太陽は燃えているか
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空腹と心が満たされ夢のような気持ちで店外へ出ると、冷たいビル風が吹きすさび、一気に現実へ引き戻される。
店に入った頃はまだまばらだった人の影は格段に増えており、街が動き出したのだと悟らせる。
「夢村、この後どうするん?」
駅に向かう道で、仁王は横に並ぶ夢子に話しかける。
「え、普通に帰って寝るよ。眠いもん。なんで?」
「うち来ん?」
「は?」
「夢村んちより、俺んアパートの方が数駅近いじゃろ。その方が少しでも早く眠れる」
「いや、まー…そうだけど」
(あんなこと言った直後でこんなこと言う!?普通!?)
いきなり心の距離が近づきすぎて、胸の辺りがじわじわと熱くなる。
「何もしないから。心配なさんな」
「ねえ、それ1番安心できない言葉だよ仁王」
「流石に眠すぎて勃たないから安心しんしゃい」
「ね〜〜〜もう、朝なんですけど?そうこと言うのやめてよスケベ」
「スケベだけど俺は紳士だからの」
「…朝からど下ネタを女子にかます男のどこが紳士なのよ」
「どこからどう見たって紳士じゃろ。中学の時にな、紳士に紳士を教え込まれたからの、俺は」
「紳士って誰よ?杉下右京?」
「まあ、そんなもんかの。怒り方もそっくりだったしな」
「どんな中学時代送ってきたのよ、あんた…」
テニスに夢中だった至って普通の男の子じゃよ、と仁王は言ったが、普段から嘘か誠か分からない話ばかりする仁王に、夢子はどこからどこまでが本当の話かは判断がつかなかった。
「で?どうするん?俺んち来るんか?来ないんか?」
「…行く。確かに私が家着いた頃に仁王はもう寝てるかと思うとムカつく」
「おし、決まりじゃな」
そう言って仁王はニヤリと笑い、慣れた手つきで駅の改札をくぐっていった。
***
「お邪魔しまーす…」
「おう、お邪魔されまーす」
(眠さと勢いでつい来ちゃったけど…)
靴を脱いだ瞬間、自分の家とも友達の家とも違う“匂い”が鼻をかすめた。それだけで胸の奥が妙にざわつく。
そういえば異性の部屋に入るのは初めてだな、と夢子は思う。しかも二人きり。何もしない、と言われているがそれでもやはり少し構えてしまう。
「ほい、タオル。洗面台にメイク落としあるから使いんしゃい」
「ありがと。…でもなんでメイク落とし置いてあんの?彼女?」
「いんや、姉貴。たまに来て物置いってって帰ってくんよ、あの人」
「へー…お姉さんいるんだ。まぁいいや、ありがと。お借りしまーす」
学科に派手な髪の毛の飄々とした男がいるのは知っていた。
偶然その男と同じゼミになり、色々と話していくうちに居心地の良い存在になっていったが、そういえば私はこの男のことをまだよく知らない、と夢村は思った。
「…男の家なのにすっぴんに抵抗ないんか?」
「この眉毛ないメイク崩れたこの顔よりかはマシでしょ」
「確かに」と仁王は笑い、夢子は洗面台で丁寧に洗顔フォームで顔を洗う。
***
仁王の部屋は物自体はシンプルなもので揃えてありながらも、ごちゃごちゃと摑みどころがないインテリアグッズが置いてあり、この部屋自体がとらえどころがない仁王そのもののように思えた。
「ベッドはこないだシーツ変えたばかりじゃから、臭いことはないじゃろ」
ほい、と枕用に使えとスポーツタオルを渡される。
「え、ベッド使っていいの?仁王は?」
というと、仁王は無言でソファを指差す。
「姉貴が来たときもいつもこっちじゃけ。気になさんな」
「そう…ありがとう」
「それとも同じベッドが良かったか?」
「いやそれは結構です」
「即答されんのはそれはそれで傷つくな」
「…ごめん」
「冗談に決まっとうよ。ほんとかわいいの、夢見は」
そう言って仁王は慣れた手つきでソファの背もたれを倒し、自分の寝床の支度をする。
お互い布団に潜ったところで、仁王が手元のリモコンでシーリングライトの電源を落とす。
しばらくは緊張で強張っていた体も、布団の温かさに包まれて段々とほぐれていった。一度は飛んだ眠気が呼び戻されてきたところで夢子が口を開いた。
「……布団、仁王の匂いがする…」
「…嫌だったか?」
「いや、大丈夫。布団、あったかくて気持ちいい…」
(そんなこと言われたらこっちの気持ちが大丈夫じゃないんだが???)
仁王はそう思いながら、手を伸ばしても少し届かない距離にある綿のかたまりの中に潜る人物に思いを馳せる。遮光カーテンに覆われた部屋は人工的な暗さに沈み、布団の擦れる音だけが、妙に耳に残った。
***
「…のう、夢村」
「何?仁王」
「俺、今日誕生日なんよ」
「え?嘘!?」
今、一気に眠気が飛んだけど!?と夢子はベッドから飛び起きる。
「こんな眠いのに嘘なんか言わんよ。身分証見るか?」
「いやそこまでは良い…信じる。ていうかなんで昨日言わなかったの?言ってくれればみんなで祝ったのに…」
「まあ周知させる必要ないと思っとったし」
「ねえ、またそれ?」
「お前さんだけ知っとってくれるんなら、それでいい」
眠いんやろ、早く眠りんしゃい。と仁王が言う。
誰のせいだと思いつつも、夢子は再度布団に潜り直す。
「…仁王」
「ん?」
「誕生日おめでとう」
「おう、ありがとさん」
そう言う仁王の表情はわからない。
微睡の中、仄暗い部屋に眩しい西陽が隙間から差すのが見えた。その光だけで、妙に胸の奥があったかくなる。
そういえば仁王の家の最寄駅近くにケーキ屋があった。起きたら二人でケーキでも買いに行こう、夢子はそう思いつつ眠りにつくのだった──。
店に入った頃はまだまばらだった人の影は格段に増えており、街が動き出したのだと悟らせる。
「夢村、この後どうするん?」
駅に向かう道で、仁王は横に並ぶ夢子に話しかける。
「え、普通に帰って寝るよ。眠いもん。なんで?」
「うち来ん?」
「は?」
「夢村んちより、俺んアパートの方が数駅近いじゃろ。その方が少しでも早く眠れる」
「いや、まー…そうだけど」
(あんなこと言った直後でこんなこと言う!?普通!?)
いきなり心の距離が近づきすぎて、胸の辺りがじわじわと熱くなる。
「何もしないから。心配なさんな」
「ねえ、それ1番安心できない言葉だよ仁王」
「流石に眠すぎて勃たないから安心しんしゃい」
「ね〜〜〜もう、朝なんですけど?そうこと言うのやめてよスケベ」
「スケベだけど俺は紳士だからの」
「…朝からど下ネタを女子にかます男のどこが紳士なのよ」
「どこからどう見たって紳士じゃろ。中学の時にな、紳士に紳士を教え込まれたからの、俺は」
「紳士って誰よ?杉下右京?」
「まあ、そんなもんかの。怒り方もそっくりだったしな」
「どんな中学時代送ってきたのよ、あんた…」
テニスに夢中だった至って普通の男の子じゃよ、と仁王は言ったが、普段から嘘か誠か分からない話ばかりする仁王に、夢子はどこからどこまでが本当の話かは判断がつかなかった。
「で?どうするん?俺んち来るんか?来ないんか?」
「…行く。確かに私が家着いた頃に仁王はもう寝てるかと思うとムカつく」
「おし、決まりじゃな」
そう言って仁王はニヤリと笑い、慣れた手つきで駅の改札をくぐっていった。
***
「お邪魔しまーす…」
「おう、お邪魔されまーす」
(眠さと勢いでつい来ちゃったけど…)
靴を脱いだ瞬間、自分の家とも友達の家とも違う“匂い”が鼻をかすめた。それだけで胸の奥が妙にざわつく。
そういえば異性の部屋に入るのは初めてだな、と夢子は思う。しかも二人きり。何もしない、と言われているがそれでもやはり少し構えてしまう。
「ほい、タオル。洗面台にメイク落としあるから使いんしゃい」
「ありがと。…でもなんでメイク落とし置いてあんの?彼女?」
「いんや、姉貴。たまに来て物置いってって帰ってくんよ、あの人」
「へー…お姉さんいるんだ。まぁいいや、ありがと。お借りしまーす」
学科に派手な髪の毛の飄々とした男がいるのは知っていた。
偶然その男と同じゼミになり、色々と話していくうちに居心地の良い存在になっていったが、そういえば私はこの男のことをまだよく知らない、と夢村は思った。
「…男の家なのにすっぴんに抵抗ないんか?」
「この眉毛ないメイク崩れたこの顔よりかはマシでしょ」
「確かに」と仁王は笑い、夢子は洗面台で丁寧に洗顔フォームで顔を洗う。
***
仁王の部屋は物自体はシンプルなもので揃えてありながらも、ごちゃごちゃと摑みどころがないインテリアグッズが置いてあり、この部屋自体がとらえどころがない仁王そのもののように思えた。
「ベッドはこないだシーツ変えたばかりじゃから、臭いことはないじゃろ」
ほい、と枕用に使えとスポーツタオルを渡される。
「え、ベッド使っていいの?仁王は?」
というと、仁王は無言でソファを指差す。
「姉貴が来たときもいつもこっちじゃけ。気になさんな」
「そう…ありがとう」
「それとも同じベッドが良かったか?」
「いやそれは結構です」
「即答されんのはそれはそれで傷つくな」
「…ごめん」
「冗談に決まっとうよ。ほんとかわいいの、夢見は」
そう言って仁王は慣れた手つきでソファの背もたれを倒し、自分の寝床の支度をする。
お互い布団に潜ったところで、仁王が手元のリモコンでシーリングライトの電源を落とす。
しばらくは緊張で強張っていた体も、布団の温かさに包まれて段々とほぐれていった。一度は飛んだ眠気が呼び戻されてきたところで夢子が口を開いた。
「……布団、仁王の匂いがする…」
「…嫌だったか?」
「いや、大丈夫。布団、あったかくて気持ちいい…」
(そんなこと言われたらこっちの気持ちが大丈夫じゃないんだが???)
仁王はそう思いながら、手を伸ばしても少し届かない距離にある綿のかたまりの中に潜る人物に思いを馳せる。遮光カーテンに覆われた部屋は人工的な暗さに沈み、布団の擦れる音だけが、妙に耳に残った。
***
「…のう、夢村」
「何?仁王」
「俺、今日誕生日なんよ」
「え?嘘!?」
今、一気に眠気が飛んだけど!?と夢子はベッドから飛び起きる。
「こんな眠いのに嘘なんか言わんよ。身分証見るか?」
「いやそこまでは良い…信じる。ていうかなんで昨日言わなかったの?言ってくれればみんなで祝ったのに…」
「まあ周知させる必要ないと思っとったし」
「ねえ、またそれ?」
「お前さんだけ知っとってくれるんなら、それでいい」
眠いんやろ、早く眠りんしゃい。と仁王が言う。
誰のせいだと思いつつも、夢子は再度布団に潜り直す。
「…仁王」
「ん?」
「誕生日おめでとう」
「おう、ありがとさん」
そう言う仁王の表情はわからない。
微睡の中、仄暗い部屋に眩しい西陽が隙間から差すのが見えた。その光だけで、妙に胸の奥があったかくなる。
そういえば仁王の家の最寄駅近くにケーキ屋があった。起きたら二人でケーキでも買いに行こう、夢子はそう思いつつ眠りにつくのだった──。
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