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(主人公視点
「息子さん、どこで怪我したんですか?」
私の問いかけに先を進む女性は答えない。
それほど焦っているのかと思ったけど、どんどんと関係者以外立ち入り禁止の方へ進もうとしていて少し顔を顰めた。
「あの、息子さん…こんなところまで来たんですか?」
ほとんど人が来ない廊下。
彼女はそこにある一つの扉を指さした。
「この中に息子さんがいるんですか?」
顔を上げずに頷く彼女。
なんだろうと思いながらも扉を開けて中を覗き込む。
真っ暗で、何も見えない。
電気のスイッチを探しながら、中に一歩踏み入れた。
「ごめん、なさい」
とんっと背中を押される。
えっと思った瞬間、扉が勢いよく閉まった。
「ああ、やっときたね」
どろどろと闇が体にまとわりつく。
全身の毛穴が開いて、頭の中に警鐘が鳴り響く。
体が動かない。
途方もない悪意の塊が、私を見つめていた。
人の形をした影が、佇んでいる。
見覚えのある、形。
なんで、こんなところに…
お前は、ここにいるはずないのに。
反射的に個性を使う。
使おうと、した。
『ッッッッッッ』
声が出ない。
かすれ声も全く。
「ああ、すまないね。弔から君は声を使うと聞いたから、出なくさせてもらったよ」
どこで!?
声が出せなくなる個性なんて、こいつ持ってたか?
「そんな個性は持っていないよ。とある生徒からのプレゼントを受け取らなかったかい?」
思い出すのは経営課の子から受け取った飲み物。
まさか、あの中に何か入ってた?
「うん、それだね。遅効性の薬だったけど、ちゃんと効いてくれて良かった」
くそ。油断した。
ここに現れるはずないから。
これが、オールフォーワン。
「おや、やはり僕のことも知っているようだね」
はあ?つかなんでこいつ私が思ってることわかるの?
「それは個性だよ。君と喋りたくて、用意したんだ」
用意って…誰から奪ったんだよ。
「ほお、僕の個性についても知っているか。なおさら、君に興味がわくなあ」
ダメだ…全部読まれる。
無心、無心。
情報を渡しちゃ、いけない。
目の前にいるのはオールフォーワン本体じゃない。
影のようなそれが、人の形をかたどっているだけだ。
「おや、心が読めなくなった。必死に心を無にしているのかい?」
くつくつと笑う。
嫌な奴。ねっとりとした、その声がまるで棘のように体に絡まって刺さっていく。
「うーん、どうしたら僕と話してくれるかなあ」
ずるずると影が迫ってくる。
影が肌を這う。
ぞわぞわと鳥肌がたって、生理的嫌悪感が襲ってくる。
じわじわと、首を締め上げられる。
体が浮いて、呼吸ができなくなる。
「っっっっ」
首を締め上げる影を掴もうとするけど、がりがりと自分の首を傷つけるだけだった。
やば、頭真っ白になってくる…
「おや、いけないいけない。殺したいわけじゃないんだ」
不意に解放される。
肺に酸素が一気に入ってきて、むせた。
涙目になりながら、ぎっと睨むつける。
「ふむふむ、君は殺されそうになっても何も感情が出てこないね」
にやにやと笑っているのが分かる。
こっちの反応を楽しんでいる感じ。
揺さぶられるな。無心。無心。何も、考えるな。
「死ぬことなんか怖くないかい?それとも、死にたいのかな?」
ずきりと頭が痛くなった。
「ああ、じゃあ趣向を変えてみよう」
途端、ぞわりと背中に冷たいものが流れる。
手の形をしたそれが、シャツやスカートから入り込み素肌を撫でまわす。
「ッッッッッッッ」
音にならない叫び声が出る。
フラッシュバックする。ちらつく、あいつらの顔。
「なるほど、これが君を揺さぶる方法か」
オールフォーワンの声すら、届かない。
両手を頭の上で拘束されて、吊るしあげられる。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!
触るな触るな!!!!
「さて、このまま君を犯したら、堕とせるかな?」
「ッッッッ」
必死に暴れるが、全く緩むことのない影。
やめて、やめて…やだ…もう、やだ
制服が無残に引き裂かれる音がする。
涙は、出なかった。
ただただフラッシュバックする記憶に、呼吸が荒くなっていく。
---黙れ!俺が言うことに従っていればいいんだ!!この疫病神が!---
---お前が悪いんだ…お前が全部奪ったんだ---
---言、貴方のせいじゃないの…違うのよ、けど---
「さあ、遊ぼう。音葉言」
にたりと、闇が微笑んだ。