FINAL EXAMS(現在更新中)
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(心操視点)
「心操!今日放課後みんなで勉強しねえ?」
「……うん、いいよ」
久しぶりにクラスメイトと勉強するのもいいかと思い返事をすると、自分から言い出したくせに驚いていた。
なんでだよ。
「なに?」
「いや、放課後はいつも意気揚々とトレーニングに言っちまうから、てっきり断られるかと思ってよ」
意気揚々…
そんなに分かりやすかったか?
あの日を最後に暫くトレーニングは個人で、ということになった。
期末試験の勉強もあるから仕方ないかとは思ったけど、やっぱり原因はあれだよな。
「トレーニングばっかりじゃ、期末やばいしな」
相澤先生は文武両立しないと確実に除籍するタイプだ。
だからこそ、期末でふがいない点数を取るわけにはいかない。
ヒーロー科への編入を考えれば、当然のことだ。
「……心操」
「ん?」
教科書を鞄にいれながら視線も上げずに答える。
あ、このノート相澤先生に提出しにいかないと。
「女神と、何かあったのか?」
唐突な質問に、ノートが手から落ちていく。
こいつが言う女神は、言のことだ。
C組の殆どが彼女のファンクラブの一員で、メンバーは言のことをそう呼ぶらしい。
「いや、最近一緒にいるところ見ないしさ。前は食堂とかで見かけたら向こうから話しかけに来てたじゃん?」
確かに廊下でも食堂でも彼女はよく話しかけてきた。
それが嬉しかったし、彼女の中で自分は特別なんだって思ってた。
「……別に、何もないよ」
これ以上その話題について深堀されたくなくて、ノート提出をしてくると教室を後にした。
トレーニング内容についてまとめたノート。
相澤先生、職員室いるかな。
「……だから話を」
不意に廊下の曲がり先から先生の声が聞こえて足を止めた。
いつもの気だるげな感じじゃない。
妙に切羽詰まった様子だったからだ。
「話すことなんて、ありませんよ。あの夜にも言ったはずですけど」
ちょっとだけ覗き込むと、難しい顔をした相澤先生と女子生徒の後ろ姿が見えた。
三つ編みの黒髪、ヒーロー科の制服。
見間違えるはずも、聞き間違えるはずもない。
言だ。
「例のことは俺と校長しか知らない。他の教師や公安には知らせる必要がないと判断したからだ」
「必要がない?…私が元の世界で人を殺したいと思っていたことが?」
いつもの明るい声じゃない。
低く、冷たい声に思わず息を飲む。
例のこと?元の世界?人を殺したい?
それに公安…?
なんの話だ?
「それは、状況を考えれば仕方のないことだと思うが?」
「それでも、ここは天下の雄英で、私がいるのはヒーロー科ですよ。他の生徒に悪影響がないと言い切れますか?」
「言い切れる。現状、お前から悪影響を受けている生徒がいるとは思えん」
出ていける雰囲気じゃなくて、壁に背を預けた。
盗み聞きするみたいで気が引けたが、それよりも言のことだったら知りたかった。
もしかしたら、彼女のあの言葉の意味が分かるかもしれないと思ったから。
「なんですか相澤さん、私に情でも、わきました?」
くつくつと笑う彼女が、まるで別人のようで驚いた。
表情は見えないけど、雰囲気が。
「貴方が守るべきはこの世界の人間です。私じゃない。」
「音葉!」
先生が伸ばした手を、白い男の人が掴む。
言の傍に当然のように立つあれは、誰だ?
「最初の私に対する警戒心を忘れないでくださいよ。貴方にとって私は監視対象です。それ以上でも、それ以下でもありませんから」
(
(相澤視点)
「……くそっ」
去っていく音葉の背中に何も言えなかった。
拳を壁に叩きつけ、聞く耳持たない彼女にも、言い返せない自分にも腹が立った。
確かに彼女はこの世界の人間ではないし、今だに俺の監視下にある。
身元保証人を引き受けた時に、公安と交わした契約だからな。
俺が定期的に報告書を提出しているからこそ彼女は雄英にいられるし、普通の生活を送っていられる。
「相澤先生…」
驚いて声の方を見る。
話に夢中で気づかなかった…プロ失格だな。
「心操か」
そういえばノート提出を指示していたと思い出した。
大方職員室に行く途中で、俺達に気づいて出てこれなかったんだろう。
「お前、聞いてたな」
眉間によった皺で、大体わかる。
思えば生徒の中で音葉に一番近いのはこいつだった。
気になるのも無理はない。
しかし内容が内容だ。
「先生、あの「今の話に関して詳しいことは教えられん。他に話すことも禁ずる」」
食い気味に心操の言葉を遮る。
何か言いたそうに口を開くが、顔を歪めながらわかりましたと言葉を飲み込んだ。
「悪いな、心操」
「…俺…音葉に好きだって言ったんです」
…は?好き?
心操が音葉のことを?
「初めてだったんです。俺の個性をヒーロー向きだって言ってくれたの。でも、俺は俺の世界で幸せになって、そこに自分の居場所はないって言ったんです」
泣きそうな顔で、と話す心操。
居場所?
そんなもん、当たり前のようにあるのになんで気づかねえんだ。
「知らないことだらけかもしれないけど、勝手に気持ち否定されたまま引き下がれないです。放っておくには、好きになりすぎました」
なんとなく、思ってしまった。
こいつ、俺と似てるなって。
「俺もだよ」
俺達は好きになりすぎた。近づきすぎた。
俺だけじゃない。A組の生徒も、教員も、彼女と関わった全てにとって、ただ放っておける存在じゃなくなってる。
監視者としては失格だと思う。
彼女の言う通り、情が湧いたんだ。
でも人間として、ヒーローとして、相澤消太としては、間違っていない。
(緑谷視点)
「あの、オールマイト」
いれてくれたお茶を受け取って、おずおずと名前を呼ぶとトゥルーフォームのオールマイトが「ん?」と僕を見る。
茶柱が僕の手の中で揺れていた。
「言ちゃ…音葉さんのことなんですけど」
そういった瞬間、分かりやすく雰囲気が重くなる。
心なしかオールマイトの顔も険しい。
??
「音葉少女が、どうかしたのかい?」
「あ、いえ…最近様子がおかしくて。オールマイトなら何かご存じなのかなと思って…」
轟君も飯田君も、なんならクラスみんな不思議に思っていた。
もともと編入直後から笑っているように見えて、どこか僕達と一線おいているような感じがしていた。
職場体験で彼女の秘密を知って、少し打ち解けられたと思っていたんだけど…
「おかしい、とは?」
「なにか痛いのを我慢しているような感じがして…本人に聞いても大丈夫って言うので気のせいかもしれないんですけど…」
彼女とちゃんと話したのは職場体験が初めてだったと思う。
普段は挨拶程度だから。
体育祭付近はかっちゃんとトレーニングしていたみたいで近づけなかったし。
「でもどうしても気になってしまって…彼女の目が、救けを求めてるような、気がして」
気のせいかもしれない。
思い過ごしかもしれない。
それでも僕は、あの目を知っている。
いつかの誰かと重なる、あの目を。
きっとかっちゃんも気づいている。
だからおばさんを言い訳にして言ちゃんの近くにいるんだと思う。
(かっちゃんのお母さんが娘が出来たみたいだって喜んでた)
「音葉少女がとある事情から雄英に保護されているのは話したね?」
とある事情とは、言ちゃんが未来を知っているということだと思う。
サーナイトアイみたいなものだと思ったけど、USJも体育祭もヒーロー殺しも知っていたと言っていたから、ナイトアイの個性よりももっと強力なものなんだと思う。
あれ?言ちゃんはそれを個性だとは言わなかったけど、どういうこと?
個性だとしたら、彼女は3つの個性を持っていることになる。
複合型だとしてもあり得るのか?
「彼女には身寄りがない。頼れる人も、いないんだよ」
身寄りってことは、親がいない…?
そんな…彼女の明るい笑顔からは想像もできなかった。
「だから緑谷少年、君たちが彼女の拠り所になっておくれ。突っぱねられても踏み込んでいけ。」
そうだ。飯田君の時も轟君の時も、突っぱねられても、大丈夫だと言われても、一歩踏み込んだ。
そのおかげで二人とは仲良くなることができたんだ。
「余計なお世話は、ヒーローの本質、ですもんね」
そう言うとオールマイトは親指を立ててニコッと笑ってくれた。
僕は君を放っておけないよ、言ちゃん。
関係ないことだって言われても、僕達は友達じゃないか。
友達の女の子一人救えなくて、なにがヒーローだ。