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(主人公視点)
引き留めるブラドキングを大丈夫だと突っぱね、私は会場へと歩いていた。
制服が破れてしまったので、ジャージに着替えて左手には人使のジャージ。
(返さないとな)
どうやらこれから決勝戦らしい。
あーあ、お茶子ちゃんの試合見たかったなあ。
というか相澤さん推しとして、あの名言を聞けなかったのはかなり辛い。
生で聞きたかった。
“今遊んでるっつったのプロか?何年目だ”ってやつ。あそこ好きなのになぁ。
「どうでもいいんだよ!!」
ふと前方から聞こえた聞き覚えのある怒号に足を止める。
そこには控室2の看板。
おおう。これは拗らせツートップじゃないか。
いや、この時点でもう轟は拗らせじゃないのか?
うむ。本日は触らぬ爆豪に祟りなしデーだから、ここはこそっと
「あ!言ちゃん!!!」
お茶子ちゃんんんんんん!?なんでこんなところに!?
あなた観覧席にいるはずでしょうに!
「お茶子ちゃん!シー!!」
慌てて人差し指を口あてるが、時すでに遅し。
その声を聞きつけたツートップが控室からこちらを見ている。
「あれ?ジャージ着てるん?制服どうしたん??」
「あー、ちょっと汚しちゃってね」
あははと笑ってごまかす。
さすがにびりびりに破かれたなんて言えないもんね。
「音葉!!!!!!!!!!」
物凄い形相でずかずかとこっちに爆豪が歩いてくる。
いや、ほんっとに怖いな!
「てめえなんで黙ってやがった!!」
胸倉を掴まれて思いっきり睨まれる。
これは体育祭不参加のことだと思うけど、聞かれなかったからなあ。
そう答えると、さらに目は吊り上がり左手をぱちぱちさせる。
にへらと笑うと、不意に胸元を掴む腕が緩んだ。
不思議に思って爆豪を見上げると、さっきまでの不機嫌そうな顔はなくて、ぎゅっと眉間に皺が寄せられている。
「爆豪?どうし「てめえ、何があった」」
思わず言葉に詰まる。
爆豪という男は、激情型のように見えて酷く冷静な男なんだ。
何がと言いながらまた笑うと、大きな舌打ちをしてどんと肩を押された。
「俺の前で、んな笑い方してんじゃねぇぞ。気持ち悪りい」
そのままどかどかと歩いて行ってしまう。
心配するお茶子ちゃんに笑いかけながら思う。
(野生の本能というか、爆豪って本当に人の表情に敏感だよね)
上手く笑えてる自信はあった。
先ほどのことを、気にしてないと言ったら嘘になる。
あれは、私の途方もない罪で、罰だから。
「音葉」
爆豪の背中を見送っていたら、いつの間にか横に轟がいた。
びっくりするなあ。
「さっきは、悪かった。お前に、緑谷に言われたこと考えてみたんだ。」
轟の目に、さっきまでの陰りはない。
ちゃんと、きっかけもらえたみたいだね。
「俺も、オールマイトみたいなヒーローになりたい。でも、俺だけが一人で納得して終わりには、できねえんだ」
分かってるよ。ちゃんと話さなきゃいけないもんね。
つきんと胸が痛んだ。
「大丈夫。まだ取り戻せるよ。君が一番初めに救け出したい人は、まだ生きてるんだから」
ツートンカラーの頭を、ぽんぽんと撫でる。
大丈夫、君は救えるよ。
私にはできなかったそれを、君ならできる。
「笑って、轟君。笑ってる人が、一番強いんだから」
---笑っていて、言---
(轟視点)
音葉言。
不思議なやつ。
大して話したこともないのに、あいつの言葉は心に染み込んでくる。
違和感なく、嫌悪感なく、ただただ自然に。
これがあいつの個性なのか?
言葉を相手の心に届かせる、みたいな。
お母さんのことも、親父とのことも知らないはずなのに、まるで全部知っているかのような言葉を投げかけてくる。
俺が、一番に救いたい人。
---笑って、轟君。笑ってる人が、一番強いんだから---
お母さんを救け出せたら、笑って話したいことがたくさんあるんだ。
その時に彼女と緑谷のことも話そう。
俺に一歩進むきっかけをくれた、この二人の話を。
不思議な彼女のことを。
(主人公視点)
「人使」
「!言!」
決勝戦が始める直前、C組の観客席に行くと頭一つ分大きい紫色は案外すぐに見つけることができた。
Tシャツ1枚でちょっと寒そうで申し訳なくなった。
「これ返しに来た。ごめんね、寒くない?」
クラスメイトの間を縫ってこちらに来てくれた人使にジャージを手渡すと、周りの目が一気に好奇の色に染まる。
「おい!心操!ジャージないの暑くて脱いだって言ってたくせに、女神様に貸してたのかよ!」
ここでもその呼び名が。
というか嘘ついたのって、私のこと聞かれないようにしてくれたのかな?
「制服汚れちゃってすぐ着替えられないから、貸してもらってたんだ。」
ねっと笑いかけると、少し顔を顰めながらも頷く。
クラスメイトからの揶揄う声に不機嫌そうに返す心操を見て、巻き込まなくて良かったと思った。
私のせいで、彼の表情に暗い影を落としたくない。
「洗濯してないけどごめんね。じゃあ、私A組の方に戻るから」
ばいばいと振ろうとした手を掴まれる。
狼狽えたような人使が、真っすぐに私を見ていた。
「大丈夫、か」
苦笑した。
そんな顔をさせてしまってごめんなさい。
「何が?全然問題なーし!」
いつもみたいに笑う。にっこりと、へらりと、気の抜けたような笑顔で。
気にしたらあいつの思う壺だ。
(心操視点)
「ねえ心操、あんたってあの子のこと好きなの?」
走っていく言の背中を見送る。
全然大丈夫じゃない笑顔で、嘘を言う彼女に返す言葉が見つからなかった。
ふとすぐそばに座っていたクラスメイトの女子に言われた言葉に、固まった。
「……は?」
何言ってんだ。
じとっと女子を睨むと、周りの男子もやれやれって顔しながら俺を見る。
なんなんだ。
「揶揄ってんならやめろよな」
若干不機嫌になりながら言うと、クラスのよく話す何人かが目を合わせて笑い出した。
「心操っておもしれー!」
「あの子のことあんな目で見ておきながら自覚してねえとか、天然記念物なんじゃねぇの?」
「自分の気持ちに鈍感すぎ!」
「つかお互い名前呼びだしな!」
なんのことか分からずポカーンとしていると、一番近くにいた女子に肩をぽんっと叩かれた。
なんだその憐みの視線は。
「じゃあさ、あの子の隣に他の男が立ってても、別に何とも思わない?」
不意に想像してしまう。
言の隣に、A組の爆発の奴とか氷の奴が立つ想像。
「……ぷっ、分かりやす!」
物凄く嫌だった。
傍から見ても、不機嫌な顔をしているらしい。
「あんな可愛い子、早くしないと他に取られちゃうよ」
「おう!そうだぞ心操!ヒーロー科の男子なんかに負けんなよ!」
「俺達普通科はお前の味方だからな!」
こんだけ言われて自覚しないほど、バカじゃなかった。
かなり遠くに見える彼女を見る。
俺は、彼女のことが好きだ。