大学生のキャラたちがゆっくりと青春する物語(TNS)
多分これが、アオハルって奴みたいです
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
9月
今までなら新学期が始まり、テストがー、とか体育祭がー、とか言ってる時期
でも大学生と言うのは気楽なものであと1ヶ月も休みがあると言う
凄いな、大学ってのは
なんて他人事の様に考えていたら澪理から集合と呼び出しを食らい集まったのはいつものメンバーで
『ここに行きたいんです』
と差し出された携帯に表示されたのは、言わばお風呂カフェというもののサイト
基本的引きこもりで外への興味関心が薄いウチには馴染みのない単語であるが、反応を示したのは不二くんで
どうやらお姉さんがそういった事に興味があって何となくなら知っているのだと
やべぇ、女子として何か負けた感
まぁ、そんな冗談は置いといて
澪理の携帯を借りてサイトを見てみるが結構いい感じにゆったり出来そうな場所
あまりアクティブでないウチでもそんな抵抗なく行けそうな場所、という印象
『へぇ、楽しそう』
『でしょ!?』
『ゆったりしてたら寝そうだけど』
『梨乃ってそんな寝るキャラだっけ?』
『最近疲れがねぇ、歳かな』
『同い年!』
そんなやり取りをしてメンズに目を向ける
不二くんは最初から肯定的だったし、何かあるなら手塚の方かな、とは思うけど
ちなみに不二くんと会うのはあの日の後、今日が初であるけど何も引き摺ってこないところがホント有難い
「僕はいいと思うよ、温泉も好きだし」
「あぁ、そうだな
温泉は嫌いじゃない」
『え、じゃあおっけー?女子って結構長風呂だけど』
「それくらい付き合えなきゃ男が廃るよね」
『ちょっと誰、こんな国宝連れ込んだのー』
『国宝って!確かに国宝級のイケメンだけど!』
「どうも、国宝です」
『本人認めちゃったし!』
なんて言う何ともノリのいい会話を繰り広げ取り敢えず全員了承を得たため今度は日程調整
埼玉にあるという事で日帰りも可能
だけど、せっかくなら、という事で1泊2日の弾丸旅行の計画を立てる
ワイワイ盛り上がる3人に手塚はいつも通り置いてけぼり
けど特に反対意見を言わないためそれでいいのだろうと勝手に決めつけ(話についていけてないという事も大いにあり得るが無視させて頂く)、何とか計画が形になっていく
そんなこんなで大学生らしく弾丸旅行の開始です
*****
ダンジョンの様な駅構内を何とか乗り越え(主に不二くんの誘導により)辿り着いた目的地
最初はゆっくり温泉に浸かりたい、という意見は一致した為男女に別れる
髪をまとめて服を脱ぎ準備をしてる間にもう慣れてしまった澪理の視線
『あんまりガン見しないで頂きたい』
『いや、だって、見とかないと』
『なんでだよ』
なんて笑いながら浴場へ
温泉に浸かると何でこうも気の抜けた声が出るものなのか
髪がお湯についてないことを確認して思い切り手足を伸ばす
足をマッサージしてると横にやってきた澪理が何か言いたそうな顔
話を促すようにそちらを向くと、ポツリと話し始める
『あのさー…』
『何よ』
『この間の夏祭りでさ、梨乃等とはぐれたやん?』
『あー、そやったね
大丈夫?手塚に迷惑かけなかった?』
『第一声がそれ!いや、うん、まぁ、掛けちゃったかなとは思う』
『まー、澪理やしね
なに、そんな事気にしてたの?』
『いや、そうじゃなくて』
と、まぁ、何とも遠回りに色々宣った結果要約すると“身体接触(バランスを崩したところ支えられた)があった為意識している”という事らしい
何を今更ウチ相手に恥じらう必要がある
お前の恋愛のほぼ全てを把握してる人間だぞ
本人は未だに言い訳がましい事を言っているが、要はそういう事なのだろう
『なん、惚れたん?』
『直球!…いや、だって、流石に単純すぎん?吊り橋効果的な奴やないかなぁ、って』
『何を今更
あんたが単純な事なんて世界の常識レベルやし、今までだってそんなもんやったやん』
『そこまで言います!?』
だってそうじゃーん、と言い放って足のマッサージを再開する
にしても手塚かぁ、今までの相手の中には居なかったタイプだなぁ
まぁた厄介そうなの選んでほんと、いやまぁ、悪い奴では無いけどさぁ
え、てゆーか恋愛してる手塚とか想像つかんのですけど
あの人恋愛的で人の事好きになるの?ホントに?
いやまぁ、あれもあれでいい歳した男やし興味無い方がむしろ引くけども
『別にいーやん、手塚』
『いや、でも、なんか私なんかでいーんかなぁってなるやん?』
『そんなん決めるんは手塚やろ?澪理が今ごちゃごちゃ考えたってここに答えなんかないよ』
反対の足をマッサージしながら言い放つ
なんと言うかこの友人は何も考えてないような人間に見えて自分コンプレックスが激しい
と言うか自分で言うのもなんだがウチに対する劣等感が酷い
だからなのか、妙に他人を神格化し自己を卑下する傾向がある
その対象であるウチが何を言ったって嫌味にしかならんだろうからあんまり言わないけど
『澪理次あっちいこー』
『無理矢理話を逸らした!』
『だってもうめんどー』
『はっきり!』
『ウチジャグジーがいい』
『自由だな!』
そう言いながら着いてくるのでウチも好きなように温泉を楽しむ
答えのないことをごちゃごちゃ悩むのはストレスになるから嫌いである
テキトーにラクに生きてようよ
まぁ、所詮他人事だからこんな事を言えるのだろうと言う自覚はあるけども
折角遊びに来てるのだから、そんな事は取り敢えず投げ捨てて遊ぼうよ
澪理も諦めたのか好きなように温泉を楽しみそろそろ出ようかと貸し出しの服に着替える
ある程度準備が終わったら待ち合わせ場所に指定していた場所まで2人で向かう
と、不二くんが1人立って笑いを堪えながら携帯で写真を撮っていた
『何しよん?』
「あ、梨乃ちゃん
あれ見てよ、あれ」
そう言いながら指さす先にはソファーに腰掛け足を組んで小説を読んでる手塚
いや、うん、顔がいいからね、絵にはなる
なるんだけどさ、なんて言うかさ
『あれ、どう見ても仕事に疲れたサラリーマン』
「だよねww」
『ちょっと誰ー、ここに部外者連れてきたのー』
『梨乃wwはっきり言い過ぎww』
『だって、あれが同い年とか信じたくない』
仕事終わりに癒しを求めてやってきたサラリーマンにしか見えない
あれは絶対同い年が出す貫禄じゃないよ
いや、老け顔だとは思っていたけどさこんなとこで改めて実感したくなかったよ
本人は何だか楽しそうだけどさ、ご満悦だけどさ
うん、楽しいなら何よりです
取り敢えず不二くん、その写真私にもください
それからはそれぞれが好きなように過ごし、適当な時間にご飯を食べてだらーっと過ごして
出掛けなのに家で過ごしてる感覚だよ、これ
(手塚は何しててもサラリーマン感が抜けなかった、もうほんとやめてさしあげろ)
『大学生の弾丸旅行がなんて言うかこんな活発さの欠片の無いもので良いのだろうか』
「まぁ、楽しかったらいいんじゃないかい?ねぇ、手塚?」
「あぁ、そうだな
なかなかに充実した一日だった」
『…うん、君がそれでいいならもういいよ』
なんか嘗てない程に嬉々としてるのが感じ取れるんだけど
この人ホントに大丈夫だろうか?生活疲れてんの?
それなりにいい時間になって澪理もどうやらそろそろ眠くなってきた様なのでお開きという事になり
まぁ、色々突っ込みたいことはあったけどそれなりに楽しい一日だったかな、なんて
そんな事を思いながら布団に入ったのだった
*****
9月22日
世間ではなんでもない只の一日であるが、本日は僭越ながらウチの誕生日というもので
前月のお返しとばかりに澪理が誕生会を開いてくれるということなので澪理の家に向かっている最中である
いやぁ、バースデーが学校休みってなんか嬉しいね、ゆっくりできるわー
そんなこんなで誕生会
部屋に入ればクラッカーに迎えられ、頑張ったらしい料理とケーキ(市販)を食べて
いつも通りゆるっとした時間を過ごし、一段落したところで
『ふっふっふー、実はサプライズプレゼントを用意しているのであります!』
『…おぉー?』
『ノリが悪い!』
『大丈夫、いつもこんなもん』
『今日は乗ってきて!』
『えー…』
『…えー、ごほん
気を取り直しまして、3人で作り上げたサプライズプレゼントがあります!』
『あ、やり直した』
『そうじゃない!』
と、一頻り澪理を弄ったところで本題に入ってもらう
今までのしょげてた顔をころっと変えてむしろドヤ顔でテレビのリモコンを操作し始める
と、そこに映し出された映像は入学して半年、仲良くなってからは約2ヶ月のメモリアルというもの
『…おぉー』
『凄くない?頑張った!』
『このおもしろ画像集は主に不二くん経由と見た』
「ふふ、正解」
『あ、ちょっと途中部外者紛れてるよ
肖像権とかの問題あるんだから、ちゃんと許可とったの?』
「梨乃ちゃん、あれ信じられないと思うけど手塚なんだ」
『…え、嘘、だろ…?』
『なんでこう言う時はノリいいの!』
『ちょ、信じられない
澪理巻き戻して一時停止だ』
『組み込んだの私だけどそこまでします!?』
と突っ込みながらも爆笑し、ウチのオーダー通りに巻き戻して一時停止
そして映し出された映像をじっくり見て、手塚を見て、また映像を見て
『不二くん』
「なんだい?」
『どうやら私は疲れているようです、あれが手塚に見える…』
「そうだね、僕も最初は信じられなかった
でも、これが現実なんだ、受け入れよう…」
『そう、だね…
手塚!ウチは君がどんな秘密を抱えていようとも受け入れる、友達だよ!』
「そう、君が実はサラリーマン経験があって学び直したくて大学に入学したという、その事実を知っても、ね」
「?何の話だ?」
『ホントもう、そろそろ怒るべきだよ手塚君!』
相変わらずの天然と言うか、ウチ等の悪ノリの欠片も理解していない手塚の発言にまた大笑い
いや、今君結構ディスられてるんだよ?ご存知?
取り敢えず鑑賞会が終わり(このDVDは人数分やいてあった)、これまた恒例のボードゲームを始める
人生ゲーム、手塚毎回子沢山になるんだけどなんか細工されてるのだろうか
不二くんは大体順風満帆な人生か、むしろ真逆のどん底を引き続けるし、澪理は最初ボロボロの癖して最後に近付くと色んな人に助けられ持ち直すという何とも有り得そうな展開
ウチは割と高確率で大金持ちになるという、もう絶対細工されてる
そんなこんなで大変盛り上がりをみせた誕生会だったがある程度の時間になってお開き
送ってくれるという事なのでお言葉に甘えてメンズ2人に挟まれ帰路につく
おぉ、安心感
先程の動画の元ネタになったであろう写真を見ながら手塚をからかいつつ他愛も無い会話を繰り広げる
夜遅いためなるべく声の音量には気を付けて
『はー、面白かったぁ
おふたりさん、今日はありがとー』
「あぁ、楽しめたなら良かった」
「大丈夫、手塚はかなり貢献していたよ」
『それな』
マンションについてエントランス前での会話
帰っていく2人を見送ってウチも中に入ろうとしたその際に後ろから声をかけられて足を止める
『どした?忘れ物?』
「そうだね、忘れ物と言えば忘れ物かも」
曖昧な表現に首を傾げる
ちなみに手塚と不二くんはウチのマンションからだと真逆の方面が家な為既に手塚の背中は見えない
ごそごそ、と鞄を漁る不二くんを前に大人しく待機
何かウチが忘れ物でもしてたのだろうか?それか何か落としてたとか?
「はい、これ」
『…一応確認するけど、これは?』
「誕生日プレゼント」
『3人合作じゃ無かったの?』
「個別で用意してはいけない、なんて言われなかったからね」
小さな包を差し出されて条件反射的に受け取る
合作プレゼントでも十分嬉しかったが、ホントにこの男は出来る男である
ちなみに中身は髪飾り、僕の好みだけどごめんね、と目の前で爽やかに微笑む
…うむ、認めよう100点満点である
『ありがとう』
「どういたしまして
梨乃ちゃん髪長いし、今日も綺麗に結ってあるから好きなのかなぁって」
するり、伸びてきた手が長く伸ばされた髪を一束掬いあげる
その細い、綺麗な指の隙間を滑り落ち再びウチの肩に戻ってくる
だからあげたかったんだ、と優しく笑うこの目の前のイケメンに照れるなという方が無理難題である
思わず目を逸らして少しだけ俯くと、頭上からくすくすという笑い声
何なんだ、このイケメンめ
心の中で悪口とも言えない暴言を唱えると、視界に入る足が一歩こちらへと動く
ふわり、掠めた香りにあの海での出来事が思い起こされた
「今、付けてみてもいいかな」
その言葉と同時に手の中から包みをするりと奪い取られ
そのまま中身を取り出し伸ばされた手が後頭部に回る
あの不二さん?
お気付きだとは思いますが今ウチ等向き合って立っている訳ででしてね?
そのまま後頭部に手を回すって事はつまりどういう事か分かってやってるでしょう?
酷く優しく触れる指先
今の髮型を崩さないように繊細に触れる指
そのせいか、やけに長く感じるこの時間にむず痒いったらありゃしない
「うん、よく似合ってる」
『…ありがと』
「俯いてないでちゃんと顔みて欲しいな」
『もうほんとふざけんな、このイケメンめ』
「酷いなぁ」
ぽすっ、と腹に拳を入れてみるが目の前のこの男は柔らかく笑うだけで
あぁもうホントどうしようもない
あまり照れて顔が赤くなるタイプでは無い、とは思っているけど
自覚出来るほどに耳に熱を感じる
きっとそれは目の前に居る彼にもきっと気付かれていて
「誕生日おめでとう」
『…ありがとう』
「じゃあ僕はもう帰るね、今日は散歩しないでそのまま寝るんだよ?」
『そんな頻回にしてる訳じゃないよ』
「ふふ、今度はちゃんと顔見せてね?」
するり、撫で付けるように髪に柔く触れ、甘い響きだけを残して立ち去る
あれ自分のスペック自覚してやってるんだからタチ悪い
自覚してなくてもタチ悪いけど
あぁもうホントふざけんな
ぽつりと呟いた言葉はきっと届かないけど
適度な距離が安心するの
(遠いと淋しくて、近いと、怖い)
今までなら新学期が始まり、テストがー、とか体育祭がー、とか言ってる時期
でも大学生と言うのは気楽なものであと1ヶ月も休みがあると言う
凄いな、大学ってのは
なんて他人事の様に考えていたら澪理から集合と呼び出しを食らい集まったのはいつものメンバーで
『ここに行きたいんです』
と差し出された携帯に表示されたのは、言わばお風呂カフェというもののサイト
基本的引きこもりで外への興味関心が薄いウチには馴染みのない単語であるが、反応を示したのは不二くんで
どうやらお姉さんがそういった事に興味があって何となくなら知っているのだと
やべぇ、女子として何か負けた感
まぁ、そんな冗談は置いといて
澪理の携帯を借りてサイトを見てみるが結構いい感じにゆったり出来そうな場所
あまりアクティブでないウチでもそんな抵抗なく行けそうな場所、という印象
『へぇ、楽しそう』
『でしょ!?』
『ゆったりしてたら寝そうだけど』
『梨乃ってそんな寝るキャラだっけ?』
『最近疲れがねぇ、歳かな』
『同い年!』
そんなやり取りをしてメンズに目を向ける
不二くんは最初から肯定的だったし、何かあるなら手塚の方かな、とは思うけど
ちなみに不二くんと会うのはあの日の後、今日が初であるけど何も引き摺ってこないところがホント有難い
「僕はいいと思うよ、温泉も好きだし」
「あぁ、そうだな
温泉は嫌いじゃない」
『え、じゃあおっけー?女子って結構長風呂だけど』
「それくらい付き合えなきゃ男が廃るよね」
『ちょっと誰、こんな国宝連れ込んだのー』
『国宝って!確かに国宝級のイケメンだけど!』
「どうも、国宝です」
『本人認めちゃったし!』
なんて言う何ともノリのいい会話を繰り広げ取り敢えず全員了承を得たため今度は日程調整
埼玉にあるという事で日帰りも可能
だけど、せっかくなら、という事で1泊2日の弾丸旅行の計画を立てる
ワイワイ盛り上がる3人に手塚はいつも通り置いてけぼり
けど特に反対意見を言わないためそれでいいのだろうと勝手に決めつけ(話についていけてないという事も大いにあり得るが無視させて頂く)、何とか計画が形になっていく
そんなこんなで大学生らしく弾丸旅行の開始です
*****
ダンジョンの様な駅構内を何とか乗り越え(主に不二くんの誘導により)辿り着いた目的地
最初はゆっくり温泉に浸かりたい、という意見は一致した為男女に別れる
髪をまとめて服を脱ぎ準備をしてる間にもう慣れてしまった澪理の視線
『あんまりガン見しないで頂きたい』
『いや、だって、見とかないと』
『なんでだよ』
なんて笑いながら浴場へ
温泉に浸かると何でこうも気の抜けた声が出るものなのか
髪がお湯についてないことを確認して思い切り手足を伸ばす
足をマッサージしてると横にやってきた澪理が何か言いたそうな顔
話を促すようにそちらを向くと、ポツリと話し始める
『あのさー…』
『何よ』
『この間の夏祭りでさ、梨乃等とはぐれたやん?』
『あー、そやったね
大丈夫?手塚に迷惑かけなかった?』
『第一声がそれ!いや、うん、まぁ、掛けちゃったかなとは思う』
『まー、澪理やしね
なに、そんな事気にしてたの?』
『いや、そうじゃなくて』
と、まぁ、何とも遠回りに色々宣った結果要約すると“身体接触(バランスを崩したところ支えられた)があった為意識している”という事らしい
何を今更ウチ相手に恥じらう必要がある
お前の恋愛のほぼ全てを把握してる人間だぞ
本人は未だに言い訳がましい事を言っているが、要はそういう事なのだろう
『なん、惚れたん?』
『直球!…いや、だって、流石に単純すぎん?吊り橋効果的な奴やないかなぁ、って』
『何を今更
あんたが単純な事なんて世界の常識レベルやし、今までだってそんなもんやったやん』
『そこまで言います!?』
だってそうじゃーん、と言い放って足のマッサージを再開する
にしても手塚かぁ、今までの相手の中には居なかったタイプだなぁ
まぁた厄介そうなの選んでほんと、いやまぁ、悪い奴では無いけどさぁ
え、てゆーか恋愛してる手塚とか想像つかんのですけど
あの人恋愛的で人の事好きになるの?ホントに?
いやまぁ、あれもあれでいい歳した男やし興味無い方がむしろ引くけども
『別にいーやん、手塚』
『いや、でも、なんか私なんかでいーんかなぁってなるやん?』
『そんなん決めるんは手塚やろ?澪理が今ごちゃごちゃ考えたってここに答えなんかないよ』
反対の足をマッサージしながら言い放つ
なんと言うかこの友人は何も考えてないような人間に見えて自分コンプレックスが激しい
と言うか自分で言うのもなんだがウチに対する劣等感が酷い
だからなのか、妙に他人を神格化し自己を卑下する傾向がある
その対象であるウチが何を言ったって嫌味にしかならんだろうからあんまり言わないけど
『澪理次あっちいこー』
『無理矢理話を逸らした!』
『だってもうめんどー』
『はっきり!』
『ウチジャグジーがいい』
『自由だな!』
そう言いながら着いてくるのでウチも好きなように温泉を楽しむ
答えのないことをごちゃごちゃ悩むのはストレスになるから嫌いである
テキトーにラクに生きてようよ
まぁ、所詮他人事だからこんな事を言えるのだろうと言う自覚はあるけども
折角遊びに来てるのだから、そんな事は取り敢えず投げ捨てて遊ぼうよ
澪理も諦めたのか好きなように温泉を楽しみそろそろ出ようかと貸し出しの服に着替える
ある程度準備が終わったら待ち合わせ場所に指定していた場所まで2人で向かう
と、不二くんが1人立って笑いを堪えながら携帯で写真を撮っていた
『何しよん?』
「あ、梨乃ちゃん
あれ見てよ、あれ」
そう言いながら指さす先にはソファーに腰掛け足を組んで小説を読んでる手塚
いや、うん、顔がいいからね、絵にはなる
なるんだけどさ、なんて言うかさ
『あれ、どう見ても仕事に疲れたサラリーマン』
「だよねww」
『ちょっと誰ー、ここに部外者連れてきたのー』
『梨乃wwはっきり言い過ぎww』
『だって、あれが同い年とか信じたくない』
仕事終わりに癒しを求めてやってきたサラリーマンにしか見えない
あれは絶対同い年が出す貫禄じゃないよ
いや、老け顔だとは思っていたけどさこんなとこで改めて実感したくなかったよ
本人は何だか楽しそうだけどさ、ご満悦だけどさ
うん、楽しいなら何よりです
取り敢えず不二くん、その写真私にもください
それからはそれぞれが好きなように過ごし、適当な時間にご飯を食べてだらーっと過ごして
出掛けなのに家で過ごしてる感覚だよ、これ
(手塚は何しててもサラリーマン感が抜けなかった、もうほんとやめてさしあげろ)
『大学生の弾丸旅行がなんて言うかこんな活発さの欠片の無いもので良いのだろうか』
「まぁ、楽しかったらいいんじゃないかい?ねぇ、手塚?」
「あぁ、そうだな
なかなかに充実した一日だった」
『…うん、君がそれでいいならもういいよ』
なんか嘗てない程に嬉々としてるのが感じ取れるんだけど
この人ホントに大丈夫だろうか?生活疲れてんの?
それなりにいい時間になって澪理もどうやらそろそろ眠くなってきた様なのでお開きという事になり
まぁ、色々突っ込みたいことはあったけどそれなりに楽しい一日だったかな、なんて
そんな事を思いながら布団に入ったのだった
*****
9月22日
世間ではなんでもない只の一日であるが、本日は僭越ながらウチの誕生日というもので
前月のお返しとばかりに澪理が誕生会を開いてくれるということなので澪理の家に向かっている最中である
いやぁ、バースデーが学校休みってなんか嬉しいね、ゆっくりできるわー
そんなこんなで誕生会
部屋に入ればクラッカーに迎えられ、頑張ったらしい料理とケーキ(市販)を食べて
いつも通りゆるっとした時間を過ごし、一段落したところで
『ふっふっふー、実はサプライズプレゼントを用意しているのであります!』
『…おぉー?』
『ノリが悪い!』
『大丈夫、いつもこんなもん』
『今日は乗ってきて!』
『えー…』
『…えー、ごほん
気を取り直しまして、3人で作り上げたサプライズプレゼントがあります!』
『あ、やり直した』
『そうじゃない!』
と、一頻り澪理を弄ったところで本題に入ってもらう
今までのしょげてた顔をころっと変えてむしろドヤ顔でテレビのリモコンを操作し始める
と、そこに映し出された映像は入学して半年、仲良くなってからは約2ヶ月のメモリアルというもの
『…おぉー』
『凄くない?頑張った!』
『このおもしろ画像集は主に不二くん経由と見た』
「ふふ、正解」
『あ、ちょっと途中部外者紛れてるよ
肖像権とかの問題あるんだから、ちゃんと許可とったの?』
「梨乃ちゃん、あれ信じられないと思うけど手塚なんだ」
『…え、嘘、だろ…?』
『なんでこう言う時はノリいいの!』
『ちょ、信じられない
澪理巻き戻して一時停止だ』
『組み込んだの私だけどそこまでします!?』
と突っ込みながらも爆笑し、ウチのオーダー通りに巻き戻して一時停止
そして映し出された映像をじっくり見て、手塚を見て、また映像を見て
『不二くん』
「なんだい?」
『どうやら私は疲れているようです、あれが手塚に見える…』
「そうだね、僕も最初は信じられなかった
でも、これが現実なんだ、受け入れよう…」
『そう、だね…
手塚!ウチは君がどんな秘密を抱えていようとも受け入れる、友達だよ!』
「そう、君が実はサラリーマン経験があって学び直したくて大学に入学したという、その事実を知っても、ね」
「?何の話だ?」
『ホントもう、そろそろ怒るべきだよ手塚君!』
相変わらずの天然と言うか、ウチ等の悪ノリの欠片も理解していない手塚の発言にまた大笑い
いや、今君結構ディスられてるんだよ?ご存知?
取り敢えず鑑賞会が終わり(このDVDは人数分やいてあった)、これまた恒例のボードゲームを始める
人生ゲーム、手塚毎回子沢山になるんだけどなんか細工されてるのだろうか
不二くんは大体順風満帆な人生か、むしろ真逆のどん底を引き続けるし、澪理は最初ボロボロの癖して最後に近付くと色んな人に助けられ持ち直すという何とも有り得そうな展開
ウチは割と高確率で大金持ちになるという、もう絶対細工されてる
そんなこんなで大変盛り上がりをみせた誕生会だったがある程度の時間になってお開き
送ってくれるという事なのでお言葉に甘えてメンズ2人に挟まれ帰路につく
おぉ、安心感
先程の動画の元ネタになったであろう写真を見ながら手塚をからかいつつ他愛も無い会話を繰り広げる
夜遅いためなるべく声の音量には気を付けて
『はー、面白かったぁ
おふたりさん、今日はありがとー』
「あぁ、楽しめたなら良かった」
「大丈夫、手塚はかなり貢献していたよ」
『それな』
マンションについてエントランス前での会話
帰っていく2人を見送ってウチも中に入ろうとしたその際に後ろから声をかけられて足を止める
『どした?忘れ物?』
「そうだね、忘れ物と言えば忘れ物かも」
曖昧な表現に首を傾げる
ちなみに手塚と不二くんはウチのマンションからだと真逆の方面が家な為既に手塚の背中は見えない
ごそごそ、と鞄を漁る不二くんを前に大人しく待機
何かウチが忘れ物でもしてたのだろうか?それか何か落としてたとか?
「はい、これ」
『…一応確認するけど、これは?』
「誕生日プレゼント」
『3人合作じゃ無かったの?』
「個別で用意してはいけない、なんて言われなかったからね」
小さな包を差し出されて条件反射的に受け取る
合作プレゼントでも十分嬉しかったが、ホントにこの男は出来る男である
ちなみに中身は髪飾り、僕の好みだけどごめんね、と目の前で爽やかに微笑む
…うむ、認めよう100点満点である
『ありがとう』
「どういたしまして
梨乃ちゃん髪長いし、今日も綺麗に結ってあるから好きなのかなぁって」
するり、伸びてきた手が長く伸ばされた髪を一束掬いあげる
その細い、綺麗な指の隙間を滑り落ち再びウチの肩に戻ってくる
だからあげたかったんだ、と優しく笑うこの目の前のイケメンに照れるなという方が無理難題である
思わず目を逸らして少しだけ俯くと、頭上からくすくすという笑い声
何なんだ、このイケメンめ
心の中で悪口とも言えない暴言を唱えると、視界に入る足が一歩こちらへと動く
ふわり、掠めた香りにあの海での出来事が思い起こされた
「今、付けてみてもいいかな」
その言葉と同時に手の中から包みをするりと奪い取られ
そのまま中身を取り出し伸ばされた手が後頭部に回る
あの不二さん?
お気付きだとは思いますが今ウチ等向き合って立っている訳ででしてね?
そのまま後頭部に手を回すって事はつまりどういう事か分かってやってるでしょう?
酷く優しく触れる指先
今の髮型を崩さないように繊細に触れる指
そのせいか、やけに長く感じるこの時間にむず痒いったらありゃしない
「うん、よく似合ってる」
『…ありがと』
「俯いてないでちゃんと顔みて欲しいな」
『もうほんとふざけんな、このイケメンめ』
「酷いなぁ」
ぽすっ、と腹に拳を入れてみるが目の前のこの男は柔らかく笑うだけで
あぁもうホントどうしようもない
あまり照れて顔が赤くなるタイプでは無い、とは思っているけど
自覚出来るほどに耳に熱を感じる
きっとそれは目の前に居る彼にもきっと気付かれていて
「誕生日おめでとう」
『…ありがとう』
「じゃあ僕はもう帰るね、今日は散歩しないでそのまま寝るんだよ?」
『そんな頻回にしてる訳じゃないよ』
「ふふ、今度はちゃんと顔見せてね?」
するり、撫で付けるように髪に柔く触れ、甘い響きだけを残して立ち去る
あれ自分のスペック自覚してやってるんだからタチ悪い
自覚してなくてもタチ悪いけど
あぁもうホントふざけんな
ぽつりと呟いた言葉はきっと届かないけど
適度な距離が安心するの
(遠いと淋しくて、近いと、怖い)