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(主人公視点)
「冷静に考えると凄いことしちゃったね」
緑谷の言葉に、焦凍も飯田も頷く。
かくいう私も苦笑しながら頷いた。
あれから病院に運ばれた私達は、あれよあれよという間に処置を受け、全員同じ病室に叩き込まれている。
一応女の子も同室というのはいかがなものだろうかと思ったけど、病院としても警察としてもバラバラにしたくないんだろうなと思った。
「あんな最後見せられたら生きてるのが奇跡だって、思っちゃうね」
そう言って緑谷が見つめるのは自身の脚だ。
飯田以外は故意的に生かされた。
かくいう私も。
あと数センチずれていたら内臓を傷つけ、出血多量で死んでいたらしい。
人間の急所を、ステインが知らないはずがない。
あいつは確実に、私の動きを止める為だけに刺したんだ。
「あんだけ殺意を向けられて尚立ち向かったお前はすげえよ。救けにきたつもりが、逆に救けられた。わりいな」
飯田の顔が分かりやすく曇る。
負の感情は感覚を鈍らせる。
あの時飯田が立ち向かえたのは、怒りに我を忘れていたからだ。
……なんかオームみたい。
「いや、違うさ…僕は…それに、僕だって音葉君に助けられた。あの時彼女が来なければ確実に死んでいたさ」
3人の目が一気に私に集まる。
なぜと訴えてくる視線に、居心地が悪くなった。
はよ、来い。面構。
「おお、起きてるな。怪我人共」
救世主!
グラントリノ、マニュアル、そして面構署長が病室に入ってくる。
うん、まさに犬。
「君たちがヒーロー殺しを仕留めた雄英生だワンね」
ここまで犬だと、まじまじ見ちゃうな。
何食べるんだろ。犬の餌?それとも普通にご飯?
「ヒーロー殺しだが…火傷に骨折となかなかの重症で現在治療中だワン」
語尾のワンは癖?
それとも個性による弊害なんだろうか。
「超常黎明期…警察は統率と規格を重要視し“個性”を“武”に用いない事とした。そしてヒーローはその穴を埋める形で台頭してきた職だワン」
ここなかなかの長セリフよね。
でも面構署長の優しさがにじみ出るいいシーンよ。
「個人の武力行使、容易に人を殺められる力。本来なら糾弾されて然るべきこれらが公に認められているのは、先人たちがモラルやルールをしっかり遵守してきたからだワン」
わんわん。
この人もアメとムチがしっかりしているよね。
今はムチの時間です。
「資格未取得者が保護管理者の指示なく“個性”で危害を加えたこと。たとえヒーロー殺しであろうともこれは立派な規則違反だワン」
まだまだムチです。
長いなー。セリフ。
「君たち3名、及びプロヒーロー、エンデヴァー、マニュアル、グラントリノ、この六名には厳正な処分が下されなければならない」
そうか私は警察の管轄でもないのか。
3名に、入っていないのはきっと私だ。
「待ってくださいよ!飯田が動いていなきゃ“ネイティブ”が殺されていた。緑谷が来なけりゃ二人は殺されていた。誰もヒーロー殺しの出現に気づいてなかったんですよ」
青い。人の話は最後まで聞こうねー。
まあ頭に血が上るのもわかるけどね。
だから君たちは強くならないといけない。
「規則守って見殺しにするべきだったって!?」
「結果オーライであれば規則などうやむやで良いと?」
今にも殴り掛かりそうな焦凍を緑谷が制する。
規則は規則。
それを容易に破れば、世界は崩壊していく。
「人を、救けるのがヒーローの仕事だろっ」
「だから君は卵だ。まったく…いい教育をしてるワンね。エンデヴァーも雄英も」
「この犬っ」
思わず。
知ってたけど、思わず、ね。
「ふふ…あははっ」
全員の視線が集まる。
あ、やば。焦凍の犬ってセリフ、なかなかに笑えるんだもん。
怪訝そうな目にまずったと思いつつも、まあまあと焦凍をなだめる。
「ごめんごめん、でも焦凍君、ちゃんと最後まで人の話は聞こう?面構署長の話は、それで全部じゃないよ?…ね、そうでしょう」
面構署長の方を見ると、彼は困ったように笑った。
「やっぱり君は全部わかっているようだワン」
本来ならグラントリノのセリフだけど、とっても問題ないでしょ。
「以上が警察としての意見。で処分云々はあくまで公表すればの話だワン。」
ようはこうだ。
警察はヒーロー殺しの立役者にエンデヴァーを押す。
全ては彼が解決したことにする。
だから賞賛も功績も、全てエンデヴァーのものになる。
その分、緑谷達が受けるべきだった処分は免れる。
これがアメだ。
警察としての、できる限りの前途ある若者への誠意。
「あれ、でも3名って、あれ?音葉さんは?」
全ての話が終わった後、思い出したように緑谷が面構署長のことを見る。
言い間違え?そんな言葉が聞こえてきて、気まずそうに署長の視線が逸らされた。
分かっている。
「彼女の処分は、警察の管轄じゃないワン」
そう言って署長が病室に招き入れた黒スーツの二人。
緑谷達3人の頭に「?」が浮かぶ中、ずかずかと私のベッドの傍に立って見下される。
冷たい目。異物を見る目。
私を危険視する目。
「初めまして。公安の真美(しんみ)です。さて、音葉言さん。分かっていますね」
書類にサインしたのは私だ。
言い逃れも、もちろん逃げもしない。
「貴方は規約に反し、個性を使用しました。承諾書の内容に則り、貴方の身柄を公安預かりとして拘束します」
じゃらりと出されるそれは、敵につける手錠だ。
職場体験前、私がサインした個性禁止承諾書にあった内容はこう。
規約を破った場合拘束し、以後、身柄は雄英から公安預かりとする、と。
私の存在を危険視する公安には、職場体験は良いタイミングだったんだ。
「異論は、ありません」
その方がいいのかもしれないと、思ってしまった。
あの時、飯田が殺されそうになった瞬間。
彼らの近くにいてはダメなんだと思った。
私の手首に手錠がかけられる瞬間。
声が上がった。
「音葉は、個性使ってませんよ」
焦凍が、そういった。
公安を睨むように、私と彼らとの間に立ちふさがる。
「……なに?」
「ほっ本当です!音葉さんは、刀だけを使ってヒーロー殺しと戦ってました!!」
立ち上がれない緑谷は、ベッドから落ちそうなくらい身を乗り出して叫んでいる。
…なんで?
分かってるのに。あの時ステインが動きを止めたのは、確かに私の個性だ。
焦凍は言葉を聞いていたし、緑谷と飯田は戦っていたから感じていたはず。
「僕は、彼女が駆けつけてくれたから救かった。間違いなく、彼女は剣術のみで戦っていました」
「うそ…」
思わず漏れたそれは、公安の耳には届かなかった。
真美とかいう男に掴まれた腕を、焦凍が振りほどいて手を握られる。
そこから伝わる体温に涙が出そうになった。
「……」
3人を見比べた真美が、今度はプロヒーローと署長に視線を移す。
彼らも、首を横に振った。
「私達は戦いを見ていませんし、マニュアルも彼女が個性を使うところは見ていないと言っていましたよ」
署長の言葉に、思わず顔が歪む。
マニュアルに関しては私の個性を知らないはずだ。
一瞬動きが止まっただけなんて、気づきようがないと思う。
「……どうなんですか、音葉言」
冷たい目が、私に帰ってくる。
ぎゅっと強く握られた手が、少し痛い。
全員の視線が集まる中、必死に、言葉を紡いだ。
「…使って、ません……私、個性を、使いませんでした」