FINAL EXAMS(現在更新中)
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(主人公視点)
「帰りたく、ないなあ」
人使と組手をしながら、ぽつりと言葉が出ていた。
あっと思った時には遅い。
上の空で相手をしていたので、思いっきり人使にぶん投げられてしまった。
「ちょっ、言大丈夫!?」
まさか受け身も取らず倒れるとは思ってなかったんだろう。
物凄く慌てた様子の人使が手を差し出してくれる。
「いてて、ごめん。ちょっと別のこと考えてた」
痛む腰をさすりながら人使の手を借りて立ち上がる。
いかんいかん。これは彼のための時間なのに。
「どうした?今日なんか変だぞ?」
うわー、人使にも言われた。
出久にも言われたのに…いやだなぁ。
昔より表情に出やすくなってるのかしら。
「大丈夫。なんでもないよ」
そう言って組手を再開しようとすると、いつの間にか後ろから抱きしめられていた。
おお?珍しい。人使からそんなことしてくるなんて。
「そんな泣きそうな顔して、なにが大丈夫だよ」
低い人使の声が響く。
そんな顔してないよ、とは言えなかった。
もう自分がどんな顔しているかなんて、分からない。
それほど、昨日の出来事は心を抉っていた。
人使に向き直ってもう一度大丈夫だと言おうとして、思わず言葉に詰まった。
彼の瞳が、口ほどに感情を語っていたから。
ダメだ。この先の、言葉を聞いてはダメだ。
「俺、初めて会った時から、言のことが好きなんだ…好きな子が泣きそうなのに、放っておけるかよ」
ああ、聞きたくなかった。
普通だったら死ぬほど嬉しい言葉も、今は私をどん底へと突き落としていく。
ちゃんと私に勝てるまで言うつもりなかったんだけど、と顔を真っ赤にする人使から一歩離れる。
私の名前を呼ぶ声が、凄く遠くのことのように霞がかっている。
「違うよ、人使」
それは、違う。
好きなんて、綺麗な感情じゃないよ。
「それは錯覚だよ。欲しい時に、欲しい言葉をくれたから、私を好きだって勘違いしただけ」
瞳が揺れる。
ああごめんね、近づきすぎた。
「あなたはあなたの世界で幸せになるの。そこに、私の居場所はない」
傷ついた表情を浮かべる人使を残して、私は体育館を後にした。
もうダメ。これ以上、関わっちゃ、ダメ。
「おい、音葉…」
帰ろうとして、後ろからかかった声に振り返った。
このどすの利いた声は、一人しかいないけど。
「どう、したの?勝己」
思わず笑顔を作ろうとして、自分でもへたくそだったと思った。
勝己に、作り物が通用するわけないのに。
この子、そういうところ聡いからなあ。
「……ちっっ!!来い!!」
えええ。
無理矢理に腕を掴んで引きずられていく。
あのー。どこへ?
「おら、ばばあ!」
「きゃー!待ってたわよ!」
着いたのは爆豪家。
…なぜ?
困惑しながら勝己を見ると、激しく舌打ちをしながら自分の部屋へと上がっていく。
「勝己に連れてきなさいって言ってたのよ。体育祭から全然来ないから!」
あ、なんだ。光己さんだったのか。
でも正直とても助かったかもしれない。
「お久しぶりです、光己さん。」
やっぱりうまく笑えなかったらしい。
笑顔だった光己さんの表情が曇る。
「なにか、あった?」
優しい声に、思いがけず泣きそうになってしまう。
違った。もう、泣いてた。
"お母さん"という存在は、なんでこんなにも安心するんだろう…
「ちょっと、親と…うまくいってなくて…」
詳しいことは言えない。
それでもそれだけは、言葉に出すことができた。
「そう…じゃあ今日はうちに泊まっていきなさい!服なら勝己のがあるし、部屋も空いてるし!」
ぽかーんとしていると、勝己が降りてきていつの間に取ったのか私の携帯を持っていた。
え!スリかよ!
そのままどこかへかけようとして慌てた。
あれには相澤さんと根津さんと人使の番号しか入っていないのだ。
「ちょっ!まっ!勝己!!」
「おい、イレイザー」
どうやら電話に出たらしい。
というか第一声それ!?
え、なんで勝己が知ってんの?
『その声、爆豪か?なんで音葉の携帯を』
「何があったか知らねえけどな、ばばあがうるせえから音葉、うちに泊まるぞ」
『ちょっと待て、お前』
ぶちっ。
…おおう、切りやがった。
ほらよっと携帯が返ってくる。
「勝己…知ってたの…私と相澤さんのこと」
「ああん!?廊下であんな大きな声で話してれば嫌でも聞こえるわ!!」
廊下でって、人使と話してた時!?
え!?聞いてたん?てかいたの!?!?
「朝からてめえら分かりやすすぎんだよ。視線合わせねえし、てめえはてめえで分かりやすくイレイザー避けやがるしよ!」
嘘。そんなつもりなかったのに…
どんだけこの子、私のこと見てんの?
「ばばあがうるせえから泊まらせてやる」
どしどしと足音を立てながらリビングに消えていく勝己。
なんて男だ。
…優しい。
リビングに入って、二人に頭を下げた。
「すみません!ありがとうございます!!お世話になります!!」
光己さんは笑ってくれて、勝己には舌打ちされた。