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(主人公視点)
「こほっこほっ」
なんだか喉がおかしい。
うーん、個性使いすぎたかな。
---ブフォッッ---
突風が吹いた。
緑谷の洗脳が解けた合図。
(やっぱあの力は規格外だねえ)
私にはワンフォーオールの面影は見えなかった。
「なんとか言えよ…~~!指動かすだけでそんな威力か羨ましいよ!」
人使の叫び声だけが、会場にこだまする。
緑谷の過去も、人使の過去も知っている。
だから、この言葉を何よりも緑谷を苦しめることを、私は知っている。
そして何よりも心に響いていることも。
「俺はこんな個性のお陰でスタートから遅れちまったよ!恵まれた人間には分からないだろ」
ゆっくりと目を閉じる。
違うんだ、違うんだよ、人使。
緑谷が、それを一番、ずっと昔から思っていたよ。
「誂え向きの個性に生まれて、望む場所に行ける奴らにはよ!!」
いけなかったんだよ。
憧れのヒーローから、無理だと言われたんだ。彼は一度。
諦めようと、折れかけた心を、救われた。
人使と緑谷が殴り合う。
真っすぐで、眩しくて、私はゆっくりと息を吐き出した。
「心操君場外!緑谷君、二回戦進出!!」
ミッドナイトの声が、響き渡った。
ざわざわとプロヒーローの席からの話し声が聞こえる。
そうだ、そうだよ。
大丈夫。君の一歩は、ここで終わりじゃないから。
「人使!!!!」
クラスメイト達の言葉に立ち止まっていた人使の視線が、真っすぐ私を捉える。
満面の笑みで、拳を突き上げた。
「すっごいかっこよかったよ!!!!」
「けほっ、ごほっ」
何かが喉に固まっているみたいで、言葉がかすれる。
一応リカばあに見てもらおう。
「リカばあ!」
ばんっと扉を開けると、そこにはオールマイトと緑谷がいた。
「あ、すみませんオールマイト。重要な話でした?」
「こここここれは違うんだよ音葉さん!…え?」
あっと思った時には遅い。
そーだった。生徒でこの姿の彼をオールマイトだと知る人はいないんだった。
「あー、えー、うーん。オールマイト、お任せ!」
そこまで彼とは話したことないけど、丸投げしてみた。
だったどこまで言っていいのかわかないんだもん。
「緑谷少年、いいんだ。彼女も私のことを知ってるから。彼女に関して詳しいことは言えないけれど、きっと君にとっていい理解者になってくれるだろう」
なんて言ってウインクされる。
まあそりゃ理解者でしょうに。全て知ってますからね!
そこから緑谷のもっと聞きたい、知りたいという視線に耐えられず出張所を出てきた。
リカばあにも見てもらえなかったし、無駄足―。
「ごほっ、」
「言様…大丈夫ですか?」
せき込む私を心配した白が現れる。
今日はずっと私の中にいたから、ずいぶん久しぶりな気がする。
「うーん大丈夫。個性使いすぎちゃったかな」
午後になってからはそんなに使ってないんだけどなと首を傾げる。
ところで白にはやってもらわないといけないことがあるんだ。
「ねえ白、少しだけお仕事頼んでもいい?」
思い浮かぶのは、彼の絶望する顔。
できれば、物語を変えない程度で少しだけ怪我を軽くさせてあげたい。
周りに誰もいないことを確認してから、小さい声で白に耳打ちする。
「保須に行ってほしい。そこの裏路地でインゲニウムというヒーローが敵に襲われる。少しでも早く、駆けつけて、すぐに病院に運んで。もし必要なら、私を呼ぶのよ」
白と私は離れていても意思疎通ができる。
たぶん、インゲニウムの怪我を全ては治せない。
けど、軽くはできるはず。
「インゲニウムは飯田君みたいなフルアーマー姿よ。すぐわかると思う」
物語は変えない。
だから
「彼が敵に襲われるのは、防いではダメ。あくまで、襲われた後の対処をして。対敵しないように」
それだけ言うと、白は頷いて小さな猫になり走っていく。
物語を崩さないためにも、インゲニウムが襲われるのは止められない。
それが歯がゆくて、私は壁を殴った。
凄い衝撃と冷気が、廊下の向こうから漂ってくる。
かすかに聞こえるドンマイコールに、悲しくなった。
(大丈夫、彼はここからだもの)
瀬呂には悪いけど、これも止められない必要なこと。
轟焦凍オリジンのためにも。
そこからとんとんとトーナメントは進んだ。
B組の茨、飯田、鉄哲と切島の勝負は引き分け持ちこしとなり、原作通り。
「こほっ」
私の咳も変わらず。
うーん、きになるなあ。
のど飴なくなっちゃったし、人使にまたもらいに行こうかな。
「あ!女神様だ!」
なんて考えてたら声を掛けられる。
今日で何回声かけられただろう…
にっこりと笑って振り返ると、そこには数人の若いプロヒーローがいた。
「君でしょ?噂されてる女神様って!」
取り囲まれて、馴れ馴れしく肩に手をまわされる。
うーん、めんどくさいなあ。
見たことない人達だし、爆豪の言葉を借りるならモブ。
当たりさわりのないようにあははと笑ってると、べたべたと体を触られる。
おい、お前等現役女子高生にタダで触れると思ってんのか。
金取るぞ。
「女神様―、俺ちょっと怪我しちゃったんだけど見てくれない?」
「ほら、あっち行こうよ」
ぐいっと腕を引かれて内心で舌打ちをする。
つかこいつらここが雄英体育祭で、なだたるヒーローがいて、私が学生ってことわかってんの?
「ねえ」
「「「あ?」」」
振りほどこうとした瞬間、呼びかけに答えた男達の動きが止まる。
これはー
「なにやってんの」
逆側から腕を引かれて、男達の輪から体が抜ける。
少し怒った表情の人使がいた。
「あ、人使だ」
へらへらと笑うと、ぎっと睨まれた。
なんだよー。
ヒーローたちの洗脳そのままに、人使に腕を引かれるがままそこを離れる。
「あんたさ、もうちょっと警戒心持ちなよ。あのままついていくつもりだったの?」
むっ!そんなわけなかろう!
中身は30歳だぞ!さすがにあいつらが何思ってたのか分かるよ!
「そんなわけッッッげほっげほっげほっっっ」
叫ぼうとした瞬間、喉が痛んでむせた。
険しい顔をしていた人使が、一瞬で顔を顰める。
「え、どうした?大丈夫?」
身を屈めてむせる私の顔を、覗き込むようにしながら背中をさすってくれる。
くっ、優しいな…
「げほっ、だ、いじょうぶ。ちょっと、さっきから喉変なんだよね」
声がかすれてる。
個性を使ってないはずなのに、おかしい。
なんだろう、嫌な感じ。
「だから個性使わなかったのか?」
そうじゃないけど、曖昧に微笑んで頷く。
怒られるのは嫌なので、そういうことにしておこう。
「無理するなよ。先生呼んでこようか?」
「あのすみません!!」
人使の言葉に被せるように女性の声が響いた。
焦った表情の女の人が、私のことを見ていた。
「あなた養護の方ですよね?息子が怪我をしてしまって、少し来ていただけませんか?」
「ちょっ、すみません、この子いま」
人使の言葉を遮る。
大丈夫だと目で訴えて、私は女性に駆け寄った。
「人使、ありがとう!また後でね!」
軽く手を振って、女性を先に促した。
ここで女性の表情をちゃんと見なかったことを、私は死ぬほど後悔する。