大学生のキャラたちがゆっくりと青春する物語(TNS)
多分これが、アオハルって奴みたいです
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6月
天気の悪い日が続くいわゆる梅雨時
まぁ、だいぶ慣れたものではあるが、ガンガンと表現するのが正しい頭痛には文字通り頭を抱えたくなる
いやうんまぁ、中学くらいからの悩みである為、ある程度の痛みなら平気だけども
先程から通知のうるさいサークルのグループLINEは、随分前から通知OFF設定に変えた
テニスサークルとテニス部の合同親睦会?なるものを開く為参加の有無を確認している、と言ったところらしい
正直行きたくない
『…げ、マジか』
次の授業の為やってきた講堂には、場所変更のお知らせ
うわー、マジかよ
これ、文系が集まる方の講堂じゃね?方向音痴になんて事させようとしてんだ
取り敢えず、一緒に取ってる友人に変更の旨の連絡(通知が100近くてうんざりした)し、ポケットに仕舞う
『あ、手塚』
「入らないのか?」
『場所変更だって、分かる?』
「…あぁ」
『んじゃ一緒に行こー』
そこに現れたのは相変わらずの仏頂面を携えた手塚で
あれからそこそこ仲良くなった現在、こうしてたまに話したり、分からないとこを聞いたりと順調に交流を深めている
コイツ真面目な見た目を裏切らず馬鹿みたいに頭いいんだよ、怖い
後デカいから見上げるの辛い
ギリギリに講堂に駆け込む勢でないウチ等は、割とのんびり歩いて移動
まだ大学生になって2ヶ月程なのに、遊びたい盛りの人間はごろごろといて代返だけ頼んでいる
そう言う奴等は後々痛い目見ればいい、と常日頃から祈っている
『あ、澪理』
「?」
『あれ、幼馴染み』
廊下を歩いていると見慣れた姿
ちょっと大きめの声で呼べば気付き、ぱっと顔を明るくさせたかと思うと隣の鉄面皮を見て一瞬顔を強ばらせる
ビビられてるよ、手塚ー
ころころと表情が変わるのは奴のいいとこでもあり、悪いところ
まぁ、そんな機微を感じて傷つく様な繊細な心はこの鉄仮面には無いのだが
『よ』
『珍しいね、梨乃がこっちの方来るなんて』
『場所変更』
『あぁ、それで…』
会話をしながらもチラチラと目線が上へと泳いでいる
うん、分かる怖いよな
勝手に会話を始めたのに、何も言わずずっと待ってくれてるのは手塚らしいとも言えるが
『これ、前話した医学部のイケメン』
『あぁ、あの抜けてる…?』
『澪理に言われたらおしまいだね』
『こんな時までディスってくるね?』
こそこそと耳打ち
澪理の反応に笑いながら手塚を呼んで紹介する
『幼馴染みの琴原澪理
コミュ障だから仲良くしてやって、ってお互いコミュ障か仲良く出来る?』
『相変わらず酷いね!?怒ってもいいんだよ!?』
「?」
『え、何できょとんとしてんの?』
『こういう奴何です』
ね、面白いでしょう?
そんな言葉を笑みに隠して笑いかけると、澪理は気の毒そうに手塚を見る
そこに隠された言葉は、ご愁傷さま、辺りだろうか
まぁ、昔に比べると弄り方も柔らかくなったし(当社比)そこまで不快な思いをさせることも無いとは思うけども
みんなが笑えるレベルの弄り方くらいしかして無いつもりだ
次の授業があるから、と澪理とはそこで別れて講堂へ
終始何も言わず傍で待機していた手塚は良い奴だ
「…錦」
『ん?』
「結局自己紹介をしなかったがいいんだろうか」
『今更かよ!』
講堂に着いた辺りで投げ掛けられた質問に思わず笑う
うそ、まじで?
いつにも増して静かだなー、とは思ってたけどそれ考えてたの、ウケる
ホントこの人面白い
表情変わらんから分からんかった
ホントコミュ障だな、コイツも
『名前だけなら知ってるし、これから関わる機会もあるだろうから、そん時ちゃんとしたらいいんやない?』
「…そうか」
『そーそー』
そして澪理は一方的に色々手塚の事知ってるし
ウチが面白可笑しく澪理に吹き込んでいるから、と言うのは飲み込んでおいた
*****
『手塚』
「どうした?」
『散々君の事をコミュ障と言っておきながらなんだけどね』
「あぁ」
『ウチ根は人見知りなの
思ってたのと違う、無理』
「…一緒に行動するか?」
『お願いします』
何故こんな暴露話(?)をする事になったかと言うと
事の元凶は、以前話に上がったテニスサークルの奴のせいである
〜回想〜
「梨乃ちゃんっ♪」
『………』
「そんなあからさま嫌そうな顔しないで!?」
『無理かな』
「断言!」
好きなように好きなだけボールを打った後
汗の処理をして着替えをしている最中にやってきた奴に顔を歪める
めんどくさい、と隠しもせずに顔に出ているだろうに強心臓の奴は距離を詰め、着替え途中であると言うのにがっしりと腕を掴んできた
おい、やめろ、離せ
着替えができないじゃないか
「なーんで、梨乃ちゃんは返信どころか既読も付かないのかなぁ?」
『何でウチって分かんの、怖い』
「返信無いの梨乃ちゃんだけだからだよ!」
『うっわ、みんな真面目ー』
「そうじゃない!」
取り敢えず腕を振り払って着替えを再開する
その横で口を膨らませ、明らかに怒ってます、を表現するコイツは正直あざとい
恐らく男ウケするタイプのあざとさだと思う
まぁ、私は男ではない為そんなもので揺らいだりしないが
イラッとしたので頬に指を突っ込むと、ぷす、と情けない音ともに空気が抜ける
解いた髪にブラシを通しながらそいつを見ると、にやりと笑われた
うわ、嫌な予感
「梨乃ちゃん」
『無理』
「まだ何も言ってない!」
『けど無理』
「連絡見てない梨乃ちゃんは知らないかもだけど、今日なんだよね」
『…何が?』
「合同親睦会!」
あ、やっぱり
出口を塞ぐようにしてウチの前に立つこの子は、可愛らしい見た目に反してかなりの肉食で我が強く、強引
頷くまで梃子でも動かないという事は、この短い付き合いの中でも察している
「て事だから行くよ!返事はYes or はいだよ!」
『何その独裁者
てか、ウチすっぴん』
「梨乃ちゃんはすっぴん美人だから大丈夫!
彼氏作ろ!」
『服も髪もボサボサなんだけど
いや、別に今欲してない』
「準備してくれるって!
女の寿命は短いのよ!枯れてくるよ!」
『何それどういう事?お姉さん話ついていけないんだけど?』
「主催者あの跡部君だから!」
『理由になってないよ?』
そんな事言ってる間にグイグイと手を引かれる
振り解けない程の力では無いが、もう抵抗する方がめんどーだと言うのは経験上
振り回され慣れてると言うのは正直嬉しくないが順応は早い
そうこうしてる間に車に押し込まれ、服と髪をセットされ(結局化粧もされた)
連れてこられた場所は、最早立食パーティー
ポカン、としていると、事の元凶はさっさとウチを置いて輪の中へ
何あいつ怖い
そんな中で見つけた見慣れた背中
それ目掛け後ろから突進し、冒頭に戻る
〜回想終了〜
着慣れないパーティードレス
しっかり上げられた髪のせいで首筋がスースーする
慣れない化粧と、不相応な会場
ちらほらと見た事のある顔ぶれはあるものの、ほぼ知らない人達の集まり
正直気が滅入るのが本音である
手塚の斜め後ろに張り付くように、ジャケットの裾をやんわり掴んで、片手には紅茶の注がれたグラス
始まってからしばらく経っているのか、数人出来上がっている人を見掛ける
うわ、酔っ払いとか絡まれたくないな…
「…フッ」
『何?』
「珍しく借りてきた猫みたいになっているな、と思ってな」
『…嫌いなんだもん、こういう場所』
「まぁ、俺も得意ではないが」
肩がガッツリ出ているタイプのこのドレスは、確かに可愛いのだが寒い
借りたストールをしっかり掛け直しながら、手塚に言い返す
いつもより覇気がないのは、お世話になってる自覚がある故だ
「錦」
『ん?』
「昔の仲間に挨拶に行くんだが、着いてくるか?」
『…放置されるよりはマシ』
「だろうな」
小さく笑ったコイツに、あ、笑えるんだ、なんて当たり前の事を思う
昔の仲間という事は、中高時代の部活仲間、と言ったところだろうか
と言うか、お前ら大学の部活でもほぼ毎日顔合わせてるだろうがよ
とは思いながらも着いていく
ちらほらと投げ掛けられる下世話な視線の隠れ蓑にしている自覚はあるのだ
こういう場所では、調子に乗った勘違い野郎がイキってる事が多々ある
男を連れているのは、恐らく正しい判断だろう
しかも、こんなイケメンなら、正直手も足も出ない
そんな事を考えてると目的地に着いたのか手塚の足が止まる
視線の先には、数人の、これまた顔立ちの整った輩共
類友とはこういう事か
「おや?手塚じゃないか
随分可愛らしい彼女を連れているんだね?」
「ふむ、手塚が同じ学部の女子と仲が良いという話は聞いていたが…
どうやら本当だったようだな」
「手塚君、彼女出来たん!?うっらやましい!」
「あーん?やるじゃねぇの、手塚」
「…プリっ」
『ちょっと待とう、勝手に彼女にしないで頂きたい』
トントン拍子に進む会話に待ったを掛ける
藍髪の凄く綺麗な顔立ちをした美青年が面白半分で発した言葉に次々と乗っかっていく
こういうとこは、いくら落ち着いて見えていても皆大学生なのだな、と思わされる場面でもあるが
友人としては面白いので一緒に居るのは苦痛ではないが恋人は遠慮したいのが本音である
てゆーか、白石、仁王はウチを知ってるだろうがよ
「あれ?手塚がこういうとこに来るなんて珍しいね」
「不二か
問答無用で了承の返事を勝手にした奴のセリフとは思えんな」
「あはは、怒んないでよ」
飲み物を取りに行っていたのだろう、グラス片手に現れたのはこれまた美青年
穏やかな口振りに反し、浮かべる笑みは悪戯っ子の様で
一番親しく話している感じからして、彼が昔の仲間、なのだろう
ふ、と視線が下がり目が合う
驚いたように一瞬開かれた目が、次の瞬間には穏やかな笑みに変わる
「もしかして錦さん?」
『はい』
「やっぱり。手塚の話によく出てくる子だ
僕は不二周助って言うんだ、よろしくね」
『よろしく…
って手塚お前何の話を人に吹き込んでるんだ』
名前が出た瞬間そこに居た人達が、あぁ、と納得した様に頷いたのも頂けない
一体どんな話が出ているのやら
自分のことは棚に上げて、相変わらず鉄面皮の顔を見上げる
チラリ、とこちらを見下ろした顔は、変わらず何の感情も乗ってなくて
「え、自分錦さんやったん?」
『え、白石気付かんかったん?酷ない?』
「いや、えらい別嬪さんやなぁ、思うて…
普段化粧しぃひんから」
『そんなに化けた?』
「まぁ、そこら辺の男の視線を集めるくらいには魅力的ぜよ?」
『うわぁ、仁王に言われても全く響かない不思議』
「酷いぜよ、まーくん泣いちゃる」
『え、何そのキャラ怖い』
講義がたまに被る事がキッカケで知り合ったこの2人
以前話題に上がったエクスタシーを感じてるイケメンと気まぐれ猫のイケメンである
普段と同じ様なやり取りをしていると、藍色の髪の青年と、それ見えてんの?ってくらい細目の青年が驚いたようにこちらを見る
「へぇ、珍しい
仁王が懐く女子が居るなんて」
「あぁ、確かに意外だな」
『友達にも懐く言われてるよ、仁王』
「まーくん傷心ナリ」
『だからそのキャラ怖い』
友達にも猫認定されてるんじゃなかろうか、この銀髪は
そんな事を思いながら見上げる
揃いも揃ってみんなデカいんですけど、首が痛い
それぞれ自己紹介をして貰い、仁王はこの藍髪の幸村くん、細目の柳くんと出身校が同じであるということが分かった
人見知りではあるが、全く知らない人より多少知ってる人がいるこの空間は多少落ち着きを取り戻され
と同時に、寒さも思い出した
さり気なく指先に息を吐き、ストールを手繰り寄せる
薄手のこれじゃ大して暖は取れないが無いよりマシで
暖かい飲み物を何か貰ってこようかな、なんて考えていると
「寒い?」
そう尋ねてきたのは、茶髪の穏やかな(けれど悪戯好きであるだろう)不二くんで
周りに聞こえない様に少し距離を詰めて落とされた声量に小さく頷いた
よく見てるんだな、人の事
そっか、と頷き返した彼は徐にジャケットを脱ぐと当たり前の様に肩に掛けてくれて
何か暖かい飲み物を貰ってくるよ、と爽やかに立ち去った
うん、出来る男である
その一部始終を見ていた跡部くんはスタッフを呼び止め耳打ち
しばらくすると空調に変化があった為、奴も出来る男らしい
自己主張激しい系男子だと思ってごめん、その認識は変わらんけども
チラリ、と見上げるとドヤ顔をされたのでお礼を言うのは止めておいた
不二くんには丁重にお礼をし、有難くジャケットを借りたのであった
あれ、親睦会という名目でメンズとしか交流しなかったけど良かったのだろうか?
集まっていた視線は無駄に整った容姿を持つコイツらのせいだと言うことにしておこう
途中下車なんてできないから
(転がった石が己で止まれないのと同じ)
天気の悪い日が続くいわゆる梅雨時
まぁ、だいぶ慣れたものではあるが、ガンガンと表現するのが正しい頭痛には文字通り頭を抱えたくなる
いやうんまぁ、中学くらいからの悩みである為、ある程度の痛みなら平気だけども
先程から通知のうるさいサークルのグループLINEは、随分前から通知OFF設定に変えた
テニスサークルとテニス部の合同親睦会?なるものを開く為参加の有無を確認している、と言ったところらしい
正直行きたくない
『…げ、マジか』
次の授業の為やってきた講堂には、場所変更のお知らせ
うわー、マジかよ
これ、文系が集まる方の講堂じゃね?方向音痴になんて事させようとしてんだ
取り敢えず、一緒に取ってる友人に変更の旨の連絡(通知が100近くてうんざりした)し、ポケットに仕舞う
『あ、手塚』
「入らないのか?」
『場所変更だって、分かる?』
「…あぁ」
『んじゃ一緒に行こー』
そこに現れたのは相変わらずの仏頂面を携えた手塚で
あれからそこそこ仲良くなった現在、こうしてたまに話したり、分からないとこを聞いたりと順調に交流を深めている
コイツ真面目な見た目を裏切らず馬鹿みたいに頭いいんだよ、怖い
後デカいから見上げるの辛い
ギリギリに講堂に駆け込む勢でないウチ等は、割とのんびり歩いて移動
まだ大学生になって2ヶ月程なのに、遊びたい盛りの人間はごろごろといて代返だけ頼んでいる
そう言う奴等は後々痛い目見ればいい、と常日頃から祈っている
『あ、澪理』
「?」
『あれ、幼馴染み』
廊下を歩いていると見慣れた姿
ちょっと大きめの声で呼べば気付き、ぱっと顔を明るくさせたかと思うと隣の鉄面皮を見て一瞬顔を強ばらせる
ビビられてるよ、手塚ー
ころころと表情が変わるのは奴のいいとこでもあり、悪いところ
まぁ、そんな機微を感じて傷つく様な繊細な心はこの鉄仮面には無いのだが
『よ』
『珍しいね、梨乃がこっちの方来るなんて』
『場所変更』
『あぁ、それで…』
会話をしながらもチラチラと目線が上へと泳いでいる
うん、分かる怖いよな
勝手に会話を始めたのに、何も言わずずっと待ってくれてるのは手塚らしいとも言えるが
『これ、前話した医学部のイケメン』
『あぁ、あの抜けてる…?』
『澪理に言われたらおしまいだね』
『こんな時までディスってくるね?』
こそこそと耳打ち
澪理の反応に笑いながら手塚を呼んで紹介する
『幼馴染みの琴原澪理
コミュ障だから仲良くしてやって、ってお互いコミュ障か仲良く出来る?』
『相変わらず酷いね!?怒ってもいいんだよ!?』
「?」
『え、何できょとんとしてんの?』
『こういう奴何です』
ね、面白いでしょう?
そんな言葉を笑みに隠して笑いかけると、澪理は気の毒そうに手塚を見る
そこに隠された言葉は、ご愁傷さま、辺りだろうか
まぁ、昔に比べると弄り方も柔らかくなったし(当社比)そこまで不快な思いをさせることも無いとは思うけども
みんなが笑えるレベルの弄り方くらいしかして無いつもりだ
次の授業があるから、と澪理とはそこで別れて講堂へ
終始何も言わず傍で待機していた手塚は良い奴だ
「…錦」
『ん?』
「結局自己紹介をしなかったがいいんだろうか」
『今更かよ!』
講堂に着いた辺りで投げ掛けられた質問に思わず笑う
うそ、まじで?
いつにも増して静かだなー、とは思ってたけどそれ考えてたの、ウケる
ホントこの人面白い
表情変わらんから分からんかった
ホントコミュ障だな、コイツも
『名前だけなら知ってるし、これから関わる機会もあるだろうから、そん時ちゃんとしたらいいんやない?』
「…そうか」
『そーそー』
そして澪理は一方的に色々手塚の事知ってるし
ウチが面白可笑しく澪理に吹き込んでいるから、と言うのは飲み込んでおいた
*****
『手塚』
「どうした?」
『散々君の事をコミュ障と言っておきながらなんだけどね』
「あぁ」
『ウチ根は人見知りなの
思ってたのと違う、無理』
「…一緒に行動するか?」
『お願いします』
何故こんな暴露話(?)をする事になったかと言うと
事の元凶は、以前話に上がったテニスサークルの奴のせいである
〜回想〜
「梨乃ちゃんっ♪」
『………』
「そんなあからさま嫌そうな顔しないで!?」
『無理かな』
「断言!」
好きなように好きなだけボールを打った後
汗の処理をして着替えをしている最中にやってきた奴に顔を歪める
めんどくさい、と隠しもせずに顔に出ているだろうに強心臓の奴は距離を詰め、着替え途中であると言うのにがっしりと腕を掴んできた
おい、やめろ、離せ
着替えができないじゃないか
「なーんで、梨乃ちゃんは返信どころか既読も付かないのかなぁ?」
『何でウチって分かんの、怖い』
「返信無いの梨乃ちゃんだけだからだよ!」
『うっわ、みんな真面目ー』
「そうじゃない!」
取り敢えず腕を振り払って着替えを再開する
その横で口を膨らませ、明らかに怒ってます、を表現するコイツは正直あざとい
恐らく男ウケするタイプのあざとさだと思う
まぁ、私は男ではない為そんなもので揺らいだりしないが
イラッとしたので頬に指を突っ込むと、ぷす、と情けない音ともに空気が抜ける
解いた髪にブラシを通しながらそいつを見ると、にやりと笑われた
うわ、嫌な予感
「梨乃ちゃん」
『無理』
「まだ何も言ってない!」
『けど無理』
「連絡見てない梨乃ちゃんは知らないかもだけど、今日なんだよね」
『…何が?』
「合同親睦会!」
あ、やっぱり
出口を塞ぐようにしてウチの前に立つこの子は、可愛らしい見た目に反してかなりの肉食で我が強く、強引
頷くまで梃子でも動かないという事は、この短い付き合いの中でも察している
「て事だから行くよ!返事はYes or はいだよ!」
『何その独裁者
てか、ウチすっぴん』
「梨乃ちゃんはすっぴん美人だから大丈夫!
彼氏作ろ!」
『服も髪もボサボサなんだけど
いや、別に今欲してない』
「準備してくれるって!
女の寿命は短いのよ!枯れてくるよ!」
『何それどういう事?お姉さん話ついていけないんだけど?』
「主催者あの跡部君だから!」
『理由になってないよ?』
そんな事言ってる間にグイグイと手を引かれる
振り解けない程の力では無いが、もう抵抗する方がめんどーだと言うのは経験上
振り回され慣れてると言うのは正直嬉しくないが順応は早い
そうこうしてる間に車に押し込まれ、服と髪をセットされ(結局化粧もされた)
連れてこられた場所は、最早立食パーティー
ポカン、としていると、事の元凶はさっさとウチを置いて輪の中へ
何あいつ怖い
そんな中で見つけた見慣れた背中
それ目掛け後ろから突進し、冒頭に戻る
〜回想終了〜
着慣れないパーティードレス
しっかり上げられた髪のせいで首筋がスースーする
慣れない化粧と、不相応な会場
ちらほらと見た事のある顔ぶれはあるものの、ほぼ知らない人達の集まり
正直気が滅入るのが本音である
手塚の斜め後ろに張り付くように、ジャケットの裾をやんわり掴んで、片手には紅茶の注がれたグラス
始まってからしばらく経っているのか、数人出来上がっている人を見掛ける
うわ、酔っ払いとか絡まれたくないな…
「…フッ」
『何?』
「珍しく借りてきた猫みたいになっているな、と思ってな」
『…嫌いなんだもん、こういう場所』
「まぁ、俺も得意ではないが」
肩がガッツリ出ているタイプのこのドレスは、確かに可愛いのだが寒い
借りたストールをしっかり掛け直しながら、手塚に言い返す
いつもより覇気がないのは、お世話になってる自覚がある故だ
「錦」
『ん?』
「昔の仲間に挨拶に行くんだが、着いてくるか?」
『…放置されるよりはマシ』
「だろうな」
小さく笑ったコイツに、あ、笑えるんだ、なんて当たり前の事を思う
昔の仲間という事は、中高時代の部活仲間、と言ったところだろうか
と言うか、お前ら大学の部活でもほぼ毎日顔合わせてるだろうがよ
とは思いながらも着いていく
ちらほらと投げ掛けられる下世話な視線の隠れ蓑にしている自覚はあるのだ
こういう場所では、調子に乗った勘違い野郎がイキってる事が多々ある
男を連れているのは、恐らく正しい判断だろう
しかも、こんなイケメンなら、正直手も足も出ない
そんな事を考えてると目的地に着いたのか手塚の足が止まる
視線の先には、数人の、これまた顔立ちの整った輩共
類友とはこういう事か
「おや?手塚じゃないか
随分可愛らしい彼女を連れているんだね?」
「ふむ、手塚が同じ学部の女子と仲が良いという話は聞いていたが…
どうやら本当だったようだな」
「手塚君、彼女出来たん!?うっらやましい!」
「あーん?やるじゃねぇの、手塚」
「…プリっ」
『ちょっと待とう、勝手に彼女にしないで頂きたい』
トントン拍子に進む会話に待ったを掛ける
藍髪の凄く綺麗な顔立ちをした美青年が面白半分で発した言葉に次々と乗っかっていく
こういうとこは、いくら落ち着いて見えていても皆大学生なのだな、と思わされる場面でもあるが
友人としては面白いので一緒に居るのは苦痛ではないが恋人は遠慮したいのが本音である
てゆーか、白石、仁王はウチを知ってるだろうがよ
「あれ?手塚がこういうとこに来るなんて珍しいね」
「不二か
問答無用で了承の返事を勝手にした奴のセリフとは思えんな」
「あはは、怒んないでよ」
飲み物を取りに行っていたのだろう、グラス片手に現れたのはこれまた美青年
穏やかな口振りに反し、浮かべる笑みは悪戯っ子の様で
一番親しく話している感じからして、彼が昔の仲間、なのだろう
ふ、と視線が下がり目が合う
驚いたように一瞬開かれた目が、次の瞬間には穏やかな笑みに変わる
「もしかして錦さん?」
『はい』
「やっぱり。手塚の話によく出てくる子だ
僕は不二周助って言うんだ、よろしくね」
『よろしく…
って手塚お前何の話を人に吹き込んでるんだ』
名前が出た瞬間そこに居た人達が、あぁ、と納得した様に頷いたのも頂けない
一体どんな話が出ているのやら
自分のことは棚に上げて、相変わらず鉄面皮の顔を見上げる
チラリ、とこちらを見下ろした顔は、変わらず何の感情も乗ってなくて
「え、自分錦さんやったん?」
『え、白石気付かんかったん?酷ない?』
「いや、えらい別嬪さんやなぁ、思うて…
普段化粧しぃひんから」
『そんなに化けた?』
「まぁ、そこら辺の男の視線を集めるくらいには魅力的ぜよ?」
『うわぁ、仁王に言われても全く響かない不思議』
「酷いぜよ、まーくん泣いちゃる」
『え、何そのキャラ怖い』
講義がたまに被る事がキッカケで知り合ったこの2人
以前話題に上がったエクスタシーを感じてるイケメンと気まぐれ猫のイケメンである
普段と同じ様なやり取りをしていると、藍色の髪の青年と、それ見えてんの?ってくらい細目の青年が驚いたようにこちらを見る
「へぇ、珍しい
仁王が懐く女子が居るなんて」
「あぁ、確かに意外だな」
『友達にも懐く言われてるよ、仁王』
「まーくん傷心ナリ」
『だからそのキャラ怖い』
友達にも猫認定されてるんじゃなかろうか、この銀髪は
そんな事を思いながら見上げる
揃いも揃ってみんなデカいんですけど、首が痛い
それぞれ自己紹介をして貰い、仁王はこの藍髪の幸村くん、細目の柳くんと出身校が同じであるということが分かった
人見知りではあるが、全く知らない人より多少知ってる人がいるこの空間は多少落ち着きを取り戻され
と同時に、寒さも思い出した
さり気なく指先に息を吐き、ストールを手繰り寄せる
薄手のこれじゃ大して暖は取れないが無いよりマシで
暖かい飲み物を何か貰ってこようかな、なんて考えていると
「寒い?」
そう尋ねてきたのは、茶髪の穏やかな(けれど悪戯好きであるだろう)不二くんで
周りに聞こえない様に少し距離を詰めて落とされた声量に小さく頷いた
よく見てるんだな、人の事
そっか、と頷き返した彼は徐にジャケットを脱ぐと当たり前の様に肩に掛けてくれて
何か暖かい飲み物を貰ってくるよ、と爽やかに立ち去った
うん、出来る男である
その一部始終を見ていた跡部くんはスタッフを呼び止め耳打ち
しばらくすると空調に変化があった為、奴も出来る男らしい
自己主張激しい系男子だと思ってごめん、その認識は変わらんけども
チラリ、と見上げるとドヤ顔をされたのでお礼を言うのは止めておいた
不二くんには丁重にお礼をし、有難くジャケットを借りたのであった
あれ、親睦会という名目でメンズとしか交流しなかったけど良かったのだろうか?
集まっていた視線は無駄に整った容姿を持つコイツらのせいだと言うことにしておこう
途中下車なんてできないから
(転がった石が己で止まれないのと同じ)