大学生のキャラたちがゆっくりと青春する物語(TNS)
番外編
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中高と続いた手塚とのこの関係も、同じ大学に進学したことによってその年月を更新することとなった
理系、文系と進む方向は違っては居たけれど今までと同じようにテニスはお互い続けていたし、嘗てのライバル達ともチームメイトになった
そんな中、手塚に仲の良い女子が現れたと言う話を耳にした
手塚は無表情で、何を考えているのか分からない性格だ
今までの傾向から、真面目で無表情なこの男はどちらかというと女子からは怖がられていた方だったのだけれど(そして本人はその自覚が無い)
「手塚君、彼女出来たってほんま!?」
「おや、手塚にそんな浮ついた噂が立っているのかい?」
「アーン?やるじゃねぇの、手塚」
「…何のことだ?」
部活終わり、馴染みのメンバーでの帰り道
その話題は、少し興奮した様子の白石から始まった
恐らく僕も聞いた、手塚と今仲良くしている女子についての事なのだろう
まさか付き合ってる、と言う方向に噂になっているとは思わなかったけれど、今までそんな気配も無かったこの男にそんな存在が現れたとなったらそうなってもおかしくはないか
そんなことを思いながら、話に耳を傾ける
当人は全くピンと来ていないようであるが
「…、それ、錦ちゃんの事じゃなか?」
「なん、手塚君錦さんと付き合うてるん!?」
「錦?いや、そんなことはないが」
「なーんだ、ただ仲良くしているから噂が先行した奴か、つまんないの」
「精市、あまり面白がるものじゃ無いぞ」
「真田みたいなこと言わないでよ、柳」
「それで手塚、錦さんってどんな子なの?」
都合良く飛び出たこの話題に、気になっていたことを聞き出すこととする
少し世間知らずのこの手塚に好き好んで近づいてきたその子の性格は、やっぱり少し気になるもので
堅物のこの男は同性の友人もさして多くは無い
こうしてテニスを通じて知り合ったこのメンバーや、深く関わったものにしか彼の本質というのは見えてこない
そう言う相手なのだ、この手塚国光という男は
どういう経緯で知り合ったのかと言うことは、なかなかに興味の引く内容で
「どんな…?」
そう呟いて考え出した手塚を待つ
この男がどう言った印象を抱いており、それをどう表現するのか
それを聞きたいのはここに居るものも同じなようで、大人しく手塚の返答を待っている
しばらくして考え込むのを止めた手塚が口を開く
「俺の発言でよく笑う奴だ」
一瞬、ここに居るメンバーが全員言葉に詰まった
どう言った反応をすべきなのか分からなかったからだ
容姿や性格についての評価が飛び出すと思っていたものが大半であろう
僕だって他者から人についての評価を聞かれたらまずは容姿から入り、性格について語る
その常識が、どうやらこの男には通用しなかった様だ
そしてその数瞬後、彼女を知るものは納得し、知らないものはその的外れな返答に失笑する
僕はと言えば、そのどちらでも無く仲間意識を感じ、少しわくわくしていた
どうやらその彼女は、この少しズレた男の本質に早々に気付き、しかもそのズレを楽しんでいる様だと分かったからだ
「確かに錦さん、笑ってそうやわぁ」
「さすが錦ちゃんぜよ」
「2人はその錦さん?って子を知ってるの?」
「おん
同じ医学部やから授業がかぶることあってな、何回か話したことあるねん」
「俺は医学部じゃないが、白石と同じく授業がかぶることがあってのう、そこで話したんじゃ
おもしろい奴ぜよ」
「せやな、今まで周りに居らんかったタイプやわ」
手塚よりも正確な情報が聞き出せそうなため、話の焦点を2人に変える
同じ医学部、って事はその錦さんも医学部なのだろう
少々詳しい話を聞いてみたくなった
「2人から見てどんな子なの?」
「一般的な情報なら柳君の方が詳しいんとちゃう?」
「だって、柳」
「ふむ…
錦梨乃、18歳、9月22日生まれの乙女座で血液型はB型
身長は女子にしては高めの164cm、体重に関しての情報はないが身長と体型から予測すると50kg台であると思われる
医学部へ現役合格している所からみて成績は優秀、授業態度も真面目とはいかないが模範的
派手すぎない化粧や服装に、栗色の長髪
性格に関しての情報はあまりないが、基本的には事なかれ主義で自ら何かしらのアクションを起こすことの少ない、インドア
バイトはしている
と言ったところか」
「…柳、犯罪者にはならないでね?」
「その辺りは弁えている」
つらつら、と流れるように提示された情報に思わず少し引いた
まぁ、それは僕だけではないようだけれど
一体彼は、どこから情報を入手しているんだろうか
当人がこれを聞いたら思わず通報してしまうだろうな、なんて事を心の片隅で思いながら今度は性格について知るため白石や仁王に話を振る
「それで、錦さんってどんな性格なの?」
「自分、興味津々やなぁ」
「あの手塚と仲良くなれる女子って貴重だからね」
「せやろな
んー、たまに話す位やから俺もそない詳しくはないけどなぁ
多分面倒見はえぇんやろなって思たで」
「面倒見がいい?」
「大体いつも同じ子と居んねんけど、その子がまたよぉ寝る子でなぁ
文句言いながらもその子の面倒見てるから、なんやかんや放っておけん長女気質なんやろなって」
「錦ちゃんの面白いとこは、跡部の話を振ると嫌そうな顔する所じゃな」
「アーン?そいつは聞き捨てならねぇな
どういうことだ、仁王」
「あの入学式の一件が、『あ、コイツ変な奴だ関わらんとこ』ってなったみたいでな
今までの跡部がしてきたことの数々を話すと、引いた顔するんじゃ
いつも女にきゃーきゃー言われとる跡部に対しそんな反応する奴は居らんかったからのう、つい面白くてな」
「おいこら仁王、何吹き込んでんだ」
「確かに、他の子みたいに彼氏作りに躍起になっとらんし
むしろそう言う子ぉ等見て、引いた目しとるよなぁ」
へぇ、とますます興味が湧いた
なるほど、そう言う子なら手塚とも上手くやれるだろう
顔が良いってだけで特別視しないで、ちゃんと内面を見ることが出来る
派手なこと、目立つことが苦手、若しくは嫌いなのだろう
そういう性格なら、落ち着きすぎている手塚と会話が無くてもその空間を居辛く感じたりすることもなさそうだし
一度会ってみたいな
なんてそんなことを思いながら、その日の帰路は彼女の話題で持ちきりだった
*****
6月
テニス部、テニサー合同の親睦会なるものが跡部主催にて開かれることとなった
面白半分で手塚の分も合わせ出席する旨を伝えると、それは皆同じだったようで結局いつものメンバーが揃うこととなった
ドレスコードありってのがまた跡部らしくて笑ってしまう
そういや始まってしばらく経つけど手塚の姿はまだ見ていない
こういう時、手塚が遅れてやってくる何て珍しい
そんなことを思いながら飲み物を取りに行き、戻ってきた頃には件の手塚の姿
その斜め後ろには俺達に囲まれているせいか小ささが強調される、1人の異性
あ、彼女がそうだ
そう直感的に判断し手塚の後ろから声をかける
「あれ?手塚がこういうとこに来るなんて珍しいね」
その声に振り向いたのは手塚だけで無く件の彼女も同様で
眉間の皺をわずかに濃くし、僕に対し文句をぶつける彼には悪いけど、今僕の興味は完全に彼女に注がれている
「もしかして錦さん?」
『はい』
「やっぱり、手塚の話によく出てくる子だ
僕は不二周助って言うんだ、よろしくね」
『よろしく…
って手塚お前何の話を人に吹き込んでるんだ』
途端によそ行きの顔を崩し、彼女よりも上空にある手塚の顔をジト目で見上げる錦さん
対する手塚は相変わらずの無表情
多分、自分が錦さんについてどう語ったのか思い返しているのだろう
と言っても話を振るのは僕たちの方で、手塚はそれに答えているだけに過ぎないから心当たりも無いだろうけど
そして知り合いであるらしい白石と仁王と話をする姿に、着飾った様子は無い
ふむ、仁王がおもしろがるのも無理は無いかな
女性関係では結構苦労してたと聞くし
うん、やっぱり思った通りの子だ
好き好んで手塚みたいな人間と仲良くしようと近寄ってくるだけはある
会話のテンポも良いし、頭の回転が速い子なんだろうな
その場の空気を悪くしない弄り方、引き際は弁えている、そんな印象
楽しそうに話しながらも、さり気なく指先に息を吹きかけたり、ストールを引き寄せる姿が目に入る
そう言えばこの空間はお酒を飲んで熱くなっている人にはちょうど良いけど、そうでも無い人からしてみれば少々肌寒い
しかも、錦さんの様にパーティードレスを身に包んで薄着の人には特に
「寒い?」
そっと近寄りそう投げかけてみれば、ふいと持ち上がる視線
小さく頷きで返される返答に頷き返してジャケットを肩に掛けると驚いたような表情をしながらもそっと引き寄せる
何か暖かい飲み物を、とその場を立ち去る傍で、跡部が動いたのを見て、やっぱり彼はなんだかんだ上に立つ人間なんだな、なんてそんなことを思う
絶対言ってやらないけど
にしても主催者がそこに居ても寒いと自発的に発言するでも無く耐えしのぐ方を選択するのか
場の空気を読んで、空気を壊さないように限界までは我慢する方を選んだろうな
きっと我慢できなくなったら正直に言っちゃうんだろうけど
多分今は自分が輪の中心にいたからこっそり話をしに行くことは難しいと踏んだんだろう
よく周りを見てる子だな
面倒見がいいと評されただけはある
面倒を見るためには周りが見れていないと出来ないことだから
飲み物を持って戻ると、少し跡部を見て嫌そうな顔をしていた
そんな反応される跡部が珍しくて、思わず笑みが深まるのが分かる
僕に気付いて敢えて跡部に見せつけるようにお礼を言ってくる姿に、やっぱり仲良くなれそうだと仲間意識が強くなった気がした
なかなかに良い性格をしていそうだ
「そう言えば錦さんって、いつ頃から手塚と仲良いの?」
『んー、いつ頃だろ、5月くらい?』
「何で敢えて絡もうと思ったの?手塚、めっちゃ仏頂面でしょ?」
『あー、うん
最初は真面目が服着て歩いてる様なタイプだと思っていたから、ウチみたいなのとは相性悪いかなーって思ってたんだけど』
「うん、その認識は間違ってないね」
『今じゃその真面目が面白くて仕方ないんだけど』
「僕も」
『まぁ経緯を簡単に説明すると、忘れ物を見つけてそれを渡す中で、あ、コイツ面白いとウチの本能が察知した結果かな』
「仲良くしよう」
『よろしく?』
急な話題展開にも苦笑しながらも乗ってきてくれるので、やっぱり似たとこがあるのだろう
そんなことを思いながら、彼女と握手を交わしたのであった
斜め上の理解力
(人と違った捉え方を当たり前に出来る人)
理系、文系と進む方向は違っては居たけれど今までと同じようにテニスはお互い続けていたし、嘗てのライバル達ともチームメイトになった
そんな中、手塚に仲の良い女子が現れたと言う話を耳にした
手塚は無表情で、何を考えているのか分からない性格だ
今までの傾向から、真面目で無表情なこの男はどちらかというと女子からは怖がられていた方だったのだけれど(そして本人はその自覚が無い)
「手塚君、彼女出来たってほんま!?」
「おや、手塚にそんな浮ついた噂が立っているのかい?」
「アーン?やるじゃねぇの、手塚」
「…何のことだ?」
部活終わり、馴染みのメンバーでの帰り道
その話題は、少し興奮した様子の白石から始まった
恐らく僕も聞いた、手塚と今仲良くしている女子についての事なのだろう
まさか付き合ってる、と言う方向に噂になっているとは思わなかったけれど、今までそんな気配も無かったこの男にそんな存在が現れたとなったらそうなってもおかしくはないか
そんなことを思いながら、話に耳を傾ける
当人は全くピンと来ていないようであるが
「…、それ、錦ちゃんの事じゃなか?」
「なん、手塚君錦さんと付き合うてるん!?」
「錦?いや、そんなことはないが」
「なーんだ、ただ仲良くしているから噂が先行した奴か、つまんないの」
「精市、あまり面白がるものじゃ無いぞ」
「真田みたいなこと言わないでよ、柳」
「それで手塚、錦さんってどんな子なの?」
都合良く飛び出たこの話題に、気になっていたことを聞き出すこととする
少し世間知らずのこの手塚に好き好んで近づいてきたその子の性格は、やっぱり少し気になるもので
堅物のこの男は同性の友人もさして多くは無い
こうしてテニスを通じて知り合ったこのメンバーや、深く関わったものにしか彼の本質というのは見えてこない
そう言う相手なのだ、この手塚国光という男は
どういう経緯で知り合ったのかと言うことは、なかなかに興味の引く内容で
「どんな…?」
そう呟いて考え出した手塚を待つ
この男がどう言った印象を抱いており、それをどう表現するのか
それを聞きたいのはここに居るものも同じなようで、大人しく手塚の返答を待っている
しばらくして考え込むのを止めた手塚が口を開く
「俺の発言でよく笑う奴だ」
一瞬、ここに居るメンバーが全員言葉に詰まった
どう言った反応をすべきなのか分からなかったからだ
容姿や性格についての評価が飛び出すと思っていたものが大半であろう
僕だって他者から人についての評価を聞かれたらまずは容姿から入り、性格について語る
その常識が、どうやらこの男には通用しなかった様だ
そしてその数瞬後、彼女を知るものは納得し、知らないものはその的外れな返答に失笑する
僕はと言えば、そのどちらでも無く仲間意識を感じ、少しわくわくしていた
どうやらその彼女は、この少しズレた男の本質に早々に気付き、しかもそのズレを楽しんでいる様だと分かったからだ
「確かに錦さん、笑ってそうやわぁ」
「さすが錦ちゃんぜよ」
「2人はその錦さん?って子を知ってるの?」
「おん
同じ医学部やから授業がかぶることあってな、何回か話したことあるねん」
「俺は医学部じゃないが、白石と同じく授業がかぶることがあってのう、そこで話したんじゃ
おもしろい奴ぜよ」
「せやな、今まで周りに居らんかったタイプやわ」
手塚よりも正確な情報が聞き出せそうなため、話の焦点を2人に変える
同じ医学部、って事はその錦さんも医学部なのだろう
少々詳しい話を聞いてみたくなった
「2人から見てどんな子なの?」
「一般的な情報なら柳君の方が詳しいんとちゃう?」
「だって、柳」
「ふむ…
錦梨乃、18歳、9月22日生まれの乙女座で血液型はB型
身長は女子にしては高めの164cm、体重に関しての情報はないが身長と体型から予測すると50kg台であると思われる
医学部へ現役合格している所からみて成績は優秀、授業態度も真面目とはいかないが模範的
派手すぎない化粧や服装に、栗色の長髪
性格に関しての情報はあまりないが、基本的には事なかれ主義で自ら何かしらのアクションを起こすことの少ない、インドア
バイトはしている
と言ったところか」
「…柳、犯罪者にはならないでね?」
「その辺りは弁えている」
つらつら、と流れるように提示された情報に思わず少し引いた
まぁ、それは僕だけではないようだけれど
一体彼は、どこから情報を入手しているんだろうか
当人がこれを聞いたら思わず通報してしまうだろうな、なんて事を心の片隅で思いながら今度は性格について知るため白石や仁王に話を振る
「それで、錦さんってどんな性格なの?」
「自分、興味津々やなぁ」
「あの手塚と仲良くなれる女子って貴重だからね」
「せやろな
んー、たまに話す位やから俺もそない詳しくはないけどなぁ
多分面倒見はえぇんやろなって思たで」
「面倒見がいい?」
「大体いつも同じ子と居んねんけど、その子がまたよぉ寝る子でなぁ
文句言いながらもその子の面倒見てるから、なんやかんや放っておけん長女気質なんやろなって」
「錦ちゃんの面白いとこは、跡部の話を振ると嫌そうな顔する所じゃな」
「アーン?そいつは聞き捨てならねぇな
どういうことだ、仁王」
「あの入学式の一件が、『あ、コイツ変な奴だ関わらんとこ』ってなったみたいでな
今までの跡部がしてきたことの数々を話すと、引いた顔するんじゃ
いつも女にきゃーきゃー言われとる跡部に対しそんな反応する奴は居らんかったからのう、つい面白くてな」
「おいこら仁王、何吹き込んでんだ」
「確かに、他の子みたいに彼氏作りに躍起になっとらんし
むしろそう言う子ぉ等見て、引いた目しとるよなぁ」
へぇ、とますます興味が湧いた
なるほど、そう言う子なら手塚とも上手くやれるだろう
顔が良いってだけで特別視しないで、ちゃんと内面を見ることが出来る
派手なこと、目立つことが苦手、若しくは嫌いなのだろう
そういう性格なら、落ち着きすぎている手塚と会話が無くてもその空間を居辛く感じたりすることもなさそうだし
一度会ってみたいな
なんてそんなことを思いながら、その日の帰路は彼女の話題で持ちきりだった
*****
6月
テニス部、テニサー合同の親睦会なるものが跡部主催にて開かれることとなった
面白半分で手塚の分も合わせ出席する旨を伝えると、それは皆同じだったようで結局いつものメンバーが揃うこととなった
ドレスコードありってのがまた跡部らしくて笑ってしまう
そういや始まってしばらく経つけど手塚の姿はまだ見ていない
こういう時、手塚が遅れてやってくる何て珍しい
そんなことを思いながら飲み物を取りに行き、戻ってきた頃には件の手塚の姿
その斜め後ろには俺達に囲まれているせいか小ささが強調される、1人の異性
あ、彼女がそうだ
そう直感的に判断し手塚の後ろから声をかける
「あれ?手塚がこういうとこに来るなんて珍しいね」
その声に振り向いたのは手塚だけで無く件の彼女も同様で
眉間の皺をわずかに濃くし、僕に対し文句をぶつける彼には悪いけど、今僕の興味は完全に彼女に注がれている
「もしかして錦さん?」
『はい』
「やっぱり、手塚の話によく出てくる子だ
僕は不二周助って言うんだ、よろしくね」
『よろしく…
って手塚お前何の話を人に吹き込んでるんだ』
途端によそ行きの顔を崩し、彼女よりも上空にある手塚の顔をジト目で見上げる錦さん
対する手塚は相変わらずの無表情
多分、自分が錦さんについてどう語ったのか思い返しているのだろう
と言っても話を振るのは僕たちの方で、手塚はそれに答えているだけに過ぎないから心当たりも無いだろうけど
そして知り合いであるらしい白石と仁王と話をする姿に、着飾った様子は無い
ふむ、仁王がおもしろがるのも無理は無いかな
女性関係では結構苦労してたと聞くし
うん、やっぱり思った通りの子だ
好き好んで手塚みたいな人間と仲良くしようと近寄ってくるだけはある
会話のテンポも良いし、頭の回転が速い子なんだろうな
その場の空気を悪くしない弄り方、引き際は弁えている、そんな印象
楽しそうに話しながらも、さり気なく指先に息を吹きかけたり、ストールを引き寄せる姿が目に入る
そう言えばこの空間はお酒を飲んで熱くなっている人にはちょうど良いけど、そうでも無い人からしてみれば少々肌寒い
しかも、錦さんの様にパーティードレスを身に包んで薄着の人には特に
「寒い?」
そっと近寄りそう投げかけてみれば、ふいと持ち上がる視線
小さく頷きで返される返答に頷き返してジャケットを肩に掛けると驚いたような表情をしながらもそっと引き寄せる
何か暖かい飲み物を、とその場を立ち去る傍で、跡部が動いたのを見て、やっぱり彼はなんだかんだ上に立つ人間なんだな、なんてそんなことを思う
絶対言ってやらないけど
にしても主催者がそこに居ても寒いと自発的に発言するでも無く耐えしのぐ方を選択するのか
場の空気を読んで、空気を壊さないように限界までは我慢する方を選んだろうな
きっと我慢できなくなったら正直に言っちゃうんだろうけど
多分今は自分が輪の中心にいたからこっそり話をしに行くことは難しいと踏んだんだろう
よく周りを見てる子だな
面倒見がいいと評されただけはある
面倒を見るためには周りが見れていないと出来ないことだから
飲み物を持って戻ると、少し跡部を見て嫌そうな顔をしていた
そんな反応される跡部が珍しくて、思わず笑みが深まるのが分かる
僕に気付いて敢えて跡部に見せつけるようにお礼を言ってくる姿に、やっぱり仲良くなれそうだと仲間意識が強くなった気がした
なかなかに良い性格をしていそうだ
「そう言えば錦さんって、いつ頃から手塚と仲良いの?」
『んー、いつ頃だろ、5月くらい?』
「何で敢えて絡もうと思ったの?手塚、めっちゃ仏頂面でしょ?」
『あー、うん
最初は真面目が服着て歩いてる様なタイプだと思っていたから、ウチみたいなのとは相性悪いかなーって思ってたんだけど』
「うん、その認識は間違ってないね」
『今じゃその真面目が面白くて仕方ないんだけど』
「僕も」
『まぁ経緯を簡単に説明すると、忘れ物を見つけてそれを渡す中で、あ、コイツ面白いとウチの本能が察知した結果かな』
「仲良くしよう」
『よろしく?』
急な話題展開にも苦笑しながらも乗ってきてくれるので、やっぱり似たとこがあるのだろう
そんなことを思いながら、彼女と握手を交わしたのであった
斜め上の理解力
(人と違った捉え方を当たり前に出来る人)