神様だって寂しいんだよ
ある奥深い森の中。小さな足音が鳴っていた。少し、進むと止まる。また、鳴る。そして、彷徨うように草々を踏み分けるとやはりまた止まる。
「どうしよう…」
幼い一人の少女がどうやら迷ってしまったようだ。この少女は婆ばばに言われてある薬草を取ってくるように言われた。採取している内に奥深くまで来てしまったようだ。少女は心許ない足付きで歩みを進める。暫く歩いていると池のようなものがあり、鳥居が建っていて石碑のようなものがある場所に出た。
「村にこんな所あったんだ…」
木々の隙間から、光が差し込む。池の水がきらきら反射して石碑に斑に陽が当たる。
綺麗だ。なんだか此処だけ時が止まったような、静寂に包まれていてどこか神々しい。
暫く、魅されるように立っていた。すると。
「ねぇ、「なぁ、」君」
低い声と、少し高い男の人の声が二つ混じり合って耳に入った。
「え…?!」
目をやると白い装束に身を包んだ、とても見目麗しい容貌をした男が二人立っていた。さっきまでは誰も居なかった筈だ……。
「なにしてるんだい?」
一人の外の国伝来の服のようなものを身につけ、柔らかい淡い小麦のような髪に、夕焼けのような瞳をした青年に声を掛けられた。
「えっと……あの、婆様に薬草を取りに行ってくるように言われて」
「迷ったのかい?」
「はい……」
もう一人の、和装の服を身につけ、銀糸のようにさらさらした髪に、金平糖のような瞳をした青年に問いかけられた。
「えっと、貴方たちは……」
「「僕達は」神様だ」
「え……」
どういうことだろう。綺麗な男の人達だが自分のことを神様だなんて言っている。とりあえず、話に合わせた方が良さそうだ。
「信じてないみたいだな…ほれ……!」
そう言うと和装の男の人は忽然と風に攫われるように消えた。瞬きをした次の瞬間、春を告げる桃色の花弁が立ち込めてまた姿を現した。
「ほんとだ…」
それが、その神様、鶴丸と髭切との出逢いだった。
あれから、私は度々、足をあの場所に運んだ。
「鶴丸様!髭切様!」
「あぁ、君か。今日はどんなことがあったんだい?また、婆様に叱られたか」
「違います!今日は薬草が上手く作れたんです!」
「そうかい。良かったねぇ」
鶴丸様はいつも揶揄ってきて、髭切様はいつも優しい。
そんなに頻繁には来れないが、隙を見計らってこうして時々この神様達と話すのが楽しかった。
季節が冬に近づいた。
「最近、元気がないね?どうしたんだい?」
髭切様が首を傾げている。
「婆様の体調が良くないんです…」
「ふむ。そうか。よくなると良いなぁ」
いつもは巫山戯ている鶴丸様も心配そうだ。
「はい…」
本格的に寒さが訪れると、婆様はそれと同時に灯火を消した。
私は、またあの森に足を運んだ。
「「大丈夫かい?」君……」
「寂し…い……です」
胸の内を露にした。二人の神様は私が落ち着くまで、寄り添ってくれた。
ある日のこと、村長が来て今回の巫女に選ばれたと伝えられた。
あぁ、そうか。次は私か。この村は数年に一度、儀式をする。その際に巫女が選ばれて、選ばれた者は姿を忽然と消す。皆んな言わなくても分かっていた。生贄なのだ。
白い装束に身を包む。なんだかこんな時だが、あの神様達のことを思い出した。
暗闇の中を松明の火に照らされながら、歩く。あの場所だ。あの白い神様達が居た場所だ。私はあの神様達に捧げられるのだろうか。だけど、その神様に私は救いを心の底で願った。
そして、池に堕とされた。体が沈んでいく。そうして視界がぼやけてきて――
「大丈夫かい!?君」
「え、あ……鶴丸様。髭切様……私生きてる?」
「あぁ、生きてるよ」
そこから少し説明された。あの儀式は、あの村の神様に豊穣の為に生贄を捧げるものらしい。だけど、あの村に神様なんて居ないそうだ。鶴丸様と髭切様は刀剣男士という者で、元々は本丸という物がある亜空間にいて、現世に来たが色々あって帰れなくなり、あの聖域とされる場所に留まって居たそうだ。よく分からなかったが、私は二人に助けられたのは事実だ。
「君を助ける時に、無くした転移装置を見つけたよ」
「ねぇ、「なぁ、」君。僕達と一緒に来ないかい?」
「どうして……?」
私は、二人に問いかけた。
「神様だって寂しいんだ」
二人の白い神様は目尻を緩ませて、そう笑った。
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