人に非ずれば



「俺は「僕は人じゃない」

カチカチと音を鳴らす蛍光灯に照らされた室内の一室に一人の未だ年若い女と、気味が悪いほどに整った容姿の青年が二人立っている。
若い女の方、政府職員の葉月は己の前に立つ青年、二人。鶴丸国永、髭切に対話していた。

「ですので私が述べた事は先程言った通りです」
「俺たちは、刀剣男士という存在であり、付喪神、神の一種であり、物としても刀であり、妖としての異形であり、人間の器を宿した人である。……と、言うことだろ?」

男勝りな喋り方をする。一見、雪の精かと見間違うほどの白い儚さの青年、否、付喪神の鶴丸国永は問い返す。

「はい、仰る通りです」
「で、そんな僕らは歴史を守る為に降ろされたと、そして、何故か此処に居る鶴と僕は、その降ろした審神者には拒絶されて、こうして、その審神者の所属する所である政府に回されたって事だよね」
「はい、その通りで御座います」

何度も繰り返し聞き返した事だと、口が慣れてしまった様にと、鶴丸に比べると幾分か柔らかい穏やかな口調で話す。一見、何処の異国の王子だと思うような暖色の色合いの姿をした髭切が、聞き返す。

「その話は、今日君に会うずっと前から何回も聞いたさ。先ずだな、刀剣男士というのは、こうして刀だった己がこの身に降ろされたから分かる。付喪神、神だと言うのも分かる。だから、物としての刀というのも無論分かる。妖としての異形である。というのもこんな妙ちくりんな驚きになっているんだ。まぁ、分かる。だが、人というのは分からない。人間の器を宿しているのは、分かるさ。この肉の器に入って、人の形を摸しているだからな。だが、何処まで人に似通っていようと人では無いだろ。俺たちは、人では無い」
「そうだね。人では無いと思うよ。どこまで、人の姿に近かろうと人では無いだろ。僕達は色々と評されようと元は刀だ。刀はどこまでいこうが人には成れやしないよ」
「そして、あれだ」「あれだよ」
「どうして、俺達は審神者に見捨てられたんだ?」
「どうして、僕達は審神者に見捨てられたの?」
「……其れは、分かりかねますが何か審神者様の事情があっての事と、思われます」

真っ直ぐに二つの虹彩に射抜かれ、足元が冷りと温度が下がるような感覚を葉月は感じた。

「そして、この度、お二人の担当になったのが私、葉月と申します」

そう、事のあらましとしては、こうだ。
歴史を守る為に降ろされた付喪神二人が、紆余曲折あり、政府の元に来る。そして、葉月の担当となった。
文字にすると、たったの一行程の事である。だが、二人は、納得いってない様である。

「ですので、お二人には取り敢えず私の受け持ちとなって頂き、政府の仕事を手伝って貰いたいと思います」
「ふーん……そう」「そうかい……」
「此処にずっと居て待ちぼうけしてるよりかは良いんじゃないかな?」

ねぇ?と、髭切が鶴丸の方に首を傾げた。

「まぁ、それもそうだな。葉月と言ったかい?とりあえず、これから宜しく頼むぜ」
「宜しく頼むよ」
「はい、此方こそ宜しく御願い申し上げます」

傍から見れば、三者にこにこと、朗らかな笑みを湛えているが、その挨拶に交わされた手は思いの外、力強い。
こうして、腹の底が知れぬ食えない者たちの関係が始まったのである。

そして、幾許かの月日が流れた。
未だに、お互いの腹の探り合いのような関係性ではあるが、なんだかんだで上手く良好な間柄を築けているのではないかと、葉月は思っている。
だが、この短い月日の日々は中々に大変であった。其れこそ、今までの葉月のまだ、短い人生の中で一番、色濃く、長い濃密な日々だった。この数ヶ月で数年の寿命を削ってしまったのではないかと思うほどである。
簡単に、その事の経緯を振り返ればこうである。
まず、初日に葉月の所属する部署に向かえば、到着して、一目見た途端、わぁ、貧相な所だね。可哀想に君……と要らぬ、同情をさらたが葉月は耐えた。そして、その日は何もせず、これからの事について簡単に説明をして、何事もなく、平穏に終わった。
次の日は、いつも通り仕事場に着いた葉月の目に映ったのは、どこかの建築家が嗜好を凝らせたように、現代モダンのように和風テイストになっている。初日に、貧相な部屋だと言われた筈だった葉月の職場である。上司に平謝りをした。上司は気の良いというか、大雑把な人だったので、まぁ、いいよ。君達しか、居ない形だけの部署なんだし、綺麗になったのなら良かったじゃないか。と、それに、貧相なところだったしねぇ。と、
上司は言った。葉月の上司である上の立場である。その貧相な仕事場を充てがった者がである。その、建築家である犯人の当人。鶴丸は、驚いたかい?あんな、貧相な所だったんだ。感謝してくれても言いぜと自信満々に言った。葉月は、耐えた。
そして、数日は特に述べることも無い、平穏な日々が続いた。ある日、髭切に、違う部署に書類を届けてくれる様にお願いしたら迷子になった。そして、何故か政府の演練場に迷い込み、その時、演練に出ていた全部隊を殲滅させて帰ってきた。帰ってきた、髭切はこう言った。いやぁ、いい運動をしたよ。そういえば、最初に君、何か頼んでいたけど何だったけ?その日、始末書を大量に書いた。葉月は耐えた。
その数週間後にある指令が届いた。
本丸にて、起きる怪異を解決せよ。とのお達しである。葉月の、所属する部署は名を時空犯罪特別対策本部、対策室第五、特例対策課である。いわば、 名前だけの雑用部署。厄介事を回す為に創立された様な物である。
葉月にとったら、初めてのきちんとした仕事である。入念に計画して、聞き取りをして、調査して、解決に励むつもりであった。葉月の、頭の中では確と任務を遂行し、功績をあげる自分達を思い描いていた。
そして、いざ本丸に移動した瞬間。さぁ、審神者の元に聞き取りに向かおうとしたら、隣にいたはずの二人が消えた。え……と、思ってるうちに少し遠くの方で大きな音がした。そちらの方に慌てて向かうと黒い異形の存在、今回の任務の原因である怪異であろう者が鶴丸と髭切に首を刈られて消えゆく瞬間であった。その時、葉月は耐えられなかった。いや、耐えるのを諦めた。諦めて、受け入れた。これからは、私が二人の担当なのだからと、責任があるのだからと、気持ちを考えを心を改め、入れ替えた。
そして、それからは時々、こうして任務が偶にやってくる。その度に、向かい、いつの間にか原因をあの二人が切り捨て、その後始末を葉月は頑張った。最近では、慣れたのか、任務もあの二人に対しても立ち回りが上手くなった気がすると、我ながら葉月は思った。

それで、今日も舞い込んできた任務の説明を二人に言ってる所である。パラパラと、紙を捲る。二人は、聞いているのか、聞いていないのか、よく分からないが此方には視線を向けている。

「……と、言うことであります」
「はぁ、大体分かったぜ」
「ふーん、大体分かったよ」
「今回も、俺達が斬り捨てればいんだな「いいんだね」」
「はい、宜しくお願いします」

にこにこと、皆笑みを絶やさない。だが、最初のあの時の笑みに比べたら何方も、柔らかめの笑みに見える。そして、三者の間には、不思議な、信頼感の様な心を少しは心を許した様な気の空気感が流れている。時の成すが故だろうか。鶴丸と、髭切の二人は分からないが、葉月の心境に変化が有ったのもあるかも知れない。

「そういえば、君っていつも手袋を着けているよね?」
「……あ、はい、冷え性なので……」
「夏なのに?」
「……はい」
「そう」

もう、興味は無いと髭切は視線を別に移した。

「なぁ、君!この前の本は読み終えたんだが次はなんだ?今日、持ってくると言っていただろう?」

ある時から、仕事の合間の休憩に本を読んでいる葉月に興味を持って、鶴丸とは本を貸し借りする間柄になった。彼は、色んな人物達の物語、主人公の視点になってもう一つの人生を追体験出来る本の良さを気に入った様である。ちなみに、私が本を好きなのは鶴丸の楽しみ方も勿論だが、言葉の羅列を読んでいると心が落ち着く。安定させる為の媒体という意味合いが大きい。髭切は、一度、鶴丸が読んでいるのをパラパラと捲って少し、目を通すともういいやと読めるのを止めたそうである。それを、聞いた私は、活字としての文字を読むのが髭切の性格上、嫌なのではと思ったので、試しに私が声で読んでみるのでそれを聞いてみるだけしてみません?と、問いかけた所、良いよと案外、あっさり頷いてくれた。そして、読み聞かせなら、結構、面白かったらしく、それからは、時々、鶴丸に貸した本を読み聞かせしている。

「今回は、昔の物語です。源氏物語、というのですが二人にも馴染み深いかと思い選んできました。現代語訳で、恋の物語ですね」
「おぉ!源氏物語か。知っているぞ」
「ほぉ……源氏かい。それ、読み聞かせてよ。今日は、とりあえず説明だけでこの後は何も無い。いつものやらなくても良い雑用だろ?」
「うーん。そうですね……この後は、特に何も無いですが、雑用を急いで終わらせるのでその後の時間で読み聞かせしてもいいですか?」
「うん、いいよ」
「あぁ、待ってるぜ」

そして、そこまで内容のない簡単な雑用を急いで終わらせた。思ったより、早く終わった。これなら、話の最後まで読み聞かせ出来そうである。
現代モダンに綺麗にされた仕事部屋の一室に座り心地の良い三人掛けのゆったりとしたソファに腰を降ろす。

「じゃ、読みますね」
「あぁ」
「うん」
「どの天皇の時代であったでしょうか、女御や更衣がたくさんお仕え申し上げていらっしゃった中に、それほど高貴な身分ではない方で、際だって帝のご寵愛を受けていらっしゃる方がいました……………………………………


と言えば、用もなく日暮れまで長居するのもおかしなものなので、帰ろうとする。ひそかにお会いしたいと思っていた姿も、見れなかったので、残念なことと思って帰参した。
いつ帰るか、と心待ちにしていたが、こんなわけも分からぬままに帰って来たので、期待外れで、「遣らない方がましだった」とあれこれ思って、「男がかくまっているのか」と思いつく隅々まで、宇治に放置していた経験からも、思った。と、元の本にありました……………………………………という、感じでお終いです。長かったですね。お疲れ様です」
「ふーん、なんだかすっきりとしない終わり方だね」
「源氏物語は未完だと言われてますから」
「そうなんだね。にしても、光る君は随分な色男だったね。物語の人物だけど、源氏と言うだけで何だか可笑しくなるよ」
「ふむ。面白かったぜ。色んな愛憎入り乱れる感じが実に面白い。驚きだ。にしても、恋幕の情というのは面白いな。俺には、てんで分からんが」
「いつの世も恋というのは人を変えるんです。心を乱すものなんです」
「ふーん」
「ほーう」
「まるで、我がことのように言うな。何かそういう経験がお有りかい?」
「いえ、ないです」
「そう、つまらないねぇ」
「つまらないなぁ」

ご期待には、添えるような経験は葉月には無かったようである。

「にしても心ね「心か」」
「心が、どうかしましたか?」
「いやな、書物で読んだのだが人とは心があるから豊かだから人であると、書いていた。最初に君と会った時にも話したが俺達は人だという感覚がない。からっきし、分からないんだ」
「特に、心は分からないんだよねぇ……」

彼らも、こうして考えるという事は最初に比べると随分と人らしくなったと葉月は思う。些細なきっかけでこの三人で本を貸し、読み聞かせる事になったが、思いがけず情操教育に一役かっていたようである。心か、心とは何だろ。確かに人でも難しい問である。そして葉月は、ある人の言葉を思い出した。

「じゃぁ、聞きますが心って何処に在ると思います?」
「心の場所かい?」
「はい」
「ふむ、……そうだな。この辺りじゃないか」

そうして、鶴丸は心の臓の辺りに手を添える。

「私が思うにですね。心って此処にあるんです」

と、葉月は、鶴丸と髭切と向き合う自分自身の胸のある所の何も無い空間の距離に拳を伸ばした。

「なにしてるんだい?」
「なにしてるの?」

何だこいつ、頭がとうとう可笑しくなったのかとでも言うように憐れむような視線を葉月は両者に向けられる。

「まぁ、とりあえず話を聞いてください……多分ですね。心って、ここにあるんです。例えば、私と貴方たちが触れ合う時に、何か感情を想う時に、心は初めて私達の間に生まれるんです。心は体の中には無いんです。何かを考えるとき、誰かを想うとき、そこに心が生まれるんです。もし、世界に自分一人しか居なかったら心なんてのは、何処にも無いんじゃないのかな。なんて私は思いますよ」

「ふーん、随分と綺麗な考え方だね」
「詩人、みたいだな」
「良いんです。私はそう思ってるんです。それにこれは人の受け売りですし」

そう。そうかい。と、二人は、深く考えないようにしたようである。だが、先程、葉月が拳を伸ばした、自分との間の空間に目を向けている。
何か、響いたのだろうか。

「よし、!じゃぁそろそろ、勤務終了時間です。終わりましょう。さぁ、さぁ、二人は、宿舎に帰ってください。明日は、本丸に行くので朝が早いですよ」

と、葉月は話を切り替えるように腰を沈めていたソファから立ち上がった。

「あぁ、分かったさ。じゃ、また明日な」
「また、明日ね。お疲れ様」

鶴丸と髭切は立ち上がり、ひらひらと、手を振ってから、すたすたと帰って行った。

そして、日が登り朝になった。いつもの仕事部屋ではなく、政府内にある時空転移装置がある部屋に集合する。

「揃いましたね」

五分前に来た葉月と、三分前に来た鶴丸と、つい先程、約束の時刻。ぴったりに来た髭切が揃い、時空転移装置のある薄暗い部屋の鳥居の前に立つ。鳥居の先は、もうもうと煙が立ち込めていて行く先が見えない。

「じゃ、行きましょうか」

と、葉月は鳥居の方に顔を向け、手を差し出した。

「いつも思うんだけど、これって本当に効果あるのかい?」
「まるで、遊ぶ幼子の様で随分と可愛らしいよなぁ」

と言いながら、鶴丸と髭切はその差し伸べられた手を取る。そして、恋人のように繋いだ。

「しょうがないんです。本丸に赴く際の時空転移装置での移動の時は複数ならば、逸れないように手を繋ぐ習わしになっているんですから。なにせ、転移の道中は時空間が曖昧で逸れやすいんですから」

「まぁ、毎度の事だから良いんだけどな「だけどね」」

そうして、三人は仲良く手を繋いで鳥居の先に足を踏み出した。

薄暗い、道を歩く。唯一、繋いでいる手の温もりだけがお互いの存在を感じ取り確かである。
そして、数分。いや、なにせ、時空の狭間を渡り歩くのだから時間の概念など無いのかも知れないが。視界が、次第に明るく、開けて来た。
目が段々とその光に慣れていく内に気づくと本丸の前に到着していた。

「じゃ、行くよ「行くぜ」」
「はい」

いつもの慣れたやり取りだというように言葉を交わす。
そして、次の瞬間にはまるで忽然と姿を消したように二人は見えなくなった。
葉月も遅れて二人が向かった方向へと走り出す。
そして、刃音が鳴り響く喧騒の場へと着いた。
蛇のような呪に塗れた異形と二人が対峙している。
今回も、二人は順調のようである。そして、最後の灯火を刈り取るという瀬戸際まで来たとき、葉月は違和感を感じた。そして、言い知れぬ不快感が混み上がってくる。時にして、数秒にも満たない。それこそ、瞬きを重ねる瞬間、風が肌を撫でる瞬間、くらいの刹那に頭にある考えが駆け巡った。若しかしたら、そうかもれない。いや、そうだ。確信めいた思いを葉月は考えた。そして、頭で整理するより、言葉で告げるより、早く、早く、身体が動いた。
走り出す、そして、今、命の灯火が吹きちろうとしたその時に、葉月は刃が飛び交うその中に蛇の異形へと突撃した。

「なっ……!何をしている!!!…」
「何を考えているんだい!?!…」

二人の顔が驚愕に染まる。虹彩が色濃く開く。口から怒号が飛び出す。
そして、葉月はそんな二人の声など耳に響いて居ないといわんばかりに異形へと手を伸ばす。
そして、触れた。触れたのだ。触れてしまった。あぁ、消えゆく灯火がもう一つ増えると、その様を見ている二人は思った。そして、駆けつけた。
頭では、間に合わない事など分かっている。そう、間に合わない。だが、体が必死で動いた。手を伸ばす。
間に合え、間に合え!、せめて近く、君の傍に――
そうして、二人の瞳に映ったのは……青白く、瑠璃の灯火の様に光り輝く霊気に包まれた葉月の姿だった。そして、その光り輝く葉月の器に吸われるように異形の呪のような黒く纏わりついていたものが吸い込まれていく。そして、異形は全てを吸い尽くされたのか消えた。忽然と、跡形もなく消えた。この場には、まるで何事も無かったかのような光景が映り出されている。ただ、二人の目の前に横たわる葉月を除いて――

「ねぇ……、君。生きてる……?」
「……は……い……なんとか……ちょっと、やばそうですが……」

なんて、途切れ途切れに苦しげに言いながら、へらりと笑う葉月の姿がそこにはあった。
鶴丸が、葉月に近づく。そして、傍らに寄り添い手を握った。もう片方の手を髭切も手に取る。

「……な……に……しているん……ですか……いまの……見たらわかる……でしょう……私に触れちゃいけません……」
「なんで、だろうな……今、こうしないといけない。こうするべきだと思うんだ」
「こうするれば……、君は何とかなるって何故か分かるよ」

そう言いながら、力強く握られた手のひらに、二人か暖かな光が溢れ出して葉月に注がれる。
色を移すように、硝子に水を注ぐように、暖かな光、神気が葉月へと与えられる。
そうして――――
















「結局、なんとなったね「なったな」」

相も変わらず、現代モダンな部屋の一室のゆったりめのソファで、三人は腰を掛けていた。

「それで、あの時、君がしようとしたのは、あの異形は命を奪った者に呪いを同じ死を齎すと、気づいて、その君の力で奪ったのだろ?」
「はい、そうです。その節は、お世話を掛けました」

そう喋るのは、ついこの間までは平坦な存在であり、平凡な見た目だった筈が、髪は根元から顎先までは雪のように白い白髪、顎先から鎖骨の辺りの毛先までは亜麻色のクリームのような色をした姿に変わり、瞳は虹彩の上の方が蜂蜜のような琥珀。下の方が、黄昏のような琥珀。に色変わりした葉月である。どうやら、あの時の分け与えられた神気の影響で容姿が様変わりしたようだ。

「まさか、君が霊力を奪う体質だったなんてね。それで、いつも手袋を付けてたのか」
「それで、その君の受け持ちになった俺たちは、本霊から分霊に降ろされる際に不備があって、余分に神気が含まれていてだから、俺達はその俺たちを降ろした審神者を卒倒させてしまい、見捨てられたのでは無く、こうして、政府に引き渡されたなんてな」
「そして、そんな僕達だからこそ君を救えた。……なんて、なんという因果か、不幸中の幸いとでも言うのかなぁ」
「はい、……本当に有難う御座いました」

何故、ここまで彼らが事の詳細を知っているかというと、葉月が説明した訳ではない。あの、いつぞやの上司が葉月が気を失って政府で治療されている中、全部、包み隠さず喋ったのだ。

「あの、……それでなのですが、何だが仕込んだ様でとても申し訳ないのですが、この通り、私には貴方たちでないと駄目なので、これからも変わらず政府の元に居て下さり、私と共に働いて欲しいのですが良いでしょうか?」

「その答え何だけどな、いつかの日に源氏物語をよんで、恋の心の話になって話をした事があっただろ?」
「え……あ、はい」

なぜ、今この時にその話をするのだろうか。葉月は、不思議に思った。

「心というのはねぇ、てんで分からなかったはずなんだけどあの時、君があぁなった時確かに僕達は何かを想ったよ。何かに付き動かせれたよ。確かに心があったと思う」
「は、はい……」
「だからな、答えはこうだ」
「これからも、よろしく頼む「頼むよ」」

はい!と、葉月は、快く返事をする。

「それと、有難う」
「ん?、何がですか?」

「なぁ君……」
「ねぇ君……」

まるで、慈しむように暖かに燻る温度を宿した二人の瞳が葉月に向けられる。

「あの時から僕達は」
「あの時から俺達は」
「人に成れたよ」
「人になたんだ」

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