大学生のキャラたちがゆっくりと青春する物語(TNS)
多分これが、アオハルって奴みたいです
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12月
この大学に入学して季節は流れ冬
寒さがいっそう厳しくなってきたこの時期は、いつにも増して不機嫌である
何故かって?寒いからだよ
冬将軍って何処にいるのかな…、場所さえ分かれば討ちに行くのに
なんて冗談はさて置き、世間は恋人たちの一大イベントであるクリスマス一色
まだ12月上旬だってのに、日本人はほんと気が早い
そう、恋人たちの一大イベント
恋人の居ない、浮かれたい人間達が焦って色々仕掛け始める時期
『な訳ですよ手塚くん』
「イキナリなんだ」
『いやぁ、手塚が全っ然焦る様子が無いから発破掛けた方がいいかと思って』
「?なんの事だ?」
『ほんと無自覚って質悪い
これなら自覚して仕掛けに行ってる奴の方がマシか?いや、中にはクズいのもいるからなぁ』
「勝手に自己完結するな」
『手塚も突っ込めるようになったね』
「………」
『おっと、ジト目頂きましたー』
こんな寒い中でも顔色一つ変えないこの男はホント何者なんだろう
ウチなんて寒くて起きるのも嫌だし、段々服が厚くなってモコモコになってきていると言うのに
この男は温度を感じないのだろうか
なんて事はさて置き、イマイチ何を考えてるか分からないこの男にちょっと仕掛けてみたいと思う
だって放っておくとコイツはきっと気付かない
ウチよりも無縁なとことで生きてきた男、だろうし
『最近さー、カップル増えたよねー』
「?そうなのか?」
『ホントそう言うとこ疎いよね、もっと周りの流れに着いておいでよ』
「…そうは言われてもな」
『今月はクリスマスもあるしね、焦ってんだよ』
「焦る?何故?」
『…本気?まぁ、それでこそ手塚かぁ』
こいつの中の恋愛観がどんなものなのか一度本気で確認してみたい
どうやって生きていたらこんな人間が育つのだろうか
恋人を作る、将来家庭を持つ、そんな未来設計はあるのだろうか?
それは馬鹿にしすぎ?
と、ちょっと本気で心配になるほどこの男は鈍感だ
周りの感情の動きにも、自分の感情の動きにも
『気付いて無い?』
「…何に?」
『…周りに甘やかされてきたのかねぇ、お前は
ホント周りの人間に感謝すべきだよ』
「先程から喧嘩を売っているのか?」
『んー?煽ってる』
ようやくその発想になった手塚ににんまり笑ってやる
そうだよ、煽ってんの
感情が昂ると言うことは感情の揺らぎがあると言うこと
いつも平坦なその感情が動けば、何か変化に気付くんじゃないか、なんて
ちょっと甘い考えだけど
『澪理さー、最近仲良い男友達出来たみたいで楽しそうなんだよねぇ』
「…それは、良かったんじゃないか」
『コミュ障の人見知りで殆ど異性と関わらなかった澪理が、楽しそうに話せる男友達が出来たんだよ?』
「…そうだな」
『周りの人間も見る目変わるよねぇ
あ、あの子あんな風に笑うんだ、とか、普通に男とも仲良く出来るんだ、とか?』
「…そうだな」
『そこで最初の話に戻る訳ですよ
世間はクリスマス一色!恋人の居ない人間は焦って恋人探し
つまりは告白ラッシュ
澪理普通に可愛いし、男慣れして無いしで、割りと恰好の獲物、って奴なんですよ、手塚くん』
この言葉のどれくらいを理解しているだろうか
そんな事思うけど、始めたからには続けるしかないだろう
そう、恰好の獲物
綺麗な子より可愛い子の方がハードルが低い
取り敢えず当たってみようと思われるのはどちらかと言えば可愛い部類の子
文系の人口と理系の人口では圧倒的文系の人口の方が多い
そして、どちらかと言えばそう言う恋愛思考になりやすいのも文系の人間
なんて偏見もいいとこだろうけどさ
『いいの、手塚?澪理盗られちゃっても
何も思わない、なんて事は流石に無いでしょう?』
多少なりとも特別な感情はある筈なのだ
コイツはそれを分からないのでは無く気付いてすらいない
ホント一体どのように生きたらこんな風になるのだろうか
相変わらず変わらない表情を見上げる
その中には不可解と言った感情と、ほんの少しの不機嫌
ねぇ、早く気付きなよ
『ん?あれ澪理?』
なんてタイムリー
ふと窓の外を見ると、そこには澪理と見知らぬ男
…なぁんか嫌な予感?
あの雰囲気は多分告白だ
でも、そこには本気の感情は伴っていない、云わば遊びのような…
『あーぁ、噂をすれば何とやら
放って置いていーの?手塚くん?』
ダメ押し、とばかりの一言
手塚の為にも、くだらない遊びに巻き込まれてしまった澪理の為にも
手塚の乱入であの告白を潰してしまえばいい
衝動的に走り出した背中に溜め息を吐いて見送る
ウチは澪理のフォローしなきゃいけないから手塚の方は不二くんに頼んでおこう
ホント、手の掛かる友人達ですこと
窓の冊子に肘をついて外を眺める
ちょうど間に手塚が割り込んだとこ
あー、澪理泣きそう、んで手塚は自分の行動の真意を分かってなさそう
『ふふ、青春だねぇ』
そんな友人達を見て笑う
さて、ウチも澪理回収に向かいますかね
*****
世はクリスマス
けど、人混み嫌いでありあまり拘りのないウチは、正直興味が無かった
親元も離れたし、わざわざクリスマスプレゼントをおねだりするような歳でもなし、欲しい物があるでなし
そんな訳で実家に戻らず過ごす事にしたウチは今、車で山を登っている
と言うのも天体観測に行きたいと漏らしたウチと天体写真を撮りたいという不二くんの希望が合致した為である
「寒くない?」
『ん、大丈夫
これからもっと寒くなるし』
「まぁ、外だもんね」
『仕方無いよね』
寒さに慣れるため行きの車では暖房をつけていない
防寒対策はしてきたつもりであるけど、やっぱ冬は嫌いである
月葉は冬は星が綺麗と嬉々としていたけど
普段は多少我慢してお洒落するけど、今日は寒さ対策重視
普段よりずっとモコモコしている自覚はある
「着いたよ」
ふと耳に入った声に意識を向けると車はもう止まっていた
あぁ、色々考え過ぎて気付かなかった
ありがと、と返事を返し車を降りる
ググッと背伸びをしてみたら、やっぱり関節が可愛くない音を立てる
温かい飲み物の入ったポットと軽食のバケット、あとは寝転がるためのブルーシートと膝掛け
そこまで本格的な観測で無いため、望遠鏡は持ってきていない
車から降りてちょっと山道を登って、開けた場所にブルーシートを広げて寝転がる
月葉ほど知識は無いため有名な星座しか見つけれないけど、指差し星を辿っていく
星座早見盤も部室から拝借してきたので(使い方の予習も済み、もちろん月葉指導)、今まで見つけられなかった星座を探していく
横に寝転がった不二くんもカメラを構えたり、ウチが辿る指先を追って一緒に星座を探したり
此処に澪理が居たらまた、近い!と叫ばれそうな距離に顔があって
2人であれじゃ無いか、これじゃ無いか、やっぱりこっちじゃ無いか、なんて一面に広がる星空を指で辿っていくこの時間は、最近のちょっとした気まずさを忘れさせてくれるほど穏やかで、楽しくて
『あー、腕疲れた』
「ずっと上に伸ばしてたもんね」
『素人には目だけで探せる能力は備わっていないのです
今度月葉連れて解説してもらおー』
「サークルの友達?」
『そう、天体バカ
夜天体観測したいがために、朝昼を睡眠に費やそうとするおばかさん』
「昼夜逆転もいいとこだね」
『ホントに』
ウチも比較的夜型人間ではあるけど、コイツほどでは無いと自負している
夜活動しても、ちゃんと朝昼起きてるし
琴音は毎回苦労してそうだなぁ
腕が疲れたため一度休憩と称して起き上がる
休憩で起き上がるってなんか変な感じだな、普通なら寝そうなものなのに
なんて思いながら膝を立てて膝掛けを引き寄せて飲み物に口をつける
横に居る不二くんも起き上がったため飲み物を手渡す
星座を探していたときと違い会話の途切れたこの空間は、お互いの吐息さえ聞こえてしまいそうな静寂で
そこでようやく自分が緊張していることに気付く
いや、ホントは最初から、此処へ来る車内からずっと
あぁ、なんか情けないなぁ
今まで誰かと、異性と二人きりになったって緊張するような人間じゃ無かったのに
気まずさを感じることはあっても、緊張して口数が減るなんて事は無い
それだけで、答えは明白なのに
『寒いね』
「まぁ、もう冬だしね
これからもっと寒くなるけど」
『あぁ、冬とか消滅しないかなぁ…』
「自分の星座が由来じゃなかったっけ?」
『あー、そうだった…
てか不二くん星座の神話とか知ってたんだね?』
「12星座くらいはちょっとくる前に調べてきたんだ
梨乃ちゃんそう言うの詳しそうだし」
『そうだね、12星座くらいなら大体なら覚えてるかな』
「好きなんだね」
『……、うん、好き、かな
小さい頃おねだりして星座の神話乗ってる図鑑とか買ってもらったりしてたし
小学生の時とか星座の神話の本とかばっか読んでたかなぁ』
「好きそうだね」
『日常と離れた話が好きなんだろうねぇ』
「分かる気もする」
くすくす、と小さく笑う彼につられて小さく笑う
此処にはウチ等2人しか居ないのだから声の大きさなんて気にしなくていいのに、なんだか小さな声で話さなくちゃいけないような、夜の静寂
星降るような空の下、静かな暗闇、男女が2人
何というロマンチックな状況なのだろうか、なんて
此処に恋愛感情があるなら、絶好の告白のタイミングなのだろう
多分、そう簡単に作れないだろう状況
まぁ、ウチが此処で告白するとかそんなことしないけどさ
「寒いね、そろそろ帰ろうか?」
『…ん、そうだね』
立ち上がった不二くんが差し出す手に自らの手を重ねる
外気に冷やされてお互い冷たくて、なんだかちょっと笑えてくる
手を取って立ち上がって簡単に片付け
荷物をまとめて、何となく手を繋いだまま山を下って、車まで
気付いてた、分かってた
そこまで鈍いキャラなんかじゃ無いし、前に指摘された通り逃げてた自覚だってある
昔から変化を嫌う人間だった
変化を拒んで不変ばかり望んで、代わり映えの無い日常を退屈に感じながら、それでも変わることよりはずっとマシであるとその退屈に目を瞑って
変化が怖かった
今の心地いい空間が壊れてしまうことが怖かった
関係に名前をつけると終わり来そうで、それが怖くって、変化の無い世界で、ぬるま湯のような空間で浸っていたい
そんな、臆病な願い
『寒いねぇ』
「その方が星は綺麗なんじゃ無いの?」
『まぁ、そうだねぇ』
「また来る?」
『それまでに勉強しなきゃねぇ』
「星座探す?」
『そ、勉強。星いっぱいあるもんねぇ…
人の数より多いんだよ?砂丘の砂全部空に投げたって星の数に足りないんだ』
「へぇ、そんなに多いんだ」
『だって』
怖くて逃げていた
自覚なんて割りと最初からあった
一緒に居るのが心地いいと感じたときからずっと予感はあった
好きだな、って思ったらもう引き返せないなんて分かってたから目を逸らしていたのに
もう、いいかな
『冬休みだねぇ』
「そうだね
梨乃ちゃんは実家帰るの?」
『んー、どうだろ?別にいっかなー、ホームシックになるようなキャラでもないし』
「キャラでホームシックになるの?」
『あ、確かに』
お互い顔を見合わせてまた笑う
そんな何気ない時間が心地よくて、そんな時間が大切で、大好きで
自分が自覚したところで何か変わることなんてないのに
不二くんは分かりやすく教えてくれているから、それが無くなるまではゆっくりでもいいかな、なんて甘えなんだろうけど
『また集まるかなぁ』
「集まるんじゃない?好きそうだし」
『そうだね、澪理そういったこと好きだし
でも、あの2人そろそろ動くと思うんだよねぇ、この前発破掛けたし』
「あ、あれやっぱり梨乃ちゃんの仕業?」
『仕業って嫌な響き
あの嘘告白はウチが仕組んだことじゃないよ?そこまで悪趣味なことしないし』
「それは分かってるよ」
『澪理吹っ切れたら行動派だから、手塚置いてかれるかもね』
「あはは、確かに」
『そうなった手塚弄ったら怒るかなぁ、弄りたいなぁ』
「梨乃ちゃん、抑えたって弄っちゃうでしょ?」
『あれ、バレた?』
「バレバレ」
『不二くんだって弄るじゃん?』
「正解」
くすくす、と笑って手を離す
そのまま車に乗り込んで、エンジンを掛けて暖を取る
けど、車を走らせることなくそのまま談笑を続ける
うん、やっぱり好きだな
今すぐ何か動こうという気はないけれど
ていうか受け身の人間からしたら動くことはとても勇気の要ることだから自覚してすぐになんて動けるはずないけど
取り敢えず今日は自覚して1歩進んだって事で多めにみてもらおう
誰にかなんて知らないけど
取り敢えず、今はただこの空間を楽しみたい、かな
恋人たちのクリスマス
(そんなもの無縁だと、言えなくなってしまったかもしれない)
この大学に入学して季節は流れ冬
寒さがいっそう厳しくなってきたこの時期は、いつにも増して不機嫌である
何故かって?寒いからだよ
冬将軍って何処にいるのかな…、場所さえ分かれば討ちに行くのに
なんて冗談はさて置き、世間は恋人たちの一大イベントであるクリスマス一色
まだ12月上旬だってのに、日本人はほんと気が早い
そう、恋人たちの一大イベント
恋人の居ない、浮かれたい人間達が焦って色々仕掛け始める時期
『な訳ですよ手塚くん』
「イキナリなんだ」
『いやぁ、手塚が全っ然焦る様子が無いから発破掛けた方がいいかと思って』
「?なんの事だ?」
『ほんと無自覚って質悪い
これなら自覚して仕掛けに行ってる奴の方がマシか?いや、中にはクズいのもいるからなぁ』
「勝手に自己完結するな」
『手塚も突っ込めるようになったね』
「………」
『おっと、ジト目頂きましたー』
こんな寒い中でも顔色一つ変えないこの男はホント何者なんだろう
ウチなんて寒くて起きるのも嫌だし、段々服が厚くなってモコモコになってきていると言うのに
この男は温度を感じないのだろうか
なんて事はさて置き、イマイチ何を考えてるか分からないこの男にちょっと仕掛けてみたいと思う
だって放っておくとコイツはきっと気付かない
ウチよりも無縁なとことで生きてきた男、だろうし
『最近さー、カップル増えたよねー』
「?そうなのか?」
『ホントそう言うとこ疎いよね、もっと周りの流れに着いておいでよ』
「…そうは言われてもな」
『今月はクリスマスもあるしね、焦ってんだよ』
「焦る?何故?」
『…本気?まぁ、それでこそ手塚かぁ』
こいつの中の恋愛観がどんなものなのか一度本気で確認してみたい
どうやって生きていたらこんな人間が育つのだろうか
恋人を作る、将来家庭を持つ、そんな未来設計はあるのだろうか?
それは馬鹿にしすぎ?
と、ちょっと本気で心配になるほどこの男は鈍感だ
周りの感情の動きにも、自分の感情の動きにも
『気付いて無い?』
「…何に?」
『…周りに甘やかされてきたのかねぇ、お前は
ホント周りの人間に感謝すべきだよ』
「先程から喧嘩を売っているのか?」
『んー?煽ってる』
ようやくその発想になった手塚ににんまり笑ってやる
そうだよ、煽ってんの
感情が昂ると言うことは感情の揺らぎがあると言うこと
いつも平坦なその感情が動けば、何か変化に気付くんじゃないか、なんて
ちょっと甘い考えだけど
『澪理さー、最近仲良い男友達出来たみたいで楽しそうなんだよねぇ』
「…それは、良かったんじゃないか」
『コミュ障の人見知りで殆ど異性と関わらなかった澪理が、楽しそうに話せる男友達が出来たんだよ?』
「…そうだな」
『周りの人間も見る目変わるよねぇ
あ、あの子あんな風に笑うんだ、とか、普通に男とも仲良く出来るんだ、とか?』
「…そうだな」
『そこで最初の話に戻る訳ですよ
世間はクリスマス一色!恋人の居ない人間は焦って恋人探し
つまりは告白ラッシュ
澪理普通に可愛いし、男慣れして無いしで、割りと恰好の獲物、って奴なんですよ、手塚くん』
この言葉のどれくらいを理解しているだろうか
そんな事思うけど、始めたからには続けるしかないだろう
そう、恰好の獲物
綺麗な子より可愛い子の方がハードルが低い
取り敢えず当たってみようと思われるのはどちらかと言えば可愛い部類の子
文系の人口と理系の人口では圧倒的文系の人口の方が多い
そして、どちらかと言えばそう言う恋愛思考になりやすいのも文系の人間
なんて偏見もいいとこだろうけどさ
『いいの、手塚?澪理盗られちゃっても
何も思わない、なんて事は流石に無いでしょう?』
多少なりとも特別な感情はある筈なのだ
コイツはそれを分からないのでは無く気付いてすらいない
ホント一体どのように生きたらこんな風になるのだろうか
相変わらず変わらない表情を見上げる
その中には不可解と言った感情と、ほんの少しの不機嫌
ねぇ、早く気付きなよ
『ん?あれ澪理?』
なんてタイムリー
ふと窓の外を見ると、そこには澪理と見知らぬ男
…なぁんか嫌な予感?
あの雰囲気は多分告白だ
でも、そこには本気の感情は伴っていない、云わば遊びのような…
『あーぁ、噂をすれば何とやら
放って置いていーの?手塚くん?』
ダメ押し、とばかりの一言
手塚の為にも、くだらない遊びに巻き込まれてしまった澪理の為にも
手塚の乱入であの告白を潰してしまえばいい
衝動的に走り出した背中に溜め息を吐いて見送る
ウチは澪理のフォローしなきゃいけないから手塚の方は不二くんに頼んでおこう
ホント、手の掛かる友人達ですこと
窓の冊子に肘をついて外を眺める
ちょうど間に手塚が割り込んだとこ
あー、澪理泣きそう、んで手塚は自分の行動の真意を分かってなさそう
『ふふ、青春だねぇ』
そんな友人達を見て笑う
さて、ウチも澪理回収に向かいますかね
*****
世はクリスマス
けど、人混み嫌いでありあまり拘りのないウチは、正直興味が無かった
親元も離れたし、わざわざクリスマスプレゼントをおねだりするような歳でもなし、欲しい物があるでなし
そんな訳で実家に戻らず過ごす事にしたウチは今、車で山を登っている
と言うのも天体観測に行きたいと漏らしたウチと天体写真を撮りたいという不二くんの希望が合致した為である
「寒くない?」
『ん、大丈夫
これからもっと寒くなるし』
「まぁ、外だもんね」
『仕方無いよね』
寒さに慣れるため行きの車では暖房をつけていない
防寒対策はしてきたつもりであるけど、やっぱ冬は嫌いである
月葉は冬は星が綺麗と嬉々としていたけど
普段は多少我慢してお洒落するけど、今日は寒さ対策重視
普段よりずっとモコモコしている自覚はある
「着いたよ」
ふと耳に入った声に意識を向けると車はもう止まっていた
あぁ、色々考え過ぎて気付かなかった
ありがと、と返事を返し車を降りる
ググッと背伸びをしてみたら、やっぱり関節が可愛くない音を立てる
温かい飲み物の入ったポットと軽食のバケット、あとは寝転がるためのブルーシートと膝掛け
そこまで本格的な観測で無いため、望遠鏡は持ってきていない
車から降りてちょっと山道を登って、開けた場所にブルーシートを広げて寝転がる
月葉ほど知識は無いため有名な星座しか見つけれないけど、指差し星を辿っていく
星座早見盤も部室から拝借してきたので(使い方の予習も済み、もちろん月葉指導)、今まで見つけられなかった星座を探していく
横に寝転がった不二くんもカメラを構えたり、ウチが辿る指先を追って一緒に星座を探したり
此処に澪理が居たらまた、近い!と叫ばれそうな距離に顔があって
2人であれじゃ無いか、これじゃ無いか、やっぱりこっちじゃ無いか、なんて一面に広がる星空を指で辿っていくこの時間は、最近のちょっとした気まずさを忘れさせてくれるほど穏やかで、楽しくて
『あー、腕疲れた』
「ずっと上に伸ばしてたもんね」
『素人には目だけで探せる能力は備わっていないのです
今度月葉連れて解説してもらおー』
「サークルの友達?」
『そう、天体バカ
夜天体観測したいがために、朝昼を睡眠に費やそうとするおばかさん』
「昼夜逆転もいいとこだね」
『ホントに』
ウチも比較的夜型人間ではあるけど、コイツほどでは無いと自負している
夜活動しても、ちゃんと朝昼起きてるし
琴音は毎回苦労してそうだなぁ
腕が疲れたため一度休憩と称して起き上がる
休憩で起き上がるってなんか変な感じだな、普通なら寝そうなものなのに
なんて思いながら膝を立てて膝掛けを引き寄せて飲み物に口をつける
横に居る不二くんも起き上がったため飲み物を手渡す
星座を探していたときと違い会話の途切れたこの空間は、お互いの吐息さえ聞こえてしまいそうな静寂で
そこでようやく自分が緊張していることに気付く
いや、ホントは最初から、此処へ来る車内からずっと
あぁ、なんか情けないなぁ
今まで誰かと、異性と二人きりになったって緊張するような人間じゃ無かったのに
気まずさを感じることはあっても、緊張して口数が減るなんて事は無い
それだけで、答えは明白なのに
『寒いね』
「まぁ、もう冬だしね
これからもっと寒くなるけど」
『あぁ、冬とか消滅しないかなぁ…』
「自分の星座が由来じゃなかったっけ?」
『あー、そうだった…
てか不二くん星座の神話とか知ってたんだね?』
「12星座くらいはちょっとくる前に調べてきたんだ
梨乃ちゃんそう言うの詳しそうだし」
『そうだね、12星座くらいなら大体なら覚えてるかな』
「好きなんだね」
『……、うん、好き、かな
小さい頃おねだりして星座の神話乗ってる図鑑とか買ってもらったりしてたし
小学生の時とか星座の神話の本とかばっか読んでたかなぁ』
「好きそうだね」
『日常と離れた話が好きなんだろうねぇ』
「分かる気もする」
くすくす、と小さく笑う彼につられて小さく笑う
此処にはウチ等2人しか居ないのだから声の大きさなんて気にしなくていいのに、なんだか小さな声で話さなくちゃいけないような、夜の静寂
星降るような空の下、静かな暗闇、男女が2人
何というロマンチックな状況なのだろうか、なんて
此処に恋愛感情があるなら、絶好の告白のタイミングなのだろう
多分、そう簡単に作れないだろう状況
まぁ、ウチが此処で告白するとかそんなことしないけどさ
「寒いね、そろそろ帰ろうか?」
『…ん、そうだね』
立ち上がった不二くんが差し出す手に自らの手を重ねる
外気に冷やされてお互い冷たくて、なんだかちょっと笑えてくる
手を取って立ち上がって簡単に片付け
荷物をまとめて、何となく手を繋いだまま山を下って、車まで
気付いてた、分かってた
そこまで鈍いキャラなんかじゃ無いし、前に指摘された通り逃げてた自覚だってある
昔から変化を嫌う人間だった
変化を拒んで不変ばかり望んで、代わり映えの無い日常を退屈に感じながら、それでも変わることよりはずっとマシであるとその退屈に目を瞑って
変化が怖かった
今の心地いい空間が壊れてしまうことが怖かった
関係に名前をつけると終わり来そうで、それが怖くって、変化の無い世界で、ぬるま湯のような空間で浸っていたい
そんな、臆病な願い
『寒いねぇ』
「その方が星は綺麗なんじゃ無いの?」
『まぁ、そうだねぇ』
「また来る?」
『それまでに勉強しなきゃねぇ』
「星座探す?」
『そ、勉強。星いっぱいあるもんねぇ…
人の数より多いんだよ?砂丘の砂全部空に投げたって星の数に足りないんだ』
「へぇ、そんなに多いんだ」
『だって』
怖くて逃げていた
自覚なんて割りと最初からあった
一緒に居るのが心地いいと感じたときからずっと予感はあった
好きだな、って思ったらもう引き返せないなんて分かってたから目を逸らしていたのに
もう、いいかな
『冬休みだねぇ』
「そうだね
梨乃ちゃんは実家帰るの?」
『んー、どうだろ?別にいっかなー、ホームシックになるようなキャラでもないし』
「キャラでホームシックになるの?」
『あ、確かに』
お互い顔を見合わせてまた笑う
そんな何気ない時間が心地よくて、そんな時間が大切で、大好きで
自分が自覚したところで何か変わることなんてないのに
不二くんは分かりやすく教えてくれているから、それが無くなるまではゆっくりでもいいかな、なんて甘えなんだろうけど
『また集まるかなぁ』
「集まるんじゃない?好きそうだし」
『そうだね、澪理そういったこと好きだし
でも、あの2人そろそろ動くと思うんだよねぇ、この前発破掛けたし』
「あ、あれやっぱり梨乃ちゃんの仕業?」
『仕業って嫌な響き
あの嘘告白はウチが仕組んだことじゃないよ?そこまで悪趣味なことしないし』
「それは分かってるよ」
『澪理吹っ切れたら行動派だから、手塚置いてかれるかもね』
「あはは、確かに」
『そうなった手塚弄ったら怒るかなぁ、弄りたいなぁ』
「梨乃ちゃん、抑えたって弄っちゃうでしょ?」
『あれ、バレた?』
「バレバレ」
『不二くんだって弄るじゃん?』
「正解」
くすくす、と笑って手を離す
そのまま車に乗り込んで、エンジンを掛けて暖を取る
けど、車を走らせることなくそのまま談笑を続ける
うん、やっぱり好きだな
今すぐ何か動こうという気はないけれど
ていうか受け身の人間からしたら動くことはとても勇気の要ることだから自覚してすぐになんて動けるはずないけど
取り敢えず今日は自覚して1歩進んだって事で多めにみてもらおう
誰にかなんて知らないけど
取り敢えず、今はただこの空間を楽しみたい、かな
恋人たちのクリスマス
(そんなもの無縁だと、言えなくなってしまったかもしれない)