僕が「救けて」と言えるまで
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ぼーっと真っ白な天井を見つめる。
頭がふわふわして、何も入ってこない。
視線を動かすと、右腕が包帯でぐるぐる巻きにされていた。
体が物凄くだるいけど、痛くはなかった。
「目が覚めたかい」
小さなネズミみたいな動物が僕を見上げている。
そうあれは確か…校長先生だ。
「……っっ」
声が出ない。喉がからからに乾いてて、かすれた音しか出なかった。
「無理に喋らない方がいい。酷い熱なんだ」
言われてみれば体が熱い。
頭がふわふわするのはそのせいなのかな。
「神呪君、君に聞きたいことがたくさんあるんだ」
あまり校長の言葉が入ってこない。
だって僕は弔君を裏切ってしまった。
それはつまり、先生を裏切ってしまったということ。
思わず体が動いてた。
何も考えずに、ただ壊れてしまうのが嫌で。
「でもね、まずはこれを言わせてほしい。君のお陰で相澤君の右腕は怪我一つなかったよ」
校長先生が、僕を覗き込みながらにっこりと微笑んだ。
「相澤君を守ってくれてありがとう。君は間違いなく、ヒーローだ」
「重度の打撲、右腕の複雑骨折、あばらが折れて内臓を傷つけてたってよ」
右腕以外全身包帯でぐるぐる巻きにされた俺は、ベッドに横たわったままマイクの話を聞いていた。
うっすらとだが、覚えている。
ワープゲートでセントラル広場に連れてこられた神呪は、間違いなく少し離れた噴水にいたはずだ。
なのに脳無に右腕をつぶされそうになった瞬間、まるで瞬間移動のように俺の上に覆いかぶさっていた。
それに掴まれていたはずの俺の腕は、いつの間にか外されていた。
「怪我の割に出血が少なかったのは、あいつのお陰だろうな」
信じられないことだが、あの場に巡がいたらしい。
状況が状況だ。
冗談、というわけではないだろう。
「巡が、神呪を守ったっていうのか?」
「それしか考えられないだろうよ」
ブラドもそう言ってたよ、とマイクはやれやれと首を振った。
分からないことだらけだ。
確かに神呪の個性を初めて聞いたときは、一瞬巡の顔が過った。
だが他人の個性を、神呪が持っているとは考えられん。
それに神呪の個性の使い方は、巡が使っていたものとは全くの別物だった。
今では、巡より上手く使いこなせていた、というほうが正しいのか。
巡はブラドの従妹であり、俺とマイクの同級生だ。
雄英高校普通科だった巡は、綺麗に笑う優しい奴だった。
人の為に働きたくて、卒業後は大きなお屋敷のハウスメイドになったと聞いていた。
「本当に神呪の個性は巡のものなのか」
本人が、そう言ったらしい。
巡本人が。
薄く魂のような巡が、神呪を“救けて”と言った。
そう、マイクもブラドも話す。
「そういや巡は神呪のことを、類君って呼んでたな」
「は?」
なんだそれ。
類?誰だそれ。
神呪の名前は礼だ。
似てはいるが、間違えるとは思えん。
「全くなんなんだ…」
話を聞こうにも、神呪は今現在入院しており、さらには高熱を出して寝込んでいるとのこと。
話が聞ける状態になったら全てを聞こう。
そうマイクと話した直後だった。
慌てた様子のブラドが駆け込んできたのは。
動ける状態じゃないはずの神呪が、病室からいなくなった。