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(主人公視点)
「おい音葉、これ」
相澤さんから投げ渡されたアタッシュケースと長い袋。
どちらにも「21」と数字が書いてある。
「これ、まさか」
「そのまさかだ。明日から職場体験だからな」
途中からの編入ということで申請が遅かったそれは、私のヒーローコスチュームだ。
ただ「和服」としか書かなかったそれが、どんなふうになっているのか気になる。
開けてもいいか確認して、なんだったら着替えて来いといわれたので更衣室へ向かった。
「……へえ」
ケースを開けてすぐにあるメモ帳。
そこには綺麗な字で“いろいろ追加しました!だってこっちの方がかっこいいから!”と書いてある。
そうだ。緑谷の時もそうだけど、コスチューム制作会社には発目みたいなのがいるんだよね。
相澤さんが言うに根津さんも多少の変更付け加えたらしいけど。
取り出してみて納得した。
うん、和服は和服なんだけど…
上下黒の袴に、赤いキラキラした帯。
下は超ミニスカート、袖の部分は邪魔にならないように通常のものより細くなっている。
膝上までのニーハイに、こげ茶の編み上げブーツ。もちろんスパッツ。
髪を結ぶ用の組紐まである。
言葉を使うからか、口元を隠す用の黒いマスク。これがまあかっこいい。しかも呼吸しやすいようにフィルターみたいなのついてるし。優しさ…
そして気になる長い袋。
こちらには刀が入ってた。
赤い持ち手の綺麗な打刀。
「相澤さん、これ、私に渡してもいいですか」
着替えて相澤さんの元に戻るなり長い袋を差し出す。
これは確実な武器だ。
まだ監視対象の私に渡してもいいものなのか…。
「それは校長からだ。お前の個性は攻撃には向いてないからな。対敵した時に武器がなにもないんじゃ話しにならないだとよ」
これは信頼の証、と思ってもいいのだろうか。
確認したけど確かに真剣だった。摸造刀とかじゃない。
人を斬れる、刀だ。
「根津さんの信頼に応えるためにも、この刀に誓います。決して悪のために振るわないと」
そうしてくれ、と帰ってきた言葉に頷く。
しかし合理的を重んじる相澤さんなら、真っ先に反対しそうなんだけどな。
刀なんて分かりやすい武器を、私に持たせること。
でもこれで何かあれば戦える。
私が手を出すようなことにならなければ、いいのだけれど…
「真剣は久しぶりに扱うので、慣れるためにも少し体育館お借りしますね」
(相澤視点)
正直な話、校長が音葉に武器を与えるという話をした時、時期尚早なんじゃないかって思った。
ただUSJ、体育祭でわかったが、彼女の個性は攻撃向きじゃない。
自分より格上、そして強い言葉であればあるほど自分自身に明確な負傷として返ってくるそれは、諸刃の剣だ。
俺や生徒を救けたこと、体育祭では負傷した生徒の傷を治したこと、さらには敵から狙われたことを踏まえて、校内で彼女を敵だと疑っているものはもういない。
ただ彼女を書類でしか見ていない公安は違う。
いまだに彼女のことを危険視しているし、いつ敵に寝返るか分からないだそうだ。
今回の職場体験についてもかなり渋っていたが、校長が頼み込み、かつエンデヴァーならということで承認された。
音葉は見たはずだ。
記入書類の最後にあった、公安からの忠告文。
それを読んだ時、少し目を細めた彼女の表情が気になったがすぐにサインをしていた。
あれは職場体験中の個性使用禁止承諾書だ。
1週間の間、音葉は“言霊”を使えない。
白に関しては攻撃能力がないということでギリギリ使用許可が出ていた。
何もないといいが。
「さて、そろそろ帰るか」
明日から職場体験が始まる。
緑谷は山梨のグラントリノ、轟は音葉と同じエンデヴァー、そして飯田は保須のマニュアルか。
飯田に関しては思うところもあったが、本人の強い希望と先方からの指名もあるから強くはいえなかった。
バカな真似はするなよ…
「……あいつ、まだやってんのか」
ふと帰りがけに体育館の明かりがついているのが見える。
今日は前日ということもあり、心操との特訓はなかったはずだ。
ということは、あれは…
真剣の訓練をするとは言っていたが、あれから2時間だぞ。
とっくに帰ったもんだと思ってた。
「おい、いつまで」
扉を開けて中を覗き込んで、言葉を失った。
体育館の中心にいるのは間違いなく音葉だ。
傍には白の姿もある。
光る汗。真剣な眼差し。光を反射する刀。
そして、動きに合わせてふわりと揺れるコスチューム。
舞うように刀を振るう彼女が、綺麗だと思った。
いつもの年相応のあどけなさの残る表情じゃない。
前を見据えた彼女には、大人の妖艶ささえあった。
「ふう…」
かちん、と刀を鞘にしまう動作さえ、身動きがとれなくなるほど美しかった。
感じたことのない気持ちに、動揺した。
「何見てるんですか」
離れたところにいたはずの白が隣にいて、はっとする。
こいつは音もなく移動するな。
「…何も見てねえよ。明日から職場体験なんだから、早く帰るぞ」
そう言って身を翻そうとして、足が止まった。
白が俺の前に立ちふさがったからだ。
「怪我、治ったんですよね」
いつも音葉に接する態度とは違う。
明らかに嫌悪感を出す彼に、思わず顔を顰める。
なんでこいつはこんなに俺のことを嫌ってんだ?
「おかげ様で」
「もう怪我しないでくださいよ、あなたは」
だから何だってんだ。
こっちは怪我したくてしてるわけじゃねえ。
「何が言いたいんだ。俺のことを心配していってるわけじゃないだろ」
出会った時から、こいつには嫌われてる。
分かり切っていることだったが、いわれもない嫌悪は気分が悪い。
「言様は、あなたのためなら自分の身など顧みない」
USJでのことがある。
校長から聞いたが、音葉は自分の身を犠牲にして俺を治療していた。
「腹は立ちますが言様にとって、あなたは光なんだ。あの方のためにも、陰らないでくださいよ」
それだけ言い残して白は音葉の元へ歩いて行った。
なんだって音葉がそこまで俺のことを気にするのは全く分からん。
ちっと舌打ちをして、こちらに気づいた彼女に手を上げた。