さいよりいたまし



幼い頃。
私は、いない存在だった。

朝起きる。
登校する。
授業を受ける。
下校する。
夜に眠る。

誰とも喋らない。
誰にもみえない。
私はいないから。

ある日、私は雪女になった。

お前の目はこわい。
お前の手は冷たい。
お前は人じゃない。

私は、安心した。

雪女でも良かった。やっと見てくれた。
私はいた。



それから月日は廻る。

いたい。心がいたい。
なぜだろう。私には分からない。
私は人じゃないから
私は雪女だから。

「君はいたいんだね」
「いたい?」
「心が痛いんでしょ?」
「私が?」
「ああ、君が」
「私は痛いんだ」
「そう、君のそれは痛みだ」
「私はこんな痛みよりもっと酷い痛みをしってるよ?」
「そういう話じゃないよ。君の痛みは確かに痛みだ」
「こんなのが痛みなんだ」
「君は悲しんでるだよ?心が締め付けられてるんだ」
「そう」
「僕はね、もっと辛い痛みを知ってる。愛する人を失う、弔う痛みだ。君の痛みよりもっとつらい痛みを知ってるから大丈夫だよ」
「そっか」
「うーん。なんだか難しいね。だけど、きみの痛みはぼくは愛おしいよ」
「ふーん。私も貴方の痛み愛おしいよ」
「「分からないくせに」分からないよ」


 貴方は、分からない。だって私が愛する人を弔ったことを知らないもの。
君は、知らない。だって僕が愛する人をあやめたことをしらないもの。

ほんとうにいたい。
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