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(主人公視点)
決勝戦。
そういえば初めて来たなと思いながら、A組の席に行った。
おー久しぶり!とかお疲れ様!とか女神さまぁ、なんて声をかけられながら緑谷の隣に座った。(女神と呼んだ峰田は梅雨ちゃんが引っぱたいてた)
痛々しい怪我が目に入ったけど、わざと触れなかった。
これは、彼にとって戒めだから。
『さあいよいよラスト!雄英1年の頂点がここで決まる!!決勝戦 轟対爆豪!!』
マイクの声が高々と響く。
なんだかんだ直に試合を見るのは、一回戦以来だ。
『今!スタート!!!』
敵顔負けの表情をした爆豪と、迷いの見える表情の轟がフィールドに立っている。
隣の緑谷の解説(?)を聞きながら、私は見入っていた。
思えば個性を使用した戦いをちゃんと見るのは初めてだ。
轟の氷も、爆豪の爆破も、綺麗で、眩しくて、真っすぐで目を細めた。
(もう年かな。若い子たちの熱気にあてられたかも)
流れそうになる涙を、バレないようにするのに必死だった。
どうやら少し涙もろくなっているらしい。
いけないいけない。笑ってなきゃ。
「てめえ!虚仮にするのも大概にしろよ!」
私はゆっくりと席を立つ。
みんな試合に集中してて気づかれないのがありがたい。
「ぶっ殺すぞ!俺がとんのは完膚なきまでの1位なんだよ!舐めプのクソカスに勝っても取れねえんだよ!」
爆豪の怒号が、私を追いかけてくる。
「デクより上に行かねえと意味ねえんだよ!!勝つつもりもねえなら俺の前に立つな!!」
---俺の前に立つんじゃない!---
「何でここに立っとんだ、クソが!!!!!」
---見下して、楽しいか!ざまあみろって思ってんのか!---
無意識のうちに握りしめた拳を壁に叩きつけていた。
「負けるな!!頑張れ!!!!」
---言、いいのよ。頑張らなくて。---
「私だって…ッッッ」
漏れた声に、ハッとした。
その先の言葉を、無理矢理に飲み込んで私は歩き出す。
『以上で全ての競技が終了!今年度雄英体育祭1年優勝は、A組爆豪勝己!!!!』
そして体育祭は幕を閉じた。
成長と、葛藤と、苛立ちと、少しの憂鬱を残して。
(相澤視点)
その日の夜。
自室で体育祭のVを見ながら、改めて各生徒の考察をつける。
音葉に関してはいろいろとあったが、登下校を俺と共にすることで他に特に制限は設けないことになった。
(全く、今年のクラスは問題児が多すぎる)
個性の制御のできていない緑谷、感情の制御ができない爆豪、個性にかまけて攻撃が単調な轟、そして兄を敵にやられた飯田、敵に狙われる音葉。
くそ、頭が痛くなる。
全身の包帯は、今日の放課後に全部取れた。
元々ばあさんが大げさなだけなんだがな。
精神攻撃をされたことで心配していた音葉は、驚くくらいにいつも通りだった。
あの時、あんなに精神を乱された本人だとは思えないほどに。
(見た目が15歳なだけで中身は俺と同い年だって話だが、変な感じだな)
どうしても見た目通りの年齢で扱っちまう。
視覚から入る人間にとっては、仕方ねえことなのかもしらんが。
だが体育祭までの2週間足らずで、他と一歩距離を取っていた彼女に友人と呼べる人間ができたことは幸いだった。
C組の心操。
体育祭前に彼女が気にしろと言ってきた生徒だ。
あいつの個性は確かに強い。
この後の訓練次第では、かなりの逸材になるだろう。
ふと自分の学生時代と重なって苦笑した。
これも、彼女はわかってたんだろうか。
(……コーヒーでもいれるか)
キッチンも、音葉が来る前に比べるとだいぶ生活感が出てきた。
冷蔵庫なんて彼女が作った常備菜が綺麗に並んでいるくらいだ。
確かに料理人と自称した彼女の作る物は、なんでも美味しかった。
お陰で少しゼリー飲料だけでは物足りなくなったくらいだ。
(思えば、あいつのこと何も知らないんだな)
一緒に暮らしていても会話は殆どない。
ご飯を食べれば俺も音葉もすぐ部屋に入ってしまうからだ。
今日だってもうリビングに彼女の姿はない。
(そういえば白もいないな)
家ではだいたい音葉に付き従うように足元をちょろちょろする猫の姿がない。
猫が家にいないなんて普通なのだが、あいつは違う。
音葉から離れるとは思えなかったが。
(まあ俺が気にすることじゃないか)
コーヒー片手に部屋に戻ろうとして、不意に足が止まる。
「……んあ……ぐっ」
音葉の部屋から微かにうめき声が聞こえたからだ。
もう日付も変わっている。
今日は疲れただろうしもう寝てると思ったんだがな。
---コンコン---
「おい、音葉、起きてるのか」
ノックをして声をかけるが返事はない。
そのかわりに、苦しそうなうめき声だけが俺の耳に届く。
「おい、大丈夫か……入るぞ」
女の部屋に入るなんてどうかと思ったが、気になった。
一応断ってからゆっくりと部屋の扉を開ける。
真っ暗な室内。
月明りだけが差す部屋のベッドの上に、音葉はいた。
コーヒーを置いてから歩み寄る。
「おい……音葉?」
「……めん、なさい」
苦しそうに顔を歪めて、何かを謝る彼女がいた。
顔は真っ白で、呼吸が少し荒い。
額には、じっとりと汗がにじんでいる。
「ちっ」
放っておくことはできなかった。
その小さい肩を掴んで揺らす。
触れた彼女の体が、異様に冷たくて驚いた。
何度か声をかけると、涙が流れた後のある目がゆっくりと開かれて、そして怯えの色に染まる。
「いやぁぁぁぁああああ!!」
かすれた悲鳴が響いた。
首を横に振りながら、俺の手を振りほどこうと暴れる彼女の瞳の焦点は定まっていない。
俺じゃない、誰かを見ているような。
「おい!落ち着け!音葉!!」
暴れても、手を離さなかった。
離したく、なかった。
「いや、やだ、お兄様…いやぁ」
お兄様?誰のことだ?
元の世界の、兄か?
それに、なぜこんなにも怯える?
「っっくそっ」
埒が明かなくて、俺は音葉を抱きしめた。
すっぽりと収まった彼女の小さな体が、少しずつ暴れることをやめる。
「音葉、大丈夫だ。俺だ」
彼女の上下している肩が、呼吸が落ち着くのを感じる。
抱きしめた体に、少しずつ体温が戻っていく。
「あい、ざわ…さん」
目線を落とすと、腕の中で驚いたように見開かれる目と視線が合う。
気まずいことこの上ないが、落ち着いたならそれでいい。
溜息をついて小さな体を解放しようとすると、ぎゅっと服を掴まれた。
「……もう少し、このままでも……いいですか」
また暴れられても困る。
少しだけだからなと言い、頭をぽんぽんと撫でた。
思えば、音葉が要望を口にするのはこれが初めてかもしれない。
「相澤さんは、いい匂いがしますね」
「加齢臭か」
「加齢臭がこんないい匂いなら、世のおじさん達は娘に嫌がられませんよ」
クスクスと笑う彼女がもういつもの様子に戻っていて、ほっと息をついた。
それと同時に、自分が思っている以上に彼女に肩入れしていることに驚いた。
ただの監視対象のはず。
身元保証人を引き受けたのも、その方が合理的だからだ。
不意に思い出す。
校長から聞いた、USJでのこと。
---君のことが、大好きなんだと言っていたよ---
彼女が言ったと聞いた。
俺の怪我を治しながら。血を吐きながら。俺のために自分を傷つけながら。
「なあ音葉」
無意識だった。
ただ気になったから。
「お前、俺のことが好きなのか?」
脈絡もなにもない。
傍から聞いたら、とんだ自意識過剰男だ。
ぽけーっとする音葉にまずったかと思ったが、一瞬で真っ赤になる顔にそうじゃなかったと確信した。
「え!?はああ!?!?なんで!え!?だってあの時、相澤さん意識なかったし……あっ」
思わず頬が緩む。
口を滑らせたとわかったんだろう。
気まずそうに視線を逸らされる。
「好きとかじゃなくて、推しだし…」
「(推し?)まあ好意はありがたく受け取っとくよ」
子供にするようにわしゃわしゃと頭を撫でると、「子供扱いしないでもらえます!?中身は同い年なんですけど!」とお決まりのセリフが返ってくる。
見た目は15歳だ。
自分の半分ほどの少女に手を出すほど飢えちゃいない。
そういうと彼女はまた顔を真っ赤にした。
彼女が魘されていた原因は、聞かなった。