僕が「救けて」と言えるまで
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3年は入学式の準備に駆り出される。
俺とミリオも例外じゃなく。
準備が終わり教室へ戻ろうと歩いていると、急に叫び声と突風が吹いた。
…校内なのに?
びっくりして固まっていると、目の前にいつの間にか男の子がいた。
真新しい制服。
前髪を上げてはっきりと見えるその顔は人懐っこい笑顔。
その子は
「1-Aはどこですか!」
元気いっぱいに迷子になっていた。
「そっかそっか、君は迷子になったんだね!」
「そうなんですよー、僕、方向もわからないバカって呼ばれてて」
えへへと照れたようなその子…神呪君は、俺とミリオに挟まれて歩いている。
俺達よりずいぶん低い位置にある頭が、ぴょこぴょこと揺れていた。
「か、神呪君、たぶんそれは褒められてないと思う…い、いや…これは僕の勝手な意見なのだけど…」
随分と嬉しそうに話すものだから、思わず言ってしまった。
ダメだ、俺なんかが意見するべきじゃないんだ。
彼が嬉しそうなら、それでいいじゃないか。
「えへへ、そうですかね?」
なぜか照れる神呪君。
…なぜ?
「でも本当に助かりました!僕一人だったらいつたどり着けてたか…えーっと通形先輩と天喰先輩!」
確かにそうだろう。
正面玄関に案内板が出ていたはずだけど神呪君が歩いているのは真逆も真逆、しかも階も違った。
「大丈夫!人助けがヒーローの本分だからね!」
ミリオがにかっと笑う。
ああ、やっぱりお前は太陽だよ。輝いてる。
「そっか、ヒーローですもんね」
ふと神呪君の瞳に影が差す。
なんだろうと思うと、一瞬で先ほどまでの無邪気な笑顔に戻った。
??
他愛もない話をしながら歩くと、すぐに1-Aにたどり着いた。
感謝の言葉を口にしながら扉をがらりと開けた神呪君は、ぴたりと固まり首を傾げた。
そして扉に書かれた「1-A」という文字と、中とを何回か見比べる。
「うーん」
唸り始めた神呪君の後ろからミリオと二人で教室の中を覗き込むと、そこには誰一人としていなかった。
もう体育館に移動してしまったんだろうか?
「環、A組の担任って相澤先生じゃなかったかい?」
ミリオの言葉に体育館で聞いた話を思い出す。
そういえば今年も相澤先生が何人除籍するか先生達が話していた気がする…
「こうしちゃいられないんだよね!神呪君、ちょっと失礼するよ!」
今だに唸り続ける神呪君を子供のように抱き上げると、ミリオは俺に差し出す。
ミリオ、人を物のように渡すのはどうかと思う…
「今日の朝ごはんはフライドチキンだっただろ?早くグラウンドまで送り届けるんだ!」
ぐっと親指を立てるミリオ。
はあ…でも確かに、僕の翼で行くのが一番早い。
訳が分からないというように目を白黒させる神呪君を受け取って、小さく謝ってから俺は翼を出す。
「!!!」
驚く神呪君。
すまない、そうだよな。急に翼が生えたら気持ち悪いよな。
ダメだ、僕には無理かもしれない。
うなだれていると背中をバンと叩かれた。
「行け!サンイーター!」
ああ、ミリオはやっぱり太陽だ。
俺は頷くと窓から飛び降りた。
「おー、すごーい!飛んでる!」
いきなり現れた翼にはびっくりしたけど、それよりなにより自分が飛んでるってのが楽しい。
翼、触ってみたいなあ。
「天喰先輩の個性、ですか?」
そう聞くと伏し目がちな三白眼が、ちらりと僕を見る。
前髪目に刺さりそうだけど、大丈夫かな?
「うん、俺の個性は再現。食べたものの特徴を体に再現できるんだよ」
再現。
食べたモノを。
「それ、ヒトを食べたら、何を再現できるんでしょうね」
思わず口をついて出た言葉に、天喰先輩の目が見開かれる。
「それは…食べたことないからわからないな」
「ぶふうう」
思わず吹き出した。
この人、めっちゃ素直!いい人!
僕と似た個性。(最も僕が食べるのは人で、特徴じゃなくて個性だけど)
僕と似た名前。(忘れてるかもしれないけど、僕の本名は片喰。おんなじ漢字)
「あ、たぶんあれだね」
校庭に人がいる。
おー、あれが1-Aかな?
「じゃあ先輩、ここで大丈夫ですので!」
僕はそういうと天喰先輩の腕から飛び降りる。
慌てて伸ばした先輩の手は、空を切った。
「また会いましょー!あまじきせんぱーい!」
「“Plus Ultra”さ。全力で乗り越えてこい」
そういった瞬間、生徒達の顔が強張る。
さて、誰が除籍になるか…
始めようとした時、何人かの生徒が上空を指さす。
「おい、あれ!!!」
なんだ空なんか見て…
「っっっっっ」
生徒が一人、空から落ちてきていた。
なんでと思いながらも捕縛布に手をかける。
受け止められるか…??
だが捕縛布を伸ばす前に空に赤が舞う。
その赤は蜘蛛の巣上になり、まるでネットのようにその生徒の体を受け止めた。
「よっ、っと。あ、再利用再利用」
無事に地面に着地した黒髪の生徒は、手元のパックのようなものに赤色をしまっていく。
あれは、血か。
「あ、A組ですか?すみません、迷っちゃって」
えへへと頭をかく生徒…もとい神呪だった。
そういえば教室にいなかったな。
「……早くジャージに着替えてこい」
そういって手渡したジャージを見つめるとその場で着替え始める。
……こいつ、恥じらいとかないのか。
女子がいる手前注意しようとも思ったが、今から教室に戻るのは合理的じゃない。
俺は無視して他の生徒達に向き直った。
「さて、デモンストレーションは終わり。こっからが本番だ」