感じていないように振る舞って生きる九条の特別になれていたらしいと言うことに少しだけ舞い上がって
けれど案の定卒業をしてから会うことはなく
しつこく手紙について問うてしまったせいか、返信が来ることも無くなって
そして俺自身も忙しくなってしまったこともあり、淡すぎる恋心は消えていく、そう思っていたのに
付き合いで行った飲み会や、仕事で知り合う女、事あるごとに九条と比べてしまう自分に気付いて嫌気が差す
手紙を読み返す癖が付いて、未練たらしい自分に腹を立てるものの、感情とはどうにも意のままにならなくて
ならばもう仕方ない、この感情が消えてしまうまでは誰とも関係を持たなければいい、と
そう決心はしたが九条とどうにかなる、なんて考えはその頃の俺には無かった
この恋心が消えない内に出会う事は無いだろうと、そんなことを考えていたから
けれど皮肉にも、再び道が交わって
記憶の中よりも少し大人びた、けれど変わらず美しいその姿に、眠りかけていた気持ちが再び湧き上がって
結局諦めるなんて出来なかった自分に鼻で笑って、けれどもう大人しく引き下がるなんて事は出来なくて
これだけ時間が空いたのに諦められなかったのだ、九条には悪いが少々付き合って貰うことになりそうだ、何て笑って
戸惑った様子を見せるクセに、完全に拒みきれない九条に付け入るように畳みかける
4年、と言う時間制限を設けられたが、結局は折れた九条にほくそ笑む自分がいて
九条が本気で嫌がるのならば、大人しく身を引いた
幸せになって欲しい人間に、惚れた女に、嫌がるようなことはしたくないし、出来ないから
けれど結局どこか甘い九条は、何を思っているのかは知らないが、完全に拒みきれない
少しでも幸せになりたいと思う気持ちがあるのかもしれない、九条はきっとそれを認めることは無いだろうけど
でも、それならば
思いっきり泣いて、ちゃんと笑える九条が見たいと思ったあの気持ちを消さなくていいのなら
九条と別れて、久しぶりにアルバムを開く
手紙を取り出し読み返して、そのままの流れでフリースペースに書かれた言葉達を読み返していく
そんな中、隅の方に書かれた言葉を見て、やはり九条を幸せにするのは俺がいい、なんてそんならしくないことを思う
“幸せに生きていてくれたら、私は嬉しい”
自分が幸せになる事は考えていないかのようなその言葉は、悲しくて
お前も幸せになっていいんだと、出来ることなら俺が幸せにしたいと、ちゃんと伝えられるように時間をかけて
諦めないで欲しい
愛されることを、幸せになることを
悪いけれど、もう逃がしてなんかやれないから
君に触れたがる手
(抱き締めて、愛を囁いて、そうじゃなくて君が欲しい)
熱に浮かされて居る中、夢を見た
これを夢と言っていいのかは分からない、過去に実際にあった出来事であったから
随分と懐かしく感じる制服に身を包んだ俺と、九条の姿
九条がいるから高校か、いつ頃だろうか、何て考えて、置かれている現状に覚えがあった
あの日、九条から語られたコイツの過去を知ることが出来た日
俺が、九条の特別になりたいと思ったその日の出来事だと言うことはすぐに分かった
あの日をなぞるように会話が進む
もう何年も前のこと、鮮明には覚えていないけれど、確かにこんな会話をした気がする、何て他人事のように眺める
こうしてみると、今の九条に比べてこの頃の九条は作り物めいている
まるでお手本のような笑みが、気になって、目について、そんな笑い方をする理由が知りたくて近付いた
『誰にも話したこと無かったんだけどなぁ…』
その言葉を皮切りに話された九条の過去は、忘れること何て出来ていない
育児放棄をされていて、愛情など知ること無く育ったこと
両親と呼べるその存在の遺体の第一発見者になったこと
いろんな親戚の間を盥回しにあったこと
中学の頃に引き取ってくれた親戚とはそれなりに上手くやれていたが、元いた子供とある事件があって家に居られなくなったこと
高校に入学と同時に独り暮らしを始めたこと
なんて事無い、とでも言うかの様に話すその姿は、あまりにも異質で
誰にも話してこなかった、と言う事はこんなに重たい過去を1人でずっと背負ってきたと言う事で
壊れてしまった心を、九条は自覚して、ボロボロになった心をかき集めて形にして、なんて事無いという風に日常を生きる
中学の頃に知り合ったとある家族が、今は自分の子供のように扱ってくれていること
だから案外平気なんだ、なんて笑うその姿はあまりにも哀しくて
何を以て平気と言うのか
何と比べて平気と言うのか
全然平気なんかじゃ無い、そんな状況下でこんな風に穏やかに笑えている時点で平気なんかじゃ無い
九条はいつも笑っている
笑ってさえいれば、上手く生きられるとでも言うかの様に
笑顔は九条自身を守る鎧
見目が整っている分、その笑顔が添えられるだけで確かに世渡りは出来るのかもしれないけれど
もう諦めてしまって居るのだろうか
愛されることを、幸せになることを
それはあまりにも酷すぎる話ではないか、何で自ら幸せから逃げていくのか
そんなことを思ってしまった自分に気付き、ずっと九条が気になっていた理由が分かった
九条が幸せになればいい、出来ることならば俺自身の手で
この話はおしまい、だなんて笑う九条に俺は何て返したのか、それは覚えていない
けど珍しく九条の顔から笑みが消えて、少しだけ、誰も気付かないくらい少しだけ
泣きそうな顔をした気がしたのだ
九条はいつも受け身で、自分から何かをしようとすることは滅多に無い
だから卒業アルバムにそれが挟まっていたことに素直に驚いた記憶はある
あの日から特別何かをすることは出来なかった
感じる壁を破ることも、歩み寄ることも、踏み込むことも
そうやって尻込みしている間にあっという間に卒業の日はやって来て
クラスメイト、何て言う口実が無くなってしまえば九条との繋がりが無くなってしまうことは分かっていた
けれど、関係を変えることはまだガキだった俺には随分勇気の要ることで
学生生活最後の日、簡単に言えば卒業の日
九条と何とか話をしたかったのだが、話しかけることが出来ずに終わった
式典が終わり賑わうその場で囲われてしまって、すぐに九条を見失って
何とか出来ないか、と見上げた教室に九条の姿を見た気がして
何とか抜け出して教室に向かい九条の姿を探したけれど、そこは既にもぬけの殻で
溜息を吐き出し、自身の席に近付くと鞄に入れていたはずのアルバムが机の上に置かれていた
不思議に思って手に取る
誰かが適当に俺の机に置いたのか、何て思ってフリースペースのページを開くと、それは確かに自身の物で
そこに挟まれていた手紙を見て、これを仕込むために取り出したのか、なんて差出人を確認すると、見慣れてしまった整った文字
漢字の払いを内側にする癖のあるその文字に、すぐに差出人が誰であったのか分かって、すぐに封を切る
中に綴られた言葉達は、決して色気のある物では無かったけれど、誰がどんな目に遭っても顔色一つ変えないような九条が、俺の身を案じて残した手紙だと分かって
中身は随分と不穏なことばかり綴られていたし、後にそれは俺だけでは無かったことを知るのだけれど
どうやら俺は、何も感じていないように振る舞って生きる九条の特別になれていたらしいと言うことに少しだけ舞い上がって
けれど案の定卒業をしてから会うことはなく
しつこく手紙について問うてしまったせいか、返信が来ることも無くなって
そして俺自身も忙しくなってしまったこともあり、淡すぎる恋心は消えていく、そう思っていたのに
付き合いで行った飲み会や、仕事で知り合う女、事あるごとに九条と比べてしまう自分に気付いて嫌気が差す
手紙を読み返す癖が付いて、未練たらしい自分に腹を立てるものの、感情とはどうにも意のままにならなくて
ならばもう仕方ない、この感情が消えてしまうまでは誰とも関係を持たなければいい、と
そう決心はしたが九条とどうにかなる、なんて考えはその頃の俺には無かった
この恋心が消えない内に出会う事は無いだろうと、そんなことを考えていたから
けれど皮肉にも、再び道が交わって
記憶の中よりも少し大人びた、けれど変わらず美しいその姿に、眠りかけていた気持ちが再び湧き上がって
結局諦めるなんて出来なかった自分に鼻で笑って、けれどもう大人しく引き下がるなんて事は出来なくて
これだけ時間が空いたのに諦められなかったのだ、九条には悪いが少々付き合って貰うことになりそうだ、何て笑って
戸惑った様子を見せるクセに、完全に拒みきれない九条に付け入るように畳みかける
4年、と言う時間制限を設けられたが、結局は折れた九条にほくそ笑む自分がいて
九条が本気で嫌がるのならば、大人しく身を引いた
幸せになって欲しい人間に、惚れた女に、嫌がるようなことはしたくないし、出来ないから
けれど結局どこか甘い九条は、何を思っているのかは知らないが、完全に拒みきれない
少しでも幸せになりたいと思う気持ちがあるのかもしれない、九条はきっとそれを認めることは無いだろうけど
でも、それならば
思いっきり泣いて、ちゃんと笑える九条が見たいと思ったあの気持ちを消さなくていいのなら
九条と別れて、久しぶりにアルバムを開く
手紙を取り出し読み返して、そのままの流れでフリースペースに書かれた言葉達を読み返していく
そんな中、隅の方に書かれた言葉を見て、やはり九条を幸せにするのは俺がいい、なんてそんならしくないことを思う
“幸せに生きていてくれたら、私は嬉しい”
自分が幸せになる事は考えていないかのようなその言葉は、悲しくて
お前も幸せになっていいんだと、出来ることなら俺が幸せにしたいと、ちゃんと伝えられるように時間をかけて
諦めないで欲しい
愛されることを、幸せになることを
悪いけれど、もう逃がしてなんかやれないから
君に触れたがる手
(抱き締めて、愛を囁いて、そうじゃなくて君が欲しい)