僕が「救けて」と言えるまで
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頭がくらくらする。
呼吸が浅くて苦しい。
入院着姿にジャケットは目立つと思って、路地裏を選んで足を進める。
(あそこには、いられない。でも弔君のところにも戻れない)
弔君はきっと怒ってる。
先生にも見放されたかもしれない。
(どこにも、いられない)
全部を知ってぬるま湯みたいな居場所をくれた先生。
嫌なことを消し去ってくれた相澤先生。
僕にヒーローと言ってくれた校長先生。
「おい、ガキがこんなところで何してる」
ゆるゆると顔を上げる。
大きな知らない人達が僕の前に立ちふさがっていた。
「あー?なんだこいつ死にそうな顔しやがって」
ぐいと髪を掴まれて、持ち上げられる。
痛いけど、抵抗する力もわかない。
「おっと、意外と上玉じゃねえか」
舐めまわすように僕の体を触る。
あの頃を思い出す触り方に身震いした。
けど、動かない。体が、動かない。
入院着がはだける。
肌を直接触られる。
気持ち悪いとは思わなかった。
懐かしいとすら、感じた。
「お前らも一回ヤってみろよ、案外ハマるぜ」
「女なんかより楽だしな」
もう、なんでもいいや。
目を閉じようとした瞬間
「はいはーい、胸糞悪いことやめてくださいねー」
赤い羽根が舞う。
覆いかぶさっていた影がなくなる。
そのまま僕は、目を閉じた。
「……から…けましたよ」
かすかに聞こえる声に、意識が浮上する。
「え?まあちょっとあれだったんで持ち帰りましたけど」
天井が高い。
体をゆっくりと起こす。
まだ頭はガンガン痛いし、ふわふわするけど、さっきほどじゃなかった。
もふもふの肌触りの良い毛布が掛けられている。
それに顔をすりつけた。
気持ちいい…
「あ、起きたんで電話切りますねー。はーい、きりまーす」
赤い翼の生えた男の人が近寄ってくる。
誰だろう…
「目覚めました?体調どうです?何か食べたいものあります?」
一気に聞かれて、きょとんとする。
「み、ず?」
「はいはーい、水ですね。ちょっと待ってね」
赤い羽根でペットボトルが僕の前に運ばれてくる。
お礼を言ってから、一口飲んだ。
美味しい。
「さっきよりは顔色良さそうやね。しっかし君、あーゆー時はちゃんと救け呼びなよ?」
ふんふんと鼻歌を歌いながらお兄さん(おじさんではないので)は、どこかに消えていく。
僕は、どうしてこんなところにいるんだろう?
あ、いつの間にか入院着じゃなくてTシャツになってるや。
ゆっくりと立ち上がる。
僕が寝てたのはソファだったみたい。
ここは、お兄さんの家なのかな?
お兄さんがいなくなった方へ行くと、そこはキッチンだった。
「お、もう歩けるんだ。お粥作ったけど食べる?」
美味しそうな匂いにお腹がなる。
恥ずかしい…
テーブルに座って、お兄さんがくれたお粥をゆっくり口へ運ぶ。
温かくて、美味しい。
程よい塩味が、体に染み込んでいくのが分かる。
「それで、片喰類君はどうして病院から逃げたの?」
ぴたりと手が止まった。
その場の空気が、固まる。
片喰類
僕の本当の名前。
目の前でにこにこ笑ってるお兄さんの目は、獲物を値踏みする鷹みたいな目だった。