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(主人公視点)
眼下で炎が赤く輝き、瞬時に氷が広がる。
「緑谷、こういうのはもっと詳しく書くべきだ。遅くなっちまっただろ」
轟焦凍のご登場だ。
職場体験3日目。
物語通りに脳無は現れ、緑谷からの連絡を受けて焦凍が走り出した。
その後ろを追うふりをして、見られないように待っていた白に跨り上空に上がる。
USJの時と同じだ。
私はただ見守るだけ。
路地裏に接しているビルの屋上から下を覗き込むと、ちょうど焦凍が現れたところだった。
緑谷、飯田、マニュアルの三人はステインの個性で動けない。
「ものの10分で終わるはず。そしたらこのまま離れて、エンデヴァーに合流するよ」
同じく隣で下を覗き込む人型の白が頷く。
わざわざ下に降りる必要はないんだ。
これは3人が片を付ける事件だから。
「数秒意味を考えたよ。一括送信で位置情報だけ送ってきたから意味なくそういうことする奴じゃねえからな」
焦凍の氷が地面に広がり、そのまま倒れこむ全員を回収していく。
そういえば携帯もらったけど、みんなと交換してないや。
人使とは交換したけど。
なんて考えながら、ぼーっと眼下を見る。
「こいつらは殺させねえぞ、ヒーロー殺し」
うん、かっこいい。
コスチュームも初期とだいぶ変わったもんね。
戦いが進んでいく。
幾度となく上がる炎と氷に綺麗だな、なんて頭の片隅で思った。
遠くて小さな会話は聞こえないけど、緑谷が動き出す。
ステインの個性が解けて、2対1だ。
まあ3対1でもぎりぎりなんだけどね。
武術をやっている身としては、ステインの強さは見ているだけでもわかる。
というか彼の暗殺術自体が我流だから、予想しずらいんだよね。
飯田の体が震えている。
さあ気づけ、飯田天哉。
君のなりたい、ヒーローを。
「やめて欲しけりゃ立て!受け売りだけど…なりてえもん、ちゃんと見ろ!!」
少し違う言葉に、思わず顔を顰めた。
あれは私が体育祭で彼に言った言葉だ。
なりたいもん、か。
もう終わる。これで飯田が動けるようになったら、すぐだ。
すぐ、終わる。
身を翻そうとした瞬間、白が焦ったように私を呼び止めた。
「…え」
思わず目を見張った。
いつの間にか、焦凍が倒れている。
え、なんで?どうして…
「ステインが彼の血のついたナイフを手にしていたようです。それで個性で…」
刀を舐めながらステインが飯田へと足を進める。
まだ、まだ解けないの…っっ
「言様!」
天を仰ぎ見る。
「やめろぉぉぉおおお!!!」
路地裏に響く緑谷の叫び声。
耳をつんざくその声に、ぐっと拳を握りこんだ。
やっぱり、私のせいで。
屋上から飛び降りる。
背負った刀を鞘から抜きながら、刀が飯田に突き刺さる瞬間叫ぶ。
「ステイン!!!!!」
気配を感じ取ったステインが飯田から瞬時に離れる。
牽制とばかりに刀で薙ぎ払う。
「「「音葉(さん/くん)!?!?」」」
「ごめんね、遅くなった」
驚愕の表情で私を見る三人に、飯田の傷を確認しながらにっこりと微笑む。
遅くなったわけじゃないけど。
「はあ、また邪魔か」
態勢を整えながらステインの血走った目がこちらを睨む。
ギザギザ刃の二本の剣を構えるステインに、私も構えて半歩左足を下げた。
ふわりと白が着地したのを感じて、とりあえず4人のことは任せることにsする。
不意に白のことを見たステインの目が細まる。
「貴様は、あの時の」
「あの時…?」
思わず舌打ちが出てしまう。
ステインが白を知っている、あの時とはあの時しかない。
「なぜあの時、インゲニウムを見殺しにした」
後ろで息を飲む気配を感じる。
緑谷か、焦凍か、それとも飯田か。
分からない。けど、振り向きたくなかった。
「言様」
申し訳なさそうな顔をしている白が容易に想像できて、思わず笑ってしまう。
白のせいじゃない。
これは私への罰だ。
「言…ああ、お前が音葉言か」
言い当てられた名に、頭の中がぐちゃぐちゃになる。
私だってこいつと面識はない。
なんだっていうのよ。想定外の、ことばかり。
「知っているぞ。貴様、未来を知っているらしいな」
思わずギリリと唇を噛みしめる。
こんなところで、彼らの前で言わないでよね。
一歩ずつステインが迫ってくる。
「ステイン、貴方に譲れない大義があるように、私にもあるの。譲れない、未来が」
背中から鞘を外し、刀を納める。
きっともうじきステインの個性は解ける。
それまでの時間稼ぎだ。
「そのための礎となってもらう…あなたには」
抜刀の姿勢のまま、深く腰を沈める。
距離を取ればいい。
良い意味でも悪い意味でも、ステインの存在は大きい。
彼のお陰で悪意は固まる。
闇が強ければ、それに呼応して光もまた強くなる。
強くなる、光のために。
「だから私は、貴方を斬る」
「良い目だっっ」
一気に間合いを詰めてくるステインを見ながら、呼吸を整える。
大丈夫。私の抜刀は、全てを薙ぎ払う。
「ハッッッ」
全身の力を込めて刀を抜き去る。
生じた風が刃となり、両端の壁を抉りながらステインに迫っていく。
(実は自分でもびっくり。さすがヒロアカの世界)
「くっっっ」
寸前のところで避けた懐に入り込み、立て続けに刀を振るう。
手を止めるな。止めたら、やられるっ!
視界の隅で3人が動くのが見える。
少しの気の緩み。でもそれを、ステインは見逃さなかった。
「がっっっっ」
腹部に広がる熱に、思わず刀を握る手が緩む。
油断したっっ。
「貴様の剣筋は型通りで読みやすい。なあ音葉言、なぜ個性を使わない」
「かんけ、い、ないでしょ」
視界が真っ赤に染まっていく。
ぐりっと抉られる腹部に、息が詰まる。
「レシプロ」
微かに聞こえた声に、息を吐いた。
大丈夫だ。
彼が来た。
「バースト!!!!!」
「ああっっっっ」
飯田の蹴りを私から引き抜いた刀で防ぐ。
そのせいで、支えがなくなって崩れ落ちた。
「言様っっ!!」
距離を取ったステインを炎と氷で牽制しながら、緑谷と白が駆け寄ってくる。
焦凍はまだ動けないみたい。
「すまない、音葉君…轟君も緑谷君も、関係のないことで」
白に抱きかかえられながら飯田の顔を見上げる。
場違いにも、眼鏡かけてないのもいいなあなんて思ってしまう。
「またそんなことを」
「だからもう3人にこれ以上、血を流させるわけにはいかない」
もう飯田は大丈夫。
一度手折られた心は強い意思を持つ。
緑谷と、同じだ。
「音葉、傷は」
動けるようになった焦凍が駆け寄ってくる。
飯田と緑谷両方を警戒しながらもステインは焦り始めていた。
「ん、ちょっと出血多いけど大丈夫」
白が圧迫止血してくれているお陰で新しく流れ出る血は多くない。
自分にも個性が使えない。
使っては、ダメだから。
「もうちょっと我慢しろ。すぐにプロが現着するから」
そう言って焦凍はステインに向き直る。
「言う通りさ。僕にヒーローを名乗る資格など…ない。それでも折れるわけにはいかない……俺が折れればインゲニウムは死んでしまう」
「…論外」
炎が闇夜を照らしている。
動けない体で、視線だけを巡らせる。
ヒーローを目指す理由は人それぞれだ。
憧れに近付くため、憧れになるため、救うため、モテたいため、お金のため、賞賛のため。
どれであったとしても、そんな理由でとは私は思わない。
だってどんな理由であったとしても、自分の身を犠牲にして他者を救ける行為は簡単なことじゃない。
ヒーローの大前提・自己犠牲。
それをする者を、簡単に否定していいもんじゃないんだ。
「だからステイン、貴方が間違っているとは思わない」
目の前で繰り広げられる文字通りの死闘を、目を細めて見つめる。
指先が冷たい。
それでも、見届けないといけない。
光も闇も表裏一体。
ステインも、赤黒血染も、何か一つでも違えば最高のヒーローになっていたかもしれない。
「それでも、貴方の求める未来は、私が知る未来じゃない」
飯田と緑谷が二人で飛び出していく。
ちらりと緑谷を見るステインを、見逃しはしなかった。
仕方ない。この時点で全員の拘束が解けている事実を彼は失念するはずがない。
白に抱えられながら、焦凍の隣に並んだ。
「少しだけ、力を貸すね」
「音葉!?」
二人の攻撃が入る、ほんの一瞬。動きを止められればいい。
それだけで、後は3人がなんとかしてくれる。
『赤黒血染 止まれ』
吐血と同時にステインの動きがビタリと止まる。
次の瞬間、飯田と緑谷の一撃が決まった。
「おまえを倒そう!今度は…!犯罪者としてっっ!!」
フェードアウトしていく視界の中で、氷が舞った。