giovinezzaよ、もう一度
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夕方。授業終わりの大学構内。
キャンパスを出ようとした夢子は、視界の端でキャンパス内を彩る紅葉よりもずっと“真っ赤なもの”が止まっているを見た。
フェラーリ。
学生の誰もが振り返る。
そしてドアが静かに開く。
降りてきたのは──ディーノだった。
蜂蜜色の髪、細いけどしっかりと引き締まった体躯、長めのモッズコートに、細身のパンツルック。ラフな格好だが、靴や身につけている小物などは質の良い物であることは一目でわかる。陽の落ちかけたキャンパスで、彼だけが別世界の光をまとっている。
「……えっ」
夢子が固まると、ディーノは軽く片手を上げた。
「Ciao、夢子」
まるで、大学に迎え来るのが日常みたいな顔で。
でも、付き合ってない。
いや、そもそも日本に来る予定すら聞いてない。
周りの学生がざわつく。
「誰あれ…」「え、外車…モデル?」「やばくない…?」
並んで歩いていた友人たちに「ちょっとごめん」と言い、夢子は慌てて駆け寄る。
「ちょ、ちょっと!どうしたの⁉︎ 急に来て…!」
ディーノは微笑んだまま、こちらを見下ろす。
「サプライズ。驚いたか?」
「驚くとかじゃなくて……大学にフェラーリって……!」
「うん、夢子がちょうど今日、発表があるって言ってただろ。そろそろ終わる頃だなと思って、迎えに来た」
「しかし大学ってこんな感じなんだな。俺、高校までしか行ってねえから…っつっても、まぁ後半はほとんど修行と仕事で行けてなかったんだけどさ」
「いや、だからなんで……!」
「会いたかったから、かな。すれ違いにならなくて良かったぜ」
言い方が軽いのに、目が全然軽くない。
「迷惑だったか?」
夢子が否定しようとする前に、ディーノは一歩距離を詰めてくる。
周りの視線がまたざわつく。
スパイ映画みたいな美男の顔が、夢子だけに向いている。
「夢子。俺が君を迎えに来ると、何か困る?」
「……困るっていうか、めちゃくちゃ注目されてるし……!」
「じゃあ早く乗ろうか」
「話聞いて!?」
それでもディーノはドアを開け、少しだけ身を屈める。
「大学まで来たのは、君に見せたかったからじゃない。“君を迎えに来る俺”を、見せたかっただけだ」
「……意味わかんない」
「わかるさ。そのうちね」
最後に小声で、夢子の耳元へディーノは呟く。
「君が誰と歩いていても。君がここでどんな顔で過ごしてても。……俺が迎えに行くのは、夢子だけ」
それは、甘さと独占欲が同じ温度で混ざった声。
イタリア人の社交辞令だと思っていた今までの口説き文句も、もしかしたら──と蓋をしていた夢子の気持ちが、静かに開いてしまう。確信へと変わっていく。
「ディーノさん、私、これから授業の打ち上げが……」
「日本に来るために徹夜で仕事を片づけた。その代償として、一時間だけ君を独占する権利をもらった」
「そんな権利いつ取ったの」
「今、君が俺にくれるんだろ?」
夢子が顔を赤くして黙ると、ディーノは満足そうに微笑んだ。
「ほら、乗って」
「……わかった。ちょっと待って、友達に遅れるって言ってくるから」
「あそこにいる子たちだろ?いいよ、俺が言ってくるから」
「え?」
ディーノは夢子を助手席に乗せドアを閉めると、先ほどまで夢子と歩いていた友人へ視線を向ける。
「悪いな、スィニョリーナ達。一時間だけ、夢子を借りて行くぜ。打ち上げの会場にはあとで俺がちゃんと連れて行くからさ」
***
ディーノがエンジンを掛ける。
普段夢子が乗るような車とは段違いのエンジン音だが、フェラーリは静かに、でも確実に夢子を世界の外へと連れ去っていく。
「今日はスーツなんだな」
「うん、研究発表だったからね」
「Stai benissimo con quest.」
「…え?何?」
「そろそろ夢子もイタリア語覚えろよな」
ツナもリボーンから教わってるみたいだぜ、かなりスパルタみたいだけどな。とディーノは笑いながら言う。
助手席に座った夢子の太ももがスーツのタイトスカートの裾から少し見える。
視界の端に入るだけで、ディーノは息を飲む。
「……見てねぇよ」
見てる。
でも素直に言えない。
「ごめん、ストールで隠すね」
「いいよ、そのままで」
「でも見ちゃうんでしょ?」
「…見ねえって言ってんだろ」
夢子が笑う。
「なんか、ディーノさんってさ……大人なのに、たまにすごい子供っぽい」
その瞬間、彼の肩が強張る。
「……俺だってさ、ほんとは……普通の“男の子”やりたかったんだよ」
思わず零れた本音。
「恋して、嫉妬して、好きな子に笑われて……って、ファミリーを継いでからずっとガムシャラに生きてきて、そういうの、全然やってこなかったから。ツナたちとか、大学生やってる夢子見て、なんかそういう気持ち思い出した」
言いながら、照れを誤魔化すように髪をかく。
「お前の前だけだよ。普通の20代の男に戻れるのは」
停止信号で車が停まる。
ディーノが夢子の手首をそっと引き寄せる。
「……なぁ、俺に青春やらせてよ」
「…信号、青になったよ?」
空から落ちた青信号の光がフロントガラスで揺れ、夢子とディーノの頬をかすかに照らす。
ディーノはため息をつき、またアクセルをぐっと踏み込む。
「はぁ…何つーか、決まらねえなぁ」
「ふふ、そういうとこ、ディーノさんぽい」
「ぽい、って…笑ってんじゃねえよ。俺は夢子の前じゃかっこいい男でいたいんだから」
少し不貞腐れたような顔で運転するディーノを見る。流れていく街頭の、光の川のような煌めきがが彼を照らしている。
「そういうとこも素敵なのにな」
夢子の本音が溢れた瞬間、ディーノの指がハンドルの上でぴたりと止まった。
「…は?」
声が少しだけ裏返る。
エンジン音でかき消されるだろうと思ってた声は、しっかりとディーノに届いていた。
「……お前、そういう不意打ち、ずりぃんだって」
そんな甘い沈黙が落ちたまま、車は夜の街を抜けていく。
やがて、打ち上げが行われる店のある繁華街のあるところで夢子が口を開く。
「あ、この辺で降ろしてもらえると助かる。お店、すぐそこだから」
ディーノはウインカーを上げ、車を路肩に寄せる。ゆっくりと、シフトレバーに触れる。シフトを切り替える直前、少しだけ迷ったように夢子の方を見る。
「…なぁ、本当に行くのか?」
「うん、みんな待ってるし」
(質問攻めにあうであろうことは、さっきのキャンパス内の事でもう目に見えてるから、それだけは…ちょっと億劫だけど)
「あーーー、帰したくねえー」
ハンドルに突っ伏しながらも、ディーノは夢子への視線は外さない。
「彼氏でもないのに独占欲出すのやめてもらえます?」
「じゃあ付き合うか?」
「……それは、まだ、いいかな。今は、このままで」
首元をかきながら、正面を見つめたままそっと視線だけを落とす。ネオンに照らされて赤く染まった頬を、隣の男に気づかれませんように──と願いながら。
ふぅん、とハンドルにもたれながら夢子を眺めるディーノの口元は緩んでいる。
「帰り、迎え行くから」
「え?」
「終わったら、電話しろよ。俺が日本にいるのに、夢子を一人で夜道を歩かせる気、俺にはねぇから」
強気なのに、どこか照れた声でディーノは言う。
車内に満ちる彼の香水の匂いに、夢子はしばし降りるのを躊躇ったが、そっと助手席のドアを開ける。
「打ち上げ、楽しんでこいよな」
フェラーリのエンジン音が低く甘く唸り、赤いテールランプは光の川へと吸い込まれて行った。
giovinezza よ、もう一度
キャンパスを出ようとした夢子は、視界の端でキャンパス内を彩る紅葉よりもずっと“真っ赤なもの”が止まっているを見た。
フェラーリ。
学生の誰もが振り返る。
そしてドアが静かに開く。
降りてきたのは──ディーノだった。
蜂蜜色の髪、細いけどしっかりと引き締まった体躯、長めのモッズコートに、細身のパンツルック。ラフな格好だが、靴や身につけている小物などは質の良い物であることは一目でわかる。陽の落ちかけたキャンパスで、彼だけが別世界の光をまとっている。
「……えっ」
夢子が固まると、ディーノは軽く片手を上げた。
「Ciao、夢子」
まるで、大学に迎え来るのが日常みたいな顔で。
でも、付き合ってない。
いや、そもそも日本に来る予定すら聞いてない。
周りの学生がざわつく。
「誰あれ…」「え、外車…モデル?」「やばくない…?」
並んで歩いていた友人たちに「ちょっとごめん」と言い、夢子は慌てて駆け寄る。
「ちょ、ちょっと!どうしたの⁉︎ 急に来て…!」
ディーノは微笑んだまま、こちらを見下ろす。
「サプライズ。驚いたか?」
「驚くとかじゃなくて……大学にフェラーリって……!」
「うん、夢子がちょうど今日、発表があるって言ってただろ。そろそろ終わる頃だなと思って、迎えに来た」
「しかし大学ってこんな感じなんだな。俺、高校までしか行ってねえから…っつっても、まぁ後半はほとんど修行と仕事で行けてなかったんだけどさ」
「いや、だからなんで……!」
「会いたかったから、かな。すれ違いにならなくて良かったぜ」
言い方が軽いのに、目が全然軽くない。
「迷惑だったか?」
夢子が否定しようとする前に、ディーノは一歩距離を詰めてくる。
周りの視線がまたざわつく。
スパイ映画みたいな美男の顔が、夢子だけに向いている。
「夢子。俺が君を迎えに来ると、何か困る?」
「……困るっていうか、めちゃくちゃ注目されてるし……!」
「じゃあ早く乗ろうか」
「話聞いて!?」
それでもディーノはドアを開け、少しだけ身を屈める。
「大学まで来たのは、君に見せたかったからじゃない。“君を迎えに来る俺”を、見せたかっただけだ」
「……意味わかんない」
「わかるさ。そのうちね」
最後に小声で、夢子の耳元へディーノは呟く。
「君が誰と歩いていても。君がここでどんな顔で過ごしてても。……俺が迎えに行くのは、夢子だけ」
それは、甘さと独占欲が同じ温度で混ざった声。
イタリア人の社交辞令だと思っていた今までの口説き文句も、もしかしたら──と蓋をしていた夢子の気持ちが、静かに開いてしまう。確信へと変わっていく。
「ディーノさん、私、これから授業の打ち上げが……」
「日本に来るために徹夜で仕事を片づけた。その代償として、一時間だけ君を独占する権利をもらった」
「そんな権利いつ取ったの」
「今、君が俺にくれるんだろ?」
夢子が顔を赤くして黙ると、ディーノは満足そうに微笑んだ。
「ほら、乗って」
「……わかった。ちょっと待って、友達に遅れるって言ってくるから」
「あそこにいる子たちだろ?いいよ、俺が言ってくるから」
「え?」
ディーノは夢子を助手席に乗せドアを閉めると、先ほどまで夢子と歩いていた友人へ視線を向ける。
「悪いな、スィニョリーナ達。一時間だけ、夢子を借りて行くぜ。打ち上げの会場にはあとで俺がちゃんと連れて行くからさ」
***
ディーノがエンジンを掛ける。
普段夢子が乗るような車とは段違いのエンジン音だが、フェラーリは静かに、でも確実に夢子を世界の外へと連れ去っていく。
「今日はスーツなんだな」
「うん、研究発表だったからね」
「Stai benissimo con quest.」
「…え?何?」
「そろそろ夢子もイタリア語覚えろよな」
ツナもリボーンから教わってるみたいだぜ、かなりスパルタみたいだけどな。とディーノは笑いながら言う。
助手席に座った夢子の太ももがスーツのタイトスカートの裾から少し見える。
視界の端に入るだけで、ディーノは息を飲む。
「……見てねぇよ」
見てる。
でも素直に言えない。
「ごめん、ストールで隠すね」
「いいよ、そのままで」
「でも見ちゃうんでしょ?」
「…見ねえって言ってんだろ」
夢子が笑う。
「なんか、ディーノさんってさ……大人なのに、たまにすごい子供っぽい」
その瞬間、彼の肩が強張る。
「……俺だってさ、ほんとは……普通の“男の子”やりたかったんだよ」
思わず零れた本音。
「恋して、嫉妬して、好きな子に笑われて……って、ファミリーを継いでからずっとガムシャラに生きてきて、そういうの、全然やってこなかったから。ツナたちとか、大学生やってる夢子見て、なんかそういう気持ち思い出した」
言いながら、照れを誤魔化すように髪をかく。
「お前の前だけだよ。普通の20代の男に戻れるのは」
停止信号で車が停まる。
ディーノが夢子の手首をそっと引き寄せる。
「……なぁ、俺に青春やらせてよ」
「…信号、青になったよ?」
空から落ちた青信号の光がフロントガラスで揺れ、夢子とディーノの頬をかすかに照らす。
ディーノはため息をつき、またアクセルをぐっと踏み込む。
「はぁ…何つーか、決まらねえなぁ」
「ふふ、そういうとこ、ディーノさんぽい」
「ぽい、って…笑ってんじゃねえよ。俺は夢子の前じゃかっこいい男でいたいんだから」
少し不貞腐れたような顔で運転するディーノを見る。流れていく街頭の、光の川のような煌めきがが彼を照らしている。
「そういうとこも素敵なのにな」
夢子の本音が溢れた瞬間、ディーノの指がハンドルの上でぴたりと止まった。
「…は?」
声が少しだけ裏返る。
エンジン音でかき消されるだろうと思ってた声は、しっかりとディーノに届いていた。
「……お前、そういう不意打ち、ずりぃんだって」
そんな甘い沈黙が落ちたまま、車は夜の街を抜けていく。
やがて、打ち上げが行われる店のある繁華街のあるところで夢子が口を開く。
「あ、この辺で降ろしてもらえると助かる。お店、すぐそこだから」
ディーノはウインカーを上げ、車を路肩に寄せる。ゆっくりと、シフトレバーに触れる。シフトを切り替える直前、少しだけ迷ったように夢子の方を見る。
「…なぁ、本当に行くのか?」
「うん、みんな待ってるし」
(質問攻めにあうであろうことは、さっきのキャンパス内の事でもう目に見えてるから、それだけは…ちょっと億劫だけど)
「あーーー、帰したくねえー」
ハンドルに突っ伏しながらも、ディーノは夢子への視線は外さない。
「彼氏でもないのに独占欲出すのやめてもらえます?」
「じゃあ付き合うか?」
「……それは、まだ、いいかな。今は、このままで」
首元をかきながら、正面を見つめたままそっと視線だけを落とす。ネオンに照らされて赤く染まった頬を、隣の男に気づかれませんように──と願いながら。
ふぅん、とハンドルにもたれながら夢子を眺めるディーノの口元は緩んでいる。
「帰り、迎え行くから」
「え?」
「終わったら、電話しろよ。俺が日本にいるのに、夢子を一人で夜道を歩かせる気、俺にはねぇから」
強気なのに、どこか照れた声でディーノは言う。
車内に満ちる彼の香水の匂いに、夢子はしばし降りるのを躊躇ったが、そっと助手席のドアを開ける。
「打ち上げ、楽しんでこいよな」
フェラーリのエンジン音が低く甘く唸り、赤いテールランプは光の川へと吸い込まれて行った。
giovinezza よ、もう一度
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