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これはとある女の子のお話し。
音葉家は指折りの名家だ。
代々日本を代表する和食の料理人を輩出してきた。
直系の子供たちは小さい頃から道を定められ、みなその通りに歩いてきた。
長女として生まれた女の子。
蝶よ花よと育てられた彼女は、とても幸せだった。
優しい父、立派な兄、大好きな母。
何十人といるお手伝いさんや、父の弟子たちもみんな優しかった。
“全ての和に通じるべし”
兄も彼女も小さい頃から多くの習い事をさせられてきた。
二人とも才能に恵まれた。
何より彼女は楽しかった。やればやるほど身についたし、父も母も褒めてくれた。
全力で走り続け、みんなを笑顔にするという自身の夢を追い求めた。
しかし彼女は優秀すぎた。
10歳になる頃には、彼女は5つ上の兄を超えてしまっていたのだ。
彼より料理人として才能に優れ、武道においても右に出る者はいなかった。
彼女は褒められると思った。
“凄い”
“偉い”
“頑張ったね”
しかし、その時を境に父と兄が自分を見る目が変わった。
音葉家の家督を継ぐのは、長男である兄だ。
兄が妹よりも劣っているなんて、恥もいいところである。
父は叱責した。
妹である彼女を。
“お前が兄さんの才を奪ったのだ!”
“この盗人め”
“一族の恥さらしが!!”
幼い少女の瞳がひび割れる。
優しい父も、立派な兄も、そこにはいなかった。
外に出ることも許されず、いないものとして扱われた。
唯一母だけは味方をしてくれた。
娘を救おうと奔走する母は、父の機嫌を損ねた。
自分のせいで殴られる母を見た、彼女の心は壊れた。
彼女は父に懇願した。
“なんでも言うことを聞きます!だからお母さんを殴らないで!!”
それから彼女は父と兄の人形になった。
兄の代わりに料理を作り、どんなに素晴らしいものができても兄の手柄になった。
武道ではバレないように負け続けた。
年を重ねるごとに美しくなっていく彼女に縁談は絶えず、いつも父の隣で笑った。
次第に彼女の心は曇っていき、全力を出すことも、夢を思い描くこともなくなった。
ただ、死んだように生きていた。
彼女が18になったころ、兄が自分を見る目が変わった。
その熱を帯びた視線に身震いした。
曲がりなりにも兄妹である。まさか兄がと、首を横に振った。
けれど、気のせいではなかった。
18歳の冬、彼女は実の兄に犯された。
縛り上げられ、猿ぐつわをかまされ、金切り声を上げながら、涙を流しながら。
それからはほぼ毎日のようにその時が訪れる。
抵抗すれば殴られる。
彼女は諦め、心を閉ざし、ただ耐えた。
父は汚いものを見るように彼女を見て、兄には笑顔を向けた。
そんな生活が2年続いた冬。
唯一の味方であった母が死んだ。
精神の病だったと聞かされた。
24歳で父の言いなりになって、婿を取った。
全く好みではない男は、彼女のことを至極気に入っていた。
兄と、男にただ犯される日々が続いた。
二人に同時に犯されることもあった。
兄は、そのために婿入りを提案したのだ。妹を、人形を手放したくなかったから。
男が連れて来た中に、唯一自分の身を案じてくれる人がいた。
自分とそう年の変わらない“佐久間”という彼女は、気を紛らわせようといろいろなものを持ってきてくれた。
その中の一つの漫画が彼女の心を捉えた。
子供たちが全力で夢を追い求め、人を救わんとする。
“僕のヒーローアカデミア”
小さな頃の全力で走り続け、真っすぐに夢を追っていた自分と重なった。
もう汚いこの身で、思い描くことはできないそれが眩しかった。
“相澤消太”
彼が、一番好きだった。
子供たちの本質を見て、ひとりひとりと向き合って、守るために、救うために全力で命を燃やす彼に憧れた。
大人として、子供たちが背負うものを少しでも軽くしようと奔走する彼に。
もし彼が本当にいたのなら、今の私も救ってくれるんじゃないかと思っていた。
それが虚像だと分かっていても、彼を思っているときだけは胸が暖かかった。
恋焦がれ、憧れた。
救われないまま6年が経ち、彼女の心の中は真っ暗な闇のようだった。
殺して、死なせて、壊して、怖い、憎い、死ねばいいのに…
なんで誰も、私を救ってくれないの。
ふらふらとあてもなく外に出て、ふと視界の隅を横切ったものに目を奪われた。
眩しいくらい真っ白な猫。あの人が個性を使った時と同じ、赤い瞳。
トラックにひかれそうになっていた。
考えるより先に体が動いていた。
私も、せめてあの人達みたいに…っっ
音葉言
人形として生きた30年が幕を閉じた瞬間だった。