WORK EXPERIENCE
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
(主人公視点)
その日の夜。
保須市エンデヴァー御用達のホテルの一室。
物凄い豪華なホテル。
なのに焦凍はさも当然のように入っていくし。
さすがナンバーツー。
保須についてからは既に時間が遅かったこともあり、私と焦凍はホテルに直行だった。
シャワーを浴び終わってベッドに腰かける。
うわ、ふかふか。
「白…頼みたいことあるんだけど」
呟いた瞬間、猫型の白が現れる。
少なくとも明後日までは何事もないはず。
今回のこともあらかた白には話してある。
その上で
「一応町の見回りをお願いしてもいい?明後日まではステインも行動起こさないとは思うんだけど」
「言様は…その、大丈夫ですか?」
私が眠れないこと言っているんだ。
白の心配そうな瞳に苦笑した。
「ごめんね、心配かけて。大丈夫だよ。ちょっとは寝るから」
ほんの短時間。倒れない程度に睡眠が取れればいい。
顔色なんて化粧でいくらでも隠せるからね。
「無理、しないでくださいね」
言葉を残して白が窓から出ていく。
真っ白な猫が空を駆けていくのを見送って、溜息をついた。
(想定外のこと、起きなければいいんだけど)
出現する脳無は3体。死柄木も黒霧も直接は手を出さない。
ステインが最初に狙うのはヒーロー・マニュアル。
職場体験3日目の夕方。
---コンコン---
ノック音が部屋に響く。
誰だろう?
またエンデヴァーが嫌味でもいいに来たか。
内心げんなりしながらも扉を開けて、目の前のオッドアイの瞳を見返した。
「おん?轟君?」
ジャージ姿の焦凍だった。
なんだろう?
「……お前、やっぱり寝れてねえんだな」
開口一番のセリフに思わず首を傾げながらも思い出す。
あ、お風呂入ったんだった。
いつもはファンデーションで隠してる隈も青白い顔も、完璧に見られていた。
「あー、えー、うん」
さすがに証拠がある以上誤魔化せない。
そこまで彼はバカじゃないと思うし。
ずかずかと部屋に入ってくる焦凍は、そのまま私の部屋の椅子に座った。
おん?君、女の子の部屋に許可もなく入ってくるのはいかがなものかと思うぞ?
「ど、どうしたの?明日も早いんだから寝た方がいいんじゃない?」
というか何しにきたんだ。
私の睡眠不足は君には関係なかろう。
「…体育祭で何があったんだ」
少し聞きずらそうに、でもはっきりとした口調で聞く。
その目は真っすぐに私を見ている。
「轟君には関係ないこ「焦凍だ」」
沈黙。
見つめあいという名の睨みあい。
「…はあ、焦凍君には関係ないよ。私のことだから」
状況はあれだけど、初ヒーロー科男子の名前呼びゲットです。
さっさと出て行ってと少し冷たく突き放す。
「人の家のことにはずかずか踏み込んでくるくせに、自分の中に踏み込まれるのは怖いのか」
ほんっと、ヒーローってお節介。
でもだからこそ、焦凍も間違いなくヒーローだ。
手を握られて、オッドアイの瞳で見上げられる。
「俺、救けて欲しいと思えるヒーローの目に、なれてるか?」
---少なくとも私は、そんな目をしているヒーローに救けてほしくはないな---
体育祭の時に彼に言った言葉。
あの頃とは全く別人のその目を見つめた。
優しい、綺麗な青とグレーの瞳。
「……夢をね、見るの」
ぽつりと、言葉を紡いでいた。
「凄く、嫌な夢で、思い出したくないことなのに、無理矢理記憶の奥底から引きずり出されるの」
手が震える。
慣れたはずなのに。あれが私にとっての日常だったのに。
この世界に来て、温かいものに、眩しいものにたくさん触れて、光に慣れてしまって、怖くなった。
もしこれが夢で、夢が現実だったらどうしようって。
「寝るのが怖いの」
それを言った瞬間、体がふわりと浮く。
極々自然な流れのように焦凍にお姫様抱っこされていた。
予想外の行動に固まっていると、そのまま優しくベッドに降ろされる。
なんか、エロいな。
「俺がそばにいる。嫌な夢なんか見ない。だから、安心して寝ろ」
ぎゅっと手を握られた。
なんの確証もない言葉。
だけど、それが今の私に嘘のように染み込んでいく。
不思議と、大丈夫なんじゃないかって思えて、急激に襲ってくる眠気に逆らいながら笑った。
「ありがとう、焦凍君」
(轟視点)
すうすうと寝息を立てる音葉。
その手をしっかりと握りながら親父の言葉を思い出す。
---あれは指名したわけじゃない。公安から言われて仕方なくだ。不必要な接触は避けろよ。あれはお前に必要のないものだ---
ぎりっと反対の手を握りしめる。
相変わらずむかつく奴だ。
音葉が俺に不必要?
払いのけたはずの彼女の言葉は、それでもずっと心に残っていた。
緑谷との試合で気づいたんだ。
俺にとっての憧れのヒーローの目を。
なりたいもん、ちゃんと見えてなかった。
彼女が言ってくれなかったら、思い出せてなかったかもしれない。
それほど、彼女の言葉は俺を救ってくれた。
俺が俺なんだと、言ってくれたのは彼女が初めてだ。
思えば自己紹介の時も、親父の名前を出したりしなかった。
ただの轟焦凍として、見てくれてたんだ。
簡単なことだった。
簡単だったはずなのに、音葉と緑谷に言われるまで気づきもしなかった。
俺だって、ヒーローになるんだ。
目の前の女の子一人くらい救えなくて、なにがヒーローだ。
体育祭で彼女になにがあったのかは分からない。
でも青白い顔を見た時に、放っておけないと思った。
ここで放ったら、彼女には近づけないと。
顔にかかる前髪を払ってやる。
まだ青白い顔は、少しだが血色がよくなった気がする。
長い睫毛にきめ細かい肌。
「俺はお前のヒーローになりたい」
俺を救ってくれたお前を、俺は救いたい。