僕が「救けて」と言えるまで
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「ねえ黒霧ー、僕遊びに行きたい!」
先生のところから弔君のところに帰るとすぐバカって言われた。
あの日の仕事が終わったらパターンも場所も変える予定だったんだけど、僕はどうやら警察を甘く見てたらしい。
いや、警察ってよりはあの塚内さんって人。
他の場所での仕事も考えたけど、先生に少しカニバルはお休みって言われた僕は黒霧に勉強を教わっていた。
「ダメです。今日の範囲が終わるまでは」
ぶーぶー言いながらテキストをめくる。
カニバルとしての仕事がお休みの間、僕は先生から新しい仕事を言い渡された。
「早く終わらせろ。そして俺と遊べ」
後ろのソファーに横たわった弔君が雑誌をめくりながら言う。
いいよねー!弔君は!勉強しなくて!!
「やだよ、弔君との遊び命がけなんだもん」
弔君の雰囲気が一気に悪くなる。
前に弔君が考案した遊びは、どれだけ手から逃げられるか。
弔君の五指が触れたら負けっていう、単純な命のやり取りだった。
そんなん遊びっていいませーん。
僕が新しく先生から言い渡された仕事は、雄英高校への入学だった。
なんでもオールマイトってヒーローが、来年度から雄英の先生になるんだって。
弔君は無理だから、僕に雄英でのオールマイトを見ていて欲しいって。
他でもない先生からの仕事だから、僕は来年度から雄英高校に入学する。
学生生活ってのも、経験したことないから楽しみだなー。
「物覚えはいいですからね。筆記は問題ないでしょう」
「はっ、実技試験で落ちたら笑ってやるよ」
なんで弔君はそんなに意地悪なのかなー。
ロボ相手に僕が負けるわけないのに。
試験の内容は黒霧が調べてくれた。
例年通りなら、仮想敵ロボとの戦闘でのポイント稼ぎだって。
それならついでに筆記試験の内容も調べてくれればいいのになあ。
「大丈夫だよ。僕が落ちるなんてありえないよ。先生の、お仕事だもの」
そういってにっこり笑うと、弔君が舌打ちをする。
僕が仕事に失敗したことはない。
弔君も黒霧も、先生もそれを知っているから、もう僕が雄英高校に入学するのは決定事項だ。
「よしゃ終わり!いってきまーす!」
「あ、待て!おい!」
弔君の声をガン無視して階段を駆け下りる。
どこいこーかなー。
僕は僕として町に出る時、長い前髪を上にあげるんだ。
口に咥えたピンでそれをとめれば、ほら、普通の男の子の出来上がり。
すっかり暗くなった町には、キラキラと街頭が輝いている。
カニバルをお休みしてから、僕は時折こうして町を歩く。
何かをするわけじゃない。何もしない。
子供が一人で歩いていることに首を傾げる人もいるけど、誰も深追いはしないんだ。
面倒事はたくさんだもんね。
鼻歌を歌いながら歩いていると、不意に肩を掴まれる。
いい気分なのに誰だよーと思いながら振りかえって、心の中でおっ、と驚く。
「……子供がこんな遅くに一人でなにやってる」
そこには、真っ黒な服に黄色いゴーグルを首に下げた人がいた。
学校が終わった後に、町のパトロールをする。
俺と塚内さんが出会ったカニバルはあれから全く姿を現さなくなった。
だがいつどこに現れるかわからない。
唯一姿を見た俺に、塚内さんは夜間パトロールを依頼してきた。
ちょうど今年は1クラス全員除籍になったせいで時間はあるからな。
幸い背中に突き立てられたナイスは、かすり傷程度だった。
あんなガキに背後を取られるとは情けない…
瞬間移動の個性なのか、それとも通形みたいな透過か…
俺の個性が切れたタイミングで、奴は個性を発動させたんだろう。
「どこにいる、カニバル」
次の犠牲者が出る前に、止めなければ。
カニバルの過去に何があったのかは知らん。
何があいつをあそこまで純粋な悪意に染め上げたのか。
溜息が出る。
俺が受け持った学生と、ほぼ年は変わらないはずだ。
そんなことを考えていると、ふと目の端にふらふらと歩く影が止まる。
息が詰まる。
見覚えのある背格好に、思わず飛び出していた。
無意識にその肩を掴んでいた。
でも、振り返ったその瞳は青かった。
「……子供がこんな遅くに一人でなにやってる」
カニバルじゃなかった。
奴の目は赤かったはずだ。青じゃない。
不審に思われないように、ぎりぎり言葉を絞り出す。
「えーっと、散歩?」
なんで疑問形なんだ。
俺とゆうに20センチは違うであろう小さな少年は、首を傾げる。
「親は」
さらに首を傾げる。
その綺麗な黒髪がさらりと揺れた。
「名前は」
うーんと顎に手を当てて考え込む。
自分の眉間に皺が寄るのが分かる。
親も名前もすぐに言えない子供を、放っておくわけにいかない。
「……ついてこい」
とりあえず塚内さんのところにいくか。
溜息をついて歩き出そうとすると、慌てたように子供が顔を横に振る。
「あ、大丈夫です。大丈夫。親は、えーっと、あっちにいます」
指をさすのはこの町の歓楽街だ。
じとっと子供を見る。否、睨む。
「じゃあ親のところまで送る」
子供の目があからさまに泳ぐ。
……嘘だな。
「え、あー、えっと、それは」
「イレイザー?」
聞き覚えのある声に振り替えると、やあと片手を上げる塚内さんがいた。